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第3章 新しい職場
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ユミルはあれから、毎晩の杖のメンテナンスにフクを連れて行った。
フクにはこっそりと事情を教えておいたので、フクはレインに愛想よく振る舞っている。
連れて行った初日に、フクを膝の上に乗せてあげたら、レインがわかりやすく目を輝かせたので、ユミルは思わず笑ってしまい、レインに睨まれてしまった。
フクはと言えば、すっかりレインを掌で転がしている。
フクがレインに対して、それとなく、いついつに出てきたおやつが美味しかった、などと伝えると、翌日には再びそのおやつがフクの元に届く。
(ケットシーに対してチョロすぎやしません?悪い女にも意外と簡単にひっかかりそう。)
などと、ユミルは不敬なことを思っている。
ちなみに、先日の怪我の件は執事のバロンも気づいていたようで、後日ユミルに感謝の言葉を伝えに来た。バロンも何度か治療を勧めていたようだが、聞き入れてもらえなかったようだ。
そんな頑固で偏屈なレインだが、ユミルはレインがケットシー好きだと知ってから、レインに親しみやすさを感じ始めていた。
今では少しずつ仕事に関係のない話も交わしてくれるようになった。
「今日の昼間、アデレート様とお会いしました。」
今日、ユミルは昼間に休暇をもらってレインの邸宅を不在にしていた。
エバンズ伯爵の家で、アデレートに会っていたのだ。
アデレートはもともと、ユミルとレインの契約について聞くためにユミルを呼び出したようで、根掘り葉掘り聞かれたうえに、レインに対しての愚痴を延々と聞かされたのだ。
(あそこまで不機嫌なアデレート様は珍しかったな。)
「あの男、私は杖修復課に頼まれて杖を外部に持ち出しただけなのに、私に一方的に文句を言っておきながら、最終的には部下…ああ、エリックのことよ、にユミルの情報を無理やり聞き出して、貴女に契約を持ちかけたのよ!?
それなのに、わたくしがユミルのことを尋ねようとすると、君には関係ないの一点張り!わたくしとユミルの友情もあって繋がれた縁だというのに、それを全くわかっていないのよ!」
というのが、アデレートの言い分だ。
ユミルはアデレートが顔や役職により態度を変えるような女ではないことを知っていたが、まさか部隊長てあるレインにまで噛み付くとは、と意外に、否、アデレートの捲し立てる様子を見て、そんなに意外でもなかったか、と思い直した。
レインの性格を思うに、アデレートの話にあったとおりの出来事にあったに違いない。
「別に、変なことはしていないのに、嫌に噛みつかれるんだ。」
「いやいや、オズモンド様が答えないから、アデレート様がさらに食いかかってくるのだと思いますよ?」
「今更事情を聞いても、事実は変わらないだろう。」
「そうかもしれませんが…。」
(そういうことじゃあ、ないんだよな~…。)
ユミルがため息を吐くと、レインは理解できないとばかりに鼻を鳴らした。
「明後日からの話なんだが。」
「はい、何でしょう?」
「此処から馬車で4日ほど北に離れた場所に遠征に行く。」
「暫く、お帰りにならないのでしょうか?」
「ああ。帰らないから、君には着いてきて欲しい。」
ユミルは突然の話に目を瞬かせる。
魔法局の魔法騎士の移動手段は原則転移魔法だ。
ただ、魔力の消耗が激しいので、距離が遠い場合は頻繁には首都に戻らず、その場に滞在することが多い。
「それは構いませんが…。」
ユミルは、フクがどうなるのだろうかとフクに目線をやる。
フクは高そうな応接用のソファで呑気に寝息を立てている。
「フクは置いていけ。世話はジャスパーに頼んでおく。」
「…危険なところなのですか?」
わざわざユミルを連れて行くということは、その先で杖が壊れるリスクが高いということだ。
ユミルは緊張で手を握りしめる。
「実は、先日の首都郊外の魔獣発生事件だが、魔法使いが絡んでいた。何人か捕縛していたが逃げた奴がいるようで、今度の遠征先で再度魔獣の騒ぎを起こしているとの情報を得た。君には魔獣が降りてこない町中のホテルに居てもらうつもりだから、それほど危険は及ばないはずだ。」
「なるほど。承知しました。」
安全地帯で待っていてよいのなら、断る理由もない。契約書にも度々遠征に同行が必要なことは盛り込まれていた。
「では、荷物を纏めておくように。出発は明後日の朝だ。」
「はい。用意しておきます。」
ユミルの実家は首都から見て、西の方角にある。それ程北の方へ行くのは初めてだ。
