上 下
4 / 39

4 謁見の間

しおりを挟む
 辺境騎士団には問題がなかったらしく、俺たちは無事、翌朝まで宿で過ごし、家に帰ることができた。
 ちなみに朝は、ゾーイにフェラで起こされた。

 「私が声を出さなければ、良いのでしたよね」

 と言われては、文句なしである。


 帰宅しても落ち着く暇はなく、支度をし直して王都へ出た。
 今回も、ゾーイ連れである。何日滞在するか予定が立たない以上、できるだけ近くへ置いておきたい。
 同時に、元魔王を王宮へ入れるのは、避けたい。

 前回と同様、中心部から少し離れた地域に部屋を借りた。ゾーイは、およそ十年ぶりの王都滞在である。
 今回は、アデラに手紙で住所を知らせることにした。

 アデラは、ゾーイと会ったことがある。王宮に仕える彼女にも、ゾーイを元魔王とは教えていない。彼女は虎の獣人であるが、魔法を使えないから、バレる気遣いがないのである。

 騎士団の保護は欲しいが、ゾーイを連れて行くのは、やはり躊躇ためらわれる。アデラにも、正式な依頼ではなく、それとなく気をつけて欲しい、という程度のお願いをするつもりだ。

 こんなことになるなら、ゾーイに街での暮らし方を普段から教えておけばよかった、と後悔しても後の祭りである。

 「俺は、何日も戻れないかもしれない。食料が足りなくなったら、買いに行くんだぞ」

 差し当たり数日分の食料を買い出しする時、ゾーイに教えた。

 「買い物くらい、できますよ」

 彼女はねた声で答えた。彼女だって、生まれた時から魔王だった訳ではないだろう。
 その割には、娼館や冒険者ギルドを知らなかったようだが、フリだったのだろうか。

 何もできないふりをして、全部俺にやらせる作戦? それも怖い。
 ともかくも、ゾーイが買い物できると知って、俺はほっとした。

 「魔獣や魔物肉は、食べないように。それから、アデラが訪ねて来たら、中に入れて良いぞ」

 魔物を食べると、ゾーイの魔力が復活するかもしれないので、禁止している。俺と彼女は主従契約を結んでいるが、彼女の魔力が俺を上回ると、契約が破れる恐れがある。

 王都にいる間に、元魔王に魔力が復活したら、と考えるだけでも恐ろしい。
 本当は、辺境に留めるべき存在なのだ。ゾーイが俺と離れたがらないのである。

 「あの、ザック様」

 「何だ? 質問があったら、今のうちに聞いてくれ」

 「アデラさんと‥‥しても、浮気にはなりませんか?」

 ゾーイと俺と、アデラで3Pしたことがある。あれ以来、ゾーイがアデラへの敵意を無くしたのは知っていたが、そこまで好意を持っていたとは、驚いた。

 「大丈夫。浮気とは思わない。ただ、向こうが嫌がっているのに、無理やり始めたらダメだぞ」

 俺は釘を刺した。ゾーイが嬉しそうに頷く。大丈夫だろうか?


 王宮へは訪問の予定を伝えておいたが、迎えは断っていた。以前、馬車で迎えに来てもらった時のやりとりが、面倒だったからである。

 自力で王宮まで行き、門番にアキからの手紙を見せると、そこで待たされ、結局門から馬車に乗せられた。
 王宮側には手間をかけるが、ゾーイのいる部屋まで迎えに来られるのも、街中で待ち合わせするのも、安全上問題がある。

 城へ到着し、案内された部屋が、またしてもベッドと浴室付きだった。応接セットまである、広い部屋だ。

 今度は俺も泊まり込みを覚悟して、大人しく部屋で待ち受けた。

 程なく、その部屋から謁見の間へ呼び出された。
 正面に玉座。俺は、作法通りひざまずいて、頭を垂れる。

 「魔術師ザカリーが参上しました」

 「顔を上げよ」

 聞き覚えのある、しかし聞き慣れない威厳のある声に応じて、正面を見上げた。
 姫がいた。今は姫ではなく、女王である。

 魔王討伐五周年記念パーティの時、前王妃と当時の王宮魔術師が組んで、彼女に不妊薬を盛ったことが暴露された。
 ただ、確たる証拠とまではいかず、また前王妃は妊娠中でもあったため、完全に排除することはできなかった。

 だが姫は、王妃の産んだ子を養子に迎え、前王妃を廃妃に持ち込んだ。更に、魔術師を実質的に引退させ、実権を握った。

 宰相のニコラス=オーディントンを味方につけたのは、大きかったろう。彼の息子は今、王都騎士団の副団長を務めている。団長はアデラだ。

 そうして数年のうちに、兄の王に譲位させ、女王として即位したのだった。

 「よく来てくれた。久しいな」

 面影はある。せいぜい十年がところである。そんなに変わる筈は、ないのだが。
 彼女はすっかり女王であった。

 共に旅をした頃の、あどけない感じは消え失せ、代わりに威厳が備わっていた。女王の中身があどけなかったら、国の存続が危ない。それで良いのだ。

 姫、とつい呼んでしまうのだが、女王の隣には王配として、勇者アキがいた。
 彼も十年近くの歳月を経て、多少歳を取った気もするが、あまり変わらない気もする。
 異世界から召喚された彼は、体の仕組みが俺たちと異なるのかもしれない。

 その脇には、王子と王女が立っている。王子は前国王夫妻の子で、王女は姫と勇者の子だ。まだ、どちらが王太子となるかは、明らかにされていない。

 「後ほど、新しい魔術棟を案内させる。気付いた点は、遠慮なく指摘してくれ」

 「承知しました」

 「晩餐の席には、アデラ王都騎士団長も呼んでいる。稀な機会だ。気兼ねなく逗留とうりゅうすると良い」

 「ありがとうございます」

 改めて、宿泊確定である。俺が魔術師だからといって、王宮の魔術棟を見せるためだけに泊まりがけで呼び出したりしないだろう。表向きの口実だ。

 謁見からは、本来の用向きを全く推察できなかった。悪い予感がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...