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シルクロード編

2 ヘタレその1

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 僕たちの前に現れていた観音様は『地上に下ろした分身』なのだそうで、霊力(法力?)が持つ一定時間しか地上に出てこれないらしい。

 中国を含めた『三千世界』を救うために「三蔵真経」を取りに行く旅が始まったのだが、まもなく夕方になるので近くの町に宿泊することになった。
 カイザスさん、ナースチャが『モンスターバスター携帯アイテム』の宿泊用テントも持ってはいるのだが、ベッドがあったり、飲食のことも考えると、宿屋の方がよかろうということになった。


 たどり着いた町は…なんだかひどく閑散とした雰囲気で、人々の雰囲気も暗い。

 「何があったのです?」
 「あなたたちは……?」
 桜姫が住人の一人のおじさんに声を掛けると沈んだ顔で僕たちを見たのだが…。
 「我々は『三蔵法師一行』だ。天竺までお経を取りに行くところなのだが、道中の人々の苦しみも取り除くのが我らの役目。さあ、みなさまがどうして沈んでいるのか教えていただけないでしょうか?」
 カイザスさんが歯をキラッと光らせて言う。
それを聞いたおじさんは急に顔を輝かせた。

 「なんと!ありがたいお経を取りに行かれるえらい法師様のご一行なのですね!
 わかりました!すぐに町長宅にいらしてください!!」

 そして商業を生業としているという大きな家に行くと、恰幅のいい町長と、その家族が酷く怯えていた。
 なんでも『恐ろしい豚の妖怪』が現れて、ここの一人娘を嫁に寄越せと言うのだそうだ。

 その話を聞いて、僕と桜姫は顔を見合わせた。
 それって…猪八戒が三蔵法師の仲間になる時の話だよね?!


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 その日の晩、『きれいに着飾った女性』を伴って、僕たちは郊外の指定された場所に近づいていった。
 女性は声も出さずに黙って僕たちと一緒に歩いている。
 僕たちは空き家の前で女性と別れると、町の方に戻っていった。
 そして、空き家から500メートル位離れた木の陰に身を隠すと、小屋の様子を伺う。
 同時に桜姫が懐から水晶球を取り出すと、小屋の中の様子を映し出した。
 女性が床の上に座っているのが見える。
 お経の勉強をすることで、こういう術も使えるようになったのだ。
さすがは桜姫!

 ちなみにこの世界はなんと、最初に飛ばされた世界と同じ世界で、桜姫にとっては過去の中国にいることになる。
 そんなわけで…カイザスさんは以前つかえた『水芸の魔法』と『効果エフェクトの魔法』、『自分や他人の歯をキラッと光らせる魔法』しか使えないそうだ…。
 ためしに僕の歯を光らせてくれた時には……ナースチャと桜姫に死ぬほど笑われました。

 少し待つと、小屋の戸を開けて『僕が着ているのとほぼ同じ衣装』を着た男が入ってきた。ようし、どうやら罠にかかってくれたようだ…。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 男は警戒しながら小屋の中に入ってきた。
なんとなく嫌な予感がしたのだ。
 前回別の町で同じことをしたとき、きれいな女性だと思って喜んで声を掛けたらなんと…変装した孫悟空だったのだ!!
 半人半猿の精悍な男に凄まれて、思わず『ちびり』そうになった。
 しかも、孫悟空の武勇伝は聞かされていたから、相手が孫悟空だとわかった時は速攻逃げ出そうとした。
 もちろん、すぐに孫悟空に首根っこを押さえられて『無理やり天竺行きの仲間』にさせられてしまった。
 その仲間も『例の事件』で…。

 思考が逸れそうになって、その女性を見ると……暗いのではっきりとはしていないが今度は体型といい、表情といい、きれいな女性に間違いない!!
 よだれを垂らしながら近づいていって、男は若干違和感を覚える。
 非常に整った顔立ちのようではあるが、思っていたより背が高く、かわいい系だと思っていたけど『美人系』のような……?

 「いやいや、約束通りに来てくれたのだから、もちろん村には手を出したりしないさ。
 君のきれいな顔をもっとよく見せておくれ♪」
 男がさらに近づくと、女性は口を開いた。

 「もしかして、『猪八戒』さんですよね?」
 「え?どうしてその名前を知ってるの?」
 「それは……観音様から聞いたからね!!」
 言うが早いか女性の姿は消えうせ、気が付くと猪八戒の首筋には刀が突きつけられていた。
 背中から感じる『闘気』は孫悟空かそれ以上だ!!
 猪八戒は震え上がって、あっさり降参した。

 「すみません!!降参しますから命ばかりはお助け!!」
 「了解した。ところで、どういう経緯で『御一行様』が敵前逃亡したのか教えてくれるよね?!」
 アナスタシアの言葉にもちろん猪八戒は震えながらうなずいた。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 カイザスさんが『怪物を退治』した報告に町長宅に戻っている間に、僕たちは例の小屋でナースチャが縛り上げた猪八戒を尋問することになった。


