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第二章 留学生
5 アリバイ工作ですね
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親睦武道会の日がやってきた。全学年を、紅白二組に分けて競うのだ。
二年目でも、ここでは主にリュシアン絡みのイベントになる。
一年目では、シャルル王子とのイベントが多かったのが、二年目になると、リュシアンの出現頻度が高くなる。婚約者のフロランスが卒業でいなくなったから、狙い目ということなのね。
組分けは、ゲームで見たまんま、アメリちゃんと攻略対象の生徒三人が同じ白組で、サンドリーヌとわたしは紅組だった。
この間見かけた銀髪の女子生徒とも同じ組になったことで、サンドリーヌから紹介された。
ドリアーヌ=シャトノワ公爵令嬢。王子と同じクラスにいて、側近のバスチアンと婚約していた。
彼女は、サンドリーヌを慕っているようだ。つまりは、悪役令嬢の取り巻きだ。
わたしのゲームでの記憶は正しかった‥‥ということは、同じ紅組にいるわたしも、悪役令嬢の取り巻きということになるのかしら?
アメリちゃんの敵には、なりたくないなあ。
「ところで、あそこにいる子は誰?」
こちらは堂々悪役令嬢のサンドリーヌが、偉そうに指し示す。そこには、美少年に囲まれるストロベリーゴールドの頭があった。
クラスメートのマリエル=シャティヨンだ。
少し離れたところに、イーゴリ=オレーグがいる。
二人は、授業で同じグループになることが多い。二人で組になる授業では親しげに言葉を交わすのだけれど、自由時間になると、引き離されてしまう。
明るく気さくなマリエルの周りには人垣ができて、イーゴリはその輪に入れない。
代わりに、他の女子生徒が彼を囲んでしまうのだ。
玉の輿とかコネ作り狙いで擦り寄っているのが見え見えで、傍目にも気持ちの良いものではない。
そんな彼女たちにも、イーゴリは公平に話しかけ、令嬢の夢見がちな心を、更に燃え立たせるのであった。
案外罪な男だわ。
彼には今日も、ソランジュ=ラルミナが側に張り付いている。
その更に後ろに、ナタリー=クルタヴェルが所在なさげに立っていた。副代表委員として、ソランジュに引っ張られてきた感じだ。
「周りにおられるのは、生徒会本部の方々ですね。会長のアルチュール=ゴンドラン様、副会長のガスパル=メーストル様、会計のジョゼフィーヌ=シャミヤール様。真ん中にいるのは‥‥あちらではありませんね」
ドリアーヌが遠目に確認しながら、言わずもがなの念押しをする。名前を挙げなかった唯一の人は、アメリちゃんだ。
悪役令嬢のご友人として、やっぱり彼女は、ヒロインがお気に召さないらしい。
「真ん中にいるのは、わたしと同じクラスのマリエル=シャティヨン伯爵令嬢です。企画委員をしています」
わたしはドリアーヌとサンドリーヌに向けて説明した。髪色が似ているだけで敵を増やすのは、マリエルに気の毒だもの。
「なるほど。シャティヨン家では、先ごろ、優秀な平民を養子に迎えた、と言っておりました。あの子のことですわね」
ドリアーヌが思い出したように言った。口調が和らいでいる。良かった。ピンク頭は全部敵に見える設定じゃないのね。
ホッとしてサンドリーヌを見たわたしは、ひっと声を上げそうになった。
「あのような髪色が、二人と存在するとは思わなかったわ。何も起こらないといいけれど」
平坦な口調で話すサンドリーヌの冷たい水色の瞳が、わたしを見下ろしていた。
お前、何か隠しているだろう、という無言の圧力。
乙女ゲーム関連の話だよね?
今回のイベントで起こるはずの出来事は伝えたわよね。わたしは自分に大急ぎで確認する。
言い忘れたことがあるとすれば、マリエルが続編とか、別ゲームのヒロインがもしれないってこと。
ていうか、わたしだってわかんないのに、説明できないよ。
モテモテピンクを見て、乙女ゲーム関係者を連想するサンドリーヌは、馬鹿には見えない。勉強も、もっと頑張れば王子と同じクラスになれるのに。
あの光景は、スチルっぽい。ヒロインを囲む攻略対象の図ですかね。
ジョゼフィーヌは女子生徒だから悪役令嬢? それにしては和気藹々だ。
言い訳したくとも、今はドリアーヌが側にいる。前世だの乙女ゲーだの、とてもじゃないが、口にできない。
「初めての参加ですもの。何が起きるか、わたしには、全然予想もつきませんわ」
遠回しに、わかりませーん、と言ってみた。サンドリーヌは、ふん、と鼻を鳴らすように息を出しただけだった。
何とか、責められずに済んだみたい。ああ、怖かった。
ちなみに親睦武道会では、同じチームになったシャルル王子とアメリが一緒に仲間を応援することで、好感度を上げることができる。
また、個別にディディエくんを応援すると、彼の好感度が上がる。
メインイベントは、剣術試合だ。個人トーナメント戦で、騎士団長の息子リュシアンが優勝候補。アメリちゃんもここに参加して、ヒロインらしく次々勝ち上がって行く。
ここで使う剣は安全な模擬剣なのだけれど、アメリちゃんが戦う相手の剣だけ本物とすり替えられていて、しかも鎧の紐が切れやすく細工してあったのだ。
そして怪我を負ったヒロインをリュシアンがお姫様抱っこで運び、仇を討つかのように敢然と戦いの場へ赴くのだった‥‥というストーリー。
ゲームでは、剣のすり替えと紐の細工を、サンドリーヌがやったことになっていた。親睦会の前日、各委員が準備を手伝うのだ。
「あら。確かに私、今年は代表副委員になったわ」
イベントフラグの説明をすると、サンドリーヌは言ったものだった。
何でも、新入生の時に委員会活動をしなかったせいで成績評価がダダ下がりし、王子から代表委員をするよう命じられたのだとか。
ゲームのシナリオと違うわよ、それ。
サンドリーヌは一年生の時から、王子と一緒にいたいという理由で、委員会活動をしていた。
それで去年の親睦武道会では、蜂をアメリの馬にけしかけて暴走させたの。
え、やっていない?
でも、アメリの乗った馬は、確かに暴走したって、言っていたよね?
サンドリーヌが本当にやっていないのなら、シナリオ修正力かしら?
悪役令嬢が主人公と違うクラスという時点で、シナリオから外れているのよね。
クラスが違ったら、意地悪もできない。だって、全然会わないもの。
わたしも別のクラスの生徒の名前と顔、いまだに覚えられないくらい。
今回、わたしから情報をもらったサンドリーヌは、前日の準備の間、必ず誰かと一緒に動くようにしたらしい。
それも、なるべく色々な人を選んで。
つまり、アメリちゃんと戦う相手の剣をすり替えたり、鎧に仕掛けをする隙はなかったって、一緒にいた人たちに証言してもらうアリバイ工作をしたって訳。
そして当日は、わたしやドリアーヌと一緒に皆から見える場所に居座っている。
サンドリーヌがやらなければ、理論上、剣のすり替えや鎧の細工は起こらない。リュシアンとのイベントも起こらない。
アメリちゃんがリュシアンルートを選んでくれれば、サンドリーヌもわたしも邪魔しなくて済む。ゲームでは何故かサンドリーヌが死ぬ結末だけど、意地悪しなければ、何とかなるかもしれない。
そのためには、この武道会イベントで、リュシアンとの好感度を上げてもらわないといけないのだ。
去年も、サンドリーヌがやっていないのに、イベントは起きた。今年もイベントは発生するかもしれない。
今度は蜂じゃなくて、明らかに人の手になる妨害だ。
疑われるのは、サンドリーヌのような気がする。
そうなると、バスチアンの婚約者とディディエくんの婚約者は、証人として認められないんじゃないかな。
ヒロインがリュシアンルートを順調に進めても、サンドリーヌが糾弾されたら意味がない。アリバイ工作に協力したと見られて、わたしまで一蓮托生に断罪されるだろう。
悩ましい問題だわ。
親睦会の競技は、順調に進んでいた。
今は、馬に乗ったまま弓で的を射る、流鏑馬の西洋版が行われている。ディディエくんがこれに出場しているのは、ゲームと一緒。
体力を使うのに、平気で馬を乗りこなしている。病弱設定だった彼はどこへ行ったのかしらん。
ディディエくんは、落馬もせず、的にも何とか矢を当てて、競技を終えた。
姉のサンドリーヌも熱心に観戦していた。ゲームじゃ苛めていたんだけれどな。実際には、姉弟の仲はとても良い。
わたしがディディエ推しだったら、嫉妬してしまったかも。そしてアメリちゃんの声援は、離れたこっちの方までよく聞こえてきた。好感度アップだね。
「あんなに大声を出して、はしたないですわ」
ドリアーヌからの好感度は、大幅ダウンだ。
悪役令嬢の手先として仕掛けをする可能性もあったけど、サンドリーヌが命令しなければ、彼女はそこまでやらないんじゃないかと思う。
今日は一緒にいることで、サンドリーヌと彼女自身のアリバイを作っている。
もちろん、彼女は乙女ゲームのことなど知らない。
競技の合間に、ジョゼフィーヌ=シャミヤールがやってきた。ブルネットの豊かな髪を後ろで一つに結び、乗馬服に身を包んだ姿が格好良くて、王子様みたいだ。
「サンドリーヌ様、ドリアーヌ様、調子はいかがですか?」
「よろしくてよ。シャミヤール様、こちらロタリンギア王国から留学中の、ロザモンド=ラインフェルデン公爵令嬢。弟のディディエと婚約しておりますの」
とサンドリーヌが紹介の労を取る。ジョゼフィーヌは、紹介が終わると、早速わたしへ語りかけてきた。
「ラインフェルデン様の元に、エルミーヌという侍女がおられるでしょう?」
エルミーヌ? エルミイネ‥‥ヘエルミーネ?
