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初心者イベント編
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『AGI1 DEF42 DEX1 MR255 INT255 VIT45 STR1 HP520 MP999』
画面には255という数字が輝いているINTとMRを除いては、"DEF"と"VIT"が40ほどあるくらいで1が並ぶ。防御重視の装備にしても150レベルぐらい推奨の狩場――モンスターと戦える場所――にしか入れない、悲惨な状態なので目を逸らす。
チャチャッと操作した後、スフィアの内側に表示された終了を押し込んで球を散らす。
「IDはA114514」
気を取り直して、プレイキャラクターのIDをこっそり伝えた。
「あぁ、ミス・メリー。どうぞ、お入りください」
それで支配人代行は私を『ソウル・カンパニー』のクランメンバーだと認識して、鍵を懐から取り出し扉を開けてくれた。
「ありがとう」
お礼を言って入室した。
扉が閉じた後、私は軽い自嘲を浮かべて独り言を言う。
「きっと、こんなに律儀にNPCに返答するの、私ぐらいよね」
未だに、NPCがゲームプログラムに作られた魂のない存在だと思えないのよ。
この作業場内にいる、大半のNPCだってプレイヤーと見分けがほとんどつかないもの。ちなみに、アイテム屋のお婆ちゃんとか支配人代行のお爺ちゃんも、あれだけ普通に会話しておいてNPCだったりする。
「クランのサブマスター・セルシュの代わりで手伝いに来ました」
感心するのも大概にして、適当に声を上げ目的を告げた。
鉄扉の向こうに届いてくれ、のぞき窓から人の顔が覗く。
「はーい。了解しました」
女の子らしき声で返事がある
「お願いします」
私はマントの裾を持ち上げ、ドレススタイルのシンプルなワンピースを見せておかしなものを持ち込んでいないことを訴えた。本来装着している武器はID確認の際、作業場へ持ち込めないのでインベントリにしまっておいた。
一周回って、更には太ももが見えるぐらいまでスカート部を上げ、どこにも隠していないこともちゃんと伝える。
「オッケーです。どうぞお入りください」
女性よりかは若い人物の確認が終わると、中からハンドルがグルグルと回ってドアが開いた。
「ありがとうございます」
お礼をちゃんと言ったのは、姿を見せた少女がNPCかプレイヤーかはっきりしないからよ。ポケットなどのないオーバーオールを着けた単純な出で立ちだけど、まぁここの作業着ね。
「いえいえ。仕事はこちらでお金をカバンに入れて」
「施錠の後、輸送隊に渡すんですよね」
「その通りでございます」
私が少女の言葉を勝手に継ぐと、彼女はにこやかに応じてくれた。良くご存知ですね、と言いたげな表情な気がした。
こちらの作業を手伝ったこともあるのだけれど、昔に警備会社で働いていたと言ったでしょ。そのとき、応援として警備輸送の準備作業を手伝ったことがあるの。
「さほどせず輸送隊が参りますので、必要分が整い次第運び出してくださいな」
「あぁ、セルシュさんがもっと早くに来るつもりだったのだものね」
少女はそう言うと、私も遅れている事情を察して作業場に並ぶ机へと近づいた。仕事を開始した。
「こちら確認をお願いします」
隣の少女と瓜二つの顔が、こちらを向いて手にしたカバンを見せてきた。
ボストンバックタイプで、チャックの輪っかになった部分に南京錠、カバン自体も施錠できるようになっている。ちゃんと、錠がはまっていることを確認するのである。
「うん、よし」
どこぞのネコのマスコットよろしく、指差しで無意識でないことを示した。
運び出す前に、私が魔法スキルで【暗号施錠】しないといけないのは手間だけれど、これはこれで仕方ないわ。
その後も、私もバッグへ数えたお金――これまた数に間違いないか二重、三重のチェックをして――しまい鍵を閉める。そんな作業をいくらか繰り返す。
今日はこの単純作業ばかりだけれど、強奪を阻止するために宝箱にトラップを仕掛ける仕事だとかもあるわ。
失敗するといちいち南京錠を解錠するための鍵を金庫から取り出さないといけないとか、本当の仕事であればもっと面倒よ。まぁ、そのあたりはまたいずれ話すとしましょう。
「輸送隊の馬車が到着するようでーす!」
作業工程を終えるころ、鉄扉を突き抜けてくる声がタイムリミットを知らせた。
NPCの少女達の目配せで、私はカバン詰めを止めて運び出す方へと移る。
台車に用意された山盛りのカバンと数個の宝箱。これね。
出入り口へ近づき、入ったときと同様にマントなどを捲って見せる。持ち込ませないのとは逆に、お金などを勝手に持ち出していないかの確認ね。
「よしです。では、お願いしまーす」「どうかご無事で」「きをつけて~」
「任せてください」
少女達の言葉に答え、見送られて出ていった。
台車を押して大扉も開けば、輸送隊の面々が待っている。本当ならここで引き渡して終了なのだけど、輸送隊と兼任なので一緒に運ぶことになる。
「あれ? 今日も貴方達ですか?」
見れば、なんと昨日の面々が揃っていた。
普段は入れ替わり立ち代わりなのだけれど、偶然にも3人とも時間が合ってしまったのね。
「どーもです」
「いやぁ、昨日ぶりだな」
「なんだか、メリーさんと相性が良いってことにされたみたいね」
