監獄の穴と蜜愛の迷宮

不来方しい

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第一章 小説家と担当者

011 愛情のぶつかり合い

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 覚悟を決めた人間は強い。香苗も例外ではなく、今ならどら焼き二十個食べられそうな気がする、と真顔で呟く。狂気に満ちた顔をしていた。胸焼けで殺されそう。
 香苗は数日間、都会を堪能して帰るのだそう。彼女とはここでお別れだ。あの事件が終わって二度と会えないと思っていたのに、血の繋がりか運命か。分からないものだ。
 母は手土産にとケーキを買って渡してくれた。会社の社長という肩書きを持つ人で、土産を見る目はある。絶対に美味しいケーキだ。
「アンタの恋人に会いたいけど、こっちも仕事なんだよ」
「今度はゆっくり来たらいいよ。千夏も紹介する。俺がさ、男性が好きだって言ったとき、嫌な思いはしなかった?」
「カミングアウトされたときは驚いたけどね。私が持ってない世界だし。少数派の生き方はしんどくなるときもあると思うよ。誰にも幸せになれる権利があるんだから、がんばりな」
 胸がぎゅっと締めつけられた。大きなハグをし、母から離れていく。別れ際の言葉は「じゃ」。涙が一瞬で引っ込んだ。これくらいあっさりした別れは、後腐れがなくていい。
 けれど、やっぱり寂しくて。母が恋しいなんて口にはできないけれど、とても甘えたい気分だ。
 俺が甘えられる相手はひとりしかいなくて、実は本気で甘えたことがなかったりする。甘えたり甘え合ったり、それが千夏は苦手みたいだ。
 ちょっとでも性的な雰囲気になると、彼は逃げる。いまだにセックスしていない。欲のためにしたいというより、愛を伝えたい。若いときと違い、俺は悟りを開いた。
 家に戻ると、千夏はケーキの箱を見るなり目を輝かせる。高速で動き、見ていて面白い。
「あれ? 僕よりケーキ? さみしー」
「ふふ……おかえりなさい」
 ケーキが潰れないよう配慮し、ハグしてくれる。研ぎ澄まされた神経はケーキへ向いている。俺よりケーキ。ケーキが憎い。食べるけれど。
「なんか……おっきいね」
「……本当に?」
「なんで照れるのさ」
「いやいや、さあ、食べようか」
 砂糖なしのコーヒーをお供に、フルーツがでかでかと乗ったタルトを出した。ワンカット千円近くする高級ケーキ。値段と味は比例するわけではないが、これは値段以上の味だ。
「母さんに会って来てさ、」
「なんで家に連れてこなかったの?」
「急に会うことになったんだって。仕事で忙しいみたいだし」
 ぜひ会わせたいが、あの親だと可愛い千夏がもみくちゃにされないか心配になる。昭和の親父をイメージするような人だ。
「今度一緒に、ケーキのお礼もしたいな」
「嬉しいねえ」
「クリスのお母さんって何が好きなの?」
「げんなま」
「ぶっ」
「自由のきかない世界にいたからね。自分でお金を稼いで、好きなお酒に変えられるのが嬉しいみたいで」
 美味しいタルトに会話が弾む。千夏はげんなま光線にやられたようで、さっきからフォークがずっと震えている。
 二杯目のコーヒーを入れて、今度はしんみりと話をした。親のこと、テレビで流れる時間のこと。……中学時代のこと。
 ときどき尻すぼみになりながら話すのは、専ら学生だった頃の話だ。このときばかりは笑顔がなくなり、彼の性格や内面に強く影響を与えた日々だったに違いない。
「クリスは、中学時代は何が楽しかった?」
「千夏が隣の席になったときかな。ドキドキして眠れなかったよ!」
「よく授業中に昼寝してたよね……懐かしいな」
「今は隣で寝てるけどね」
 ほら、まただ。
 匂わせると、千夏は萎縮する。分かりやすいほどに目を逸らす。
「千夏はさ、俺とセックスするのが怖い?」