「シャミヤール様。どうか、ロザモンドとお呼びくださいまし。もしかして、ヘルミーネのことでしょうか?」
ジョゼフィーヌは青い瞳を瞬かせた。すぐに笑顔を取り戻す。
「わかったわ、ロザモンド様。ロタリンギア風に呼ばれているのね。ええ、そう。ヘルミーネのこと。彼女は私の遠縁で、兄と同じ時期に学園で学んだの。今度お茶会にお招きした時、ご一緒に参加してくださると嬉しいわ」
思わぬところで、つながりができてしまった。
「お誘いありがとうございます。ヘルミーネにも申し伝えます」
「約束よ。あら、剣術が始まるわ。では、ごきげんよう」
ジョゼフィーヌは行ってしまった。
どこへ行くかと見ていると、ストロベリーゴールドのところへまっしぐらである。そこには、生徒会本部の面々が揃っていた。
やっぱり、マリエルも何かのヒロインだよね。
その彼女と親しくするジョゼフィーヌがわたしに近付くということは、わたしは、そっちの方の悪役令嬢なのかしら?
二年目でも、ここでは主にリュシアン絡みのイベントになる。
一年目では、シャルル王子とのイベントが多かったのが、二年目になると、リュシアンの出現頻度が高くなる。婚約者のフロランスが卒業でいなくなったから、狙い目ということなのね。
組分けは、ゲームで見たまんま、アメリちゃんと攻略対象の生徒三人が同じ白組で、サンドリーヌとわたしは紅組だった。
この間見かけた銀髪の女子生徒とも同じ組になったことで、サンドリーヌから紹介された。
ドリアーヌ=シャトノワ公爵令嬢。王子と同じクラスにいて、側近のバスチアンと婚約していた。
彼女は、サンドリーヌを慕っているようだ。つまりは、悪役令嬢の取り巻きだ。
わたしのゲームでの記憶は正しかった‥‥ということは、同じ紅組にいるわたしも、悪役令嬢の取り巻きということになるのかしら?
