3 / 21
2話『スズ視点』・少ししか変わらない関係
しおりを挟む
さすがにベルちゃんのやり方は乱暴ですが、妖はこれぐらいではなんともありません。妖怪によりますが、人間よりも比較的強靭にできているのも特徴の一つでしょうか。見た目は人間に近かったりしますから、見た目以外で最たるものは『妖力』ですね。
「おぉぉ……未だにネコの玩具にでもなったような気分が続いてるぜ」
復活を果たしたリンリンちゃんは、体をコキコキとならしつつよくわからない感想を述べました。
「あぁ」
私は数秒ほど考えて、ネコがビニール袋で遊ぶことが多いのを思い出して手のひらを打ちました。袋を振ると空気が入ってふくらむのも、先程見たとおりです。
そうしている間にベルちゃんも離れていってしまうため、私とリンリンちゃんも走り出します。と言っても、早歩きにもなるかというぐらいの速度ですが。
「好調! こうちょー!」
肉体的には問題ないとばかりに、リンリンちゃんはバビューンなんて音がしそうな感じで走って行きました。私よりも早いです。
こうしてリンリンちゃんやベルちゃんのおかげで、私は元気で居られるんです。
「ふふっ」
「ん? どーした、スズ?」
「急がないと遅刻よ」
私が友達に感謝して笑みをこぼせば、2人とも目ざとく感づいて急かしてきます。なので私は首を横に振って、なんでもないと答えました。
それから20分ほど後、私達はチャイムが鳴るかどうかというギリギリで教室へと滑り込みました。
「ふひー、間に合ったぜー」
リンリンちゃんが私達の中で一番に扉をくぐり、自分の席がある最後尾の荷物用ロッカーへ向かったことでしょう。あの身長なので、ロッカーの上からでなければ黒板が見えないのです。
「西先生もギリギリになりそうね」
続いて教室に入ったベルちゃんが、室内を見渡してから少し残念そうに言いました。
昨日ぐらいから私のことらしいのですが、何やら話を先生とするようになったので、その件なのでしょうか? 話の主旨を教えてくれないので困ります。
先生の困った顔を見なくて済んだことに安堵して、私も教室最前列の席へと着きます。
程なくして、アズマ先生はいつものように凛とした表情で入室してきました。最後の最後までグループを作っていた人も妖も、波が引くように自分達の席へと収まります。
「出席を取る」
アズマ先生は着席まで持てますこともなく、教壇の立って一言だけ投げ放ちました。
これほど皆が大人しくなる教師は、アズマ先生と生活指導のウホーキン先生くらいではないでしょうか。大柄で力技なウホーキン先生とは反対に、アズマ先生はその理知的でクールな見た目に畏敬を感じる方が多いようです。
妖だって例外ではありません。
「12番篠山 恵太」
「へーい」
「13番――」
アズマ先生がクラスメイト達の名前を読み上げていきます。自分の名前が呼ばれたようなのですが、それに気づかず私は先生への評価を考えいました。
目つきが少し怖いこともあって誤解されがちですが、とても優しくて生徒思いの先生なんです。
「スズ――」
名前を呼ばれているのにも気づかず、私は先生の思いやりに触れた瞬間を思い出すにまで至ってしまいました。
あれは5月に入ったばかりのことです。
衣替えが行われた日の登校時、筋骨隆々なショウケラ妖怪のウホーキン先生が衣服の身だしなみチェックを行っていたのです。私は、体毛のことがあって長袖のままでしたので見咎められることになります。
「――だったなッ? なんで冬服のままなんだぁ?」
ウホーキン先生が、大きな顔をヌッと近づけて声を荒げました。
体育用ハーフパンツにシャツという出で立ちで青白く不健康そうな肌が露出し、見た目からして人ではないのはウホーキン先生も同じのはずなのですが。それでも、気にしていないのであれば私だけ目をつけられるわけです。
「あの、その……体毛が……」
爬虫類と獣を足して割ったような顔は、妖であっても威圧感がありました。別に必ず夏服にしなければならないという校則があるわけでもなく、ましてや乱れた服装ではないのでなんとか弁解しようとしました。
けれど、なぜかウホーキン先生は許してくださいません。
心を読めば適切な言葉も出てくるのでしょうけど、嫌なので頭を下げてなんとかがんばります。
「体毛だぁッ? その程度もさらけ出せなくて、何が妖だッ?」
誇り高い妖が人間と同じ格好をして、姿を隠しているというのが気に入らないようです。いえ、何をしても気に入らないことを指摘してきたはずです。
私が折れなければならないのか、どうしようもなくって顔を伏せ続けます。
そんな中、助け舟を出してくれる人がいました。
「ウホーキン先生、程度の自由な部分は見逃さないと。皆に規範を示す時間がなくなってしまいます」
それこそがアズマ先生でした。私を助けてくれたわけではないのでしょうけど、年上や妖への敬意を忘れず場を丸く収めました。
以後も、私が冬服のままであることを見逃してくれたのでした。
「おぉぉ……未だにネコの玩具にでもなったような気分が続いてるぜ」
復活を果たしたリンリンちゃんは、体をコキコキとならしつつよくわからない感想を述べました。
「あぁ」
私は数秒ほど考えて、ネコがビニール袋で遊ぶことが多いのを思い出して手のひらを打ちました。袋を振ると空気が入ってふくらむのも、先程見たとおりです。
そうしている間にベルちゃんも離れていってしまうため、私とリンリンちゃんも走り出します。と言っても、早歩きにもなるかというぐらいの速度ですが。
「好調! こうちょー!」
肉体的には問題ないとばかりに、リンリンちゃんはバビューンなんて音がしそうな感じで走って行きました。私よりも早いです。
こうしてリンリンちゃんやベルちゃんのおかげで、私は元気で居られるんです。
「ふふっ」
「ん? どーした、スズ?」
「急がないと遅刻よ」
私が友達に感謝して笑みをこぼせば、2人とも目ざとく感づいて急かしてきます。なので私は首を横に振って、なんでもないと答えました。
それから20分ほど後、私達はチャイムが鳴るかどうかというギリギリで教室へと滑り込みました。
「ふひー、間に合ったぜー」
リンリンちゃんが私達の中で一番に扉をくぐり、自分の席がある最後尾の荷物用ロッカーへ向かったことでしょう。あの身長なので、ロッカーの上からでなければ黒板が見えないのです。
「西先生もギリギリになりそうね」
続いて教室に入ったベルちゃんが、室内を見渡してから少し残念そうに言いました。
昨日ぐらいから私のことらしいのですが、何やら話を先生とするようになったので、その件なのでしょうか? 話の主旨を教えてくれないので困ります。
先生の困った顔を見なくて済んだことに安堵して、私も教室最前列の席へと着きます。
程なくして、アズマ先生はいつものように凛とした表情で入室してきました。最後の最後までグループを作っていた人も妖も、波が引くように自分達の席へと収まります。
