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第2章 処女しか吸えないって

ストイック・ヴァンパイア

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 思った通り、ローガンもブレンダも追ってこなかった。
 ちょっと寂しかったけど、生まれ育った環境の違いからくる考え方は、なかなか埋まらない。

 と格好つけて、ただのヤキモチなんだけど。あたしだって、さんざん色んな男とヤってきたのに、自分でも勝手とは思う。

 出てきたはいいけど、どう進めばいいのかしら。とりあえず、街道まで出て考える。

 できれば、大きい町、都会へ行きたいんだよね。
 わからないから、来た時と反対方向へ足を向けた。多分、こっちでいい筈。

 町と町の間は、相変わらず原っぱやら林やら、人気ひとけがない。牛や羊が草を食べているぐらいだ。
 そして、スライム。

 あたしはローガンたちに追いつかれたくなくて、しばらく脇目わきめもふらず歩き続けた。
 そろそろ、今夜の宿を探し始めた方がいいかもしれない。どのくらい歩けば集落があるのか、見当もつかないのだ。

 こんな時に限って、小屋ひとつ見えない。道は林の奥へと続く。あまり深い森ではなさそうだけれど、あたしのトラウマが記憶をつつく。

 そういえば、ゴブリン退治の依頼、多かったよね。

 歩調がゆるむのを、頑張って早めた。遅く歩けば、林を抜けきれないかもしれないし、街道を外れたら、永遠に何処へも辿り着けないかもしれない。

 上からスライムが落ちてきた。

 「ひっ」

 寸前で後ろへ下がり、反射的に抜いた剣を叩きつけた。
 どろどろどろ、と溶けるスライムは死んだ証拠である。
 あれ、何か簡単に死んだ?

 そんな暇はない、と思いつつ、ステータス画面を開く。

 戦士レベル3

 レベルは変わらない。そう言えば、前にスライム倒した時は、レベル1とかだったかも。HPとかMPとか、意味がいまいちわからない数値も、増えているようだ。

 そうか。レベルが上がったから、スライム殺し楽勝になったのね。よかったわ。

 じゃあ、スライムに殺されたジェイって‥‥童貞だったし、レベル1だったのかな。ヤっている最中だったってのもあるよね。
 野外セックス危険。気を付けないと。

 それからあたしは、通りすがりにスライムを倒しまくった。時間がかかりそうな時は、奴らが落とす金を諦めた。
 おごっているかしら。だって、早く宿を見つけたい。そしてレベルも上げたい。


 林は意外と奥深かった。まばらに生える木が、どこまで進んでも終わらない。木々の間から見える空が、どことなく夕方の気配を帯びてきた。本格的にヤバい。

 スライムじゃなくて、もうちょっとだけ強いモンスターは、いないものだろうか。レベルや能力値をスライムだけで上げ続けるのに飽きて、あたしはやたらキョロキョロした。

 しばらく進むと、道から外れた林の奥に、小屋より少しマシな一軒家が隠れていることに、気付いた。

 しめた。今夜の宿は、あそこに決まりだ。女の1人暮らしじゃないといいんだけど。
 ブレンダにローガンを寝取られて以来、あたしは自信喪失気味だった。


 近付いてみると、どの窓にも鎧戸よろいどが下りている。別荘か、廃屋か、どちらにしても、ラッキーだ。あたしは一応、ノックした。

 「すみませ~ん。旅の者です。泊めてくださ~い」

 すると、内側から物音がするではないか。人がいたのか。

 「何だよ、こんな時間から」

 扉を開けた男は、眩しそうにあたしを見た。

 ゲーム世界の住人らしく、いい男である。体が弱くてすぐ倒れそうなはかなげなタイプ。青白い肌に、こけ気味の頬、暗色の髪は真っ直ぐで、はらりと額に落ちかかっているところが、色っぽい。中身日本人のあたしのハートに刺さる。

 「突然お邪魔してごめんなさい。旅の途中で夜になりそうで。ここに泊めてもらえますか」

 あたしは、精一杯愛想良く笑った。
 ローガンから貰った服を着ているせいで、マントの下から鎧をチラ見せする技が使えない。まさか、こんな不都合があるとは、思いもよらなかった。

