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十二歳編

フェリス王国編――新しい仲間

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 本来姿を見せないはずの精霊が姿を見せたことに、ヒース衛士長をはじめ森の牙ラフォーレ・ファングの四人も驚き固まった。
 
「ユーラン、どうするつもりかな?」
『ボクたち精霊は、どこにでもいるからね。風の精霊に協力を頼むよ。風の精霊たちなら直ぐにその男……えぇっとマーシ? の居場所がわかるよ』

 ジェイクに問われたユーランは、ふんすと仁王立ちした状態で胸を反り答えた。
 頼もしいユーランの言葉を受けたジェイクは、心からユーランをアリスの元へ遣わしてくれた神へ感謝する。

「よろしく頼みます」
『任せて! あぁ、多分直ぐに居場所は分かるから、少しだけ待ってて』

 ユーランはその言葉を残し、ポンと音を立てて消えた。
 沈黙が、その場に落ちた——。

 漸く復活し始めた五人を前にジェイクは、少しだけ殺気を含んだ視線を向ける。
 そして、ジェイクは硬い口調で、ユーランに関する秘密を厳守するよう告げた。

「ヒース衛士長、ガロ、セイ、ミランダ、ルック。今見たものは決して外に漏らさないと約束していただきたい。もし漏らせば、我らインシェス家の総力を持って、秘密を洩らした者、知った者を消させてもらう」

 脅しにも似た言葉を受けた五人は、喉を鳴らし、ゆっくりと頷いた。
 それを見たジェイクは、殺気をしまい笑顔を向ける。
 アリスが外に出るようになってからと言うものジェイクは日々、こうしたやり取りをしている気がすると思い苦笑いを浮かべた。

「とりあえず、ユーランが戻ってくるまでお茶でもして待ちましょうか」
「そうね」

 明るい声を出したフェルティナに、アンジェシカが答える。
 寝室に戻り、アリスの使う魔法の鞄を持ってきたフェルティナが、コーヒーをそれぞれの前に置く。

「あぁ、初めての人には少し苦いでしょうから、この砂糖とミルクを入れて飲むと良いわ」
「あー、懐かしい。この匂い……たまらないな」

 コーヒーが入ったカップを持ち上げたセイが、匂いを嗅ぐと嬉しそうに口をつけた。

「気に入ったなら、アリスに豆を別けて貰うと良いわ。作るのは簡単らしいから」
「そうなんですね。アリス嬢が起きたら頼んでみようかな……」

 フェルティナとセイがコーヒー談義をしている横で、ジェイクはヒース衛士長と奴隷になった子供たちの今後について話していた。
 
「では、子供たちがどこに売られたかははっきりしないのか?」
「一応分かる子供は、既にマジェット辺境伯が取り戻せるよう働きかけていますが……王家にバレるのを恐れた貴族が、そうやすやすと手放すとは思えません。それに……」
「既に、殺されている可能性もあるか……」
「えぇ……痛ましいことです」

 子を無くした親の気持ちがわかるジェイクは、その心を思い瞠目した。

「しかし、マーシが一人でこんな大それたことをするとはどうしても思えないのです」
「確かにそうだな」
「そう言えば……ある商人さんから聞いたのですが、ボリス伯爵が奴隷売買で稼いでいるらしいですよ」

 ルックの言った商人とはラーシュの事だろうと、ジェイクはあたりをつける。
 名前を出さず情報を提供するルックに、流石は長年冒険者をやっているだけはあると感心しつつその話に乗る。

「ほう。ボリス伯爵が?」
「えぇ、詳しい話しは聞いていないのですが、最近やたらと羽振りがいいとか……」
「ルック殿、もしや貴殿はマーシの後ろに、ボリス伯爵がいる可能性を示唆しているのですか?」

 ルックの意図に気付いたらしいヒース衛士長は、顎に手を当て真剣に考えている。
 これで、ボリス伯爵に目が行くだろうと考えたジェイクは、そこで話を降りた。

 と、そこへ『ただいま。居場所わかったよ~』と明るい声が響く。

「ユーラン、奴はどこに?」
『この街の南東、廃れた小屋に護衛一五人と身を隠してる』
「南東と言う事は、スラムですね?」
『ボクにはよくわからないけど、彼が一緒に行ってくれるよ~』