「出席を取る」
アズマ先生は着席まで持てますこともなく、教壇の立って一言だけ投げ放ちました。
これほど皆が大人しくなる教師は、アズマ先生と生活指導のウホーキン先生くらいではないでしょうか。大柄で力技なウホーキン先生とは反対に、アズマ先生はその理知的でクールな見た目に畏敬を感じる方が多いようです。
妖だって例外ではありません。
「12番篠山 恵太」
「へーい」
「13番――」
アズマ先生がクラスメイト達の名前を読み上げていきます。自分の名前が呼ばれたようなのですが、それに気づかず私は先生への評価を考えいました。
目つきが少し怖いこともあって誤解されがちですが、とても優しくて生徒思いの先生なんです。
「スズ――」
名前を呼ばれているのにも気づかず、私は先生の思いやりに触れた瞬間を思い出すにまで至ってしまいました。
あれは5月に入ったばかりのことです。
衣替えが行われた日の登校時、筋骨隆々なショウケラ妖怪のウホーキン先生が衣服の身だしなみチェックを行っていたのです。私は、体毛のことがあって長袖のままでしたので見咎められることになります。
「――だったなッ? なんで冬服のままなんだぁ?」
ウホーキン先生が、大きな顔をヌッと近づけて声を荒げました。
体育用ハーフパンツにシャツという出で立ちで青白く不健康そうな肌が露出し、見た目からして人ではないのはウホーキン先生も同じのはずなのですが。それでも、気にしていないのであれば私だけ目をつけられるわけです。
「あの、その……体毛が……」
爬虫類と獣を足して割ったような顔は、妖であっても威圧感がありました。別に必ず夏服にしなければならないという校則があるわけでもなく、ましてや乱れた服装ではないのでなんとか弁解しようとしました。
けれど、なぜかウホーキン先生は許してくださいません。
心を読めば適切な言葉も出てくるのでしょうけど、嫌なので頭を下げてなんとかがんばります。
「体毛だぁッ? その程度もさらけ出せなくて、何が妖だッ?」
誇り高い妖が人間と同じ格好をして、姿を隠しているというのが気に入らないようです。いえ、何をしても気に入らないことを指摘してきたはずです。
私が折れなければならないのか、どうしようもなくって顔を伏せ続けます。
そんな中、助け舟を出してくれる人がいました。
「ウホーキン先生、程度の自由な部分は見逃さないと。皆に規範を示す時間がなくなってしまいます」
それこそがアズマ先生でした。私を助けてくれたわけではないのでしょうけど、年上や妖への敬意を忘れず場を丸く収めました。
以後も、私が冬服のままであることを見逃してくれたのでした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
あやかし蔵の管理人
朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。
親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。
居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。
人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。
ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。
蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。
2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました!
※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』
郁嵐(いくらん)
キャラ文芸
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
【ストーリーあらすじ】
■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■
■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■
室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。
ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、
鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。
時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。
一座とともに都に渡った鬼夜叉は、
そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。
一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。
これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、
そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。
【その他、作品】
浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので
興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ)
■あらすじ動画(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
■あらすじ動画(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。
音喜多子平
キャラ文芸
【第六回キャラ文芸大賞 奨励賞】
人の世とは異なる妖怪の世界で生まれた猫又・鍋島環は、幼い頃に家庭の事情で人間の世界へと送られてきていた。
それから十余年。心優しい主人に拾われ、平穏無事な飼い猫ライフを送っていた環であったが突然、本家がある異世界「天獄屋(てんごくや)」に呼び戻されることになる。
主人との別れを惜しみつつ、環はしぶしぶ実家へと里帰りをする...しかし、待ち受けていたのは今までの暮らしが極楽に思えるほどの怒涛の日々であった。
本家の勝手な指図に翻弄されるまま、まともな記憶さえたどたどしい異世界で丁稚奉公をさせられる羽目に…その上ひょんなことから錬金術師に拾われ、錬金術の手習いまですることになってしまう。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる