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19 街で襲われる
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「おい。いい女連れているな」
人気の途絶えた裏通りへ入ると、ジャグリング芸人ではなく、別の男から声がかかった。
「攻撃魔法は控えてください」
騎士団の追捕を心配したエイリークが俺に念押しし、振り向いた。
俺も倣う。付きまとう気配には気付いていた。敢えて暗い路地に入ったのだ。
見知らぬ男たちが、道を塞ぐように立っていた。
四、五人いる。格好から推すに、冒険者崩れの賊といったところだ。
地道な依頼を嫌い、実力に見合わない仕事を請け負っては失敗を繰り返すうちに、登録抹消の憂き目に遭う。
次に連中は、手っ取り早く稼げる不法行為に手を染める。
そういう連中を狙って雇う組織も、あると噂される。
「お褒めに預かり、どうも」
エイリークが真面目に返す間に、鑑定眼を使う。見た目通りの盗賊だった。
魔法が使える奴はいない。人数は多いが、エイリークなら勝てる。
俺は、ほっとした。邪魔にならないよう、後ろへ下がりつつ、防御魔法を。
むにゅ。
「ええ乳しとるのぉ、姉ちゃんよぉ」
鳥肌が立った。エイリークが背後を確認しようとする。前にいた賊が、一斉に飛びかかってきた。反射で抜剣して応戦するエイリーク。
「はあ~ん」
わざと艶っぽい声を上げると、俺の乳を鷲掴みにした男は、役目を忘れ舌なめずりした。その股の間に太ももを差し入れ、息子をちょいちょいと刺激してやる。
「この淫乱め」
目の前の乱闘そっちのけで、股間も固くし、涎でテカるだらしない唇を俺に向けた。歯石とヤニまみれの汚い歯が覗く。
芝居でも触れたくない。
俺は、昏睡魔法をかけた。危ういところで、エイリークの言葉を思い出したのだ。
電撃を顔面に食らわせて殺すよりは、マシだろう。
崩れ落ちるゲス男をそのままに、エイリークを振り返る。
ちょうど敵を撃退したところだった。
地面に転がる三人と、仲間を捨てて逃げ去る二人を見送りもせず、俺に駆け寄った。
「怪我はありませんか? 油断しました。危ない目に遭わせてすみません」
「私は無事よ。邪魔になっちゃって、こっちこそごめん」
俺は、はみ出しかけの乳を押し込みつつ謝った。エイリークが、昏睡男を凄い目で睨んで剣を突き立てかけ、ギリギリで止めた。
刺したら目を覚ましてしまう。その時も生きていれば。
「二人取り逃しました。まず、この場を離れましょう」
「どうせ雇われ者よ。逃してもそれまででしょ」
場を離れるのは賛成だった。俺たちは急いで表通りへ出、人通りの多い道を選んで家まで戻った。
そこから大会当日まで、俺たちは外へ出なかった。
背中をエイリークの唇が這い上る。膣には彼の陰茎が根元までズッポリ収まっていて、小刻みに動く振動と相まって、快感を増幅する。
「ああっ」
歓喜の息を漏らすと、エイリークが反応して、動きを激しくする。腰をがっちりと掴まれ、陰茎が膣壁を何度も往復する。
「ふううっ、イクッ」
「私も、ユリアッ」
エイリークが上体を密着させる。射精した後は、息子を口でお掃除してあげる。すると、たちまち息子が復活する。
「また勃ってしまいました」
「大丈夫。またすればいい」
抱き合いキスを交わす。性器同士が擦れ合って粘着質な音を立てる。上では口内唾液交換でやはり湿った音がする。
俺の家には、偽装やら罠やら監視装置やら、チート能力を駆使して色々仕込んであった。
だから、自然災害級の攻撃に見舞われない限り、家に籠るのが一番安全だった。
で、家にいればヤることは一つである。
エイリークが俺をゆっくりと仰向けに倒し、両足を広げて持ち上げる。
「ユリア、挿れますね」
「うん。来て」
ぬるっと滑らかにエイリークが入ってきた。胸元にキスされ、乳首を舐められる。
「ああ、エイリーク。気持ちいい。好き」
「私も気持ちいいです」
ズボズボズボ。ぐちょぐちょぐちょ。
エイリークは絶倫である。一回ヤったらもう、抑えが効かなくなったみたいだった。
一日に何回も交わった。
ただ以前と違い、大会へ向けた準備を優先した。
転生したばかりの同居では、嬉しさのあまり、中毒者のように日がな一日セックスしていた。
食事や風呂や睡眠さえも、時に後回しするほど夢中だった。
