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17 ライバルとこうかんしてみる

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 天蓋付きベッドのカーテンに仕切られた内側は、二人の体液が混じり合った濃密な空間と化していた。

 「あんっ、ああっ。いいっ。すごくいいっ、エイリーク!」

 「エイリーク様っ。愛しています!」

 俺の膣に咥え込まれた肉棒が激しく前後し、大量の精子を放出した。
 折り重なったまま、二人で息を弾ませる。

 やがて落ち着いた俺は、彼の下から抜け出した。

 「何が悲しくて、恋敵と寝ることになったのかしらん」

 ベッドで賢者タイムに入っていた男が、がば、と起き上がった。

 「それは、僕の台詞だ」

 金髪碧眼にして筋骨たくましい美青年。しかも、貴族にして、騎士団で隊長を務める美丈夫でもある。
 彼と定期的に寝る仲というのは、公平に見て、多くの女性から羨ましがられる関係だろう。本来ならば。

 「さっきまで、散々ヨガっていた癖に」

 「ファツィオだって、私の上で喜んで腰を打ちつけていた癖に」

 一瞬、睨み合い、同時に目を逸らした。互いに、不毛ないさかいとわかっている。

 「それよりユリア。エイリーク様は、相変わらず薬草集めに精を出しているのか」

 ファツィオが話を切り替えた。絶対に喧嘩にならない話題だ。俺も、喜んで話に乗った。

 「ええ。遭遇したゴブリンやオークを一撃で倒しながらね。お陰で最近じゃ、村娘にまで色目を使われているわ」

 ここに、エイリークはいない。

 ファツィオも俺も、エイリークを抱けない欲求不満解消のため、協定を結んで体の関係を続けているのである。


 何でそんなことになったのか、思い返してもあやふやである。
 ファツィオが、エイリーク様以外抱かない、と渋っていたのは、覚えている。俺だって、エイリーク以外の男に抱かれずに済めば、それに越したことはない。

 「前にテントで抱いたじゃないの。それに、領地でも抱いたわよね?」

 「あれは、部下の手前。城で誘ったのは‥‥エイリーク様を抱く時に邪魔されないよう、疲れさせるためだ」

 「うわあ。貴族ってお下劣げれつ。身分の問題じゃないか。人間の品性の問題ね」

 「何だと? 転生直後の隙を狙って、体の関係を持ったお前の方が、よほど下衆げすじゃないか」

 「どうせ私は平民よ。数に入らないって言ったのは、そっちでしょ」

 二人とも、酔っ払っていた。言い訳にはならないが。
 気付いたら、事後だった。しかも、散々ヤって、双方スッキリ目覚めたのである。


 エイリークは前世で俺の部下だった。彼女が男に転生したと知って、俺は女に転生した。
 ファツィオは前世でエイリークの部下だった。この世界が男同士の結婚を認めているのをいいことに、結婚を狙っている。

 彼は貴族でエイリークと俺は平民である。権力を行使すれば、監禁も結婚も可能だ。
 しないのは、好きな人に好かれたい、という単純な思いからである。それは俺も同じだ。

 転生直後から、俺とエイリークは毎日イチャイチャしていたのに、ファツィオと再会して以来、三角関係になってしまった。
 エイリークがどちらか一人に決めてくれれば、俺もファツィオも、身を引くか相手を殺すか覚悟ができるのだが。

 エイリークは、どちらとも付き合いたくないのではないか。
 何せ、前世で処女のまま寿命を終えた冷厳女である。ファツィオも、薄々同じ危惧を抱いているのを感じる。
 でも二人とも、諦めたくないのである。

 それで、同じ悩みを持つもの同士、互いに性欲を発散させているのだった。

 エイリークに知られたら、俺たちが結婚すればいい、とか言われそうだ。前世で華族の末裔と知り合ったことはあるが、そこから考えても、俺に貴族の嫁は荷が重い。


 「今度、ルンデン商会杯闘技大会があるだろ」

 ファツィオの口調から、いよいよ本題が切り出されると知れた。

 俺たちは、単に体をむさぼり合っている訳ではない。互いのやり方でエイリークを見守り、情報交換をしているのだ。
 牽制けんせいし合っている、とも言う。

 「あ~。冒険者にとって登竜門だとか。上手くいけば、騎士に取り立てられるって」

 俺は魔法で二人の体を綺麗にしながら、相槌あいづちを打った。
 ルンデン商会は、複数の国に拠点を持つ一大企業だ。上流階級とも取引がある。

 「騎士団が警備に協力する関係で、出場者の名簿を貰ったら、エイリーク様が出場登録していた」

 「えっ? まさか! エイリークは、そういうの嫌いだと思っていた」

 「やはり知らないか」

 ファツィオは顎に手を当てて考え込む。芸術家の彫刻みたいに、型にハマっている。俺でも、うっかり見惚れてしまうほど美しい。

 「ルンデンのトップは知っているか?」

 「いいえ」

 俺は首を振った。平民の俺が、大商人と面識を持つ機会はない。
 一応、冒険者をやっているから、秘宝級の掘り出し物を見つければ、お知り合いになれるかも知れないが。

 「そうか。僕も、エイリーク様が進んで出場登録したのではない、と思う。ただ、聞くにしても調べるにしても、立場上、肩入れと見られるのは避けたい。肝心な時に助けられないからな。ユリアは出場しないだろ。お前が事情を聞いて、アドバイスもしてくれないか?」

 「アドバイスって?」

 「優勝したら、騎士になれるかは別として、ほぼ強制的に貴族に召し上げられる。上位三位ぐらいまでは、目をつけられやすい。他の貴族に召抱えられたら、僕の手が及ばなくなる。当然、お前もだ。それから対戦中、魔法を使う奴、特に、対戦相手以外から魔法を飛ばす奴がいるから気をつけるように、と」