 ヒース衛士長に答えたユーランが横を向く。
 するとポンと音を立て、薄いグレーの身体を持つ小さなリスに似た可愛らしい動物が姿を見せた。

『……案内スル。急グ』

 片言で告げたリスは、ふわふわと漂い扉へ向かう。
 リスを追い、ヒース衛士長と森の牙ラフォーレ・ファングの四人が立ち上がり、慌ただしく部屋を出て行った。
 
『じゃぁ、ボクは寝るよ』

 一つあくびをしたユーランは、のんびりとした口調で言うとアリスの眠る部屋へと消えていった。 
 そうして、夜は更けていく——。

******

 翌朝、日の出前と共に目覚めたアリスは「ん~~~」と背伸びして、身体を起こした。
 朝の日課を済ませ、枕元に眠るユーランを起こそうと目を向けたアリスは、見知らぬエゾモモンガのような生き物を見て「可愛い!」とテンションをあげた。

 丸まったモモンガのような生き物は、額に六角形の緑色をした宝石をつけている。
 開いた瞳はまんまるで、色は黄緑色だ。身体はグレーと言うよりは白に近く、こちらも瞳と同じくまんまるだ。
 手足には被膜があり、ユーランと同じく短い。

『アリス、おはよう』
『ユーラン、おはよう。この子は?』
『風の精霊だよ』
『そっか、精霊さん。おはよう』
『……オハヨ』

 人の言葉は精霊には難しいらしく、風の精霊は片言で挨拶を返す。
 そんな精霊さんへ、アリスが驚かせないよう指を近づける。
 嫌がられることなく受け入れられた指を動かしたアリスは、ユーランとはまた違ったしっとりとした毛を撫でる。
 
『ソコ、ツヨク』

 撫でるのを気に入ってくれたのは良かった。けど、何気に自己主張が……などと思ったアリスは可愛い精霊の希望通りに指を動かした。
 
『アリス、朝ごはん作りに行くでしょう?』
『うん。もう行かないと……』

 ユーランと話したアリスは、残念に思いながらモモンガから指を離す。
 すると風の精霊は、すぃーとユーランが座っていない方の肩へ移動する。

『一緒に居てくれるの?』
『イル。アリス、好キ』
『ありがとう!』
『名前、ツケル』

 またも突然の申し出にアリスは、ユーランが嫌がったりするんじゃないかと焦った。
 だが、ユーランは特に気にした様子もなく『アリスがきっといい名前を付けてくれるよ!』と、先輩風を吹かしていた。
 名前をねだった風の精霊は、ユーランの言葉を聞いてアリスへと期待した眼を向ける。

 名前か……また、難題がっ!! 名前を付けるは苦手だと自覚しているアリスは、がっくりと項垂れたい気持ちを堪え、必死に頭の中で考えを巡らせる。

 風の精霊だから、風を取るとして……えぇーと。自由と言う言葉を持つのはパール……真珠……うーん。
 そのままパールじゃだめだよね。風、ウェントゥス……。真珠は、アルガリータ……ダメだ。浮かばない。
 もういっそ、漢字をそのまま当てて風真ふうまなんてどうかな?
 それをこの世界風にして、フーマ。うん、もうこれ以上いい名前が浮かびそうにないからこれにしよう。

『風の精霊から一文字貰って、自由を表す宝石——真珠から一字取って風真フーマなんてどう?』
『フーマ。フーマ気ニ入ッタ』
『フーマ! ボク、ユーラン。よろしくね』

 二匹のもふもふが、互いに頬を寄せ合う姿にアリスはやばい。可愛すぎると必死に抱きしめたい衝動を抑える。
 そんなアリスの眼前に浮かんだフーマが、アリスの額にコツンと宝石をつける。
 
 すると柔らかく、暖かな風がアリスの身体を包み込んだ。
 額を離したフーマが笑ったアリスの瞳を覗き込み、分からないと言うようにコテンと首を倒す。

 そうして、フーマとアリスの契約が完了した——。
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