そのせいで、エイリークが家を出たのだ。遅かれ早かれそういう日は訪れたにしても、俺がやり過ぎたせいで早まった感は否めない。
今度は、間違えない。
俺たちは、大会当日を無事に迎えた。
二人で会場の闘技場まで歩いた。周囲は、同じ方向へ進む人々で、いっぱいである。
「人気のイベントなんですね」
「そうね。いい席を取るために、早く行くみたいよ。貴賓席は別だけど」
俺は、仕入れた知識を披露する。今日は、ファツィオも警備で会場に入る予定だ。
お籠り中、彼とも一切連絡を取らなかった。安全のためでもあるが、正直なところすっかり忘れていた。
エイリークとやり放題だった夢のような期間を思い返すと、いささか後ろめたい。彼の後押しなくして、あの生活は実現しなかった。
『出場者受付はこちら』
プラカードを掲げた案内人を見つけたところで、別れることにした。
「じゃあ、無事を祈るわ。終わったら食事しよう」
「はい。お守りを、ありがとうございます」
魔法攻撃や呪いを跳ね返すアイテムを渡していた。鎧や武器を強化する防御魔法もかけてある。
本人が魔法を使えないのだ。この程度の保護は、当然だ。
離れた場所から、エイリークが無事に受付を済ませて中へ入るまで確認する。
出場者の中に刺客がいれば、その先が危ないのだが、俺の役割はここまでだった。
一般客の入場口へ向かう。既に行列である。
「冷たい飲み物は如何? 中で買うと高いよ」
「一口パンいらんかね。腹持ちするよ」
並ぶ客相手に商売を仕掛ける者がいる。会場周りには、屋台が立っていて、そちらもそこそこ客がついていた。
順番が来て、入場料を払う。出場するにも観戦するにも、金を取られるのだ。
会場使用料や人件費といった運営費もかかるだろうが、主催のルンデン商会は、充分儲けていそうだ。
俺は、真ん中辺りの闘技場全体を視界に収められる席に、座ることができた。観客は後から後から増えていく。しまいには、通路に立ち見するまで詰め込まれた。
立ち見客を押し退けつつ、ここでも物売りが歩き回り、あちこちで飲食物を売り捌いていた。建物が崩落しないか心配になる。
ところどころに、騎士が配置されているのが、見えた。
ファツィオの姿は確認できない。貴賓席にでも詰めているのだろうか。貴賓席は俺の上方にあって、ここからは見えない。
「紳士淑女、老若男女の皆さん!」
司会による宣言で、大会が始まった。主催者や来賓の挨拶などという面倒なものは全部すっ飛ばして、いきなり予選である。
一応この国の王族や、近隣諸国からもお偉い人が来ている、と雑に断っていたが、それでいいのか?
観客にはもちろん、その方がいい。
闘技場に、参加者が入場する。狭い入り口から出た途端、散開する。
結構な人数だった。エイリークは後ろ姿だったが、すぐに見つけた。対戦相手の見た目がゴツい。
「最初の一戦で、半分残ります」
司会がルールと合わせて解説する。
一対一で戦うこと。武器は両手に持てるまで。つまり最大二つ。魔法使用可能。使い魔は不可。相手が負けを認め次第、すぐに攻撃を止める。武器使用の場合、全ての武器を落としたら負け。魔法や素手は降参あるいは気絶で負け。攻撃時は急所を外す。
ただし、死んでも相手や主催者は責任を負わない。そして試合の進行を妨げないこと。
「決着がついた組は、速やかに所定の場所へ移動してください。では、始め!」
一斉に起こる剣戟の音。武器を用いた戦闘スタイルの出場者が多い。
魔法らしい光も散発的に起こるが、魔法一辺倒の者は見当たらなかった。ただ、大勢いるので見落としているかもしれない。
「ファイティング!」
「いいぞ、やれやれ!」
「父ちゃん頑張れ!」
「きゃあ、素敵!」
観客もそれぞれの目当てに声援を送る。早くも勝敗の決した組が、端へ退いていく。
他の出場者が戦っている脇をすり抜けて行くので、互いに気を遣う。戦場とは違うが、ちょっとした混戦状態である。
エイリークはと見れば、ゴツい大男の振り回す棍棒を身軽に避けながら、確実に相手へダメージを与えていた。追い詰められているように見えるせいか、大男は明らかにテンションを上げている。
ふと、後ろで戦っている二人組が気になった。
長剣で互いに打ち合っている。互角のように、どちらも相手にダメージを与えていない。全く。
一見、派手に戦っているようだが、その実、剣を打ち合わせているだけのように感じられた。まさか。
思わず腰を浮かせ、身を乗り出した。エイリークに警告を発するにも、ここからでは遠すぎる。
