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16 仲良くやってみる

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 ファツィオとエイリークの居場所は、簡単に突き止められた。
 意外にも、ベタウン子爵の城内で、魔法は使い放題だった。

 表向き、カシルダの隙をついて部屋を出たことにしてある。
 もともと、彼女は俺の回復後、看護の仕事を放置気味だった。

 離れの扉を開け放つ。書類に囲まれたファツィオと、ヨガのポーズをとったエイリークの視線を浴びた。
 二人が、俺の来る前から離れていたのは、見てわかった。それでも下着姿のエイリークの肌には、濃淡様々のキスマークが残っていた。
 俺は努めて冷静になる。

 「久しぶり。手厚い看護をありがとう。二人とも大した怪我がなくてよかったわ」

 ファツィオは黙ってベルを鳴らした。
 執事がすぐにやってきた。
 エイリークが、扉の陰に身を寄せる。

 俺に気付いた執事は顔を強張らせたが、ファツィオは、有無を言わせず書類を引き取らせた。

 「呼ぶまで誰も立ち入らせるな」

 執事が退室すると、彼は俺に扉を閉めさせた。
 エイリークが隠れ場所を失って出てくる。体格は相変わらず筋肉隆々だが、動きが女性めいて見えた。
 ファツィオとの距離も縮まったようだ。湧き上がる苛立ちを抑える。

 「お前も回復したようで何よりだ。別れの挨拶にでも来たか」

 座ったままのファツィオが口を開く。強気に見えるが、警戒しているのがわかる。

 「提案の前に、まずエイリークの気持ちを聞きたい。この先どうしたいか、教えて」

 エイリークは、戸惑っていた。

 彼は、前世で滅私奉公めっしぼうこうの人生を送ってきた。
 今世でも、転生した途端に俺と付き合うことになり、一応対等な立場と断ってはいるものの、前世の習慣が完全には抜けきっていない。

 前世のあるじにして現恋人と、前世の部下にして現主人同然の男から、それぞれ軍門に下るよう求められて、迷うのも当然だ。
 気持ちがどちらにあるか、自分でもわかっていないかも知れない。

 「まず、二人とも座ろうか」

 ファツィオが気を利かせる。彼も、エイリークの迷いに気付いている。
 俺は、敢えてエイリークから距離をとった場所に、陣取った。

 席に落ち着いてもなお、エイリークは答えない。

 「きっと、エイリークは冒険者として、一人でやってみたいんじゃないかな」

 先回りして答えを言うと、彼の表情に安堵が見えた。当たり。

 「そうか。ならば、ここに住んで」

 「違う」

 同じくホッとしたファツィオが勝手に話を進めるのを、エイリークがさえぎった。

 「私は、王都で仕事を探し、自活したいのだ」

 「前にも説明したけれど、それじゃあ大変だよ。騙されて命を落とすかもしれない」

 「それはそれで構わない」

 「僕は嫌だ。ユリアだって嫌だろ?」

 焦ったファツィオが、俺に話を振ってきた。
 結婚が無理でも、手近に囲っておこうと目論もくろんでいたのだ。

 「別に」

 俺の答えにファツィオが目をく。すかさず続ける。

 「今回のことで、私は追い出されるでしょ。どうせ、エイリークとは一緒に暮らせない。私は、王都へ行くつもりだったの。もしかしたら、たまには仕事を手伝わせてもらえるかもしれないし、お茶を飲むぐらい付き合ってもらえるかもしれない。エイリークがしたいことをして幸せなら、私はそれで十分」