 男は、胡散臭うさんくさそうな目つきであたしを見た。やっぱりあたしって、鎧の呪力がないと、全然魅力ないのかな。モブキャラだけに。

 「あ、怪しい者じゃありません。一応冒険者なんで、護身のためにも、剣は持っていますけど、服の下だって、ほら」
 「いいや。見せなくていい」

 かがんですそをまくりかけたあたしを、男は制した。ちょっと好みだけに、心が傷つく。

 「名前は?」
 「ユノです」
 「わかった、ユノ。泊めてやってもいいが」

 と、男はあたしの後ろに広がる林を、すかしみた。
 もう夕方だろう。林の中に、早くも夜の暗さが広がりつつあった。

 「俺は特殊な体質で、お前たちと食べる物が違う。食事は用意できない。それでもいいか?」
 「大丈夫です。お願いします」

 変わった人らしい。それでも、ゴブリンやスライムに夜中の林で襲われるより、マシだ。
 あたしは、心から感謝の笑顔を浮かべた。

 家の中へ入ると、獣の匂いがした。

 無意識に匂いを嗅いだらしく、男が奥の部屋へ続く扉を開ける。

 「これが俺の食事」

 むあっ、と獣臭さが濃さを増す。

 きいきい、ガサガサ騒がしい。

 覗いてみると、木製の棚の上に、鉄製のケージがたくさん並んでいた。

 中には、ウサギ、タヌキ、ネコみたいな奴、キツネっぽい奴、と小型から中型の生き物が1匹ずつ入っていて、パズルみたいに、隣同士が別の種族となるよう並んでいた。飼い主に似て、揃って痩せ気味である。

 「肉食?」
 「血を飲むんだ。ユノは処女か?」

 話の流れがおかしいんだけど。あたしは照れながら、正直に答える。

 「えっと、違います」
 「そうだろうな。残念だ」

 うわ。このエロゲ世界にも、処女好きいるのか。それは、なかなかの鬼畜。だって、ヤって捨て、ヤって捨て、の繰り返しだよね。こういう世界じゃ、処女を探すのも大変そうだし。

 あたしの心を読んだように、男が慌てて手を振った。

 「あ、そういう意味じゃない。体質だと言っただろう。処女の血じゃないと、飲めないんだよ」
 「へ」

 それは、あれですか。いわゆる吸血鬼という存在でしょうか。
 思わず剣に手をかけ、銀製じゃないと死なないんだっけ、それは狼男か、と混乱する。

 「落ち着け。お前は処女じゃないんだろう? 一滴も飲まないから安心しろ」

 何となく屈辱感を覚えつつ、あたしは剣から手を離した。

 「処女だって、死ぬほど飲まないけどな」

 それを聞いて、あたしは理解した。

 「もしかして、ここにいる動物」
 「ああ。全部メスだ。子供から育てた」

 今度は気の毒になってきた。

 「そうか。大変なんだね」
 「ああ、大変だ」


 男はイヴァンと名乗った。魔法使いだそうだ。あたしは期待に胸が高鳴った。

 「魔法使い! じゃあ、処女のレベル上げ鎧とか、処女開発鎧とか、聞いたことある?」
 「知っているとも。それを来た女とヤりながら血を吸わせてもらうのが、俺の夢だ」
 「あたし、今それ着ているの」

 マントを脱ぎかけたあたしを、イヴァンが慌てて止めた。

 「待て待て待て。お前処女じゃないだろ。強制発情させられては堪らん」

 これで2度目である。何か訳がありそうだ。

 「処女じゃない人とは、セックスできないの?」

 直球で聞いたら、渋い顔をされた。古風というか繊細というか、面倒臭い奴かも。

 「できなくはないが、キスとかしたら、体液を吸収することになるだろ。処女以外のものを飲んだら、死ぬ」

 アレルギーみたいなものか。触るのはいいけど、飲食はだめなパターンね。

 「そうしたら、挿入だけとか、フェラチオとかは大丈夫なの?」

 フェラチオだけでレベルが上がるかは未知数だけど、この際実験してみたい。

 イヴァンは椅子ごと後ろへ引いた。文字通り引いた。

 処女としか話したことがないのかしら。処女だって、知識を持っている人は持っている。カマトトぶりっ子としか話したことがないとか、まさか。

 「イヴァンって、幼児趣味?」
 「いや、それはない。断じて、ない。そこは自制している」

 椅子から立ち上がって否定した。図星じゃないか。ロリコン決定だ。

 何故あたしの知り合うイケメンは、みんなロリなんだろう。

 でも、鎧の呪いには抵抗できなさそうだから、後で試してみよう。
 フェラだけなら、死にはしないんだよね。できなくはないって、さっき言っていたもの、童貞じゃない訳だ。

 「ところで、食事しなくて大丈夫? あたし、自分の分を、ここで食べてもいいかしら」
 「ああ、どうぞ。俺も、向こうで吸ってくる」

 イヴァンはほっとしたように部屋を出た。あたしは、町で買っておいた携帯食料をちびちび食べた。

 魔法使いなら、鎧を外してもらえるかと期待したんだけど、どうやらイヴァンには無理そうだ。
 見なければ解除できるかわからない、とオレンジ頭のブレンダも言っていた。

 今頃ローガンは、あのおっぱい性人とよろしくヤっているんだろう。イヴァンもブレンダになら、挿れたがるかもしれない。
 あたしだって負けない、と謎の対抗心が燃え上がる。

 キキイーッ。チイチイ。

 隣の部屋から、動物の動揺した声が聞こえてきた。吸血鬼って、催眠術をかけて血を吸うイメージだったんだけど、いつもこんな悲鳴の中で吸っていたのかしら。

 あたしはまたイヴァンに同情した。
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