観客席と闘技場の間には、ファツィオが言った通り、防御壁が張られていた。
ルールを無視したとしても、直接援護はできない。
ごつい大男が、急に姿勢を崩した。エイリークの攻撃が、効果を表してきたのだ。メイスを地面に打ちつけた大男が体勢を立て直し、改めてメイスを大仰に振りかぶった。
その時、チラリとエイリークの背後へ目をやったのが顔の動きで見て取れた。二人組の動きが僅かに鈍くなったように見えた。
「エイリーク、これでお前もおしまいだっ!」
というような感じの喚き声と共に、メイスが振り下ろされる。大振りな動きで、避けるのは容易い。その落下地点へ、二人組が切り結びながらもつれ込む。
「あっ」
エイリークはすれすれで避け、膝をついた。体勢を崩した流れで剣が二人組の一方に当たり、彼らを転ばせた。間を空けず、一瞬呆けたメイス男の手首に、剣を叩きつけた。
メイスが、ポロリと落ちた。
「やった」
エイリークの勝ちだ。俺はほっとして腰を下ろした。二人組は転んだ際に、片方が武器を落としたようで、こちらも勝敗が決した。
「大丈夫ですか」
と多分言っているのだろう。エイリークが二人組へ近付く。死角になった大男がメイスを両手で拾い、振り上げた。
バシッ。
そのままの姿勢で不自然に固まった。二人組が、わかりやすく挙動不審になる。
警備が来た。審判も担う係員とは異なる服装で、一目瞭然だ。
「ちょっと、あそこ何やってるの」
「誰かインチキしやがったんじゃね? 魔法で縛っているんだ」
近くにいた男女の連れが言い交わす。どんどん決着がついて戦いが減っていく場に、不自然な人の塊ができて、少なからぬ観客の注目を集める。
目を凝らして観察していると、エイリークは無事に勝者と判定された。良かった。優勝されても困るが、予選負けも面白くない。
大会で負った怪我は、待機する魔法使いが治癒する手筈になっている。出場料は保険の意味もあるのだろう。
だが、死んでしまっては治せない。メイスの男と二人組の剣士が、森や街での襲撃を仕組んだのだろうか。それとも彼らもまた雇われたに過ぎないのだろうか。
俺は、エイリークの無事を祈るより他にない。
人気の途絶えた裏通りへ入ると、ジャグリング芸人ではなく、別の男から声がかかった。
「攻撃魔法は控えてください」
騎士団の追捕を心配したエイリークが俺に念押しし、振り向いた。
俺も倣う。付きまとう気配には気付いていた。敢えて暗い路地に入ったのだ。
見知らぬ男たちが、道を塞ぐように立っていた。
四、五人いる。格好から推すに、冒険者崩れの賊といったところだ。
地道な依頼を嫌い、実力に見合わない仕事を請け負っては失敗を繰り返すうちに、登録抹消の憂き目に遭う。
次に連中は、手っ取り早く稼げる不法行為に手を染める。
そういう連中を狙って雇う組織も、あると噂される。
「お褒めに預かり、どうも」
エイリークが真面目に返す間に、鑑定眼を使う。見た目通りの盗賊だった。
魔法が使える奴はいない。人数は多いが、エイリークなら勝てる。
俺は、ほっとした。邪魔にならないよう、後ろへ下がりつつ、防御魔法を。
むにゅ。
「ええ乳しとるのぉ、姉ちゃんよぉ」
鳥肌が立った。エイリークが背後を確認しようとする。前にいた賊が、一斉に飛びかかってきた。反射で抜剣して応戦するエイリーク。
「はあ~ん」
わざと艶っぽい声を上げると、俺の乳を鷲掴みにした男は、役目を忘れ舌なめずりした。その股の間に太ももを差し入れ、息子をちょいちょいと刺激してやる。
「この淫乱め」
目の前の乱闘そっちのけで、股間も固くし、涎でテカるだらしない唇を俺に向けた。歯石とヤニまみれの汚い歯が覗く。
芝居でも触れたくない。
俺は、昏睡魔法をかけた。危ういところで、エイリークの言葉を思い出したのだ。
電撃を顔面に食らわせて殺すよりは、マシだろう。
崩れ落ちるゲス男をそのままに、エイリークを振り返る。
ちょうど敵を撃退したところだった。
地面に転がる三人と、仲間を捨てて逃げ去る二人を見送りもせず、俺に駆け寄った。
「怪我はありませんか? 油断しました。危ない目に遭わせてすみません」
「私は無事よ。邪魔になっちゃって、こっちこそごめん」
俺は、はみ出しかけの乳を押し込みつつ謝った。エイリークが、昏睡男を凄い目で睨んで剣を突き立てかけ、ギリギリで止めた。
刺したら目を覚ましてしまう。その時も生きていれば。
「二人取り逃しました。まず、この場を離れましょう」
