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帝国編
睡魔には勝てないのでした
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東城下町、通称はギルド街でしたわね。
「・・・私達冒険者として帝都に滞在しているのに、ギルドに2回くらいしか顔出していないよね」
「そうですわね・・・私(わたくし)はお父様から支援金という名目で渡されていたとはいえ、冒険者稼業差し置いて観光しかしていませんわ」
王都から旅立ってたかだか数ヶ月ですけれど、観光と図書館での調べ物に時間を費やしてしまっていましたわ。
「フィオナもあの調子だとしばらく部屋から出てきそうにありませんわ、いつもの事ですけど」
「・・・フィオナとは学院入学の時から一緒にいるんだよね?」
「ええ、基本的にずっと変わっていませんわ・・・たまに何故か男の子と接してるような感覚がありましたけれど、最近はそういうのも感じませんから、私(わたくし)の錯覚だったようですわね」
「・・・ミリーにもその錯覚あったんだね、私もそう感じる時があったけど・・・変な話だよね、フィオナはどう見ても女の子なのに」
フィオナも成長して落ち着いてきたと考えて・・・いえ、それこそ気のせいですわ。
呑気な所はアイリさんと似ていますけど、フィオナは時々・・・のんびりしているようでどこか冷めた印象がありましたわね。
「見た目との落差でそう感じていたのかもしれませんわね、極希に達観した空気感を漂わせて・・・いる気がしたのも恐らく勘違いなのですわ」
「・・・そういう時って大体装備どうこう考えてる事多かったし、気のせいだろうね」
「フィオナの装備・・・というよりその際に使っている高次領域の力というのは、どの書物を読んでも名称すらありませんでしたわ」
近いものになると神器とリアさん・・・古龍ヴェルガリアに纏わる書物ですけど、想像できれば現象化させるといった書かれ方をされたものは確認できませんでしたわ。
「・・・リアさんとの会話でよくその言葉を聞くけど、ミリーが出会った時から知っていたのかな?」
「いえ、魔力の『色』・・・性質が視えると教えてくれた時、フィオナはその性質で特殊な使い方ができていた・・・みたいな認識でしたわね・・・リアさんと知り合ってからのようですわ」
「・・・魔力を意識しても武器や鎧が飛ぶわけないしね、当たり前にやってるから、フィオナの魔力性質が物を動かせるものなのかと思ってたよ」
「可能性が無いとも限りませんわね、フィオナは魔力を使えていないと言っておりますし・・・それ自体が意味不明な状態ですけれど」
この間使おうとして身体を痛めていましたけれど、魔力障害の子供に近い状態ですわね・・・生後半年ほどで魔力は馴染むはずですし・・・十数年続くといった話は聞きませんわ。
「・・・それにしても、私達のディオール装備の製作も随分早かったね、手紙でギルドに預けてると書いてあったけど」
「帝都にディオール素材を扱える職人が淹留しているのもあるのでしょうけれど、杖はともかく刀までディオール樹となれば時間は掛かるはずですわ」
「・・・皇帝陛下が急かしちゃったのかな、職人さんに悪い気もするけど・・・完成してるなら受け取るけれどね」
「ユラの刀、鞘がミスリルで刀身がディオールと・・・フィオナがぴーきーな武器と称してましたわね」
「・・・フィオナもたまによく分からない言葉使うよね、どこで覚えたのやら・・・」
フィオナの杖もそういう意味ではぴーきーですけれど、使い手の事をまったく考慮されてませんでしたわ。
長杖と短杖も魔力伝導が非効率と結論付けた末、手甲に触媒結晶を取り付けて最短で通せるようにしましたが・・・杖全体がディオールだと伝導率だけは優秀ですわ。
魔力を通さないと持てない重さが唯一・・・というより最大の欠点ですけれど、ウィクトール家は5歳児になんてものを渡して・・・いえ、出会う前の事を思案しても仕方ありませんわね。
石造りの天井、発光石のランタンに照らされたベッド・・・見慣れた我が家の天井。
父様が母様の両手を握り、いつものほほんとしている母様の表情は悲痛に歪みその光景はとてもではないが見ているのを憚られる。
今までにそんなウィクトール家を見た記憶はないはずなのですが・・・悪夢にしても縁起がよろしくないのです。
父様の豪快な笑顔は影を潜め、歯を食いしばり・・・まだ幼い兄様姉様の頭を撫でベッドで横たわっている生後半年に満たないであろうやつれきった赤子から視線を外さず見つめている。
赤子の虚ろな瞳に映る母様の泣き顔・・・初めて見る哀しい姿は想像したこともなかったのですが、母様は何故泣いて・・・・・・兄様と姉様は父様に撫でられているようですが私の姿は見えず・・・・・・
・・・この赤ん坊は、もしかしてわた・・・・・・
