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第3章 外国出張
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テーセウス王国で迎えた週末、ルフェルニアはホテルの一室で週明けの授業の準備を進めていたが、ヘレンからの誘いがあり、王都内のレストランに来ていた。
「ちょっと、こんなにお高そうなところ、大丈夫かしら…。」
ついたレストランが想定よりもずっと豪華で、ルフェルニアは頭の中で財布の中身を数えた。
ただ、これほど大きいレストランなら、共通貨幣も利用できるだろう。共通貨幣は、複数の国が同盟を組み、十数年ほど前から導入が進められてきたが、未だに一部の店ではその国独自の貨幣でしか支払いを受け付けないところがある。ルフェルニアは共通貨幣しか持ち合わせていなかった。
「ルフェルニアってば、貴族のお嬢様なのに、意外ね。大丈夫よ、今日はお父さんが出してくれるって、言質を取ってあるから。」
「貴族といっても、とっても小さい子爵家だし、学園を出てからずっと働いているから、
庶民と大して変わらないわ。このようなところにも滅多に来ないわ。」
ルフェルニアは「ごちそうさまです」と心の中でバロンにそっと手を合わせる。
美味しいご飯をご馳走してくれるというなら、それを断るという選択肢はルフェルニアの中にはない。
「ルフェ、昨日と一昨日は全然構えなくてごめんね、手持ちの講義と雑務が忙しくて…。」
席に着くと、ヘレンが申し訳なさそうに謝ってきたので、ルフェルニアは慌てて否定した。
「そんな!忙しい中、講義用の資料を印刷してくれたり、機材を用意してくれたり、とっても助かっているわ。ありがとう。」
その後、ヘレンとルフェルニアはテーセウス王国の教育方針などについて雑談をしながら食事を進めていたが、ヘレンが思い出したように話しを切り出した。
「そういえば、ノア大公が訪ねてこなかった…?」
「昨日?お会いしていないと思うわ。とっても可愛い男性の来客ならあったけど…。」
「じゃあ、会っていないのね。ノア大公って、女性にも威圧的というか…少し怖い方なのよ。もしかしたら突然の訪問で驚いたんじゃないかと気になっていたの。昨日はノア大公が、どこかでルフェが王都の学園にいることを知って急にひとりで学園を訪ねてきたらしくて。私はその時いなかったのだけれど、案内した子がノア大公の怖ろしさに、ルフェの部屋の前まで案内して逃げちゃったって、聞いていたんだ。」
「そうなのね。ちょうど私も席を外していたのかしら...?
ノア大公って、とても優秀な方なんでしょう?どんな方なの?」
ルフェルニアは授業以外でそう長くあの部屋から出ていた記憶がないが、図書館に調べ物をしに席を外した時にタイミング悪く来てしまったのだろうかと、首を傾げた。
「ええ、新しい大公様は先代よりもさらに優秀らしいよ。私は遠目でしか見たことが無いけれど、最近まで王都にいたから良く噂は耳に入っていたわ。とてもカッコ良いけれど、すんご~~~い厳しくて冷徹って聞いたわ。
ちなみに、その可愛らしい男性ってどんな方だったの?学園の教員?」
「学園の教員ではないみたいだったわ。弟のアルウィンにとってもそっくりで可愛かったの!弟のアルウィンは甘いものが好きなのをいつも隠しているのだけれど、その方も一緒みたいで。甘いものを見るときの目とか、食べたときの反応がまるで一緒なの。」
ふふふ、とうれしそうに笑うルフェルニアに、ヘレンもつられて笑った。
「良い出会いがあったんだね。なんで好きなものを隠したがるんだろう…。その方の名前は聞いた?」
「隠してかっこつけたがるところが可愛いじゃない。名前はギルバートって言って…、」
ルフェルニアが思い出し笑いをしながら話していると、ヘレンがぎょっとした表情でルフェルニアの後ろを見上げた。
「ちょっと、ヘレン、聞いている?」
ルフェルニアが声をかけるとヘレンが口パクで何かを伝えようとしてくる。よく見ると、「後ろ、後ろ」と言っているようだ。
ルフェルニアは不思議そうにしながら後ろを振り返ると、そこには少し顔を赤らめたギルバートが立っていた。
「ギル!昨日振りね!こちらは今お世話になっている学園の学園長のお嬢さんで教員のヘレンよ。ちょうどさっき、ギルの話しをしていたのよ。」
ギルバートは昨日とは異なり、フロックコートを着たきっちりした服装だが、これもまたよく似合っている。
隣りには部下なのか、下を向いて笑うのを堪えるかのように震えている男性が立っていた。
「ああ、こんにちは、ルフェ、ヘレン嬢。」
ギルバートは笑っている男性の足をルフェルニアにバレないよう思い切り踏みつけると、ルフェルニアとヘレンへ微笑みかけた。
ルフェルニアは昨日の今日でギルバートに会えたことを喜んだが、ヘレンは恐ろしいものを見るような目でギルバートとルフェルニアを交互に見ている。
「ちょっと…ルフェ…この方がノア公国の大公様よ…?」
「なぁに、ヘレン、そんな冗談を言って。いくらテーセウス王国の人じゃないからって、騙されないわ。」
ルフェルニアはヘレンが冗談を言っているのだと思って、笑って聞き流そうとしたが、ヘレンが真っ青な顔で必死に頭を横に振るので、ルフェルニアは急激に青ざめた。
ルフェルニアが錆びたブリキのように再びギルバートの方を振り返ると、ギルバートは胸に手を当てて挨拶をし直した。
「ギルバート・ノア。ノア公国の新しい大公だ。」