名前:猪八戒 ○○歳 妖怪(本来は天界人) 男
レベル:111
格闘家
スキル:棒術(LV29)体術(LV10)魔術(LV25)他
 魔法:変化の術(LV15)風術(LV25)水術 (LV20) 
装備: 釘鈀(ていは)。九本の歯を持つ熊手を思わせる馬鍬(まぐわ)風の武器
称号 元天界の将軍 元三蔵法師一行 
善良度:☆☆☆☆ (悪人ではないが、欲が深く、ヘタレ)
特記事項 半人半豚の妖怪。耳と尻尾を隠せば、見た目はちょっと太った気弱げなおじさん(30代くらい)に見える。 現在『逃亡中』


 「で、どうして『敵前逃亡』したのかな?」
 ナースチャがにっこりと笑って猪八戒にやさしく語りかける。
 目が全然笑っておらず、『大魔王ベヒモス』をさっくりやった時同様のオーラを纏っているので、仲間の僕らすら見ていて全身から震えが来そうなくらい怖い。

 …いやいや、観音様まで怖がられてどうするんですか?!!

 「…いえ、最初は勢ぞろいして、みんなで旅に出たんです。
 そして、何体か妖怪も退治したんです。ところが…。」

 ある日目を覚ました三蔵法師と孫悟空がガタガタ震えていたのだ。
 何があったかを聞いても恐怖に震えるばかりで部屋から出ようとしなかった。

 沙悟浄と一緒にどうしたものかと思っていると、気が付くと二人の部屋とももぬけの殻になっていて『探さないで下さい』と書いた手紙が残されていたのだ。

 任務の遂行が不可能になったので、途方に暮れた沙悟浄とともに出奔することにしたのだという。
 沙悟浄とは別行動を取ったので、沙悟浄もどこにいるのかはわからないのだとか。


 「なるほど。……ところで、解散後は『悪事は行っていない』よね♪」
 ナースチャがにっこりと猪八戒に語りかける。もちろん、『圧倒的なオーラ』は健在なままだ。
 「してません!!……ちょと盗み食いとか、ちょと女の子に手を出したとか、それくらいです……。あ、もちろん、『合意の上』です……。」

 「……観音様。無罪放免までは行かなくても『情状酌量の余地』が多々ありそうだよ。
 そちらで引き取ってもらえる?」
 ナースチャの問いに観音様が渋い顔をする。
 「えーと、みなさまと旅に同行してもらうわけにはいきませんか?」

 「無理です!!三蔵法師様やあの孫悟空の兄貴すら逃げるような旅には怖くていけません!!それに……『孫悟空の兄貴より怖い女性』と同行とかありえません!!」

 「なんだってーー!!」
 「なんてことを言うんです!!!」
 ナースチャと桜姫に睨まれて、猪八戒がさらに縮こまる。

 「はっはっは、なにをおかしなことを言っているのだね。
 ナースチャが孫悟空より怖い?そんな生易しいものではないわ!!
 悪人サイドから見たナースチャはこうだ!!」
 そう言って、いつの間にか戻っていたカイザスさんが懐から本を取り出す。

 「この本は『ダークサイド紳士録・アイボンの書』だ。
 さまざまな著名な悪人とともにその『トップクラスの天敵』のことにもページを裂いてある。ちなみにモンスターバスター一〇星全員載っている。」

 僕たちが恐る恐るページをめくるとパザロヴァ姉妹のところにたどり着く。

◎『不死の騎士ことパザロヴァ姉妹』と本には書いてある。

 曰く、魔法で作り上げた最強の剣と鎧を操って、さまざまな魔王や怪人・怪物と戦い続ける戦闘狂。
 絶大な力を誇る吸血鬼の真祖や大怪獣すら嬲り殺しにする血も涙もない怪物。
 残忍で敵対者に一かけらの情けも見せない姉のアナスタシアと、司令塔として冷酷なさまざまな作戦を立案するエレーナは容貌は美しいだけに、その恐怖の視線に睨まれたものは恐ろしさのあまり発狂するものも多いという。

※ 規格外のモンスターバスター一〇星の中でも最強最悪のコンビ。出逢ったら『可能な限り気づかれないうちに』即逃げること。美少女の見かけに絶対に騙されないように注意すること!!


 読んでいたナースチャが卒倒しました。
 「カイザスさん!なんて本を渡すんですか!!」
 桜姫が怒って、僕の手に本を渡す。
 そして、僕の目に作者の名前が止まる。『著者:邪神ニャントロホテップ』……。

 「カイザスさん!!この本の著者はカイザスさんの守護神じゃないですか!!!
 なんてことをしてくれるんですか!!!」

 『すまない、まさかこんなことになるとは思ってなかった…。』
 ニャントロホテップさんが謝ってるよ?!


 そして、怖いもの見たさでこの本を手にした猪八戒も…卒倒しました。

 僕たちの旅はスタートから波乱万丈のようです…。
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