「どうせ雇われ者よ。逃してもそれまででしょ」
場を離れるのは賛成だった。俺たちは急いで表通りへ出、人通りの多い道を選んで家まで戻った。
そこから大会当日まで、俺たちは外へ出なかった。
背中をエイリークの唇が這い上る。膣には彼の陰茎が根元までズッポリ収まっていて、小刻みに動く振動と相まって、快感を増幅する。
「ああっ」
歓喜の息を漏らすと、エイリークが反応して、動きを激しくする。腰をがっちりと掴まれ、陰茎が膣壁を何度も往復する。
「ふううっ、イクッ」
「私も、ユリアッ」
エイリークが上体を密着させる。射精した後は、息子を口でお掃除してあげる。すると、たちまち息子が復活する。
「また勃ってしまいました」
「大丈夫。またすればいい」
抱き合いキスを交わす。性器同士が擦れ合って粘着質な音を立てる。上では口内唾液交換でやはり湿った音がする。
俺の家には、偽装やら罠やら監視装置やら、チート能力を駆使して色々仕込んであった。
だから、自然災害級の攻撃に見舞われない限り、家に籠るのが一番安全だった。
で、家にいればヤることは一つである。
エイリークが俺をゆっくりと仰向けに倒し、両足を広げて持ち上げる。
「ユリア、挿れますね」
「うん。来て」
ぬるっと滑らかにエイリークが入ってきた。胸元にキスされ、乳首を舐められる。
「ああ、エイリーク。気持ちいい。好き」
「私も気持ちいいです」
ズボズボズボ。ぐちょぐちょぐちょ。
エイリークは絶倫である。一回ヤったらもう、抑えが効かなくなったみたいだった。
一日に何回も交わった。
ただ以前と違い、大会へ向けた準備を優先した。
転生したばかりの同居では、嬉しさのあまり、中毒者のように日がな一日セックスしていた。
食事や風呂や睡眠さえも、時に後回しするほど夢中だった。
そのせいで、エイリークが家を出たのだ。遅かれ早かれそういう日は訪れたにしても、俺がやり過ぎたせいで早まった感は否めない。
今度は、間違えない。
俺たちは、大会当日を無事に迎えた。
二人で会場の闘技場まで歩いた。周囲は、同じ方向へ進む人々で、いっぱいである。
「人気のイベントなんですね」
「そうね。いい席を取るために、早く行くみたいよ。貴賓席は別だけど」
俺は、仕入れた知識を披露する。今日は、ファツィオも警備で会場に入る予定だ。
お籠り中、彼とも一切連絡を取らなかった。安全のためでもあるが、正直なところすっかり忘れていた。
エイリークとやり放題だった夢のような期間を思い返すと、いささか後ろめたい。彼の後押しなくして、あの生活は実現しなかった。
『出場者受付はこちら』
プラカードを掲げた案内人を見つけたところで、別れることにした。
「じゃあ、無事を祈るわ。終わったら食事しよう」
「はい。お守りを、ありがとうございます」
魔法攻撃や呪いを跳ね返すアイテムを渡していた。鎧や武器を強化する防御魔法もかけてある。
本人が魔法を使えないのだ。この程度の保護は、当然だ。
離れた場所から、エイリークが無事に受付を済ませて中へ入るまで確認する。
出場者の中に刺客がいれば、その先が危ないのだが、俺の役割はここまでだった。
一般客の入場口へ向かう。既に行列である。
「冷たい飲み物は如何? 中で買うと高いよ」
「一口パンいらんかね。腹持ちするよ」
並ぶ客相手に商売を仕掛ける者がいる。会場周りには、屋台が立っていて、そちらもそこそこ客がついていた。
順番が来て、入場料を払う。出場するにも観戦するにも、金を取られるのだ。
会場使用料や人件費といった運営費もかかるだろうが、主催のルンデン商会は、充分儲けていそうだ。
俺は、真ん中辺りの闘技場全体を視界に収められる席に、座ることができた。観客は後から後から増えていく。しまいには、通路に立ち見するまで詰め込まれた。
立ち見客を押し退けつつ、ここでも物売りが歩き回り、あちこちで飲食物を売り捌いていた。建物が崩落しないか心配になる。
ところどころに、騎士が配置されているのが、見えた。
ファツィオの姿は確認できない。貴賓席にでも詰めているのだろうか。貴賓席は俺の上方にあって、ここからは見えない。
「紳士淑女、老若男女の皆さん!」
司会による宣言で、大会が始まった。主催者や来賓の挨拶などという面倒なものは全部すっ飛ばして、いきなり予選である。
一応この国の王族や、近隣諸国からもお偉い人が来ている、と雑に断っていたが、それでいいのか?