フランクに挨拶を交わして来た。銃手の言葉で、なんとなくグレイザさんの意図を理解した。
私に、将来有望なクランメンバーとなる彼らを育成しろというわけね。
画面には255という数字が輝いているINTとMRを除いては、"DEF"と"VIT"が40ほどあるくらいで1が並ぶ。防御重視の装備にしても150レベルぐらい推奨の狩場――モンスターと戦える場所――にしか入れない、悲惨な状態なので目を逸らす。
チャチャッと操作した後、スフィアの内側に表示された終了を押し込んで球を散らす。
「IDはA114514」
気を取り直して、プレイキャラクターのIDをこっそり伝えた。
「あぁ、ミス・メリー。どうぞ、お入りください」
それで支配人代行は私を『ソウル・カンパニー』のクランメンバーだと認識して、鍵を懐から取り出し扉を開けてくれた。
「ありがとう」
お礼を言って入室した。
扉が閉じた後、私は軽い自嘲を浮かべて独り言を言う。
「きっと、こんなに律儀にNPCに返答するの、私ぐらいよね」
未だに、NPCがゲームプログラムに作られた魂のない存在だと思えないのよ。
この作業場内にいる、大半のNPCだってプレイヤーと見分けがほとんどつかないもの。ちなみに、アイテム屋のお婆ちゃんとか支配人代行のお爺ちゃんも、あれだけ普通に会話しておいてNPCだったりする。
「クランのサブマスター・セルシュの代わりで手伝いに来ました」
感心するのも大概にして、適当に声を上げ目的を告げた。
鉄扉の向こうに届いてくれ、のぞき窓から人の顔が覗く。
「はーい。了解しました」
女の子らしき声で返事がある
「お願いします」
私はマントの裾を持ち上げ、ドレススタイルのシンプルなワンピースを見せておかしなものを持ち込んでいないことを訴えた。本来装着している武器はID確認の際、作業場へ持ち込めないのでインベントリにしまっておいた。
一周回って、更には太ももが見えるぐらいまでスカート部を上げ、どこにも隠していないこともちゃんと伝える。
「オッケーです。どうぞお入りください」
女性よりかは若い人物の確認が終わると、中からハンドルがグルグルと回ってドアが開いた。
「ありがとうございます」
お礼をちゃんと言ったのは、姿を見せた少女がNPCかプレイヤーかはっきりしないからよ。ポケットなどのないオーバーオールを着けた単純な出で立ちだけど、まぁここの作業着ね。
「いえいえ。仕事はこちらでお金をカバンに入れて」
「施錠の後、輸送隊に渡すんですよね」
「その通りでございます」
私が少女の言葉を勝手に継ぐと、彼女はにこやかに応じてくれた。良くご存知ですね、と言いたげな表情な気がした。
こちらの作業を手伝ったこともあるのだけれど、昔に警備会社で働いていたと言ったでしょ。そのとき、応援として警備輸送の準備作業を手伝ったことがあるの。
「さほどせず輸送隊が参りますので、必要分が整い次第運び出してくださいな」
「あぁ、セルシュさんがもっと早くに来るつもりだったのだものね」
少女はそう言うと、私も遅れている事情を察して作業場に並ぶ机へと近づいた。仕事を開始した。
「こちら確認をお願いします」
隣の少女と瓜二つの顔が、こちらを向いて手にしたカバンを見せてきた。
ボストンバックタイプで、チャックの輪っかになった部分に南京錠、カバン自体も施錠できるようになっている。ちゃんと、錠がはまっていることを確認するのである。
「うん、よし」
どこぞのネコのマスコットよろしく、指差しで無意識でないことを示した。
運び出す前に、私が魔法スキルで【暗号施錠】しないといけないのは手間だけれど、これはこれで仕方ないわ。
その後も、私もバッグへ数えたお金――これまた数に間違いないか二重、三重のチェックをして――しまい鍵を閉める。そんな作業をいくらか繰り返す。
今日はこの単純作業ばかりだけれど、強奪を阻止するために宝箱にトラップを仕掛ける仕事だとかもあるわ。
失敗するといちいち南京錠を解錠するための鍵を金庫から取り出さないといけないとか、本当の仕事であればもっと面倒よ。まぁ、そのあたりはまたいずれ話すとしましょう。
「輸送隊の馬車が到着するようでーす!」
作業工程を終えるころ、鉄扉を突き抜けてくる声がタイムリミットを知らせた。
NPCの少女達の目配せで、私はカバン詰めを止めて運び出す方へと移る。
台車に用意された山盛りのカバンと数個の宝箱。これね。
出入り口へ近づき、入ったときと同様にマントなどを捲って見せる。持ち込ませないのとは逆に、お金などを勝手に持ち出していないかの確認ね。
「よしです。では、お願いしまーす」「どうかご無事で」「きをつけて~」
「任せてください」
少女達の言葉に答え、見送られて出ていった。
台車を押して大扉も開けば、輸送隊の面々が待っている。本当ならここで引き渡して終了なのだけど、輸送隊と兼任なので一緒に運ぶことになる。
「あれ? 今日も貴方達ですか?」
見れば、なんと昨日の面々が揃っていた。
普段は入れ替わり立ち代わりなのだけれど、偶然にも3人とも時間が合ってしまったのね。
「どーもです」
「いやぁ、昨日ぶりだな」
「なんだか、メリーさんと相性が良いってことにされたみたいね」
フランクに挨拶を交わして来た。銃手の言葉で、なんとなくグレイザさんの意図を理解した。
私に、将来有望なクランメンバーとなる彼らを育成しろというわけね。
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