 「そんな卑怯ひきょうな手を使ってもいいの?」

 「もちろん、出場者以外から援護を受けるのは、ルール違反だ。競技場と観客席の仕切りに魔法で防御壁も張っているし、監視役も配置している。バレたら即退場で、不名誉の烙印も押される。場合によっては罰金も」

 「だが、一か八か試す奴は多い。よくあるのは、出場者同士で取引をして、控えの場から魔法を繰り出すパターンだな。観客席から効果のある魔法をかけるのは、さすがに難しい」

 俺は呆れた。野心のある人間は、チャンスを掴もうと必死なのだ。
 聞けば聞くほど、のんびり過ごしたいエイリークの出場に、違和感がある。

 「仮に無理矢理登録させられたとして、取り消しできないの?」

 「死なない限り。基本的に辞退もできない」

 「え。もしかして、大会前に怪我を負わされるかも知れないってこと?」

 ファツィオは頷いた。そんな表情をされたら、俺に惚れていると勘違いしそうだ。しないけど。

 「頼む。お前にしか、できない」

 「わかった。やってみる」

 俺はエイリークの護衛を引き受けた。本人の承諾なしで。


 早い時間に冒険者ギルドへ顔を出すと、出かけようとするエイリークと鉢合わせた。危なくすれ違うところだった。

 「ユリア。久しぶりです」

 俺の顔を認めたエイリークが、歩を緩めずに軽く手を上げる。女に囲まれて、止まると身動きが取れないのだ。

 「ちょっと確認したいことがあるんだけど」

 「わかりました。歩きながら聞きます」

 しつこく追いすがろうとする女どもをどうにか振り払い、二人きりになる。
 エイリークは女にモテる。本人が一向その気がないところが、余計に彼女らの欲をそそるのだろう。俺の執着も同じかも知れない。

 「ルンデン商会杯に出るんですって?」

 「ああ、はい。出場しないといけないそうです」

 聞けば、周囲から言われ、初めて自分が参加することを知ったそうな。当然、彼の意志ではない。
 ファツィオの懸念が当たった。

 「大会事務局へ問い合わせたところ、私本人かどうか記憶にないながらも、確かに正規の手続きを行ったとのことで、辞退は認められないそうです。書類も見せてもらいました。事務局の代筆でした。それも、よくある事だそうです」

 前世と変わらず、仕事が早い。さすが俺の元部下。

 「誰がやったか、心当たりはある?」

 「いえ。全く」

 エイリークの答えで、俺は逆に犯人の心当たりが掴めた。

 男の逆恨みだ。落とそうと思った女が、エイリークに色目を使ったか親切にしたことの、意趣返しに違いない。具体的に誰とまではわからないが。一人ではなく、複数の可能性もある。

 出場には登録料を支払う必要がある。金を出してまで、となると単独ならかなりの根深い恨みで、複数なら数を頼み、幾つも仕掛けてくるだろう。

 奴、あるいは奴らが対戦中妨害するか、自ら出場して、もしくは事前に潰しにくるか、その全てを準備しているかも知れない、と考えて背筋が寒くなる。
 エイリークが強いだけに、相手がついやり過ぎて大ごとになることもあり得る。

 「競技の進め方は知っているの?」

 「事務局で、一通り説明してもらいました。上位入賞者は騎士になることも可能とか。私は魔法も使えませんし、そこまで行く心配はないでしょう」

 いや、あんた結構強いよ。と心の中でだけ突っ込む。彼は適当なところで負けてくれるだろうか。下手に騎士などになられたら、俺とのイチャイチャ生活が遠のく。

 「ええと。お話は以上でよろしいでしょうか。私も今日の仕事に取り掛かりたいですし、ここから先は、道が悪くなります」

 話しているうちに、城壁の外まで出ていた。行く手には森が見えている。

 「今日の依頼って何なの?」

 「ヒロハヘビノボラズという木の枝を集めます」

 「ヒロは蛇が登らない?」

 そこでエイリークから薬用植物の講義を受けた。話を聞くうちに、森へ入った。まだ、妨害や事前の襲撃について話していない。
 エイリークは説明に身が入り、俺が一緒にいる不自然さを失念している。

 岩を登る段になって、ようやく我に返った。

 「あ。こんなところまでお付き合いいただいてすみません。ここから一人で帰らせるのは危ないですし、岩登りもさせられません。すみませんが、お急ぎでなければ、ここでお待ちいただけますか?」

 俺は鑑定眼を使った。岩の上に、ヒロハヘビノボラズの木が生えていることがわかった。ここから見える位置だ。

 「わかった。枝を落としてくれたら、まとめるよ」

 「とげがあります。触らなくていいですよ。それより、落下物に当たらないよう、気をつけてください」

 エイリークが岩を登っていく。俺は岩を背にして、来し方へ向き直った。

 森へ入る辺りから、複数の気配を感じていた。十分に距離を取り、殺気も発していないせいか、エイリークは気付いてないようだ。
 今、彼が不安定な体勢でいる間に、気配は距離を縮めつつある。

 見える。弓矢をつがえている。殺気がなくとも、落ちたら死ぬではないか。

 俺は素早く魔法を飛ばした。弓矢に電撃を当て、弦を焼き切る。慌てふためくところへ、更に電撃を飛ばして足を潰した。全員戦闘不能に陥らせるまで、数分しかかからなかった。
 神よ、チート能力をありがとう。

 襲撃を防ぎ、ほっとしたところへ、枝が落ちてきた。

 「うっ」
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