 まんざら嘘でもない。そもそも、嫌われたらイチャイチャできない。
 音信不通になるつもりもない。そこは、チートを駆使くしして何とかする。

 「じゃあ、王都にある僕の屋敷に住めばいい。部屋が沢山余っている」

 羽振の良い貴族の三男坊は、王都にも不動産を持っていた。騎士団勤めなのだ。拠点があるのは当然だった。
 俺は、内心舌打ちする。神よ、お助けを。

 「それでは、子爵のお屋敷に色々ご迷惑がかかります」

 エイリークが他人行儀になった。早くも諦めの気配が漂う。俺が加勢してやる必要がある。

 「お貴族様の屋敷じゃ出入りに気を使うわよ。困った時には頼るとしても、まず、試してみたいでしょ?」

 エイリークに同意を求めると、苦笑しつつ頷いた。
 彼からしたら、一緒にいたい筈の俺が、別れを推奨しているみたいで奇妙に思うのだろう。苦味混じりでも、久々に笑った顔を見た気がする。会ったのも久々だった。

 「だから、ファツィオはこれまで通り騎士団で実績を積んで、エイリークが困った時や、引退する気になった時に頼れるよう、待つのはどうかな。貴族と結婚したら、色々義務があって、自由に冒険できないでしょう?」

 ファツィオの心が、動いたのがわかった。エイリークに貴族の後ろ盾という選択肢を残す重要さに、気付いたのだ。
 俺が恐れていたのは、ファツィオが貴族籍を捨ててエイリークと冒険者になる、と言い出すことだった。

 「それはそうなんだけど、子供が」

 「エイリークは、子供産めないわよ。養子を取るって、言っていなかったっけ?」

 ファツィオが一瞬躊躇ためらって、それから口を開いた。

 「最終的にはそうなんだけれど、僕は、その、ユリアに産んでもらおうと」

 「何て?」

 「だから、前も言ったと思うけど、エイリークがいるところにはユリアも残るだろ? いずれ子供もできるかも知れない。そうしたら、その子を後継者にすればいい。エイリークの子なら歓迎だし、僕が抱いてよければ僕の子ということも有り得る」

 ファツィオも単に俺の排除ばかり考えていた訳じゃないと知って、転生者の連帯感みたいなものを覚えた。

 「お前、それだと三人でヤることに‥‥一度にする必要はないか」

 何故か照れるファツィオ。

 「結婚も、同居もしなくても、三人で仲良くできるかと思って。酔っ払った時の思いつきだけれど、いい考えかと‥‥」

 エイリークに目をやったファツィオが、途中で言葉を切った。
 俺もそちらを見た。

 ドン引きしていた。
 知識は豊富でも、前世処女で生涯を終えた堅物である。
 今世ヤリまくっているのも、俺やファツィオに迫られてのことだ。やることは一緒でも、改めて宣言されて、前世の理性が拒否反応を示したようだ。

 確かに、ファツィオは開き直っている。

 ただ、エイリークさえ良ければ、俺はファツィオに抱かれても構わないのだ。断じて、浮気ではない。

 「ユリアは、嫌じゃないんですか?」

 「え。いやむしろちょっとやってみたいかな、みたいな?」

 つい、正直に答える。更に引かれた感じがした。
 答えを間違ったかもしれない。嫌な汗が、こめかみを伝う。

 「ええと。ファツィオは私以外抱かないと言っていたが、それはもういいのか?」

 確かに言っていた。再会した日に言っていた。ファツィオも言われて思い出したらしい。焦るかと思いきや、嬉しそうな顔になる。

 「妬いてくれるんですか? エイリーク様が望むなら、僕は、ユリアにも挿れません」

 嬉しさのあまり、元の言葉遣いに戻っている。そして、挿れないけど、ヤる気である。
 今度は、エイリークが焦る。

 「妬いてない。二人がしたかったら、どうぞどうぞ」

 「私はエイリークとしたいの」

 「僕はエイリーク様としたいんです」

 俺とファツィオがハモった。

 俺たちは顔を見合わせた。その瞬間、二人の心が通じ合った気がした。
 奴も、エイリークとヤりたくて転生してきたのだ。いわば同志。
 しかして、エイリークは一人しかいない。いがみ合うより協力した方が、彼をより気持ちよく、幸せにできるのではないか。

