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36 愛している?
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外はすっかり夜だった。
長い一日だった。冒険から戻った足でリンデン商会へ行き、そこから城へ送り込まれた。従って、今夜の宿をとっていない。
「酒場の上が空いているか、片端から聞いていこう。ダメなら飲み明かす」
「はい」
勝手に出てきた形で、お迎えの馬車もない。徒歩である。高台にある城から街場まで、結構な距離を歩く羽目に陥った。おまけに俺たちは夕食を取っていないのだ。エイリークの肩に止まる鳩でも食ってやろうか。
時折巡回の兵士と行き合う度に、説明するのが面倒臭い。あちらも徒歩だから、送ってもらうこともできない。
「よろしかったのですか?」
隣を歩くエイリークが尋ねる。俺が、二度と母に会うつもりがないことに、気付いている。
「今更、親子ごっこもないわ。互いに同じ世界にいて、好きなように暮らしていることがわかっただけで、充分だと思う。エイリークは、もし見つかったら、ご両親と一緒に暮らしたい?」
エイリークは、なるほど、と大きく頷く。
「確かに。取り立てて、そのようには思いませんね」
「でしょう?」
「ですが、女王は、お父上を探しておられたのかもしれません」
「そうか」
生まれる前に亡くなった、俺の父親。今はとても、そんな風には見えなかったが、ハーレムを始めた当初は、父を探す目的だったかもしれない。
俺も、父が転生していたら、会ってみたいと思う。
「もし父が転生していたら、絶対に私を探し出して、会いに来てくれる」
「そうですね」
何となく、父は転生していないような気がした。
二人並んで歩き続ける。高度が下がるにつれ、却って街の灯りが見えにくくなった。代わって海の暗さが浮き上がる。
目的地が近付いていた。城の入り口に当たる通行門が見える。兵士がこちらに気付き、待ち構えている。
あの門をくぐったら、母と決別した俺の、新しい人生が始まる。
「エイリーク、愛している」
エイリークの足が止まった。俺も止まる。
「ここで言いますか」
「え、何?」
自分でも思いがけず溢れた言葉だったが、それ以上にエイリークの反応が予想外過ぎた。
「愛しているって、初めて聞きました」
「そうだっけ? さっきも言ったし」
「あれは私のことですか?」
「むしろ逆に誰のことだと?」
「言葉の綾かと」
あれだけ繰り返し説いたのに、一ミリも浸透していないのか。俺は、ダメ押ししてみる。
「いつも好きって言っているじゃないの」
「セックスの時ですよね。私とのセックスが好き、という意味だと思っていました」
そういう解釈があったか。
これはもう、真っ向勝負するしかない。
俺は、正面に回り、エイリークの手を取った。
「エイリーク。俺は、お前を愛している。新たに得た、この人生を、お前と共に歩みたい」
エイリークは、顔を赤くし、それから青くなった。しかし、手は振り解かなかった。
「私も‥‥愛しています、ユリア様」
「エイリーク」
「ニルス=ホウ氏にキスされて気付いたのです。気持ち良くても、嫌なことがあると」
「ああ」
「それに、あなたが彼に嬲られるのを見て、自分の独占欲にも気付きました。サク・トニソン氏との勝負の時も、負けることそのものより、あなたが彼に抱かれることが嫌でした。私はユリア様を、他の男に取られたくありません」
「エイリーク、嬉しい」
俺はエイリークに飛びついた。鳩が飛び立つ。しっかりと抱き止められた腕の感触にときめきつつ、唇を差し出す。
「でも、あなたとファツィオがするのは、受け入れられます」
「‥‥?」
「私も、ファツィオになら抱かれても」
頬を染めるエイリーク。おい。
母といい、エイリークといい、前世で溜め込んだ分、今世で性欲を解放しているのだろうか。俺は唇を尖らせたまま、固まる。
「ゴホゴホ! そこの二人。ここは城内だ。いかがわしいことをするなら、外でやってくれ」
城門の警備兵が、痺れを切らして迎えに来た。
「まず、鳩を返しに行かねばなりません」
エイリークが言った。その微笑みは、今の俺に辛い。
クルックー。
鳩が、エイリークの頭に止まった。
街に出たら、真っ先に鳥籠を買ってやる。
そして、エイリークを勃たせて、精液を一滴残らず搾り取るまで離してやらない。
鳩を返すのは、その後だ。
終わり
* トランプゲーム参考 ニンテンドーホームページ
長い一日だった。冒険から戻った足でリンデン商会へ行き、そこから城へ送り込まれた。従って、今夜の宿をとっていない。
「酒場の上が空いているか、片端から聞いていこう。ダメなら飲み明かす」
「はい」
勝手に出てきた形で、お迎えの馬車もない。徒歩である。高台にある城から街場まで、結構な距離を歩く羽目に陥った。おまけに俺たちは夕食を取っていないのだ。エイリークの肩に止まる鳩でも食ってやろうか。
時折巡回の兵士と行き合う度に、説明するのが面倒臭い。あちらも徒歩だから、送ってもらうこともできない。
「よろしかったのですか?」
隣を歩くエイリークが尋ねる。俺が、二度と母に会うつもりがないことに、気付いている。
「今更、親子ごっこもないわ。互いに同じ世界にいて、好きなように暮らしていることがわかっただけで、充分だと思う。エイリークは、もし見つかったら、ご両親と一緒に暮らしたい?」
エイリークは、なるほど、と大きく頷く。
「確かに。取り立てて、そのようには思いませんね」
「でしょう?」
「ですが、女王は、お父上を探しておられたのかもしれません」
「そうか」
生まれる前に亡くなった、俺の父親。今はとても、そんな風には見えなかったが、ハーレムを始めた当初は、父を探す目的だったかもしれない。
俺も、父が転生していたら、会ってみたいと思う。
「もし父が転生していたら、絶対に私を探し出して、会いに来てくれる」
「そうですね」
何となく、父は転生していないような気がした。
二人並んで歩き続ける。高度が下がるにつれ、却って街の灯りが見えにくくなった。代わって海の暗さが浮き上がる。
目的地が近付いていた。城の入り口に当たる通行門が見える。兵士がこちらに気付き、待ち構えている。
あの門をくぐったら、母と決別した俺の、新しい人生が始まる。
「エイリーク、愛している」
エイリークの足が止まった。俺も止まる。
「ここで言いますか」
「え、何?」
自分でも思いがけず溢れた言葉だったが、それ以上にエイリークの反応が予想外過ぎた。
「愛しているって、初めて聞きました」
「そうだっけ? さっきも言ったし」
「あれは私のことですか?」
「むしろ逆に誰のことだと?」
「言葉の綾かと」
あれだけ繰り返し説いたのに、一ミリも浸透していないのか。俺は、ダメ押ししてみる。
「いつも好きって言っているじゃないの」
「セックスの時ですよね。私とのセックスが好き、という意味だと思っていました」
そういう解釈があったか。
これはもう、真っ向勝負するしかない。
俺は、正面に回り、エイリークの手を取った。
「エイリーク。俺は、お前を愛している。新たに得た、この人生を、お前と共に歩みたい」
エイリークは、顔を赤くし、それから青くなった。しかし、手は振り解かなかった。
「私も‥‥愛しています、ユリア様」
「エイリーク」
「ニルス=ホウ氏にキスされて気付いたのです。気持ち良くても、嫌なことがあると」
「ああ」
「それに、あなたが彼に嬲られるのを見て、自分の独占欲にも気付きました。サク・トニソン氏との勝負の時も、負けることそのものより、あなたが彼に抱かれることが嫌でした。私はユリア様を、他の男に取られたくありません」
「エイリーク、嬉しい」
俺はエイリークに飛びついた。鳩が飛び立つ。しっかりと抱き止められた腕の感触にときめきつつ、唇を差し出す。
「でも、あなたとファツィオがするのは、受け入れられます」
「‥‥?」
「私も、ファツィオになら抱かれても」
頬を染めるエイリーク。おい。
母といい、エイリークといい、前世で溜め込んだ分、今世で性欲を解放しているのだろうか。俺は唇を尖らせたまま、固まる。
「ゴホゴホ! そこの二人。ここは城内だ。いかがわしいことをするなら、外でやってくれ」
城門の警備兵が、痺れを切らして迎えに来た。
「まず、鳩を返しに行かねばなりません」
エイリークが言った。その微笑みは、今の俺に辛い。
クルックー。
鳩が、エイリークの頭に止まった。
街に出たら、真っ先に鳥籠を買ってやる。
そして、エイリークを勃たせて、精液を一滴残らず搾り取るまで離してやらない。
鳩を返すのは、その後だ。
終わり
* トランプゲーム参考 ニンテンドーホームページ
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