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第4章 ユリウスの自覚(その1)
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「本当はこの後、君がお勧めしてくれたレストランで食事でも、と思っていたが、今日はこれからガイア王国の貴族と会食が入ってしまった。ルフェのことはこれから王宮に届けるよ。」
ギルバートは乗り込んだ馬車の中でルフェルニアにそう言うと、マーサに視線をよこしてから、車内に積んであった書類を手に取った。
「ルフェルニア様、こちらは先ほどのブティックの近くで購入したものです。よろしければお受け取りください。」
ルフェルニアがマーサから渡された籠の中を覗くと、中にはチキンの香草焼きとサラダ、バケットが入っていた。籠の中には焼き菓子も添えられている。
「これから寮の食堂に行っても、片付けられちゃっている可能性もあったから、助かったわ。ありがとう。」
ルフェルニアが嬉しそうに受け取ると、マーサが安心したように微笑んだ。
ここで一旦会話が途切れ、ルフェルニアが何かを考えるように俯くと、ギルバートは書類の隙間からその様子を見て声をかけた。
「今日は元気がなさそうだな。」
ルフェルニアは驚いて目線を上げた。
(そんなにわかりやすかったかしら?)
「不快な思いをさせていたら、ごめんなさい。」
「別に、そんなつもりで言ったんじゃない。何かあったのか。」
ギルバートは次の会食に関する情報を頭に入れるためか、書類をめくりながら、淡々と尋ねた。
あまりにも前のめりに聞かれてしまうとルフェルニアも遠慮してしまうので、その温度感がルフェルニアには丁度よかった。
「ユリウス様と初めて喧嘩をしてしまって…。」
「そうか。まぁ、昨日の様子を見るに十中八九、出張中のことで揉めたんだろう。」
ギルバートは、昨日のユリウスの様子と、ルフェルニアが酔った拍子に話していたことを思い出し、なるほど、とすぐに色々と察した。
ユリウスは終始、人当たりの良さそうな表情を浮かべていたし、貴族というものはあらゆる感情を隠すものだ。ギルバートは違和感を覚えつつもユリウスの態度をあまり気にしていなかったが、ルフェルニアとユリウスが今日喧嘩になったことを聞いて、やはりあれは機嫌が悪かったのか、と今更になって納得した。
(あれで自覚がないとは、恐ろしいな。)
ギルバートは心の中でため息を吐いた。
ルフェルニアに夜会のパートナーを頼めば、余計な女が寄ってこなくて安泰だと思ったが、かえって大きな面倒を引き寄せてしまったかもしれない。
「うん…。冷たいことを言ってしまって、悪かったと思ってる。でも、ユリウス様離れをしなくちゃいけないし、このまま距離を取った方が良いのかな、とも思うの。」
ルフェルニアは少し悲しそうに笑った。
ギルバートはそれを見て、変にややこしいことになっているな、と思ったがギルバート自身も恋愛ごとには疎い。
「悪いと思っているなら、早いうちに謝った方が良い。距離を取ることと、謝らないことはイコールじゃない。」
ギルバートは迷った末に、恋愛感情を云々は置いておいて、率直に思ったことを言った。
それに対しルフェルニアは目を瞬かせてから、なるほど、と頷いた。
確かに、ルフェルニアはユリウスと距離を取りたいと思っているが、不仲になりたいわけではない。互いに将来を考えるために必要な距離を取りたいだけだ。
相手の発言も悪かったとはいえ、ひどいことを言った自覚もある。
「ありがとう。そうよね、まずはちゃんと謝ってみるわ。」
ギルバートは乗り込んだ馬車の中でルフェルニアにそう言うと、マーサに視線をよこしてから、車内に積んであった書類を手に取った。
「ルフェルニア様、こちらは先ほどのブティックの近くで購入したものです。よろしければお受け取りください。」
ルフェルニアがマーサから渡された籠の中を覗くと、中にはチキンの香草焼きとサラダ、バケットが入っていた。籠の中には焼き菓子も添えられている。
「これから寮の食堂に行っても、片付けられちゃっている可能性もあったから、助かったわ。ありがとう。」
ルフェルニアが嬉しそうに受け取ると、マーサが安心したように微笑んだ。
ここで一旦会話が途切れ、ルフェルニアが何かを考えるように俯くと、ギルバートは書類の隙間からその様子を見て声をかけた。
「今日は元気がなさそうだな。」
ルフェルニアは驚いて目線を上げた。
(そんなにわかりやすかったかしら?)
「不快な思いをさせていたら、ごめんなさい。」
「別に、そんなつもりで言ったんじゃない。何かあったのか。」
ギルバートは次の会食に関する情報を頭に入れるためか、書類をめくりながら、淡々と尋ねた。
あまりにも前のめりに聞かれてしまうとルフェルニアも遠慮してしまうので、その温度感がルフェルニアには丁度よかった。
「ユリウス様と初めて喧嘩をしてしまって…。」
「そうか。まぁ、昨日の様子を見るに十中八九、出張中のことで揉めたんだろう。」
ギルバートは、昨日のユリウスの様子と、ルフェルニアが酔った拍子に話していたことを思い出し、なるほど、とすぐに色々と察した。
ユリウスは終始、人当たりの良さそうな表情を浮かべていたし、貴族というものはあらゆる感情を隠すものだ。ギルバートは違和感を覚えつつもユリウスの態度をあまり気にしていなかったが、ルフェルニアとユリウスが今日喧嘩になったことを聞いて、やはりあれは機嫌が悪かったのか、と今更になって納得した。
(あれで自覚がないとは、恐ろしいな。)
ギルバートは心の中でため息を吐いた。
ルフェルニアに夜会のパートナーを頼めば、余計な女が寄ってこなくて安泰だと思ったが、かえって大きな面倒を引き寄せてしまったかもしれない。
「うん…。冷たいことを言ってしまって、悪かったと思ってる。でも、ユリウス様離れをしなくちゃいけないし、このまま距離を取った方が良いのかな、とも思うの。」
ルフェルニアは少し悲しそうに笑った。
ギルバートはそれを見て、変にややこしいことになっているな、と思ったがギルバート自身も恋愛ごとには疎い。
「悪いと思っているなら、早いうちに謝った方が良い。距離を取ることと、謝らないことはイコールじゃない。」
ギルバートは迷った末に、恋愛感情を云々は置いておいて、率直に思ったことを言った。
それに対しルフェルニアは目を瞬かせてから、なるほど、と頷いた。
確かに、ルフェルニアはユリウスと距離を取りたいと思っているが、不仲になりたいわけではない。互いに将来を考えるために必要な距離を取りたいだけだ。
相手の発言も悪かったとはいえ、ひどいことを言った自覚もある。
「ありがとう。そうよね、まずはちゃんと謝ってみるわ。」
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