 多分、病み上がりで久々に体を動かして、ハイになっていた。
 ファツィオも、念願の愛欲三昧で、やはり変になっていたと思う。

 そしてエイリークは、股間を膨らませた状態で固まっていた。愛欲軟禁生活が続き、息子が敏感になっていることも含め、ついに理解の範囲を超えたのだろう。

 「エイリーク様、興奮していますね」

 目ざとくファツィオが指摘すると、赤面するエイリーク。もじもじと両脚を動かして目立たなくしようと、無駄な努力を始める。

 「これは、その、よくわからない」

 「そうなっちゃったら、出してスッキリしましょうよ。私とファツィオで手伝ってあげる、ね?」

 便乗してファツィオに笑いかけると、彼も笑顔を返してきた。自分で言っておいて何だが、二人とも普通の状態ではない。
 エイリークは俺たちの顔を交互に見て、最後に自分の息子を指で弾いた。当然ながら、隆々としたままだった。

 「‥‥では、よろしくお願いします」

 彼は、立ち上がって軽く一礼した。何かを諦めた声のように、聞こえた。


 俺はエイリークの陰茎を口いっぱいに頬張っていながら、膣をも責められている。そこにはファツィオのものが入っているのだ。頭上では二人が舌を絡め合う粘ついた音が続く。

 ファツィオとヤるのは久々だが、その間に随分と上手くなっていた。俺が寝ている間に、どれだけヤッたんだよ、と妬ましく思う気持ちを抑え、これも久々のエイリークを堪能する。

 エイリークに挿れられながらキスをしてたら、ファツィオにアナルを貫かれた。裂けるかと思ったが、意外と丈夫だった。乳房も揉まれる。三人いるから、常にあちこち同時に快感のツボを責められて、溺れてしまいそうだ。

 俺もファツィオも、最初は如何にエイリークを悦ばせようか競っていた。
 途中から、エイリークまでも対抗意識を燃やし出して、相手が誰かはどうでも良くなっていた。彼は前世から仕事熱心なのだ。

 口が空いていれば舌を突っ込むし、乳首が見えれば舐めに行った。互いに同じようにしていたのは、俺の上下の口や乳首が常に誰かにいじられていたことでわかる。

 三人で、何回達したか知れない。そのまま重なり合うように寝落ちして、目覚めた時には夕方だった。
 昼食も取らず人を遠ざけていたので、流石さすがに心配した執事が、恐る恐る様子を見に来たのだった。


 「では、住居が決まり次第、必ず連絡するように。屋敷の場所は教えたな? 連絡先は、騎士団でも構わない」

 「はい、ファツィオ様。色々お世話になりました」

 王都へ馬で戻るファツィオを見送る徒歩の俺たち。背後には執事を筆頭に、使用人の一団が整列している。

 3Pの後、エイリークが一旦単独で冒険者稼業をすることが、すんなり決まった。

 当然、一緒に住む契約は、白紙撤回である。

 とりあえず俺と別れることになる訳だが、勢いで快諾してしまった。

 ファツィオも、エイリークの一人暮らしを認めた。まるで、憑き物が落ちたみたいだった。
 エイリークもまた、肩の力が抜けたみたいだった。王都まで俺と一緒に行くことも、自然と決まった。

 これぞ、3P効果。

 「途中で私が仕事を得たら、先に王都へ行ってくださいね」

 エイリークは、道端のスライムをこまめに潰す。
 王都へ近付くにつれ、モンスターが増えてきていた。体内に小金を溜め込んだ個体がいるのである。

 彼は、路銀を稼ぐところから始めていた。俺もファツィオも、当面の金を渡そうとしたが、断られた。

 「そうする」

 俺は素直に頷いた。もちろん、ただ離れるだけでなく、居場所が確認できるよう、魔法で追跡するか印を付けるつもりだ。

 「たまに、会いに行ってもいいですか?」

 見ると、エイリークがほんのり顔を赤らめていた。
 驚いたが、嬉しかった。時には、距離をとることも必要なのだ。少しは、体以外も、好きになってもらえただろうか。

 「喜んで」

 余計なことを言わないよう、俺は精一杯可愛く微笑んだ。
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