「恥ずかしい。それに……」
 いやなわけではないらしい。
「男の身体だし、幻滅されないかなあって……」
「一緒にお風呂に入ったじゃん。隅から隅まで見たよ? 背中のほくろだって知ってる」
「うそ? ほんとに?」
「ここ」
 左の肩甲骨の辺りに触れる。くすぐったいのか、肩が上がった。
 顔を近づけると、千夏は目を瞑って顔を上げる。
 キスは嫌ではないらしい。
 背中に手を回すと、千夏も同じく俺の背中に触れる。
「ベッドいこ?」
 誘い方があからさますぎたが、千夏は小さく頷いた。
 プライベートルームに近づくたびに、千夏はまた肩を上げる。緊張の表れだ。
 ベッドに乗り、まずは俺から脱いだ。いきなり脱がせるのは相手に緊張を与えてしまう。
 脱がせるつもりだったのに千夏はいそいそと脱ぎ始めた。楽しみがひとつ減ってしまったが、白い肌は艶めかしいのでよしとしよう。
 外では犬が遠吠えを上げている。あのときのように、俺たちに進展があるたびに、生き物が声を上げる。千夏は聞こえていないのか、外を見向きもしなかった。
「痛い?」
「ううん……平気」
 胸に触れると、千夏は官能の混じった息を吐く。
 優しく、壊れものを扱うかのように、一つ一つ肌を撫でる。
「くすぐったい」
 かすれた声が耳に届くと、じんわり一箇所が熱く、重くなる。
 下着も脱がせると、頭をもたげていた。
 千夏の胸が上下に揺れ、大きく膨らんだのを合図に口にくわえた。
 美味しいはずがないのに、千夏のものは甘く感じた。
 くびれを唇で挟み、小刻みに揺らすと高い声が部屋に響く。
 千夏は快感を逃そうと、濃艶に身体をくねらせる。
「んっ……ああ……もう……」
 口の中に甘味が広がる。ねっとりとしていて、とても濃い。
 全部飲み込むと、千夏は何か言いたそうにこちらを見ている。
「お尻向けて」
 真っ白で形がとても美しかった。いやらしさというより、美術館に飾っておきたい美の象徴。
 指を引っかけて押し開くと、美しさとは無縁の卑猥な小穴が現れた。ピンクに近い赤で、ひくつかせて誘っている。
「ひっ……ちょっと……ああっ……ん」
 口の中に残った白い液体と唾液が混じり、塗りたくるように舌でこじ開ける。
 前ではぼたぼたと液体を垂れ流していて、千夏のものを掴むときゅうっと穴が縮こまる。
「う、ああ……いい……っ」
「気持ちいい?」
「すごく……そこ……っ……」
「指入れてみようか」
 返事の代わりに、穴がひくんと動いた。
 思っていたよりすんなりと入る。回転させながら根元まで入れると、数回抜き差しを繰り返した。
「もしかして……馴らした?」
 穴がすぼめり、指を締めつけた。口よりも身体が正直だ。
 前も一緒に擦ると、甲高い声が上がる。夢に見た以上に官能的で卑猥だ。それに下半身を熱くさせる。
 もういい、と掠れた声が上がり、一気に下着ごとずり下げた。
「そんな顔しないでよ」
「だって、おっきい。無理だよ」
「大丈夫。いける。痛かったらすぐ止めるから」
 赤黒い勃起したものをあてがい、大きく息を吐いた。
 桃色の萎んだ穴にのめり込むと、少しずつうめていく。
「あと少し……」
「う、うう……ん…………」
 睾丸が柔らかな臀部に当たり、熱い息が漏れた。
「すごくいいよ……中がうねって離さない。ああ、すぐにいってしまいそうだ」
「中にほしい……」
「最高の殺し文句だね」
 短く息を吐きながら、蠢く通い路を行き来する。
 全身に雷が落ちたように、衝撃的だった。
 確実に身体の相性は存在する。中も目に焼き付く裸体も、すべてが熱を放出させる。
 太股を掴み、最奥に腰を進めると、一気に熱を吐き出した。
 ベッドには、千夏の出したものがぼたぼたと垂れる。
 相性を確かめる術はあり、これが千夏の答えだった。
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