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十二歳編

王都編――決着の時

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 国王の自室に入り、並んだソファーに座るよう促されたジェイクたちは素直に座る。
 アリスはと言えば、ユリアとフェルティナと共に窓際に置かれたテーブルの方へ腰を据えた。

「アリスちゃん、この間頂いたお茶を貰えないかしら?」
「はーい」

 ユリアに願われたアリスは、メディスンバックから果肉入りのアップルティーを取り出す。
 ふわりと王林の香りが漂う。
 それにつられたのか、国王までもがアリスに紅茶をくれと言い出した。
 どうしたものかと悩んだアリスは、ガルーシドに本当にいいのかと視線で問うた。
 それにガルーシドは、こいつはこういうやつだと言いたげな顔で返す。

 仕方なく国王の前にアップルティーを置いたアリスは、毒見をしなくていいのかな? と不安になりながら席に戻ろうとする。
 そこへ、家族から追加の注文が――。
 
「アリス、我らにもコーヒーをくれ」
「俺はマンゴーティーで!」
「俺には国王陛下と同じものを」
「はーい」

 それぞれの前に希望の物を出したアリスは、こうなるとお茶菓子も出したい気分になる。

 夜になって皆お腹が空いてるはずだよね?
 だったら、ご飯系かなー? でもお茶には合わないよね……。
 うーん。昼間作ったフルーツどら焼きはあるけど、パパたちにはもう食べさせちゃったし。
 とりあえずバックに何があるか見よう。
 
 メディスンバックを鑑定したアリスは、作り置きしておいた苺のミルフィーユとワイバーンカツサンドを出すことにした。
 二つのテーブルにそれぞれを置き、皿を出す。
 嬉々として食べ始める国王を、インシェス家の全員が憮然と眺める。
 
「あらあら、美味しそうね~」
「ユリアさんは、どんな果物が好きですか?」
「わたくし? そうね~、どんなものもすきだけれど、酸味がきついのはあまり好まないわ」
「ふむふむ。嫌いな食べ物はありますか?」
「特にないわよ」

 楽し気にお茶を楽しむアリスとユリア、フェルティナを他所に男性陣はアリスの出したお菓子を楽しみ腹を満たす。
 それが終わり、紅茶を飲んだガルーシドがついに今回の件について口を開いた。

「こくおーー」
「ここではコンラートで構わん。畏まった場でもないしな」
「はぁ……仕方ない。コンラート、今日アリスが何者かにさらわれかけた」
「何?! だが、彼女は……」

 アリスの方へ顔を向けた国王は、訝し気な表情でガルーシドの方へ向き直る。
「詳しく話してくれ」と言う国王に対し、ガルーシドが証拠を元にジェイクたちの考えを伝え始めた。

「……そうか、やはり王妃が関わっていたのか……なんという事だ」

 悲し気に呟いた国王は、目元を隠すようにして腕を組むと頭を置いた。
 
「すまんな。だが、急がねばならない案件がある。ガントの義両親だ。早く探してやらねば、殺される恐れもある」
「なんと!! わかった。直ぐに探させよう!」

 ガルーシドが懐から紙を二枚取り出し、国王に渡した。
 それにはガントに聞いた義両親の似顔絵が書かれていた。
 
 顔をあげた国王は、呼び鈴を一度鳴らす。
 すると、直ぐにノックが響き扉が開かれた。

「すまんな、ケーズ。直ぐに探して貰いたい者たちがいる」
「はっ!」
 
 紙を受け取った騎士が出ていくと、再び誘拐に関する話が始まった――。
 
 何度目か分からないため息を吐き出した国王は、アリスが出した紅茶を口に含む。
 
「これだけの物証があれば、王妃を庇う事はできないな。まさかインシェスの宝に手を出すとは……」
「王妃に関してだけではない。ボリスもまた同罪だ」

 国王の言葉を聞いたジェイックは、怒気を含ませ突っ込む。
 追従するのはゼスだ。
 
「それに、ニュース大陸のガゼスティン帝国のことも……」
「はぁ、頭が痛い。何という事だ……」

 頭を抱える国王を前に、これ以上話をしても解決を見ることはできないと考えたジェイクは口を閉じる。
 
 呆れたものだ。この国の王妃である、いわば国の母であるべき女が、守るべき自国の子を他国へ売り払い私欲を満たした。
 それを庇うことは、国王であろうともできようはずがない。
 結論を出すのは国王だろうが、最低でも地位はく奪の上、幽閉か。
 まぁ、仕方ないだろう。我らはインシェスと言えど平民。王の決定に従うほかあるまい。
 
 諦めるように一息ついたジェイクは、今回の件についての結論を出した。
 
「あとは王に任せるしかなさそうだ」
「納得できそうにないのも事実ですが……仕方ないでしょうね」
「あぁ」

 もう話すことは無いと言わんばかりに席を立ったジェイクは、アリスの元へ歩み寄る。

「おじいちゃん。お話終わったの?」
「あぁ、終わったよ」
「そっか。じゃぁ、お家に帰ろう!」
「そうだな」

 差し出された小さな手を握ったジェイクは、今は見えない精霊たちに心から感謝した。
 
*******

 翌日、無事ガントの義両親は発見された。
 監禁されていた場所は、王妃の生家であるグランツ侯爵家の地下牢だった。
 発見された際二人は、憔悴していたものの外傷などは無かったと言う。

 そして、翌々日。
 アリスがユリアとのお茶会を先延ばしにされ、ふて寝している頃。
 フェリス国、国王が王妃と対面していた。

 執務机に座った国王は、重苦しい空気を醸し出している。
 側に控える宰相も同じだ。
 一方の王妃は、何も知らない様子で優雅に座っていた。
 
「王妃よ。お前の罪をこの場で裁くことにした」
「罪? わたくしが何の罪を犯したと言うのですか?」
「お前の犯した罪は、守るべき民をニュース大陸のガゼスティン帝国に売り払ったと言う罪だ」

 顔色を変えることなく紅茶を一口飲んだ王妃は、じっと国王を見つめる。

「わたくしは、そのようなことしてはおりませ――」
「お前の直筆の証書があってもか?」
「そんなもの、いくらでも偽造できますわ」
「ボリスの自白も既に取ってある」
「ボリス伯爵が何かをやっていたのは知っていますけれど、わたくしには関係ありませんわ」
「……認めぬのであれば、ガゼスティン帝国から送られたこの書類を証拠としよう。お前の姉は、全ての罪を認めたそうだ」
「くっ……」

 目の前に音を立て置かれた証拠の書類を目にした王妃は、憎々し気に顔を歪める。

「二人の王子を産んでくれたこと。心から感謝する。あの子たちにお前の事を伝える際は、良き母であった事だけを伝えよう」
「わたくしは……ただ、あなたがっ……もう、遅いのですね」

 諦め、後悔と言った感情をにじませ国王を見た王妃は、ただ側にいる彼の愛が。それだけが欲しかったに過ぎない。
 愛されるための努力をはき違えた王妃に、王が振り向くことはなかったが……。

 王妃の思いを分かっていながら答えられなかった国王もまた、後悔に胸が痛む。
 だが、王として国を背負い守ると言う使命がある以上、民を傷つけた王妃を許すことはできなかった。
 
「我フェリス王国国王コンラート・J・フォン・フェリスは、王妃エリザベート・グランツ・フォン・フェリスの地位をはく奪し、三日の猶予の後、毒を与えることとした」

 一呼吸置き、国王はその場にいる者たち全てに聞こえるよう、声を張り言葉を続ける。

「また、共犯である元ボリス伯爵夫妻については、斬首とする。そして、今回の件に関与した者たちを一人も逃すな! 捕まえ次第、関与した罪状を調べ降爵、もしくは奴隷送りとする! 以上である!」

 これまでの苦労を鑑みてせめてもの情けだと、王は王妃とその家族の斬首を控える。
 だが、それを王妃は受け入れられなかった。

「なっ! 陛下はわたくしに死ねとおっしゃるのですか?! これまで誰にも望まれぬ王妃として、必死に生きてきたわたくしに……あなたは、死ねと……なんて、なんて酷い方なんでしょう!」

 声を荒げ、泣き崩れた王妃は、もう後戻りができないのだとここへきてようやく悟る。
 せめて、死ぬときは王妃として……それだけを胸に刻んで――。

 三日後、元王妃とその生家であるグランツ侯爵家を始めとした数名の高位貴族が、人知れず毒杯を煽った。
 恐怖に慄き泣き崩れる者、逃げ出そうとする者がいる中で、王妃だけが姿勢を正して毒杯をのんだと言う。
 
 こうして、フェリス王国へたどり着いてからの一連の事件は膜を下ろす。
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