(・・・オナ・・・・・・・・・フィオナ・・・・・・作業しな・・・)
「フィオナ、作業しながら寝るでないぞ・・・そんな細々した事やっておるから・・・」
「はっ・・・ジオの手の関節は細か・・・あ、関節が多いのです・・・右手全部」
「左手の時からうつらうつらとしておったぞ・・・トンファーガンなんとかも一気に作るのを見ておったが、お主は熱中すると周りが見えなくなるのう」
「ウィクトール家の血筋だと思うのです・・・母様も姉様も割と見えなくなりがちなのです」
父様と兄様はああ見えて冷静だったりするのです・・・兄様は普段から物静かではありますが剣の稽古では集中していると・・・
「ミリーとユラが珍しく装備を嬉々として見せようとしておったが、半寝のお主を見て冷静になってと・・・実に忙しないのじゃ」
そういえばギルドに装備が届いてるとかで出掛けていたのです、荷物受け取り感覚でギルドというのも・・・
「依頼報酬扱い・・・であればギルドから受け取るのも間違ってはいないのですかね」
「1人で納得したりと、お主の独り言は癖なのかのう」
「自己肯定感をコントロールする際は、口に出してみて再認識してみる方が分かりやすいとかなんとか・・・本を読むと思わず呟く、みたいなこともあるのです」
「記憶にあるインプットとアウトプットというやつかの、知ってる割に活かせてはおらぬようじゃが・・・」
実感もなく実践しないものは早々に忘れるのです、レシピを見て実践する頃には分量全部忘れるみたいなものなのです。
「威張るとこでもないがの・・・お主はなにと戦っておるのじゃ」
「睡魔なのです」「うむ、大人しく寝るのじゃ」
んーこの左右非対称が凄く気になるのです・・・あ、左手の指は一本多いのです・・・もはや非対称以前のレベルなのです。
「前世のように夜行性な肉体ではないじゃろう、拾った命を酷使するでないぞ・・・この世界の人族の健康寿命にも限度はあるじゃろうて」
「魔力強化で寧ろ削れる所だったですし・・・気をつけるのです」
魔力が流れているのと操れるとでは根本的に違ったのです、まあ今に始まったことでもないですが・・・身長だけでなく平均寿命まで縮んでも困るのです。
「朝はそこそこ得意な気がしていたのですが、ぶっちゃけ最近は早起きが苦手なのです・・・」
「高次領域をふざけたことに使うからじゃ、アストラル体を経由してるとはいえ・・・負荷が最小限で済んでるから眠気程度で収まっておるのじゃろうて」
体質ではなく行動の問題だったようなのです、疲労感と眠気は一律でもないようでした。
「・・・私達冒険者として帝都に滞在しているのに、ギルドに2回くらいしか顔出していないよね」
「そうですわね・・・私(わたくし)はお父様から支援金という名目で渡されていたとはいえ、冒険者稼業差し置いて観光しかしていませんわ」
王都から旅立ってたかだか数ヶ月ですけれど、観光と図書館での調べ物に時間を費やしてしまっていましたわ。
「フィオナもあの調子だとしばらく部屋から出てきそうにありませんわ、いつもの事ですけど」
「・・・フィオナとは学院入学の時から一緒にいるんだよね?」
「ええ、基本的にずっと変わっていませんわ・・・たまに何故か男の子と接してるような感覚がありましたけれど、最近はそういうのも感じませんから、私(わたくし)の錯覚だったようですわね」
「・・・ミリーにもその錯覚あったんだね、私もそう感じる時があったけど・・・変な話だよね、フィオナはどう見ても女の子なのに」
フィオナも成長して落ち着いてきたと考えて・・・いえ、それこそ気のせいですわ。
呑気な所はアイリさんと似ていますけど、フィオナは時々・・・のんびりしているようでどこか冷めた印象がありましたわね。
「見た目との落差でそう感じていたのかもしれませんわね、極希に達観した空気感を漂わせて・・・いる気がしたのも恐らく勘違いなのですわ」
「・・・そういう時って大体装備どうこう考えてる事多かったし、気のせいだろうね」
「フィオナの装備・・・というよりその際に使っている高次領域の力というのは、どの書物を読んでも名称すらありませんでしたわ」
近いものになると神器とリアさん・・・古龍ヴェルガリアに纏わる書物ですけど、想像できれば現象化させるといった書かれ方をされたものは確認できませんでしたわ。
「・・・リアさんとの会話でよくその言葉を聞くけど、ミリーが出会った時から知っていたのかな?」
「いえ、魔力の『色』・・・性質が視えると教えてくれた時、フィオナはその性質で特殊な使い方ができていた・・・みたいな認識でしたわね・・・リアさんと知り合ってからのようですわ」
「・・・魔力を意識しても武器や鎧が飛ぶわけないしね、当たり前にやってるから、フィオナの魔力性質が物を動かせるものなのかと思ってたよ」
「可能性が無いとも限りませんわね、フィオナは魔力を使えていないと言っておりますし・・・それ自体が意味不明な状態ですけれど」
