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3.ツカサには秘密がある
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目覚めたら、見覚えのある天井。
病室?
「ショウゴ! 良かったぁ……!」
ボクが目を開いて体を動かそうとすると、お母さんが少し泣きそうな顔で言った。
「まったく! 心配させて!」
続けてお説教だ。
「大人しくしてなさいって言ったのに、外に抜け出すなんて……!」
けど、ボクはそんなことより言わなきゃいけないことがあった。
「ご、ごめん。その、お化けがいたんだよ!」
「は? もう、あなたって子は!」
「浜辺で魚の顔をしたヤツらが何かやってたんだ……」
何度か伝えようとするも、さすがに信じてもらえなかった。余計に怒らせてしまった……。
するとお母さんの怒鳴り声を聞きつけたのか、かんご師のお姉さんがやってくる。
「ショウゴくん、目が覚めたみたいですか?」
「え。えぇ……。ただ、お化けが出たとかどうとか言い訳してて。ご迷わくをおかけして申し訳ありません」
「いえいえ、慌てはしましたけど、子供ですから仕方ないですよ。お化けというのも、土地も変わって慣れない環境のせいで見た悪い夢でしょう」
おネエさんも信じてくれず、本当にボクが見たおかしな夢だったんじゃないかって不安になった。
お母さんに説教されつつ、おネエさんには説得され、少しずつ自分の見たものが見間違いなんじゃないかって思い始める。わけがわからなくなりそう……。
「通う学校から早めに夏休みの宿題をもらってきたから、これをやって大人しくしてなさい」
「えぇ……」
なんて言うんだっけ? ヤブを突いて棒に当たるだっけ?
こうして、ボクはおかしなことを考えるヒマもないくらいの課題をやるハメになった。
「はぁ~」
まだほとんど進んでいない算数ドリルを前に、エンピツをミニテーブルへと投げ出しため息を一つ。息抜きだ。
「ゲームもないし、どうしようか。あ」
フと、昨晩のことで別のことを思い出した。ツカサに、外に出る手伝いをしてくれたのをちゃんとお礼しないと。それに、なんで手伝ってくれたのかとか、お化けについて何か知っているんじゃないかって思ったんだ。
ただ、どこの病室なのか聞いてなかったから一つずつ探すハメになる。
珍しい感じの名字だったから、個室の並ぶ側を見ていって見つけることができた。
「あ、ここだ。入院が長いのに個室なんて、お金持ちなのかな?」
どうでも良い疑問をはさみながら、ボクはドアをノックしてみた。
返事はない。
寝てるのかな?
「……失礼します」
申し訳なさ半分、ソッと扉を少しだけ開けて中の様子を伺う。室内と廊下にかけられたカーテンは開いていて、わずかに見えるベッドは平坦に思えた。
「居ない?」
一応、声を大きめにしつつ確認を取ると、骨折して不自由なのを考えてもゆっくり過ぎるくらいの速度で足を踏み入れていった。
やはりツカサは居なかった。
「せっかく来たのに。仕方ないなぁ」
空振りに終わったことを残念がって、ボクは引き返すか迷った。そこで、ベッド脇のテーブル――テレビが置かれている引き出し付きのやつ――が目に入る。
その上には、倒れた写真立てが置かれている。家族の写真だろうけど……。
「えっと、ちょっとくらい良いよね?」
ツカサのことを少し知れるチャンスだと思って、悪いとは考えつつも写真を覗きたくなった。
覗き込めるくらいだけ持ち上げて、隙間から覗き込んで見る。そんなタイミングで、閉め忘れていた扉に気づいたのか、室内の気配を敏感に察知したのか、
「ツカサちゃん?」
「!?」
かんご師のおネエさんが声をかけてきて、ボクは驚いて写真立てをパタッと手放した。その衝撃でカチャンと小さな乾いた音が聞こえ、ついでに留具が緩んだらしく中の写真が床へと舞い落ちた。
「って、ツカサちゃんじゃなかったか。ショウゴ君、遊びに来てくれたんだ。なのにごめんね、ツカサちゃんは今、たぶん検査中なの」
「そっかー。じゃぁ、また後でくるよ!」
ボクは、おネエさんの話なんて半分くらいしか聞いてなくて、こちらが見えていないうちに落ちた写真を拾い上げて背後に隠した。
