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4 踏み込まれる

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 ギルドで登録し、晴れて冒険者となった俺たち。エイリークは、早速掲示板で依頼を吟味している。

 「経験ないし、最初は薬草摘みぐらいが適当かな。でも、種類の見分けがつかないな」

 「見本なら、こちらでお渡しできますよ。それに、もしモンスターを倒したら、獲れた材質に応じて買取します」

 受付嬢が、いつの間にか、エイリークと俺の間に割って入るように近付き、にこやかに説明した。

 「そうですか。お仕事を中断させてしまい、すみません」

 「いいえ。これも仕事の一環です。それに、今は空いているので、お気遣いなく」

 嘘つけ。受付に冒険者が順番待ちだ。

 受付嬢が離席しているせいで、他の職員が応対しているじゃないか。
 イライラを、かろうじて抑えていられるのは、エイリークが、その女に全く興味を惹かれていないことが感じ取れるからだ。

 エイリークは、前世で女だった。俺は前世が男で今は女。元主従関係だったから、互いのことはある程度わかる。
 前世から性欲が希薄な人、と思っていた。今世で、俺とセックスしまくっているのが、奇跡としか思えない。

 今や、たくましい体に整った顔を持つエイリークには、群がる女が絶えない。最初は、いちいち嫉妬していたが、まずエイリークが相手にしないし、こちらの心も体も持たなくて、今は少し落ち着いた。

 「おおい。受付のねーちゃん。油売ってないで、こっちの仕事、してくれよ」

 とうとう、受付から呼び出しを喰らった。

 「では、受付しますので、どうぞこちらへ」

 どさくさに紛れて、エイリークの腕を取ろうとする受付嬢。ここで、さりげなくエイリークが身をかわした。受付嬢、空振り。

 「いいえ。今は混雑していますから、また後ほど伺います。ありがとうございました」

 丁重に、しかしキッパリと断るエイリーク。
 受付嬢が虚をつかれた隙に、エイリークの隣を取り返した。

 「また、二人で来ます」

 腕に取りついた姿勢で、にっこり微笑むと、受付嬢が引きった笑みを浮かべた。隣でエイリークが笑顔のまま、女を見つめていたから、私をにらめない。ざまあ。

 「ええ。是非とも」

 かろうじて、挨拶を返す受付嬢であった。


 「ユリア。彼女を敵に回すと、仕事探しが不利になりますよ」

 ギルドを出てから、忠告された。

 「何もしてないわよ。見ていたでしょ」

 「ああ。まあまあまあ。私は、ああいうのは、苦手です」

 それが受付嬢を指しているのか、女同士の対決を指しているのかは、不明だ。

 「それより、街が騒がしいのは何故でしょう?」

 「ここの御領主ラヤバッタ伯爵の三男に当たる方が、大型モンスターを倒して凱旋するって聞いたわ。そいつは、手下みたいに他のモンスターを引き連れて、辺境の村を荒らしていたとか」

 俺は、昨日、エイリークが群がる女をさばいている間に、小耳に挟んだ噂を教えてやった。

 「顔立ちから想像もつかないほど武勇に優れていて、普段は王都で騎士団として活動しているとか、未だ婚約者が決まっていなくて、貴族の令嬢はもちろん、大店おおだなのお嬢様からも熱い視線を送られている、とか言ってた。ファツィオ様、だったかな」

 そこまで話して、エイリークが上の空で聞いていることに気付く。

 「エイリーク、聞いてる?」

 「随分熱心に、その方の噂を集めておいでですね」

 「それはエイリークが私を放っておくから‥‥それより今何を考えて」

 「ユリア様ほど美しければ、その方の目に止まることも十分考えられます。何なら」

 ぴんと来た。
 誰か違う女、俺の嫌がることを考えていたに違いない。誤魔化そうとして話を逸らしている。様付けに戻っているのがいかにも怪しい。

 まさか。さっきの受付嬢は範囲外と、思っていたのに。かくなるうえは。

 「ねえ、エイリーク。今日の仕事決まらなかったんだから、宿へ戻りましょうよ」

 俺は彼の腕を絡め取って、ぐいぐいと引っ張った。

 「少し早いですが、昼時ではありますね」

 素直に引っ張られながら、エイリークが同意する。俺は黙って彼を部屋まで連れ帰った。狙いは別にある。

 「むぐっ。ユリア?」

 俺は扉を閉めるなり、エイリークの唇をふさいだ。
 戸惑いながらも応じるエイリークの呼吸が、荒くなるのを聞き定め、舌で唇を開く。同時に手は下履きの前をはだけて逸物を取り出している。
 敏感に育てた彼の息子は、既に腹まで持ち上がっていた。

 俺は下着を脱ぎ捨てて、エイリークの陰茎を割れ目に当てる。キスは続けたままだ。彼の先からも、俺の壺からも液が滲み出て、ぬるぬるする。
 彼の腕に力が入り、俺の背が壁に押し付けられた。

