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十二歳編

フェリス王国編――ブレスレット作り

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 ルールシュカの説明によればアリスが持つ ”神の〇〇”とつくスキルは、一度作ってさえしまえばあとは、ほぼスキルの力で自動で同じものを作り出してくれる。

 宝飾や裁縫に至っては、ルールシュカから知識を貰っているため思い浮かべるだけで物を作ってくれる。
 しかも、魔法を付与出来たりしてしまう。
 ただし、詳細まで思い浮かべることが必須条件らしいので、一度試してから作るのをお勧めされた。

「本当に色々ありがとうございます!」
「いいの、いいの。アリスちゃんが幸せならそれでいいのよ。ところで、アリスちゃんこのお菓子、もう少し分けてくれないかしら?」

 ルールシュカが分けて欲しいと言ったのは、フルーツシューだ。
 アリスは魔法の鞄から残りのフルーツシューを取り出して、ルールシュカに渡す。
 それにお礼を言ったルールシュカが、急に真面目な表情を作る。

「アリスちゃん、気をつけなさい。何にとは教えられないけれど、決して家族と離れてはダメよ?」
「……はい」

 ルールシュカの言葉を聞いたアリスは素直にうなずいた。
 アリスの脳裏に、一人の男の姿が浮かぶ。
 それはフェイスの街の入口で会った、下卑た笑みを浮かべた赤茶髪の衛士だった。
  
『ボクが守るから大丈夫!』
「ふふっ、そうだったわね。ユーラン、アリスちゃんをよろしくね」
『任せて!』

 フンスと胸を張ったユーランを見たルールシュカは楽し気に笑う。
 それにつられてアリスは、ふっと表情を崩して笑った。
 楽しい時間はあっという間と言うけれど、ルールシュカとの時間もあっという間に過ぎてしまう。
 
「もうお別れの時間ね。あ、精霊もスキルの部屋に入れるようにしておくわ。それじゃ、メール楽しみにしてるわ!」
「メールにお菓子を入れられたらいいのに……」

 ぽつりと零れたアリスの言葉をルールシュカは聞き逃さなかった。
「それだわ!」と手を打った彼女は、空中を操作するよう指を動かした。
 そして、消える間際「これから、お菓子もメールで送れるから!!」と慌てたように言うと消えていった。
 
「アリス、随分真剣にお祈りしていたけれど何か、お願いがあったのかい?」

 神殿から宿への帰り道でフィンに聞かれた。
 素直にルールシュカ様に会っていたなんて答える訳にいかないアリスは、必死に考えて「うん、ちょっとね」と、誤魔化すように答えた。
 
 アリスたちが軽く外食を済ませて、草原の兎亭に着いたのはお昼過ぎ。
 部屋には、誰もおらず、疲れたというアンジェシカは部屋に。フィンは、少し出てくると言って出かけて行った。

 残されたアリスは両親の部屋に入ると、さっそく「|開け、宝飾台オープン、ジュエリーワークベンチと唱えた。
 現れたのは、扉だった。しかも今回は、水晶を綺麗に飾った扉だ。
 その扉を開けたアリスは、ぼーっとその光景を眺めた。

 アリスより先に動いたのはユーランだ。
 ふわふわと浮かびながら、扉を抜け室内を飛び回る。

 木製のしっかりした机。
 疲れないようにか背もたれのある椅子。
 そして、とこ狭しと並べられた収納箱は、正方形で一つが二五のマスに仕切られている。

「凄い。これって、石を置くためのものだよね? それにこの棒は、紐をかけておくものかな?」

 初めて見る設備に、ワクワクが止まらないアリスは、色々なところを見て回った。

『アリス、作ろう!』

 楽し気なユーランに呼ばれたアリスは、作業机の側にある椅子に腰かける。
 アリスが、机に手をつくとパッとそこだけ明るく光る。
 何これ! と、驚くユーランの姿を視界に納めたアリスは、徐々に楽しくなっていく。

「とりあえず、仕様説明書がどこかにあると思うんだけど……」

 アリスがそう言った途端、机の上に一冊の分厚い本が現れる。
 なんとそれは、今まさに彼女が探していた仕様説明書だ。

「とりあえず読んでみるね。ユーランは暇だったら、これを二つに割って、それぞれを丸くしておいてくれる?」
『わかったー。ボク、これを丸くするね!』

 本を手に取ろうとしたアリスは、ふと思いつきユーランに屑石の加工を頼む。
 出来るだけ時間がかかるようにと考えて頼んだアリスは、使用説明書に視線を落とした。

 とりあえず最初の方だけ読んでみたアリスの感想は、規格外の何物でもなかった。
 宝石や石、アクセサリーへの加工は、ルールシュカから貰った知識を元に材料さえそろえば簡単に出来てしまう。
 道具の意味とは……。