観客にはもちろん、その方がいい。
闘技場に、参加者が入場する。狭い入り口から出た途端、散開する。
結構な人数だった。エイリークは後ろ姿だったが、すぐに見つけた。対戦相手の見た目がゴツい。
「最初の一戦で、半分残ります」
司会がルールと合わせて解説する。
一対一で戦うこと。武器は両手に持てるまで。つまり最大二つ。魔法使用可能。使い魔は不可。相手が負けを認め次第、すぐに攻撃を止める。武器使用の場合、全ての武器を落としたら負け。魔法や素手は降参あるいは気絶で負け。攻撃時は急所を外す。
ただし、死んでも相手や主催者は責任を負わない。そして試合の進行を妨げないこと。
「決着がついた組は、速やかに所定の場所へ移動してください。では、始め!」
一斉に起こる剣戟の音。武器を用いた戦闘スタイルの出場者が多い。
魔法らしい光も散発的に起こるが、魔法一辺倒の者は見当たらなかった。ただ、大勢いるので見落としているかもしれない。
「ファイティング!」
「いいぞ、やれやれ!」
「父ちゃん頑張れ!」
「きゃあ、素敵!」
観客もそれぞれの目当てに声援を送る。早くも勝敗の決した組が、端へ退いていく。
他の出場者が戦っている脇をすり抜けて行くので、互いに気を遣う。戦場とは違うが、ちょっとした混戦状態である。
エイリークはと見れば、ゴツい大男の振り回す棍棒を身軽に避けながら、確実に相手へダメージを与えていた。追い詰められているように見えるせいか、大男は明らかにテンションを上げている。
ふと、後ろで戦っている二人組が気になった。
長剣で互いに打ち合っている。互角のように、どちらも相手にダメージを与えていない。全く。
一見、派手に戦っているようだが、その実、剣を打ち合わせているだけのように感じられた。まさか。
思わず腰を浮かせ、身を乗り出した。エイリークに警告を発するにも、ここからでは遠すぎる。
観客席と闘技場の間には、ファツィオが言った通り、防御壁が張られていた。
ルールを無視したとしても、直接援護はできない。
ごつい大男が、急に姿勢を崩した。エイリークの攻撃が、効果を表してきたのだ。メイスを地面に打ちつけた大男が体勢を立て直し、改めてメイスを大仰に振りかぶった。
その時、チラリとエイリークの背後へ目をやったのが顔の動きで見て取れた。二人組の動きが僅かに鈍くなったように見えた。
「エイリーク、これでお前もおしまいだっ!」
というような感じの喚き声と共に、メイスが振り下ろされる。大振りな動きで、避けるのは容易い。その落下地点へ、二人組が切り結びながらもつれ込む。
「あっ」
エイリークはすれすれで避け、膝をついた。体勢を崩した流れで剣が二人組の一方に当たり、彼らを転ばせた。間を空けず、一瞬呆けたメイス男の手首に、剣を叩きつけた。
メイスが、ポロリと落ちた。
「やった」
エイリークの勝ちだ。俺はほっとして腰を下ろした。二人組は転んだ際に、片方が武器を落としたようで、こちらも勝敗が決した。
「大丈夫ですか」
と多分言っているのだろう。エイリークが二人組へ近付く。死角になった大男がメイスを両手で拾い、振り上げた。
バシッ。
そのままの姿勢で不自然に固まった。二人組が、わかりやすく挙動不審になる。
警備が来た。審判も担う係員とは異なる服装で、一目瞭然だ。
「ちょっと、あそこ何やってるの」
「誰かインチキしやがったんじゃね? 魔法で縛っているんだ」
近くにいた男女の連れが言い交わす。どんどん決着がついて戦いが減っていく場に、不自然な人の塊ができて、少なからぬ観客の注目を集める。
目を凝らして観察していると、エイリークは無事に勝者と判定された。良かった。優勝されても困るが、予選負けも面白くない。
大会で負った怪我は、待機する魔法使いが治癒する手筈になっている。出場料は保険の意味もあるのだろう。
だが、死んでしまっては治せない。メイスの男と二人組の剣士が、森や街での襲撃を仕組んだのだろうか。それとも彼らもまた雇われたに過ぎないのだろうか。
俺は、エイリークの無事を祈るより他にない。
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