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十二歳編

フェリス王国編――ワイバーンの肉

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 夕飯を作り終えたアリスは、寝てしまったユーランとフーマを寝室に残し、せっかくだからと時間つぶしをするため外に出た。
 するとそこには、首をスパンと綺麗に切られた巨大なプテラノドンが……。

「え、なんで恐竜がいるの?」

 困惑を浮かべたアリスは、この世界に恐竜がいるなんて聞いてないと心の中で愚痴る。

「あ、アリス。これがワイバーンだぞ!」

 アリスの存在に気付いたクレイが、まるで自分がワイバーンを狩ってきたかのように告げる。

「わ、ワイバーンって、恐竜だったんだ??」
「キョウリュウ、ってなんだ?」
「う、ううん。何でもない。これがワイバーンなんだね」

 クレイの疑問を適当に流したアリスは、再びワイバーンに目を向けた。
 くすんだ黒の皮には、小さな鱗がついている。
 翼には前足? っぽい鋭い爪が四本。後ろ足は尾の付け根にあり、尻尾は短い。
 首が切りとられているので凡そだが、体長約一〇メートル。体高約六メートル、翼が閉じている状態のため、翼を広げた時の体高は不明。
 見た目美味しそうに見えない、丸々とした肉の塊だ。
 
「これどうするの?」
「解体するんだよ。ばあちゃんと父さんが」
「へぇ~。大変そう……」
「俺も解体手伝うんだ! 報酬にこいつの皮を貰えるから、手に入ったら鞄作ってくれよな!」
「あー、うん」

 クレイの機嫌が良かった理由が鞄だと、気づいたアリスは適当に返事をしておいた。

 アンジェシカ主導で、ワイバーンの解体が始まる。
 正直、ご飯前に生々しい解体を見たくないとアリスは思ったが、折角だから見ておきなさいと言うフェルティナの一言で見学させらてることになった。

 ワイバーンの解体方法は、切り落とした首の内側――お腹側からスパーンと尻尾まで一直線にジェイクが切り込みを入れる。
 腹が開いたら、ゼスが魔法を使って綺麗に内臓などを取り除く――これはアンジェシカの素材――。
 腹の中を水で丸洗いしたら、皮を剝ぐ作業だ。
 ここで活躍するのは、フィン、クレイ、アンジェシカ、フェルティナ。
 四人はそれぞれナイフを使い、一メートルほどの大きさに皮を器用に剥いでいく。
 皮を剥かれ見えたワイバーンの肉は、まるで黒毛和牛のようなサシがびっしりと入っていた。

 焼きあがったステーキにおろしポン酢をかけて~などと、想像したアリスの口の中に唾液があふれ出す。
 じゅるっと口の端を拭き、脳内をステーキに占拠されたアリスは、急遽夕飯を変更する

「おじいちゃん!! そこのお肉、そこのお肉を今すぐちょうだい!!」
「ここか? こっちか?」
「サシが入ったとこ!! そこ!」

 堪らずジェイクを呼ぶと欲しい部分を指さし、その部分を切り分けて貰う。
 切って貰った肉をストレージに仕舞ったアリスは、直ぐに神の台所へ移動した。

「キッチンさん! お肉美味しくミディアムレアで……」

 材料が無ければ、キッチンは動けない。
 そういう単純なことすら忘れていたアリスは、急いでワイバーンの霜降り肉を出す。

「とりあえず、厚さは三センチで長さは一〇センチに切って。そしたら、えーっと余計な水分を拭きとって……えーっと……」

 ステーキのせいで指示を出すアリスが混乱している。
 落ち着け、美味しいお肉のために落ち着くんだと、自分に言い聞かせたアリスは一度大きく深呼吸した。

「フォークでプスプス穴をあけて、筋っぽい所は筋切りを。それが終わったら、塩とブラックペッパーを振って」

 ハーブを使う方法もあるけど、今日のお肉は新鮮だからそのままで行こう。ガーリックチップも欲しいでも、肉だけを味わいたい気分だ。
 脳内でさくっと思案したアリスは、余計な物は全て却下して肉だけを味わうことに決めた。