 「こ、このまま、挿れても?」

 「ええ、お願い」

 狙い通り。俺の片足を持ち上げ、穴に近付くエイリークを手伝い、先っぽを少しねじ込んでやった。彼の顔が紅潮する。重力を利用して、そのまま奥へ受け入れる。

 「ふううっ」

 思わず息が漏れる。エイリークは、立ったまま腰を打ちつけ始めた。その耳を舐めると、熱い息が首筋にかかり、耳の後ろを強く吸われた。

 「エイリーク、好き」

 「ユリア」

 唇を合わせてくる。転生したのを幸い付き合い始めて以来、まだ好きと言ってもらえてないけど、今は俺の体を求めてくれるだけで、嬉しい。俺もキスを返しながら、腰をうねらせた。


 いつものように一発じゃ済まなくて、二発三発かました挙句、寝てしまった。外の喧騒けんそうで目が覚める。空腹だ。昼食を撮り損ねた。

 「エイリーク?」

 隣にいる筈の彼を探すと、窓際に全裸で立っていた。窓枠が乳下辺りにあるから、公然わいせつ罪には当たらない。この世界、そういう罪名はないけど。

 「起きましたか」

 彼は、窓の外から視線を俺に向けた。逆光で表情が見えない。

 「ユリアも見てみますか。ちょうど、何とかというご子息の凱旋を、お迎えしているところですよ」

 貴族の息子なぞどうでもいいが、エイリークの側に行きたいので起き上がった。
 俺も全裸で、窓辺へ寄れば丸い胸が、乳首まで見える可能性がある。枕を抱え、いそいそと向かう。窓の幅が狭いのをいいことに、エイリークにピッタリくっつき、外を覗く。

 「うわ、結構集まっているのね」

 宿は、広場近くの大通りに面していて、俺たちの部屋も同じ側にあった。見下ろす道路には、両側に人垣ができていて、ぽつぽつと警備兵の姿もあった。

 見物客は平民だけでなく、貴族らしき人も路面に立って、ヒーローのお出ましを待っている。ざっと見ただけで、女性が多いのがわかった。
 俺たちは最上階の安い部屋だったが、見物には特等席を取ったようなものだった。

 「幅広く人気のある方のようです」

 寝起きのせいか、エイリークの声が妙に冷たい。

 「モンスター見たさとか、お祭り騒ぎが好きな人もいるんじゃない?」

 広場に、臨時で屋台が出ているかもしれない。
 少し人波が引いたら見に行って、小腹を満たそう。がっつり食事をするには半端な時間だ。

 歓声が近付いてきた。

 「来ましたね」

 騎馬が来た。その後ろには、何か巨大な物が載った荷車が続く。

 「お、あれがビッグベアー‥‥ビッグベア? そのままじゃん」

 「でも、前の世界にいるものより大分大きいようですし、見た目も少々異なるように思えます」

 俺は鑑定スキルでモンスターの名前を見て呆れつつ、興奮もしていた。この世界へ来て、初めて見たモンスターだ。
 脇で、エイリークも身を乗り出し、観察している。機嫌も良くなったようだ。観衆の声が一層高まる。

 「ううむ。体毛が普通のクマと違う。あの光沢は、金属かな」

 モンスターに夢中なエイリークの邪魔をしないよう、見物人の視線の先を見る。

 日の光を浴びてキラキラ輝く明るい金髪の貴公子が、馬に乗って歩んでいた。両脇から上がる甲高い声に応じ、左右に向かって手を振っている。

 いや、声の方が手に反応しているのか。馬の毛並みもよく、いかにも理想の王子様らしい姿をしていた。

 多分、あれが地方領主の三男坊だ。
 その金髪が、糸に引かれたように、つ、つうっとエイリークと俺が並ぶ窓の方を見た。遠目にもくっきりと整った顔立ちが見て取れた。
 一瞬後、整った顔は道端の観衆に戻された。エイリークは、ようやくその後ろ姿に目を留めた。

 「あれ?」

 「そう。あれがラヤバッタ伯爵のお坊ちゃんみたい。ねえ、お腹すいちゃった。屋台へ何か、食べに行かない?」

 「ああ、うん」

 変わったクマが気になるのか、落ち着かない様子で窓の外を気にしている。急いで外へ行けば追いつくかもしれない。俺は服を着始めた。エイリークも、つられて服に手を伸ばす。

 ガンッ。

 扉が勢いよく開かれた。そういえば、焦ってかけるのを、忘れていた。
 最初、立ったまま一発ヤッた時に、よく開かなかったな。あんなにエイリークがガン突きしていたのに。いや、開いては閉まり、開いては閉まりしていたのか。そういえば、何か別の音が聞こえていたものな。

 セックスを回想する俺の前に、かんぬきを壊すつもりで体当たりしたらしい兵士が、勢い余って部屋の真ん中に転がり込んできた。
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