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十二歳編

王都編――救援要請②

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 ユーランの指した先を見上げ、ジェイクたちは頭を抱えた。
 流石に王城に入る術を持たない自分たちにはどうすることもできないからだ。

『アリス~~!』
『うーん……王城かぁ……。助けてあげたいけど、私は……』

 王城を見上げ、アリスは苦い顔をする。
 動けない精霊べノンを助けたい思いはある。
 でも、あそこにはアリスが唯一嫌悪感を感じる王子がいる。
 王子なんかと出会いたくないとつい、黒い感情がアリスの心を占めた。

「城なら、俺が連れて行ってやろうか?」
「えっ?」

 不意に上がった声の主を見るようにアリスは振り向く。
 そこには、もう一人の祖父ガルーシドが、ニヤリと口の端をあげて立っていた。

「あぁ! そう言えば、お前なら怪しまれずに入れるなガルーシド」
「アリス、ガルおじいちゃんに任せろ!」

 ジェイクたちが何かに納得したように頷く。
 その理由が分からないアリスは、皆の顔を見回して首を傾げた。

「アリス、ガルおじいちゃんはね。この国の騎士団団長なのよ」
「え、おじいちゃん騎士団長さんなの? でも、公爵じゃ……??」

 アリスの疑問に答えたフェルティナは、再びの質問にくすくすと笑った。
 
「ガルおじいちゃんは、公爵家の婿養子なの。だから、本当の公爵は……あっち」

 な、なんてこったー! まさかフィルティーアおばあちゃんが公爵だったなんてー!!
 びっくり仰天顔でフィルティーアを見たアリスと眼が合ったフィルティーアは、唇に人差し指を当てるとウィンクを飛ばす。
 
「アハハ……」

 乾いた笑いを漏らしたアリスは、聞かなかったことにしようと自分の中でのスルースキルを発動させた。

『アリス、助ケル』
『アリス、どうなったの? ボクのお願い聞いて貰える?』
『あ、うん。何とかなりそうだよー。でもベノンさんを助けられるかは行ってみないと、何とも言えないかも』
『わーい!』
『アリス、優シイ。フーマ、好キ』

 くるくるとアリスの周りを飛び回るユーランとフーマを見ながら、アリスは仕方がないなーと言った顔で笑う。
 まだ、どうして王子がダメなのかわからない。
 けれど、いつもアリスを助けてくれる二人のお願いだから、ハルクを助けたいと言う気持ちを優先する事にした。

「ガルおじいちゃん。お城って、いつ行けそう?」
「可愛い孫のお願いだ。明日にでも行こうじゃないか!」
「えぇ!! 明日?」
「なんだアリス、早い方がいいんじゃないのか?」

 ガルーシドの言葉にアリスは、まぁそうだけど……私にも気持ちの整理の時間が……と腑に落ちない気持ちになる。
 だが、実際早い方がいいのは事実だ。
 悶々とする自分の気持ちを呑み込んだアリスは「お願いします」と頭を下げた。


*******


 そうして翌日、朝早く起きたアリスはガルーシドとフィン、クレイ、ゼス、ジェイクと共に王城へ向かった。
 石造りの城は、絢爛豪華と言わんばかりの佇まいをしている。
 馬車の窓から見た限り、赤と金の装飾がキラキラ朝日を浴びて光り、沢山の花が咲き誇る庭園がいくつもあった。

「アリス、この奥が爺ちゃんの仕事場だぞ!」
「ソ、ソウナンダー」

 にこにこと上機嫌のガルーシドは、アリスを膝の上に座らせ窓の外を指す。
 城門をくぐってからと言うものガルーシドは、あそこは〇〇、ここは〇〇と聞いてもいないのに説明してくれる。
 それに答えつつアリスは肩に乗るユーランの説明を聞いていた。

『アリス、あの奥の大きい場所の裏だよ! ベノン爺さんがいるところ!』
『え、あの一番大きい所?』
『そうだよ! あの裏の建物の地下にいるんだ!』

 ユーランの話を聞いていたアリスは、ユーランが指し示す先を見つめガルーシドの説明を思い出していた。

 確かあの大きい建物は、色々な人が働いてる庁舎っぽいものだっておじいちゃんが言ってたっけ……。
 その裏ってことは、控室とかの建物かな?
 とりあえず、あの建物の奥に何があるのかおじいちゃんに聞いてみよう!

「ガルおじいちゃん」
「どうした?」
「あの建物の裏にあるのって何~?」
「あぁ、あそこは陛下や王妃の使う私室がある王族専用の屋敷だよ」
「……え? マジ?」
「あぁ、間違いないぞ!」

 ガルーシドの答えにアリスの顔が歪む。
 会いたくない相手がいる場所であることが判明したためだ。
 
 最悪、王子がいる場所の地下とか……マジ勘弁してほしい。って、ダメだよ。逃げちゃダメ。
 私の用事があるのは地下だから、会うことは無いはずだし!
 会う事なんかないはずだし、大丈夫。大丈夫。
 本当に大丈夫かな……あぁ、胃が痛い。

「ほーらアリス、着いたぞ! ここがじいちゃんの仕事場だ!」

 ガルーシドの声と共に馬車が止まり、扉が開く。
 アリスはと言えば、ガルーシドに抱えられたまま馬車を降りることになった。

「じいちゃん、いい加減アリス降ろしてやれよ」
「まったく……そうやって構うから、フェルティナもおぬしを面倒だと言うんだ」
「ぐっ」
「ほら、アリスおいで」
「うん」

 クレイの言葉を引き継ぐようにジェイクが、呆れ顔でガルーシドの痛い所を突く。
 二人のチクチクとした言い合いを他所に、ガルーシドのムキムキの腕が緩んだ瞬間を狙いフィンが、アリスを救い出すと地面に下ろす。
 軽く締まり息苦しさを感じていたアリスは、ホッと胸を撫でおろすとフィンと手をつないだ。
 
『アリス、早く! 早く行こう!!』
『あ、待ってユーラン!!』
「フィンにぃ、ユーランが早くって」
「あ、うん。……でも、私たちだけだと疑われるからおじいちゃんたち連れて行こう」
「うん、そうだね!」

 未だ言い合いを繰り返し、険悪な雰囲気のジェイクとガルーシドをアリスが呼び、王族専用の建物へ向かおうと誘えば二人は即座に行動を起こす。
 ジェイクが先頭で、ガルーシド、アリス、フィン。
 そして、殿をクレイとゼスが務める。

 道中、ガルーシドがアリスの開いた左手を握り、フィンが右手を握っていた。
 アリスの身体は軽く浮かび、まるで捕獲された宇宙人状態だ。

「こっちか?」
「あぁ、そのまま左に行くと王族専用の建物だ。だが、中には入れんぞ?」
『それは大丈夫、ボクが入口を知ってるから! 裏に回って、アリス!』

 ガルーシドの言葉をユーランが即座に否定する。
 アリスはユーランの言葉を伝え、アリスと共に五人は王族専用の建物の裏へ。

『ユーラン、本当にここが入口なの?』

 一緒に来た家族たちの視線は、アリスと同じく一点に注がれていた。
 綺麗な庭の中にぽっかりと口を開けた洞窟だ。
 入口はまだ見えるから良いが、下へ向かうほど暗闇に染まっている。
 
『ここだよ! 道はボクがわかるから、アリス行こう!!』

 行こうって言っても……これは、ちょっと……。

 全てを呑み込んでしまいそうな洞窟の入口を見つめたまま尻込みするアリスを急かすようにユーランは、洞窟の入口を潜った――。
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