この間使おうとして身体を痛めていましたけれど、魔力障害の子供に近い状態ですわね・・・生後半年ほどで魔力は馴染むはずですし・・・十数年続くといった話は聞きませんわ。
「・・・それにしても、私達のディオール装備の製作も随分早かったね、手紙でギルドに預けてると書いてあったけど」
「帝都にディオール素材を扱える職人が淹留しているのもあるのでしょうけれど、杖はともかく刀までディオール樹となれば時間は掛かるはずですわ」
「・・・皇帝陛下が急かしちゃったのかな、職人さんに悪い気もするけど・・・完成してるなら受け取るけれどね」
「ユラの刀、鞘がミスリルで刀身がディオールと・・・フィオナがぴーきーな武器と称してましたわね」
「・・・フィオナもたまによく分からない言葉使うよね、どこで覚えたのやら・・・」
フィオナの杖もそういう意味ではぴーきーですけれど、使い手の事をまったく考慮されてませんでしたわ。
長杖と短杖も魔力伝導が非効率と結論付けた末、手甲に触媒結晶を取り付けて最短で通せるようにしましたが・・・杖全体がディオールだと伝導率だけは優秀ですわ。
魔力を通さないと持てない重さが唯一・・・というより最大の欠点ですけれど、ウィクトール家は5歳児になんてものを渡して・・・いえ、出会う前の事を思案しても仕方ありませんわね。
石造りの天井、発光石のランタンに照らされたベッド・・・見慣れた我が家の天井。
父様が母様の両手を握り、いつものほほんとしている母様の表情は悲痛に歪みその光景はとてもではないが見ているのを憚られる。
今までにそんなウィクトール家を見た記憶はないはずなのですが・・・悪夢にしても縁起がよろしくないのです。
父様の豪快な笑顔は影を潜め、歯を食いしばり・・・まだ幼い兄様姉様の頭を撫でベッドで横たわっている生後半年に満たないであろうやつれきった赤子から視線を外さず見つめている。
赤子の虚ろな瞳に映る母様の泣き顔・・・初めて見る哀しい姿は想像したこともなかったのですが、母様は何故泣いて・・・・・・兄様と姉様は父様に撫でられているようですが私の姿は見えず・・・・・・
・・・この赤ん坊は、もしかしてわた・・・・・・
(・・・オナ・・・・・・・・・フィオナ・・・・・・作業しな・・・)
「フィオナ、作業しながら寝るでないぞ・・・そんな細々した事やっておるから・・・」
「はっ・・・ジオの手の関節は細か・・・あ、関節が多いのです・・・右手全部」
「左手の時からうつらうつらとしておったぞ・・・トンファーガンなんとかも一気に作るのを見ておったが、お主は熱中すると周りが見えなくなるのう」
「ウィクトール家の血筋だと思うのです・・・母様も姉様も割と見えなくなりがちなのです」
父様と兄様はああ見えて冷静だったりするのです・・・兄様は普段から物静かではありますが剣の稽古では集中していると・・・
「ミリーとユラが珍しく装備を嬉々として見せようとしておったが、半寝のお主を見て冷静になってと・・・実に忙しないのじゃ」
そういえばギルドに装備が届いてるとかで出掛けていたのです、荷物受け取り感覚でギルドというのも・・・
「依頼報酬扱い・・・であればギルドから受け取るのも間違ってはいないのですかね」
「1人で納得したりと、お主の独り言は癖なのかのう」
「自己肯定感をコントロールする際は、口に出してみて再認識してみる方が分かりやすいとかなんとか・・・本を読むと思わず呟く、みたいなこともあるのです」
「記憶にあるインプットとアウトプットというやつかの、知ってる割に活かせてはおらぬようじゃが・・・」
実感もなく実践しないものは早々に忘れるのです、レシピを見て実践する頃には分量全部忘れるみたいなものなのです。
「威張るとこでもないがの・・・お主はなにと戦っておるのじゃ」
「睡魔なのです」「うむ、大人しく寝るのじゃ」
んーこの左右非対称が凄く気になるのです・・・あ、左手の指は一本多いのです・・・もはや非対称以前のレベルなのです。
「前世のように夜行性な肉体ではないじゃろう、拾った命を酷使するでないぞ・・・この世界の人族の健康寿命にも限度はあるじゃろうて」
「魔力強化で寧ろ削れる所だったですし・・・気をつけるのです」
魔力が流れているのと操れるとでは根本的に違ったのです、まあ今に始まったことでもないですが・・・身長だけでなく平均寿命まで縮んでも困るのです。
「朝はそこそこ得意な気がしていたのですが、ぶっちゃけ最近は早起きが苦手なのです・・・」
「高次領域をふざけたことに使うからじゃ、アストラル体を経由してるとはいえ・・・負荷が最小限で済んでるから眠気程度で収まっておるのじゃろうて」
体質ではなく行動の問題だったようなのです、疲労感と眠気は一律でもないようでした。
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