「そう? ツカサちゃんにも伝えておくわ」
「うん! 勉強もまだ残ってるから!」
おネエさんの目を盗んで入院着のポケットにサッと写真をねじ込むと、できるだけ平静を保って部屋を出ていこうとした。
「?」
あの様子だと、少しくらいは怪しまれたようだけど、特に何を調べることもなくナースセンターへと戻っていく。それを見届けて、ボクはホッと一息。
さて、壊してしまった写真立てのことは……後で謝るとして、いったいどんな写真なのかな? 無事に自分の部屋に戻ってきたからチラッと。
「男の子と、ツカサかな?」
ツカサっぽい笑顔の少女と少し年上に見える男の子が写っていた。神社みたいな古めの見た目をした家の前でツーショットだ。うらやましい。
えっと、わりと前に撮られたっぽいね。
「ん~、考えてもしかたないか」
ちょっといろいろと知りたくなったけど、どうしようもないから宿題の方に目を向けた。ある程度は進めておかないとお母さんがうるさいからね。あぁ、ちゃんと写真は……うん、あやまるし返すよ。
「社会科ならちょっとは得意だし、カモフラー……カモフラーゲ?」
計算とかもしなくて良くて、教科書を読めばだいたいはわかるから勉強の方に手を付けた。
1から探す手間はあっても予想通り、一時間くらいで2ページも進んだ。面白いのは、社会科の宿題の冊子にはいろいろな小ネタがそこそこあることだ。
「人柱かぁ。こんな怖い文化があったんだ。あ、こっちのプリントは町おこしの話か」
先生が授業では教えてくれないようなことも知れてヒマも紛れた。けど、やっぱり勉強は眠たくなるや。
「ふぁぁ~……結構、寝ちゃったと思ったけど……」
もう10分もしないうちに大きなアクビをすることになった。朝ごはんを食べそこねるくらいには寝た。お陰でお昼はお腹ペコペコだったよ。
まぁ、後で思い返せばバカだよね。また夜に寝られなくなるなんてことも忘れて、眠りについつい誘われてしまう。
病室?
「ショウゴ! 良かったぁ……!」
ボクが目を開いて体を動かそうとすると、お母さんが少し泣きそうな顔で言った。
「まったく! 心配させて!」
続けてお説教だ。
「大人しくしてなさいって言ったのに、外に抜け出すなんて……!」
けど、ボクはそんなことより言わなきゃいけないことがあった。
「ご、ごめん。その、お化けがいたんだよ!」
「は? もう、あなたって子は!」
「浜辺で魚の顔をしたヤツらが何かやってたんだ……」
何度か伝えようとするも、さすがに信じてもらえなかった。余計に怒らせてしまった……。
するとお母さんの怒鳴り声を聞きつけたのか、かんご師のお姉さんがやってくる。
「ショウゴくん、目が覚めたみたいですか?」
「え。えぇ……。ただ、お化けが出たとかどうとか言い訳してて。ご迷わくをおかけして申し訳ありません」
「いえいえ、慌てはしましたけど、子供ですから仕方ないですよ。お化けというのも、土地も変わって慣れない環境のせいで見た悪い夢でしょう」
おネエさんも信じてくれず、本当にボクが見たおかしな夢だったんじゃないかって不安になった。
お母さんに説教されつつ、おネエさんには説得され、少しずつ自分の見たものが見間違いなんじゃないかって思い始める。わけがわからなくなりそう……。
「通う学校から早めに夏休みの宿題をもらってきたから、これをやって大人しくしてなさい」
「えぇ……」
なんて言うんだっけ? ヤブを突いて棒に当たるだっけ?
こうして、ボクはおかしなことを考えるヒマもないくらいの課題をやるハメになった。
「はぁ~」
まだほとんど進んでいない算数ドリルを前に、エンピツをミニテーブルへと投げ出しため息を一つ。息抜きだ。
「ゲームもないし、どうしようか。あ」
フと、昨晩のことで別のことを思い出した。ツカサに、外に出る手伝いをしてくれたのをちゃんとお礼しないと。それに、なんで手伝ってくれたのかとか、お化けについて何か知っているんじゃないかって思ったんだ。
ただ、どこの病室なのか聞いてなかったから一つずつ探すハメになる。
珍しい感じの名字だったから、個室の並ぶ側を見ていって見つけることができた。
「あ、ここだ。入院が長いのに個室なんて、お金持ちなのかな?」
どうでも良い疑問をはさみながら、ボクはドアをノックしてみた。
返事はない。
寝てるのかな?
