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ファーストキスは〇〇〇味
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センティンスと話を終え帰宅する馬車の中、彼に指摘されたことが頭の中を占めていた。私は殿下を……いや、ありえない。私はあくまでも女性が好きで、ノンケのはずだ。
王女に扮した殿下は、確かに可愛らしく私の好みである。だが、しかし女性の姿をしていても中身は男だ。
では、何故こんなにもセンティンスの言葉が気になるのだろうか、と自分自身に問うてみても答えは出ない。
「ラ~君? どうしたのぅ~?」
窓の外を眺めている風を装い、自問自答していたら殿下の心配が尾が目の前に現れる。慈愛に満ちた瞳は、夕日に照らされキラキラと輝き、長い睫毛が影をつくる。ひと房だけ落ちた髪は、殿下の憂いを表すようで、美しいと言いそうになり私は言葉に詰まった。
「…………いや、少し考え事をしていただけだ」
「ふ~ん、そっか~。そう言えば父上が、来週からの新学期に合わせて学園に行っていいって言ってくれてね~」
とても楽しそうに話し出した殿下に相槌を打つ。好きな教科ややってみたい授業などの話をしている内に、馬車は公爵邸へ着いてしまう。
別れ際、殿下は悲し気な顔になると、入学準備で今週はもう会えないと嘆いた。
「会いたくなったら手紙をくれれば私が王城へ行く。それに来週には学園で会えるのだから、四日間程度耐えられるだろう?」
「四日もラ~君に会えないんだよ~! ラ~君は寂しくないの~?」
寂しい寂しくないで言えば、確かにこの強烈な殿下に会えないとなると寂しさを覚える。だが、何かが邪魔をして、はっきりと伝える事は出来なかった。
「では、こうしよう。エルタンが四日間我慢できたら、学園に向かう際、私が王城まで迎えに行き、同じ馬車で通学しよう」
「朝は一緒に登校するってこと? 帰りは?」
前のめりになった殿下は、キラキラとした瞳を私に向ける。正直、ここまで喜ぶか、と驚きながら予想以上の食いつきについ笑いがこみ上げた。
「むぅ~~~。どうして笑うのぉ~!」
「エルタンが可愛すぎて、ついな」
零したセリフがマズイ、と気づいた時にはもう遅かった。
ぱぁ~と花開いたような笑顔が眼前に迫り、ムニュっとした何かが唇に当たると離れる。恥ずかし気に頬を染めた殿下が「僕の初めてなんだからね」と言い、パチパチと瞬きを繰り返した。
言い方が可愛すぎるだろ! と脳の処理速度を超えた私が思うよりも早く「じゃぁ、四日後ね~」と楽し気に手を振る殿下を乗せた馬車が走り去った。
「ライオネル様……ファーストキス、おめでとうございます。喜びにむせび泣かれているところ申し訳ありませんが、いい加減中へお入りください」
空気を読まない侍従ゴンザレスの呼びかけを受け、現実へと引き戻される。慌てて振り向いたそこには、ニヨニヨした数人のメイドとリア充爆散しろと言わんばかりのゴンザレスの顔があった。
「…………す、すまない。って、私はむせび泣いてないからな! 部屋へ戻る」
何故私が、むせび泣いているなどと思うのか、ゴンザレスの思考回路を一度見てみたい。そんなことより、重大なのはファーストキスはレモン味などと言う例のCMが嘘だったことだ。
初めてのキスは、甘酸っぱいものだと思っていた。まさか不意打ちでされるものだとは思わなかったのだ。殿下とのキスの味は――。
「ココア味……」
「ココアのご用意をいたしますか?」
「いや、コーヒーで頼む」
「畏まりました」
気持ちを切り替え、部屋へ戻りしばらくして夕食に呼ばれた。
食堂に入ると今日に限って全員が揃っている。しかも、妹二人と母はニヨニヨとした笑いを浮かべていた。
あぁ、これは既に知っているのだろうと中りを付け、出来る限り冷静な顔を作り席へ着く。
「お兄様! ついに、ついにファーストキスを済まされたのですってね?」
「殿下の唇を奪うなんて、お兄様も男らしい所があるじゃないですかぁ~」
「あなたたち、はしたなくてよ。それで、ライオネル……どうだったのですか?」
我が家の女性陣は、色恋ごと好きらしい。しつこいほどの質問をどうにかこうにか切り抜けた私は、父上に助けを求めるよう視線を流す。が、見事に逸らされた。
