20 / 31
レイド・ダンジョン編
2-5
しおりを挟む
なんとか港から客船へと乗り込んだ。各国の船がずらりと並ぶのは壮観で、ドックの中には軍艦もあると見ていいわね。観光船も面白そう。
港町という目新しさに、ここまで来ても目移りしてしまう。
「お兄さん、遅かったようだけど何かあったの?」
「いや、少し道に迷っていただけだ」
船尾から水平線に向いていた視線をマストの方へとやれば、兄弟で話していた。2人の目がこちらを見た気がするけど、気のせいよ気のせい。
当然、問題はそれ以上起きずに目的の場所へとたどり着いた。
それは王国のある大陸から南下した海に並ぶ各島々、これがプリキュバー諸島共和国である。
「おー、あれが噂の力場ですか。ホント、一列に囲う感じになってますね」
指定の船着き場へと回り込む間に、私は遠目に見えるダンジョンを見て感想を述べた。
ほんのりと黄色っぽく光っているのが見えるだけなので、それ以上のものは出てこない。
ダンジョンって感じではないかもしれないけど、一応は限定された範囲を攻略するという意味ではそれに当たる。大自然の要害に阻まれた島国は、天然のダンジョンと言って差し支えはない。
「"ジャンゴド密林"から"キラヴェア山"に向けてか。あまりプレイヤーも踏み入らない場所だな」
「そうそう。遠い割に時給が安いので狩場に適さないんですよね。広いというのも原因ですか」
一時間あたり獲得経験点が低いので、結構皆してウンウンって頷いてくれた。
「そろそろおしゃべりは終わりだね。共和国と王国で依頼を受けたメンバーも来てるし、降りたら直ぐに進入するよ」
駄弁っていたらセルシュさんから声が掛かった。
船着き場の浜を見やれば、いくつもの船とプレイヤーの姿が見える。なんとなく見覚えのある顔もあるので、多分彼らのことだろう。
あ、ほとんど会話ぐらいでお付き合いもないから紹介はできないわ。
下船の準備をしている間に舟寄せが終わり、桟橋に降り立ったかと思えば直ぐに渡りきった先の砂浜へと足を踏み入れる。熱々の砂をブーツ越しに感じ、これが海水浴とかバカンスならどれほど良かっただろうなんて思ったわ。
その考えは、ワイワイとハイキング気分で密林へと入ったところで実感として湧き上がることとなった。
「……5本足以上は生物じゃない」
そうボソッと呟いた辺りで、私の意識は飛びかけていたわ。なぜなら、この森は至るところに奴らがいたのだから……ガッデム!
というか、森に入って少ししたところから記憶がないから思考回路ショートしてたんでしょうね。だから、約三十分後に皆から聞いた話を総合したものになるのであしからず。
「【賦活陣形】! チームSは突破しろ!」
続々と虫、蟲、インセクトの襲撃が開始され、グレイザさんの太刀を振り正面に構えると戦闘スキルを展開した。
将軍神官の指揮は、陣形によってステータスを平均化してさらに一定割合の強化を施せる。ある程度のレベルになると、さらに対象を任意に選択できるのだとか。
要は、今はモンスターの群れを突破しなければならないセルシュさんのチームに限定して指揮しているわけ。
「【格闘自砲】!」
その『ホワイト・デューク』は白い手甲を、襲いくる巨大な蛾に叩き込んだ。放出される戦闘スキルは、格闘と同時に自動的に銃撃を行うもの。ただただ拳や脚甲での蹴りを繰り出しているだけで、打撃と射撃で殲滅していけるのだから強い。
一匹倒せばまた一匹湧き、鎌首をもたげて立ちはだかった巨大百足が素早くも正確な鋭い噛みつきを繰り出す。
セルシュさんは無駄だと言わんばかりに避けることなく、キックの2連撃をもって迎え撃つ。
「ハァッ!」
脚甲に仕込まれた爆薬が分厚い頭部と、外殻を打ち抜きそして砕いて地面に沈めた。
もはや、戦車が敵兵を蹂躙していく勢いでモンスターの壁に穴を開けて突き進んでいく。
どうやら探し人を連れて行く必要があり、そのため広いジャングルを探索しなければならなくなったらしい。そこで、12人ずつに別れて進むことにした。
「引きつけつつ第2ルートへ後退! 【釣逃】! 【防御陣形】!」
セルシュさんのチームが予定のルートに入ったところで、グレイザさんの指示で敵を引き寄せるように後退を開始した。
バラバラのように見せて挑発し、防御に特化した並びでダメージを受けながらも別の道へと誘導する。
当然、意識がほとんどなくて動きの遅れた私が敵に狙われるのはありえること。
「メリー! クッ!」
グレイザさんが走った。
珍しく名前を呼んだとか、そういうのは周囲の人達による単なる気のせいだと思う。
そんな事よりも、人間大になったゴキ……漆黒の地球外生命体だなんて見たくない! いくら某ネバーランドな海賊っぽいマスコットにデフォルメ化していてもトラウマになるわよ?
