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十二歳編

王都編――アダマンテル商会

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――少し時間は遡る。
 
 ゼスとフィン、クレイと共に馬車に乗り込んだアリスは、王都の中心から西へ行った商店が立ち並ぶ区画へと赴いていた。
 馬車が止まり降りたアリスは、でかでかとアダマンテル商会と書かれた看板を口を開けて見上げる。

 予想していた以上に大きい商店は、四階建てで木とレンガで作られた建物だった。
 店の入り口部分は、全て解放されていてどこからでも入れる仕様だ。

 更に、入口付近の数か所に同じエプロンを付けた店員さん人たちが立っている。
 客が来たら直ぐに対応できるようにするためなのだろうが、人数が多い。
 入口手前からでも中が見え、所狭しと商品が並べられていた。

「ここがラーシュさんのお店かー。凄いなぁ」
「予想より大きいね」
「うん! お小遣い余ってるし、何か買って帰りたいな」
「その前にラーシュ殿に挨拶をして、それからゆっくり見て回ろう」
「うん」

 ゼスの手を握り返したアリスは、店内へ足を踏み入れた。
 一番注目を集める場所に、いくつかのボディバックが置かれているのに気付いたアリスはニマニマと顔を緩めた。
 
「いらっしゃいませ。どう言った物をお探しでしょうか?」
「こんにちわ。ラーシュさんに会いに来ました!」
「会長にですか? 失礼ですが、アポはお取りでしょうか?」
「……ないですけど……会えませんか?」

 久しぶりに会えると思ったのに、ラーシュさんに会えないなんてとアリスは落ち込む。
 だが、そこに聞き覚えのある声が聞こえパッと瞳を輝かせた。
 
「アリス嬢! それに皆さん、お久しぶりでございます」
「ラーシュさん、久しぶりですー!」
「さぁ、皆様奥へどうぞ、座ってゆっくりお話ししましょう」

 ラーシュに案内されて、アリスたちは奥の応接室へ通される。
 ソファーに腰を落ち着けたところで、ラーシュがアリスへ「コーヒーを頂けませんか?」と頼んだ。

「はい、どうぞ」
「パパたちは何が良い?」
「僕も同じでいいよ」
「俺、冷たい果物ジュース」
「私もコーヒーで」

 クレイ以外の三人にアイスコーヒーを置き、クレイの前にしぼりたての白桃ジュースを置く。
 ついでにアリスの分も出す。
 アリスが選んだのはマンゴーティーだ。

 作り方は簡単で、熟れたマンゴーを軽く潰してコップに入れる。
 この時一緒に氷を入れること。
 後は、熱湯で好きな茶葉を濃い目に入れて出来上がりだ。
 余談だが、個人の好みでライムを入れても良い。
 
 お茶請けは、何が良いかな? 最近作ったタルトとチョコ、あとはサンドイッチ?
 毎回同じような気がするなー。バリエーションがない。
 だったら、何を出そう……悩ましい!

 自分のディメンションバックを鑑定したアリスは、バックの中身を確認する。
 
 これは飲み物だし……こっちはコーヒーには合わない和菓子だし……。
 うーん。あ!! いいのあるじゃん!

「ちょっと、ここ使うね」
「アリス、クリームと果物、パンケーキを出して何をする気だ?」
「お茶請け作ろうと思って!」

 アリスが作ろうとしているのはフルーツどら焼きだ。
 以前作っておいたパンケーキを一枚取り出して、半分に生クリームを、残りにカスタードクリームを塗る。
 それに皮を剥いたフルーツを挟んだら出来上がり。
 お好みで練乳やハチミツをかけるのもオススメ。

 使った果物は、苺、マンゴー、白桃、みかん、マスカットだ。

「どうぞー!」
「おぉ!! アリス嬢は相変わらず、手早いですなー」
「食べるの大好きです!!」
「これ食いやすいな!」
「うん。美味しいよ」
 
 頓珍漢な答えを返したアリスは、上機嫌でフルーツどら焼きを頬張った。
 カスタードクリームは卵の風味とバニラビーンズが効いている。
 果物の酸味を感じたかと思えば、生クリームの甘さと牛乳の風味が酸味を吹き飛ばす。
 
 最高に美味しい!! やっぱりフルーツサンドは作りたてが一番よねー。

 口いっぱいにフルーツサンドを頬張ったアリスは、上機嫌でマンゴーティーに口をつけた。
 マンゴーの風味がかなりいい感じだ。

「そうでした。アリス嬢、ボディバックの取り扱いを、わたくしに任せて下さったこと心から感謝いたします」
「いえいえ、ラーシュさんだったら、安心して任せられると思ったので」
「このバックは今や、大人気商品でしてな。冒険者だけではなく商人や騎士なども購入しているのですよ」
「おぉ! それは凄い」
「それで、今回のお礼なのですが……」

 ラーシュが言葉を切ると同時に、扉が開きワンピース姿の女性がトレイを持ち入ってくる。
 トレイの上には二つの袋があり、それをラーシュが受け取った。

「こちらをアリス嬢に。以前喜んでらした屑石です」
「い、いいんですか? 最近色々作っちゃって数が少なくなってたので、凄く嬉しいです!」
「えぇ、勿論ですとも」
『なんじゃ、アリスは石が欲しかったのか? わしに言うてくれれば、いくらでも出してやるものを』
『え? ベノンさん出せるの??』
『精霊じゃ、それぐらい普通にできるぞ?』
 
 ラーシュから屑石を貰って喜んだアリスだったが、ベノンの言葉で喜びが半減してしまう。
 だが本当に貰っていいのだろうか? と、考えたアリスはお礼になるかはわからないがラーシュに数枚の紙レシピを渡すことにした。
 
「ありがとうございます。ラーシュさん、お礼のお礼になっちゃいますけど、これ良かったらラーシュさん使ってください」

 アリスから受け取った紙を見たラーシュは、カッと眼を見開く。
 そして「こ、これは……これはっ!」と、何度も同じ言葉を繰り返し始めた。
 
 アリスとしてはただのレシピで、別に特段気にするような物でもなかったため渡したのだが。
 ラーシュにとってはそうではなかった。
 馬車の旅の間、アリスの食事を食べつけてしまったためラーシュの舌は肥えてしまっていた。
 王都に戻ってすぐ料理人と話し合い、アリスの食事を再現しようとした。
 が、何度作ろうともその味が出来ず、悲しみに暮れていたところだったのだ。
 
「ほ、ほ、本当によろしいのですか?」
「はい。別に隠してないですから……。それに、商業ギルドのことでお世話になったので……」
「あ、ありがとうございます!! アリス嬢の食事を再現したくとも全くできなくて、本当に参っていたところだったのです」
「あー、それすげーわかるかも」
「うん。そうだね……僕ももうアリスのご飯以外食べたくないなー」

 ラーシュに同意するようにクレイとゼスが何度も頷く。
 そんな大人たちを見ながら、アリスは苦笑いを浮かべるしかなかった――。
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