「はぁ~~。これも多分、神のキッチンと同じ感じだなぁ」

 アリスは、深い深いため息を吐く。
 なんとか気を持ち直すため、買った革紐を取り出す。
 作る物をまだ決めていないアリスは、くるくると紐を弄ぶ。

「何作ろうかな……。あ、フィンにぃの誕生日が近いし、フィンにぃのプレゼントにしよう」
 
 剣士であるフィンに送るのなら、剣を使うときに邪魔にならないブレスレットかネックレスがいい! 
 そう思いついたアリスは、ユーランに加工してもらった石を取り出す。

 アリスが悩み選んだ石は、カーネリアン——勇気、積極性、生命力を高めてくれる効果。
 ジャスパー——忍耐力を高め、魔除けの効果持つ二つを選んだ。

「この石の大きさなら、ネックレスよりブレスレット向きかな」

 ブレスレットに決めたアリスは、手に持っていた黒い革紐を四本と銀——これは魔力を通してミスリル銀の鎖で編むことにした。

 まずは、銀をミスリル銀にすることから始める。
 説明書によれば銀板に手を当て魔力を流し、銀色が青銀に変わればミスリル銀になると書いてあった。

 さっそく銀板に手を当てアリスは、魔力を流してみる。
 お腹の中心がじんわりと熱くなり、身体を何か暖かい物が巡って、指先から銀板に流れるのを感じた。

 これが魔力。と、アリスは感動する。

 しばらく魔力を流し、銀板の色がキラキラとした青銀色に変わた。
 色が変わったところで鑑定を使ったアリスは、よっしとガッツポーズを決める。

 だが、アリスが作った物は、聖魔法が込められた最上級のミスリル銀だ。
 そのことを知らないアリスは、小躍りしそうな勢いで喜んだ。
 
「次がこれを五ミリぐらいの鎖状に……」

 言うなりミスリル銀板がじゃらっと音を立て、大量の鎖ができていた。

 いや、全部じゃない! そう突っ込みを入れたアリスは、五本のミスリル銀製の鎖を持ち留め具を創造する。

 アリスが想像したのは、細い筒状になった留め具の片方に丸くした突起を作り、それをもう片方に入れて止めるタイプのワンタッチ金具だ。
 主に皮製のブレスレットやネックレスなんかによく使われる留め具で、筒状になった部分に小さな穴が開いていてその部分に杭をうつことで皮を留めることができる。

 更に四本の鎖を手に持つと、蔦模様の石止めを創造する。
 カランと落ちた筒状の石止めはアリスのイメージ通りに出来上がる。
 両サイドの内側に、皮が滑らないよう小さな歯をいくつかつけたものだ。
 
 次に、本体部分。
 まず、黒い紐四本とミスリル銀でできた鎖を三本、大きめ目のカーネリアンを一つとジャスパーを二つ。

 それから先ほど作った金具を用意して、ゆっくりとブレスレットの形を思い浮かべた。
 留め具から四つ編みにされた四本の黒い革紐が、しっかりと留め具に杭で止められている状態だ。

「出来るだけ長く使えるように、頑丈にしないとね」

 何度か引っ張り、大丈夫だと感じたアリスは、次の工程に移る。

 留め具の三か所から、鎖が伸びているイメージを持ち。
 更に、きつく四つ編み込みにした黒い革紐に、石止めの金具がついている。
 この時しっかりと動かないイメージを持つ。

 石止めの金具があるのを前提に、アリスはジャスパー、石止めの金具、カーネリアン、石止めの金具、ジャスパー石止めの金具の順でを思い浮かべた。
 そして、キッチリと残りの留め具に泊まるイメージをした。

 四つ編み込みにした革紐の上を、三本の鎖が重ならず螺旋状になるようにイメージする。
 それが上手くいったら、螺旋状に巻き付かせた鎖を今度は、石止めの金具で止めるよう想像した。
 最後にジャスパーの横に付いた石止めから、再び鎖が留め具まで重ならず螺旋をかくようにイメージすれば出来上がりだ。

 ふぅ、と息を吐き出したアリスは出来上がったブレスレットを手に取ってみる。
 フィンには少し大きいかもしれないそれは、中央に大きめのカーネリアンを置き、サイドをジャスパーに彩られた立派なブレスレットだった。
 
「ブレスレットの大きさが自由に変えられたらいいのに……」

 流石に大きすぎるよねと思ったアリスは、独り言を漏らす。
 するとブレスレットが一度眩く光った。
 まさか、と思い鑑定したアリスは、眼を見開き固まった。

============================= 
 名前 : 水の癒しのブレスレット
 所有者 : ????
 材料 : ミノタウロスの皮、レモン汁、磁鉄鉱
      最上級ミスリル銀、最上級カーネリアン
      上級ジャスパー 
 製作者 : アリス・インシェス
 付与者 : ユーラン アリス・インシェス
 効果 : 水属性攻撃無効 水属性相性向上
      伸縮自在 |自動回復オートヒール(小)
 技能 : 水刃アクアブレードルビ 水盾アクアシールド
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