ユミルは魔獣討伐であることを分かってはいたが、初めての遠出に心を踊らせた。
フクにはこっそりと事情を教えておいたので、フクはレインに愛想よく振る舞っている。
連れて行った初日に、フクを膝の上に乗せてあげたら、レインがわかりやすく目を輝かせたので、ユミルは思わず笑ってしまい、レインに睨まれてしまった。
フクはと言えば、すっかりレインを掌で転がしている。
フクがレインに対して、それとなく、いついつに出てきたおやつが美味しかった、などと伝えると、翌日には再びそのおやつがフクの元に届く。
(ケットシーに対してチョロすぎやしません?悪い女にも意外と簡単にひっかかりそう。)
などと、ユミルは不敬なことを思っている。
ちなみに、先日の怪我の件は執事のバロンも気づいていたようで、後日ユミルに感謝の言葉を伝えに来た。バロンも何度か治療を勧めていたようだが、聞き入れてもらえなかったようだ。
そんな頑固で偏屈なレインだが、ユミルはレインがケットシー好きだと知ってから、レインに親しみやすさを感じ始めていた。
今では少しずつ仕事に関係のない話も交わしてくれるようになった。
「今日の昼間、アデレート様とお会いしました。」
今日、ユミルは昼間に休暇をもらってレインの邸宅を不在にしていた。
エバンズ伯爵の家で、アデレートに会っていたのだ。
アデレートはもともと、ユミルとレインの契約について聞くためにユミルを呼び出したようで、根掘り葉掘り聞かれたうえに、レインに対しての愚痴を延々と聞かされたのだ。
(あそこまで不機嫌なアデレート様は珍しかったな。)
「あの男、私は杖修復課に頼まれて杖を外部に持ち出しただけなのに、私に一方的に文句を言っておきながら、最終的には部下…ああ、エリックのことよ、にユミルの情報を無理やり聞き出して、貴女に契約を持ちかけたのよ!?
それなのに、わたくしがユミルのことを尋ねようとすると、君には関係ないの一点張り!わたくしとユミルの友情もあって繋がれた縁だというのに、それを全くわかっていないのよ!」
というのが、アデレートの言い分だ。
ユミルはアデレートが顔や役職により態度を変えるような女ではないことを知っていたが、まさか部隊長てあるレインにまで噛み付くとは、と意外に、否、アデレートの捲し立てる様子を見て、そんなに意外でもなかったか、と思い直した。
レインの性格を思うに、アデレートの話にあったとおりの出来事にあったに違いない。
「別に、変なことはしていないのに、嫌に噛みつかれるんだ。」
「いやいや、オズモンド様が答えないから、アデレート様がさらに食いかかってくるのだと思いますよ?」
「今更事情を聞いても、事実は変わらないだろう。」
「そうかもしれませんが…。」
(そういうことじゃあ、ないんだよな~…。)
ユミルがため息を吐くと、レインは理解できないとばかりに鼻を鳴らした。
「明後日からの話なんだが。」
「はい、何でしょう?」
「此処から馬車で4日ほど北に離れた場所に遠征に行く。」
「暫く、お帰りにならないのでしょうか?」
「ああ。帰らないから、君には着いてきて欲しい。」
ユミルは突然の話に目を瞬かせる。
魔法局の魔法騎士の移動手段は原則転移魔法だ。
ただ、魔力の消耗が激しいので、距離が遠い場合は頻繁には首都に戻らず、その場に滞在することが多い。
「それは構いませんが…。」
ユミルは、フクがどうなるのだろうかとフクに目線をやる。
フクは高そうな応接用のソファで呑気に寝息を立てている。
「フクは置いていけ。世話はジャスパーに頼んでおく。」
「…危険なところなのですか?」
わざわざユミルを連れて行くということは、その先で杖が壊れるリスクが高いということだ。
ユミルは緊張で手を握りしめる。
「実は、先日の首都郊外の魔獣発生事件だが、魔法使いが絡んでいた。何人か捕縛していたが逃げた奴がいるようで、今度の遠征先で再度魔獣の騒ぎを起こしているとの情報を得た。君には魔獣が降りてこない町中のホテルに居てもらうつもりだから、それほど危険は及ばないはずだ。」
「なるほど。承知しました。」
安全地帯で待っていてよいのなら、断る理由もない。契約書にも度々遠征に同行が必要なことは盛り込まれていた。
「では、荷物を纏めておくように。出発は明後日の朝だ。」
「はい。用意しておきます。」
ユミルの実家は首都から見て、西の方角にある。それ程北の方へ行くのは初めてだ。
ユミルは魔獣討伐であることを分かってはいたが、初めての遠出に心を踊らせた。
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