「フライパンにバターをひとかけ落として、バターが程よく溶けたらお肉を一枚入れる」

 次は、脂がでたらそれを拭きとり、下の方が焼けたらひっくり返す。
 ひっくり返した方が焼けたら、フライパンからお肉を出してアルミホイルに入れて包む。
 後は、これの繰り返す。

「残りをキッチンさん。全部ステーキでお願いします」

 付け合わせはとアリスは考える。
 本当なら、皮つきのジャガイモにバターを乗せて食べたいところだけど、既に湯がいたジャガイモと人参がある。
 使わない手はないのでそれを乗せて、明日の朝ごはん用のトルティーヤを主食に回す。
 その代わりと言ってはなんだが朝はチキンカレーにする。

 おろしポン酢用の大根の皮をキッチンに頼んで剥いて貰う。
 後はおろし器で、シャコシャコとすりおろす。
 ある程度すりおろしたところで、大根の水気を切ったら、ポン酢を加えておろしポン酢のできあがり。
 足りない分は、キッチンさんにお願いした。

「さて、そろそろいい頃合いかな?」

 と、言うとアリスは徐にワイバーンステーキ巻いていたアルミホイルをはがす。
 むわっとバターの香りが漂い。いい感じに焼けたステーキが顔を出す。
 そこへ、出来立てのおろしポン酢をかけた。
 
「ふおぉぉ、美味しそう!!」

 キッチンに頼んで出して貰ったナイフとフォークを両手に持ったアリスは、いざ実食! と呟きワイバーンのステーキにナイフを入れた。
 外側はしっかりと焼け、中はほんのりとピンク色。
 ナイフで切ったところから、次々と透明な肉汁が溢れ出す。
 ごくっと喉を鳴らしたアリスは、柔らかなワイバーンの肉を一切れ頬張った。

 口に入れた途端、脂の甘みが口の中を占拠する。だが、直ぐにかけたおろしポン酢が油を洗い流す。
 肉は噛むたびに解れるほど柔らかく、まるで飲み物のようだと、アリスは得も言われぬ幸福を感じて、恍惚とした表情を浮かべた。

 そして、気づけばステーキ一枚が無くなっていた。

「……あぁ、美味しい。止まらない。けど、これ以上食べると夜ご飯が……」

 後ろ髪を目いっぱい引かれながらアリスは、作業台に置かれたステーキをストレージに直す。
 きっと夕食でこのステーキは全て消えるだろうと予想して、アリスはキッチンを出た。

 案の定というか、アリスの予想通りステーキは一枚たりとも残らなかった。
 一〇キロ近い肉塊を毎日食べていたのだ。当然と言える。
 その代わり、新たなワイバーンの肉を大量に渡された。
 これでビーフシチューもローストビーフも作れるとアリスは喜んだ。

 そして、クレイとフィン、ゼス、フェルティナ、アンジェシカからは皮が渡される。
 皆がみんなボディバックが欲しいようで、アリスにお願いと頼んできた。
 
 形が同じになるため、できれば色を変えたいと思ったアリスはそのことをアンジェシカに相談する。
 するとアンジェシカが、色変えの魔道具をくれた。 

「この魔道具で変えられるのは、皮と布だけよ。他のは変えられないから気を付けてね」
「おばあちゃん、ありがとう!!」

 使用上の注意を聞いたアリスは、皆に希望の色を聞けば
 アンジェシカはクリーム色。
 ゼスは、黒。
 フェルティナは、ワインレッド。
 フィンは、落ち着いたこげ茶。
 クレイは、黄色に落ち着く。

 ただ一人、会話に加われないジェイクだけが、寂しそうな表情をしながらお茶を飲んでいた。
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