『先方に国家レベルの粗相を起こしてくるようなございません!!』
ルフェルニアは出国前にユリウスに言った、自分自身の言葉が頭の中で響いていた。
「ちょっと、こんなにお高そうなところ、大丈夫かしら…。」
ついたレストランが想定よりもずっと豪華で、ルフェルニアは頭の中で財布の中身を数えた。
ただ、これほど大きいレストランなら、共通貨幣も利用できるだろう。共通貨幣は、複数の国が同盟を組み、十数年ほど前から導入が進められてきたが、未だに一部の店ではその国独自の貨幣でしか支払いを受け付けないところがある。ルフェルニアは共通貨幣しか持ち合わせていなかった。
「ルフェルニアってば、貴族のお嬢様なのに、意外ね。大丈夫よ、今日はお父さんが出してくれるって、言質を取ってあるから。」
「貴族といっても、とっても小さい子爵家だし、学園を出てからずっと働いているから、
庶民と大して変わらないわ。このようなところにも滅多に来ないわ。」
ルフェルニアは「ごちそうさまです」と心の中でバロンにそっと手を合わせる。
美味しいご飯をご馳走してくれるというなら、それを断るという選択肢はルフェルニアの中にはない。
「ルフェ、昨日と一昨日は全然構えなくてごめんね、手持ちの講義と雑務が忙しくて…。」
席に着くと、ヘレンが申し訳なさそうに謝ってきたので、ルフェルニアは慌てて否定した。
「そんな!忙しい中、講義用の資料を印刷してくれたり、機材を用意してくれたり、とっても助かっているわ。ありがとう。」
その後、ヘレンとルフェルニアはテーセウス王国の教育方針などについて雑談をしながら食事を進めていたが、ヘレンが思い出したように話しを切り出した。
「そういえば、ノア大公が訪ねてこなかった…?」
「昨日?お会いしていないと思うわ。とっても可愛い男性の来客ならあったけど…。」
「じゃあ、会っていないのね。ノア大公って、女性にも威圧的というか…少し怖い方なのよ。もしかしたら突然の訪問で驚いたんじゃないかと気になっていたの。昨日はノア大公が、どこかでルフェが王都の学園にいることを知って急にひとりで学園を訪ねてきたらしくて。私はその時いなかったのだけれど、案内した子がノア大公の怖ろしさに、ルフェの部屋の前まで案内して逃げちゃったって、聞いていたんだ。」
「そうなのね。ちょうど私も席を外していたのかしら...?
ノア大公って、とても優秀な方なんでしょう?どんな方なの?」
ルフェルニアは授業以外でそう長くあの部屋から出ていた記憶がないが、図書館に調べ物をしに席を外した時にタイミング悪く来てしまったのだろうかと、首を傾げた。
「ええ、新しい大公様は先代よりもさらに優秀らしいよ。私は遠目でしか見たことが無いけれど、最近まで王都にいたから良く噂は耳に入っていたわ。とてもカッコ良いけれど、すんご~~~い厳しくて冷徹って聞いたわ。
ちなみに、その可愛らしい男性ってどんな方だったの?学園の教員?」
「学園の教員ではないみたいだったわ。弟のアルウィンにとってもそっくりで可愛かったの!弟のアルウィンは甘いものが好きなのをいつも隠しているのだけれど、その方も一緒みたいで。甘いものを見るときの目とか、食べたときの反応がまるで一緒なの。」
ふふふ、とうれしそうに笑うルフェルニアに、ヘレンもつられて笑った。
「良い出会いがあったんだね。なんで好きなものを隠したがるんだろう…。その方の名前は聞いた?」
「隠してかっこつけたがるところが可愛いじゃない。名前はギルバートって言って…、」
ルフェルニアが思い出し笑いをしながら話していると、ヘレンがぎょっとした表情でルフェルニアの後ろを見上げた。
「ちょっと、ヘレン、聞いている?」
ルフェルニアが声をかけるとヘレンが口パクで何かを伝えようとしてくる。よく見ると、「後ろ、後ろ」と言っているようだ。
ルフェルニアは不思議そうにしながら後ろを振り返ると、そこには少し顔を赤らめたギルバートが立っていた。
「ギル!昨日振りね!こちらは今お世話になっている学園の学園長のお嬢さんで教員のヘレンよ。ちょうどさっき、ギルの話しをしていたのよ。」
ギルバートは昨日とは異なり、フロックコートを着たきっちりした服装だが、これもまたよく似合っている。
隣りには部下なのか、下を向いて笑うのを堪えるかのように震えている男性が立っていた。
「ああ、こんにちは、ルフェ、ヘレン嬢。」
ギルバートは笑っている男性の足をルフェルニアにバレないよう思い切り踏みつけると、ルフェルニアとヘレンへ微笑みかけた。
ルフェルニアは昨日の今日でギルバートに会えたことを喜んだが、ヘレンは恐ろしいものを見るような目でギルバートとルフェルニアを交互に見ている。
「ちょっと…ルフェ…この方がノア公国の大公様よ…?」
「なぁに、ヘレン、そんな冗談を言って。いくらテーセウス王国の人じゃないからって、騙されないわ。」
ルフェルニアはヘレンが冗談を言っているのだと思って、笑って聞き流そうとしたが、ヘレンが真っ青な顔で必死に頭を横に振るので、ルフェルニアは急激に青ざめた。
ルフェルニアが錆びたブリキのように再びギルバートの方を振り返ると、ギルバートは胸に手を当てて挨拶をし直した。
「ギルバート・ノア。ノア公国の新しい大公だ。」
『先方に国家レベルの粗相を起こしてくるようなございません!!』
ルフェルニアは出国前にユリウスに言った、自分自身の言葉が頭の中で響いていた。
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