「……失礼します」
申し訳なさ半分、ソッと扉を少しだけ開けて中の様子を伺う。室内と廊下にかけられたカーテンは開いていて、わずかに見えるベッドは平坦に思えた。
「居ない?」
一応、声を大きめにしつつ確認を取ると、骨折して不自由なのを考えてもゆっくり過ぎるくらいの速度で足を踏み入れていった。
やはりツカサは居なかった。
「せっかく来たのに。仕方ないなぁ」
空振りに終わったことを残念がって、ボクは引き返すか迷った。そこで、ベッド脇のテーブル――テレビが置かれている引き出し付きのやつ――が目に入る。
その上には、倒れた写真立てが置かれている。家族の写真だろうけど……。
「えっと、ちょっとくらい良いよね?」
ツカサのことを少し知れるチャンスだと思って、悪いとは考えつつも写真を覗きたくなった。
覗き込めるくらいだけ持ち上げて、隙間から覗き込んで見る。そんなタイミングで、閉め忘れていた扉に気づいたのか、室内の気配を敏感に察知したのか、
「ツカサちゃん?」
「!?」
かんご師のおネエさんが声をかけてきて、ボクは驚いて写真立てをパタッと手放した。その衝撃でカチャンと小さな乾いた音が聞こえ、ついでに留具が緩んだらしく中の写真が床へと舞い落ちた。
「って、ツカサちゃんじゃなかったか。ショウゴ君、遊びに来てくれたんだ。なのにごめんね、ツカサちゃんは今、たぶん検査中なの」
「そっかー。じゃぁ、また後でくるよ!」
ボクは、おネエさんの話なんて半分くらいしか聞いてなくて、こちらが見えていないうちに落ちた写真を拾い上げて背後に隠した。
「そう? ツカサちゃんにも伝えておくわ」
「うん! 勉強もまだ残ってるから!」
おネエさんの目を盗んで入院着のポケットにサッと写真をねじ込むと、できるだけ平静を保って部屋を出ていこうとした。
「?」
あの様子だと、少しくらいは怪しまれたようだけど、特に何を調べることもなくナースセンターへと戻っていく。それを見届けて、ボクはホッと一息。
さて、壊してしまった写真立てのことは……後で謝るとして、いったいどんな写真なのかな? 無事に自分の部屋に戻ってきたからチラッと。
「男の子と、ツカサかな?」
ツカサっぽい笑顔の少女と少し年上に見える男の子が写っていた。神社みたいな古めの見た目をした家の前でツーショットだ。うらやましい。
えっと、わりと前に撮られたっぽいね。
「ん~、考えてもしかたないか」
ちょっといろいろと知りたくなったけど、どうしようもないから宿題の方に目を向けた。ある程度は進めておかないとお母さんがうるさいからね。あぁ、ちゃんと写真は……うん、あやまるし返すよ。
「社会科ならちょっとは得意だし、カモフラー……カモフラーゲ?」
計算とかもしなくて良くて、教科書を読めばだいたいはわかるから勉強の方に手を付けた。
1から探す手間はあっても予想通り、一時間くらいで2ページも進んだ。面白いのは、社会科の宿題の冊子にはいろいろな小ネタがそこそこあることだ。
「人柱かぁ。こんな怖い文化があったんだ。あ、こっちのプリントは町おこしの話か」
先生が授業では教えてくれないようなことも知れてヒマも紛れた。けど、やっぱり勉強は眠たくなるや。
「ふぁぁ~……結構、寝ちゃったと思ったけど……」
もう10分もしないうちに大きなアクビをすることになった。朝ごはんを食べそこねるくらいには寝た。お陰でお昼はお腹ペコペコだったよ。
まぁ、後で思い返せばバカだよね。また夜に寝られなくなるなんてことも忘れて、眠りについつい誘われてしまう。
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