父上でも避けたいほどなのだな、と私は諦めの境地に立った。その日、夜遅くまで盛り上がり続ける女性陣に付き合わされたのは言うまでもない。
王女に扮した殿下は、確かに可愛らしく私の好みである。だが、しかし女性の姿をしていても中身は男だ。
では、何故こんなにもセンティンスの言葉が気になるのだろうか、と自分自身に問うてみても答えは出ない。
「ラ~君? どうしたのぅ~?」
窓の外を眺めている風を装い、自問自答していたら殿下の心配が尾が目の前に現れる。慈愛に満ちた瞳は、夕日に照らされキラキラと輝き、長い睫毛が影をつくる。ひと房だけ落ちた髪は、殿下の憂いを表すようで、美しいと言いそうになり私は言葉に詰まった。
「…………いや、少し考え事をしていただけだ」
「ふ~ん、そっか~。そう言えば父上が、来週からの新学期に合わせて学園に行っていいって言ってくれてね~」
とても楽しそうに話し出した殿下に相槌を打つ。好きな教科ややってみたい授業などの話をしている内に、馬車は公爵邸へ着いてしまう。
別れ際、殿下は悲し気な顔になると、入学準備で今週はもう会えないと嘆いた。
「会いたくなったら手紙をくれれば私が王城へ行く。それに来週には学園で会えるのだから、四日間程度耐えられるだろう?」
「四日もラ~君に会えないんだよ~! ラ~君は寂しくないの~?」
寂しい寂しくないで言えば、確かにこの強烈な殿下に会えないとなると寂しさを覚える。だが、何かが邪魔をして、はっきりと伝える事は出来なかった。
「では、こうしよう。エルタンが四日間我慢できたら、学園に向かう際、私が王城まで迎えに行き、同じ馬車で通学しよう」
「朝は一緒に登校するってこと? 帰りは?」
前のめりになった殿下は、キラキラとした瞳を私に向ける。正直、ここまで喜ぶか、と驚きながら予想以上の食いつきについ笑いがこみ上げた。
「むぅ~~~。どうして笑うのぉ~!」
「エルタンが可愛すぎて、ついな」
零したセリフがマズイ、と気づいた時にはもう遅かった。
ぱぁ~と花開いたような笑顔が眼前に迫り、ムニュっとした何かが唇に当たると離れる。恥ずかし気に頬を染めた殿下が「僕の初めてなんだからね」と言い、パチパチと瞬きを繰り返した。
言い方が可愛すぎるだろ! と脳の処理速度を超えた私が思うよりも早く「じゃぁ、四日後ね~」と楽し気に手を振る殿下を乗せた馬車が走り去った。
「ライオネル様……ファーストキス、おめでとうございます。喜びにむせび泣かれているところ申し訳ありませんが、いい加減中へお入りください」
空気を読まない侍従ゴンザレスの呼びかけを受け、現実へと引き戻される。慌てて振り向いたそこには、ニヨニヨした数人のメイドとリア充爆散しろと言わんばかりのゴンザレスの顔があった。
「…………す、すまない。って、私はむせび泣いてないからな! 部屋へ戻る」
何故私が、むせび泣いているなどと思うのか、ゴンザレスの思考回路を一度見てみたい。そんなことより、重大なのはファーストキスはレモン味などと言う例のCMが嘘だったことだ。
初めてのキスは、甘酸っぱいものだと思っていた。まさか不意打ちでされるものだとは思わなかったのだ。殿下とのキスの味は――。
「ココア味……」
「ココアのご用意をいたしますか?」
「いや、コーヒーで頼む」
「畏まりました」
気持ちを切り替え、部屋へ戻りしばらくして夕食に呼ばれた。
食堂に入ると今日に限って全員が揃っている。しかも、妹二人と母はニヨニヨとした笑いを浮かべていた。
あぁ、これは既に知っているのだろうと中りを付け、出来る限り冷静な顔を作り席へ着く。
「お兄様! ついに、ついにファーストキスを済まされたのですってね?」
「殿下の唇を奪うなんて、お兄様も男らしい所があるじゃないですかぁ~」
「あなたたち、はしたなくてよ。それで、ライオネル……どうだったのですか?」
我が家の女性陣は、色恋ごと好きらしい。しつこいほどの質問をどうにかこうにか切り抜けた私は、父上に助けを求めるよう視線を流す。が、見事に逸らされた。
父上でも避けたいほどなのだな、と私は諦めの境地に立った。その日、夜遅くまで盛り上がり続ける女性陣に付き合わされたのは言うまでもない。
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