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シルクロード編

10 先行き不安

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 「そうら、『火尖槍』!!」
 哪吒太子の持っている槍がいくつにも分かれ、それぞれが猛烈な炎を噴き出し始めた。
 「喰らえ、『業火結界』!!」
 恐ろしいほどの火炎の嵐がナースチャに襲い掛かっていく。

 しかし、ナースチャが剣を一閃するとあっという間に炎は蹴散らされていった。
 「今度はこちらからだな!」
 ナースチャが叫ぶと、『不死の騎士』は背中の翼を開いて、宙に舞いあがった。

 「こいつはおもしれえ!」
 哪吒太子も焔を吹く車輪に乗ると、同じくナースチャめがけて舞い上がっていった。
 哪吒太子は得物を八振りの剣に持ち替え、今度はナースチャの攻撃を何とか受け流している。
 『不死の騎士』が長さ3メートルを超える剣を一振りするたびに周囲には衝撃波が生じ、それだけでも哪吒太子を押し気味に見える。
 しかし……。

 「…くっ!世界を渡るのにあまりにも消耗したようです…。」
 エレーナさんが早くも脂汗をかきながら荒い息を吐いている。
 後で聞いたのだが、万全なら二~三時間くらい『武装化』が続くのだそうだが、この時のエレーナさんの状態は今にも力尽きそうな感じになっており、桜姫と僕は左右からエレーナさんが倒れないように何とか支えた。

 「…ナースチャ!感じているかと思いますが、私があまりもちません!申し訳ないけど、早く決着を付けてください!」
 「わかった!じゃあ、いくぜ!!」
 ナースチャが気合いを込めると、『精霊剣』がその輝きをさらに大きく増し、太陽以上の輝きに、僕たちは目を開けていられなくなった。

 「陽光剣!!」
 ナースチャが輝く剣を横に一閃し、哪吒太子の剣と来ていた鎧が、全てバラバラになって落ちた。

 「あれ、斬られたと思ったけど、本体は無事なの?」
 「ああ、これは『生きている者以外』を全て叩き斬る剣技なのだよ。」
 哪吒太子は地面に降り立ってへたり込み、ナースチャも武装を解いて荒い息をしている。

 そして、僕たちも結界が消え、荒れ地に元通り立っている。
 エレーナさんは…今度は桜姫が膝枕をしている。

 「参りました。『明らかに命に手心』加えてもらって、これ以上やったら恥だね。」
 哪吒太子は苦笑いしている。

 「少し聞きたいんだが、あんたが俺たちを攻撃する意図がわからないんだが…。どうみても『単に戦いたがる』という以上の理由があるんじゃないのか?
 妨害役がどいつもこいつも単なる悪役とは思えないような動きをしているようにしか見えないんだが…。」
 「…そうだね…。ネタばれさせちゃいけないけど、君の仲間に何人か『原作』に詳しい人がいるみたいだね。
 そういう人が『Wikiなんとか』を読んだらいろいろヒントがあるんじゃないのかね?俺でも推測くらいしかできないんだが…」
 「…な、あなたは何をおっしゃってるんですか?!!」
 ナースチャと哪吒太子の会話に桃花観音様は愕然としている。

 「おっと、これ以上いるとよろしくないことまで言ってしまいそうだ!
 じゃあ、ナースチャさん!ご武運をお祈りしますよ♪」
 にやりと笑うと、哪吒太子は再び焔を吹く車輪に乗って、天を駆けていった。

 「肝心なことは言わずに行っちゃうんだな…。」
 ナースチャが苦笑しながら哪吒太子の飛んでいった跡を目で追っている。

 「まったくだ、思ったよりいいやつだったね。
こんなことなら『きちんと口説いて』おけばよかった!」
 カイザスさんは相変わらず『悪い意味でブレない』ですね!!


 「ナースチャさん!エレーナさんの様子が!!」
 桜姫に膝枕されたエレーナさんの様子がおかしいようだ!
 僕たちは慌ててエレーナさんの方に駆け寄った。

 「ああ、私ダメかもしれない…。」
 「エレーナ!しっかりしろ!!」
 「…ナースチャが『キス』してくれたら、何とかなるかもしれない…。」
 いやいや、この人もカイザスさん並みにおかしいんですけど??!!