きっと、咄嗟のことで動けないと思ってくれたんだろうけどね。
「【雷走】!」
光の速さというのは過言ながら、高速で疾走して私とモンスターの間に割り込んだ。身体強化の戦闘スキルの一つで、珍しくもないけれどグレイザさんが使えば意味は違ってくる。
港町という目新しさに、ここまで来ても目移りしてしまう。
「お兄さん、遅かったようだけど何かあったの?」
「いや、少し道に迷っていただけだ」
船尾から水平線に向いていた視線をマストの方へとやれば、兄弟で話していた。2人の目がこちらを見た気がするけど、気のせいよ気のせい。
当然、問題はそれ以上起きずに目的の場所へとたどり着いた。
それは王国のある大陸から南下した海に並ぶ各島々、これがプリキュバー諸島共和国である。
「おー、あれが噂の力場ですか。ホント、一列に囲う感じになってますね」
指定の船着き場へと回り込む間に、私は遠目に見えるダンジョンを見て感想を述べた。
ほんのりと黄色っぽく光っているのが見えるだけなので、それ以上のものは出てこない。
ダンジョンって感じではないかもしれないけど、一応は限定された範囲を攻略するという意味ではそれに当たる。大自然の要害に阻まれた島国は、天然のダンジョンと言って差し支えはない。
「"ジャンゴド密林"から"キラヴェア山"に向けてか。あまりプレイヤーも踏み入らない場所だな」
「そうそう。遠い割に時給が安いので狩場に適さないんですよね。広いというのも原因ですか」
一時間あたり獲得経験点が低いので、結構皆してウンウンって頷いてくれた。
「そろそろおしゃべりは終わりだね。共和国と王国で依頼を受けたメンバーも来てるし、降りたら直ぐに進入するよ」
駄弁っていたらセルシュさんから声が掛かった。
船着き場の浜を見やれば、いくつもの船とプレイヤーの姿が見える。なんとなく見覚えのある顔もあるので、多分彼らのことだろう。
あ、ほとんど会話ぐらいでお付き合いもないから紹介はできないわ。
下船の準備をしている間に舟寄せが終わり、桟橋に降り立ったかと思えば直ぐに渡りきった先の砂浜へと足を踏み入れる。熱々の砂をブーツ越しに感じ、これが海水浴とかバカンスならどれほど良かっただろうなんて思ったわ。
その考えは、ワイワイとハイキング気分で密林へと入ったところで実感として湧き上がることとなった。
「……5本足以上は生物じゃない」
そうボソッと呟いた辺りで、私の意識は飛びかけていたわ。なぜなら、この森は至るところに奴らがいたのだから……ガッデム!
というか、森に入って少ししたところから記憶がないから思考回路ショートしてたんでしょうね。だから、約三十分後に皆から聞いた話を総合したものになるのであしからず。
「【賦活陣形】! チームSは突破しろ!」
続々と虫、蟲、インセクトの襲撃が開始され、グレイザさんの太刀を振り正面に構えると戦闘スキルを展開した。
将軍神官の指揮は、陣形によってステータスを平均化してさらに一定割合の強化を施せる。ある程度のレベルになると、さらに対象を任意に選択できるのだとか。
要は、今はモンスターの群れを突破しなければならないセルシュさんのチームに限定して指揮しているわけ。
「【格闘自砲】!」
その『ホワイト・デューク』は白い手甲を、襲いくる巨大な蛾に叩き込んだ。放出される戦闘スキルは、格闘と同時に自動的に銃撃を行うもの。ただただ拳や脚甲での蹴りを繰り出しているだけで、打撃と射撃で殲滅していけるのだから強い。
一匹倒せばまた一匹湧き、鎌首をもたげて立ちはだかった巨大百足が素早くも正確な鋭い噛みつきを繰り出す。
セルシュさんは無駄だと言わんばかりに避けることなく、キックの2連撃をもって迎え撃つ。
「ハァッ!」
脚甲に仕込まれた爆薬が分厚い頭部と、外殻を打ち抜きそして砕いて地面に沈めた。
もはや、戦車が敵兵を蹂躙していく勢いでモンスターの壁に穴を開けて突き進んでいく。
どうやら探し人を連れて行く必要があり、そのため広いジャングルを探索しなければならなくなったらしい。そこで、12人ずつに別れて進むことにした。
「引きつけつつ第2ルートへ後退! 【釣逃】! 【防御陣形】!」
セルシュさんのチームが予定のルートに入ったところで、グレイザさんの指示で敵を引き寄せるように後退を開始した。
バラバラのように見せて挑発し、防御に特化した並びでダメージを受けながらも別の道へと誘導する。
当然、意識がほとんどなくて動きの遅れた私が敵に狙われるのはありえること。
「メリー! クッ!」
グレイザさんが走った。
珍しく名前を呼んだとか、そういうのは周囲の人達による単なる気のせいだと思う。
そんな事よりも、人間大になったゴキ……漆黒の地球外生命体だなんて見たくない! いくら某ネバーランドな海賊っぽいマスコットにデフォルメ化していてもトラウマになるわよ?
きっと、咄嗟のことで動けないと思ってくれたんだろうけどね。
「【雷走】!」
光の速さというのは過言ながら、高速で疾走して私とモンスターの間に割り込んだ。身体強化の戦闘スキルの一つで、珍しくもないけれどグレイザさんが使えば意味は違ってくる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる