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24 恥ずかしくなる

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 「自分の手で達しなさい」

 「で、でも」

 ファツィオも俺もガン見している。
 未だ、たらたらと粘液を垂らし続ける膣を絶賛大公開中の彼女ではあるが、自慰を見られるのは、また別の恥ずかしさだ。

 「では、これは他の者に任せよう」

 ニルスが黒光りする陰茎を上着で隠そうとする。俺に目線を送られた気がして、懸命に逸らした。目を合わせたら、喜んで自分から股を開く自信があった。

 「い、致します。すぐに」

 ヘリヤも俺の顔を見て、危機感を覚えたらしく、いきなり両手を股へ持っていく。クリトリスと膣口を同時に弄り出した。早くもびくびく痙攣じみた震えが出始める。

 「はあっ、あっ、あっ」

 荒い息遣い、小刻みな呼吸、流れる涙と涎、全ては彼女が絶頂を迎えたことを示していた。
 もう、声を抑える意識も飛んでいる。エロい喘ぎが部屋中を満たし、男たちの視線を集中砲火で浴びるヘリヤの肢体は火照ほてっていた。

 ここでエイリークのことを思い出したのは、俺が女体化したせいだろうか。
 微笑みを絶やさないニルスは勿論、ファツィオもオナニーでイキまくるヘリヤから目を離せない。

 エイリークは、書類に目を落としたままだった。
 前世と変わらず、すごい集中力、と感心する。彼も男だ。女が性器を露出していたら、目を引かれてもむを得ない。
 ただよく見ると、こめかみに汗がにじんでいる。大分無理をしているようだ。

 みさおを立てられた訳でもないのに、俺は何だか嬉しくなった。ついでだから、一緒に書類を確認する。
 嬌声が絶えず耳を刺激する中で、細部まで検討するのは困難だった。

 「あっ、も、もうっダメっ!」

 いきなりヘリヤが、クタッと崩れた。勢いでソファからずり落ちるのを、素早くニルスが止める。彼女は意識を失っていた。

 「契約のお話ですが」

 妻の衣服を整えるニルスに、エイリークが話しかけた。唐突ではあるが、終わるのを待って声をかけたとも考えられる。

 「はい。よろしければ、サインを」

 ニルスも普通に応対する。間に挟まった痴態を無視すれば、完全にビジネスモードで会話は繋がっている。

 「残念ながら、今回の契約は諦めます。今後も、あなた方との契約条件が同様であれば、私がお受けできる仕事はありません」

 俺もニルスも、予想外といった顔になった。ファツィオだけは、満足そうな顔をしている。
 これは、契約でルンデン商会に、エイリークの身柄を縛らせたくないからだろう。

 「参考までに、どのような点にご不満があったか、お聞かせ願えますか」

 さすがに商売人のニルスは、即座に立ち直った。いつの間にか陰茎は服の下だ。

 「今回、船便の護衛ということですが、契約上は、私が船を商会から借りて荷主として運ぶ個人事業主となっております」

 「その方が、成功報酬を多くお支払いできるからです。護衛単体で雇うと経費も膨らみます。形式上のことですよ」

 「しかし、契約は契約です。急な荒天や、海棲かいせい生物の襲撃などによって荷物や船に損害が生じた場合、護衛を請け負った私が、賠償責任を負うことになります」

 それはダメだろう。ファツィオの表情も引き締まる。彼もそこまで読み込んではいなかったと見える。ヘリヤの観音様を拝んだ分、集中力ががれたのだ。

 「天候なら、出発前に確認します。無理な出航はしません。皆さん、同じ契約書を使っています。現に、それで上手くいっていますよ」

 ニルスには、一点の曇りもない。転生者が俺みたいにチート能力者ばかりなら、確かに成功率をほぼ百パーセントと見込めるだろう。

 ただ、エイリークは立場がちょっと違う。
 とここで、俺に視線が向きそうな気配を察し、エイリークへ目を移した。

 落ち着いて対応しているように見えるが、緊張しているのがわかった。
 かつて憧れた相手が、グレーな変態商売人にし、敵対しそうな状況なのだ。かつての上司としても、今の恋人としても‥‥ではないが、とにかくここは、俺の出番である。

 「まあまあ。そちらのお仕事のやり方に、口を出すつもりはありませんよ。ただ、エイリークと私は、形式上でも下請け業務はしない、ということで。二人とも、一介いっかいの冒険者に過ぎません」

 ニルスの目を見るのが怖いので、安全を期して股間に視線を固定して話す。
 明るい声を作っているものの、笑えている自信はない。今、実際に顔を見られたら、大分おかしな感じになっているに違いない。

 「ふふっ。一介のって」

 案の定、俺の顔を見たと思しきニルスが笑い声を漏らす。

 「ユリアの言う通りです。それに、私は船酔いするたちなので、どのみち海路の仕事はできません」

 「そうなの?」

 エイリークの告白に、思わず突っ込む。

 「はい」

 俺たちは、前世で内陸の出身だった。確かに、船に乗る機会はほぼなかった。
 それなら逆に、船酔いする性質だと、いつ知ったのか、という疑問も生じるが、乗り慣れないには違いない。

 「船酔いも、ユリアさんの魔法で、どうにでもなると思いますがね。でも、まあいいでしょう。今回は不成立ですが、またお声掛けしますので、前向きにご検討ください」

 ニルスが引き下がった。ヘリヤのまぶたがピクピク動く。意識を取り戻しそうだ。助かった。

 「これからご褒美を与えるところ、ご覧になります? よろしければ、ご一緒に近くでもらっても‥‥」

 「いいえ。体調が良くないので、帰ります」

 エイリークは即座に断った。
 残念そうなニルス夫妻を残して、俺たち三人はルンデン商会を後にした。


 エイリークの体調が悪いのは、帰宅の口実ではなく、本当だった。
 三人一緒に表玄関まで案内される間に、みるみる顔色が悪くなっていく。

 「うちの馬車を待たせている。とりあえず乗って」

 ベタウン子爵紋のついた立派な馬車へ、エイリークを抱えるようにしたファツィオが乗る。続けて俺も乗り込むと、何で? と無言で問われたが、無視を決め込んだ。
 ファツィオも追い出すまでは、しなかった。

 布張りの心地よい座席に身を沈めると、一気にエイリークの体から力が抜けた。

 「すみません、ファツィオ卿」

 「無理に話さなくていいですよ。それに、もう敬語も要りません」

  どさくさに紛れてエイリークを抱きしめるファツィオが、首元に唇を当てる。

 「熱がある」

 真面目な顔で俺に言うから、文句を言い損ねた。

 「ここのところ、いろいろあったから、疲れが出たのかも」

 「あそこで出たものに、何か入っていないよな? お前、遠慮なく食べていたものな」

 過去、媚薬をエイリークに盛ったファツィオらしい観点だ。今更、ルンデン商会で出た茶菓の鑑定はできない。代わりにエイリークを鑑定する。

 「毒も媚薬も盛られていない。単なる状態異常。やっぱり疲れかな」

 「良かった」

 ファツィオがエイリークの髪を撫でる。エイリークは、眠りかかっているように、半ば目を閉じて逆らわない。
 これは、俺が彼の目の前でニルスとディープキスした仕返しだろうか。違う。それだけ体が弱っているのだ。

 俺のくだらない嫉妬を感じたみたいに、ファツィオがこちらを向いた。

 「うちで療養させる。お前も泊めてやる。ご病気のエイリーク様に、手出しするなよ」

 「ご厚意痛み入ります」

 俺はせめてもの嫌味を返した。そんなことは、言われるまでもない。
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