 「……えーーーと…エレーナ?」
 ナースチャが何とも言えない気まずい表情に変わる。

 その時、僕のつけていた腕輪が以前ベヒモスを撃退した時のように金色の光を放った。
 「レベルアップおめでとうございます!哪吒太子を撃退したことで、みなさまレベルアップしました。特に巧人君の貢献が大きかったので、それ以外に『ご褒美』があります♪」
 僕の腕輪から身長三〇センチくらいのSDキャラ風の女性が姿を現し、宙に浮いている。
 僕が二度召喚された際に助けてくれた魔法使い(女神?)アルテアさんと同じ声をしており、姿もアルテアさんによく似ている。

 「本人の自己申告も含め、『もう戦力にならない?』エレーナさんを無事帰還させてあげますね♪」
 SDアルテアさんがニコニコ宣言すると、エレーナさんががばっと起き上る。

 「あ、なんだか、急に元気が出てきたな♪」
 「ダメでーす♪ドクターストップでーす♪」
 SDアルテアさんが呪文を唱えると、空中に魔方陣が浮かび上がり、たくさんの光の触手がそこから出てきて、エレーナさんにしがみついた。

 「待って!ちょっと待って!せっかく来たのに――!!」
 「ほーら、この程度の魔法を自力で振りきれないようでは、危なくて仕方ありませーん♪大人しく元の世界で『二人が仲良くなって帰還』するのを待ってくださーい♪」
 エレーナさんが抵抗空しくどんどん魔方陣に引き込まれていく。

 それでもがんばって引きずられまいとしていたが、ついにエレーナさんの上半身が魔方陣に飲み込まれた。
「くっ!巧人さん!責任もってナースチャを守るのよ!なにかあったら承知しないんだから!!」
 僕に向かって叫ぶとエレーナさんはそのまま魔方陣の中に姿を消した。

 「さあて、それじゃあ私も引っ込みますか♪」
 「アルテアさん、待って!今回の事件、いろいろおかしいよね!」
 SDアルテアさんに向かってナースチャが叫ぶ。

 「そうねえ…。確かにいろいろ裏はありそうだけど…ちょっとヒントが足りないわね…。まあ何かあったらまた呼んでね。召喚エネルギーがたまっていたら出てくるから♪
 じゃあ、『お二人とも仲良く』ね♪」
 僕たちに手を振るとSDアルテアさんは姿を消した。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 僕たちは少し休憩し、旅を再開することにした。
 僕たち四人はもちろん、元祖三蔵法師一行も桃花観音様も無事だった。

 そして、元祖孫悟空は……まだヘタレているんですが?!!
 あなたは『エ◎ァンゲ◎オンの主人公』ですか?!

 「三蔵法師様、もう放っておきましょうよ。悟空の兄貴は置いておいて、われわれだけで天竺を目指しましょう。」
 沙悟浄さんは元祖三蔵法師に一生懸命声を掛けている。思ったよりずっといい人だったのだね。
 「やめましょうよ。沙悟浄の姉御。俺たち三人では妖怪が来たらまともに対処できませんよ…。」
 …猪八戒も相変わらずのヘタれぶりのようです…。

 「そうですよ、三蔵法師さん!もし皆さんが怪我とかされてリタイアされたら…『私の責任問題』になるじゃないですか!!」
 桃花観音様は、悟空よりさらに質が悪いよね?!

 「思ったんだが、三蔵法師さんと沙悟浄は我々と合流してはどうだろうか?」
 カイザスさんがにこっと笑う。

 「かぶる場合は適度に役割を変えるのだよ。元祖三蔵法師様はそのままで、ナースチャも孫悟空のまま。桜姫は『マスコット』、私は『沙悟浄』で沙悟浄は『猪八戒』。そして巧人は『馬』役でどうだろうか?」
 「いえ、カイザスの兄貴。私本名が沙悟浄なんですが、猪八戒に変える意味はあるのでしょうか?」
 沙悟浄さんが当然のツッコミを入れる。

 「…で、ではだね……。元祖三蔵法師様とナースチャ、沙悟浄、巧人はそのまま。
 そして、、私は『風車の佐七』、桜姫は『お風呂忍者』でどうだろうか?」
 それは西遊記ではなく、『水戸黄門』ですよね?!

 「カイザスさん!待ってください!それでは私のお風呂が覗かれるみたいじゃないですか!!」
 桜姫がぷりぷりしている。

 「はっはっは!ご安心を!私が覗くのは巧人だけです♪」
 「「「「「……。」」」」」

 「おーい、ここは砂浜でなくて、砂漠だよ。首まで埋められたら脱出が大変じゃないか?!」

 こうして我々は人数を増やして『前途多難な』旅を再開したのだった。
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