アメリちゃんの敵には、なりたくないなあ。
「ところで、あそこにいる子は誰?」
こちらは堂々悪役令嬢のサンドリーヌが、偉そうに指し示す。そこには、美少年に囲まれるストロベリーゴールドの頭があった。
クラスメートのマリエル=シャティヨンだ。
少し離れたところに、イーゴリ=オレーグがいる。
二人は、授業で同じグループになることが多い。二人で組になる授業では親しげに言葉を交わすのだけれど、自由時間になると、引き離されてしまう。
明るく気さくなマリエルの周りには人垣ができて、イーゴリはその輪に入れない。
代わりに、他の女子生徒が彼を囲んでしまうのだ。
玉の輿とかコネ作り狙いで擦り寄っているのが見え見えで、傍目にも気持ちの良いものではない。
そんな彼女たちにも、イーゴリは公平に話しかけ、令嬢の夢見がちな心を、更に燃え立たせるのであった。
案外罪な男だわ。
彼には今日も、ソランジュ=ラルミナが側に張り付いている。
その更に後ろに、ナタリー=クルタヴェルが所在なさげに立っていた。副代表委員として、ソランジュに引っ張られてきた感じだ。
「周りにおられるのは、生徒会本部の方々ですね。会長のアルチュール=ゴンドラン様、副会長のガスパル=メーストル様、会計のジョゼフィーヌ=シャミヤール様。真ん中にいるのは‥‥あちらではありませんね」
ドリアーヌが遠目に確認しながら、言わずもがなの念押しをする。名前を挙げなかった唯一の人は、アメリちゃんだ。
悪役令嬢のご友人として、やっぱり彼女は、ヒロインがお気に召さないらしい。
「真ん中にいるのは、わたしと同じクラスのマリエル=シャティヨン伯爵令嬢です。企画委員をしています」
わたしはドリアーヌとサンドリーヌに向けて説明した。髪色が似ているだけで敵を増やすのは、マリエルに気の毒だもの。
「なるほど。シャティヨン家では、先ごろ、優秀な平民を養子に迎えた、と言っておりました。あの子のことですわね」
ドリアーヌが思い出したように言った。口調が和らいでいる。良かった。ピンク頭は全部敵に見える設定じゃないのね。
ホッとしてサンドリーヌを見たわたしは、ひっと声を上げそうになった。
「あのような髪色が、二人と存在するとは思わなかったわ。何も起こらないといいけれど」
平坦な口調で話すサンドリーヌの冷たい水色の瞳が、わたしを見下ろしていた。
お前、何か隠しているだろう、という無言の圧力。
乙女ゲーム関連の話だよね?
今回のイベントで起こるはずの出来事は伝えたわよね。わたしは自分に大急ぎで確認する。
言い忘れたことがあるとすれば、マリエルが続編とか、別ゲームのヒロインがもしれないってこと。
ていうか、わたしだってわかんないのに、説明できないよ。
モテモテピンクを見て、乙女ゲーム関係者を連想するサンドリーヌは、馬鹿には見えない。勉強も、もっと頑張れば王子と同じクラスになれるのに。
あの光景は、スチルっぽい。ヒロインを囲む攻略対象の図ですかね。
ジョゼフィーヌは女子生徒だから悪役令嬢? それにしては和気藹々だ。
言い訳したくとも、今はドリアーヌが側にいる。前世だの乙女ゲーだの、とてもじゃないが、口にできない。
「初めての参加ですもの。何が起きるか、わたしには、全然予想もつきませんわ」
遠回しに、わかりませーん、と言ってみた。サンドリーヌは、ふん、と鼻を鳴らすように息を出しただけだった。
何とか、責められずに済んだみたい。ああ、怖かった。
ちなみに親睦武道会では、同じチームになったシャルル王子とアメリが一緒に仲間を応援することで、好感度を上げることができる。
また、個別にディディエくんを応援すると、彼の好感度が上がる。
メインイベントは、剣術試合だ。個人トーナメント戦で、騎士団長の息子リュシアンが優勝候補。アメリちゃんもここに参加して、ヒロインらしく次々勝ち上がって行く。
ここで使う剣は安全な模擬剣なのだけれど、アメリちゃんが戦う相手の剣だけ本物とすり替えられていて、しかも鎧の紐が切れやすく細工してあったのだ。
そして怪我を負ったヒロインをリュシアンがお姫様抱っこで運び、仇を討つかのように敢然と戦いの場へ赴くのだった‥‥というストーリー。
ゲームでは、剣のすり替えと紐の細工を、サンドリーヌがやったことになっていた。親睦会の前日、各委員が準備を手伝うのだ。
「あら。確かに私、今年は代表副委員になったわ」
イベントフラグの説明をすると、サンドリーヌは言ったものだった。
何でも、新入生の時に委員会活動をしなかったせいで成績評価がダダ下がりし、王子から代表委員をするよう命じられたのだとか。
ゲームのシナリオと違うわよ、それ。
サンドリーヌは一年生の時から、王子と一緒にいたいという理由で、委員会活動をしていた。
それで去年の親睦武道会では、蜂をアメリの馬にけしかけて暴走させたの。
え、やっていない?
でも、アメリの乗った馬は、確かに暴走したって、言っていたよね?
サンドリーヌが本当にやっていないのなら、シナリオ修正力かしら?
悪役令嬢が主人公と違うクラスという時点で、シナリオから外れているのよね。
クラスが違ったら、意地悪もできない。だって、全然会わないもの。
わたしも別のクラスの生徒の名前と顔、いまだに覚えられないくらい。
今回、わたしから情報をもらったサンドリーヌは、前日の準備の間、必ず誰かと一緒に動くようにしたらしい。
それも、なるべく色々な人を選んで。
つまり、アメリちゃんと戦う相手の剣をすり替えたり、鎧に仕掛けをする隙はなかったって、一緒にいた人たちに証言してもらうアリバイ工作をしたって訳。
そして当日は、わたしやドリアーヌと一緒に皆から見える場所に居座っている。
サンドリーヌがやらなければ、理論上、剣のすり替えや鎧の細工は起こらない。リュシアンとのイベントも起こらない。
アメリちゃんがリュシアンルートを選んでくれれば、サンドリーヌもわたしも邪魔しなくて済む。ゲームでは何故かサンドリーヌが死ぬ結末だけど、意地悪しなければ、何とかなるかもしれない。
そのためには、この武道会イベントで、リュシアンとの好感度を上げてもらわないといけないのだ。
去年も、サンドリーヌがやっていないのに、イベントは起きた。今年もイベントは発生するかもしれない。
今度は蜂じゃなくて、明らかに人の手になる妨害だ。
疑われるのは、サンドリーヌのような気がする。
そうなると、バスチアンの婚約者とディディエくんの婚約者は、証人として認められないんじゃないかな。
ヒロインがリュシアンルートを順調に進めても、サンドリーヌが糾弾されたら意味がない。アリバイ工作に協力したと見られて、わたしまで一蓮托生に断罪されるだろう。
悩ましい問題だわ。
親睦会の競技は、順調に進んでいた。
今は、馬に乗ったまま弓で的を射る、流鏑馬の西洋版が行われている。ディディエくんがこれに出場しているのは、ゲームと一緒。
体力を使うのに、平気で馬を乗りこなしている。病弱設定だった彼はどこへ行ったのかしらん。
ディディエくんは、落馬もせず、的にも何とか矢を当てて、競技を終えた。
姉のサンドリーヌも熱心に観戦していた。ゲームじゃ苛めていたんだけれどな。実際には、姉弟の仲はとても良い。
わたしがディディエ推しだったら、嫉妬してしまったかも。そしてアメリちゃんの声援は、離れたこっちの方までよく聞こえてきた。好感度アップだね。
「あんなに大声を出して、はしたないですわ」
ドリアーヌからの好感度は、大幅ダウンだ。
悪役令嬢の手先として仕掛けをする可能性もあったけど、サンドリーヌが命令しなければ、彼女はそこまでやらないんじゃないかと思う。
今日は一緒にいることで、サンドリーヌと彼女自身のアリバイを作っている。
もちろん、彼女は乙女ゲームのことなど知らない。
競技の合間に、ジョゼフィーヌ=シャミヤールがやってきた。ブルネットの豊かな髪を後ろで一つに結び、乗馬服に身を包んだ姿が格好良くて、王子様みたいだ。
「サンドリーヌ様、ドリアーヌ様、調子はいかがですか?」
「よろしくてよ。シャミヤール様、こちらロタリンギア王国から留学中の、ロザモンド=ラインフェルデン公爵令嬢。弟のディディエと婚約しておりますの」
とサンドリーヌが紹介の労を取る。ジョゼフィーヌは、紹介が終わると、早速わたしへ語りかけてきた。
「ラインフェルデン様の元に、エルミーヌという侍女がおられるでしょう?」
エルミーヌ? エルミイネ‥‥ヘエルミーネ?
「シャミヤール様。どうか、ロザモンドとお呼びくださいまし。もしかして、ヘルミーネのことでしょうか?」
ジョゼフィーヌは青い瞳を瞬かせた。すぐに笑顔を取り戻す。
「わかったわ、ロザモンド様。ロタリンギア風に呼ばれているのね。ええ、そう。ヘルミーネのこと。彼女は私の遠縁で、兄と同じ時期に学園で学んだの。今度お茶会にお招きした時、ご一緒に参加してくださると嬉しいわ」
思わぬところで、つながりができてしまった。
「お誘いありがとうございます。ヘルミーネにも申し伝えます」
「約束よ。あら、剣術が始まるわ。では、ごきげんよう」
ジョゼフィーヌは行ってしまった。
どこへ行くかと見ていると、ストロベリーゴールドのところへまっしぐらである。そこには、生徒会本部の面々が揃っていた。
やっぱり、マリエルも何かのヒロインだよね。
その彼女と親しくするジョゼフィーヌがわたしに近付くということは、わたしは、そっちの方の悪役令嬢なのかしら?
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