20 / 48
淡雪、大公と婚礼をあげる
しおりを挟む
僕は居住まいを正して、部屋に光顕を迎い入れた。
入ってきた光顕は普段の兵服とは違い、肩から金のモールが下がった群青色の式服を身に纏っていた。
白い手袋をしたその手には一通の封書を捧げ持つようにしている。
これはただ事ではない。
目茶苦茶嫌な予感がする。
部屋に控えている都筑は兎も角、あの晴でさえもいつもと違い、真剣な面持ちをしているのが証拠だ。
空気の異様さに何だか胃のあたりがキリキリと痛みだした。
気のせいか、目の前がくらくらし、星がチカチカしてきたぞ。
「当主、西蓮寺 直江様におかれましては、来栖家御令息淡雪様とのご成婚の儀の日程をお決めになられ、明後日に執り行われます」
光顕が恭しく爆弾宣言を投下した。
僕は息を呑んだ。
都筑も一瞬、息を止めた。
奪うように届けられた書状を取り、書かれた内容を読むと、僕はぶるぶると震えながらそれを握りしめた。
いま、口を開いたら怒りと羞恥と絶望で何を言いだすかわからないため、晴に目配せをする。
「あまりにも急なことで、心が落ちつかず、言葉もありません。何のご相談もなく、このような突然のなさりよう。大公様のお心が情けなく、とても耐えがたきことにございます」
「陛下からのご下賜されたお品が届けられた以上、引き伸ばせば、陛下からの御不興を買うのは必定。良きご判断かと・・・」
と、晴渾身の抗議を都筑はあっさりと受け流し、光顕に
「幾久しく、お受けいたします」
と頭を下げた。
光顕が「こちらこそ、幾久しくお願いいたします」と返答をする。
「よき日、良き時、万事つつがなく執り行われますようお計らいください」
こら、都筑、お前なにいってんの?
引き延ばせよ。
「それでは、御前を失礼いたします」
光顕が踵を返し、部屋を出ていった。
光顕の姿を見送り、ドアが閉まったのを確認するやいなや、僕は都合に食って掛かった。
「都筑!なに承諾しちゃってるんだよ、お前は‼」
僕は目を見開いて、都筑を睨みつけた。
「お前は、こ、この僕を、この僕をあの殺人鬼に・・・」
怒髪天を衝く怒りに頭に血が上り、言葉がうまいことでない。頭に血が上りすぎて、今にも脳の血管が2、3本ブチギレそうだった。
怒れる僕に都筑は眼鏡のフレームを押し上げながら諭すように
「淡雪様、先日も申し上げましたが、お忘れですか?」
ああ?!・・・そういえば、都筑が何かいってたような・・・
都筑がため息をついた。
「説明しましたよね。陛下からの推しもあり、膠着状態で非常に不利な現状を打開するためにも形式だけでも結婚式をあげて、油断させ、敵の穴をさぐると」
「あっ・・・そ、そういえば・・・」
僕は口ごもった
思い出した。
確かにそんな話したわ。
「思い出されたようで何よりです」
嫌味たらしく都筑が言った。
ちょっと忘れてただけじゃん。
「いやさ、あまりにも急だったから、ちょっとテンパっただけだよ」
「本当に~急でしたから~」
「だよな」
晴の援護射撃に相槌を打つ。
「日を調べ、吉日を選び、障りがない日が明後日だったんでしょうね」
実は、婚儀は三日三晩に渡り行われ、一日でも忌日があってはいけない。
昔から大切な事柄は暦にある六曜十二直二十八宿を基にした暦により決められた日に行う。それを無視して行なうと障りがあるとか上手くいかないといわれている。迷信深い老人達が多いせいか、いまもってお祝事に忌日があれば家が衰退するとか、当主が悲惨な事になるとかこじつけて万事が暦を中心に考えられていた。
皇族や貴族の正式な婚姻ともなるば、一日たりとも凶や瑕疵があってはならず、三日三晩連日で吉日でなければならないため、日の選定ともなると専門家を集め、吟味に吟味を重ねて日を決めるのだ。
日が決まれば、それが例え明日であろうとも行うのが習わしになっている。
嫁ぐ都合も考えず、ホント、迷惑な習わしだよな。
「確かに~途切れ途切れの婚儀って~テンション下がりますよね~相手のイヤなとこが見えたり~なんでこんな人と結婚したんだろうとか~まぁ、所詮、結婚なんて勢いとカン違いからなりたってるんですもんね~婚儀、カン違いで起こす奇跡。それを生む悪夢の三日三晩です~」
晴がなんか哲学的なこと言ってる。
びっくりし過ぎて呼吸が止まったじゃないか。
都筑なんて眼鏡がズリ落ちてるし。
「どうしたんですか~ふたり共~」
「い、いや・・・晴にしては含蓄のある言葉だなと」
都筑の台詞に僕はこくこくと頷いた。
「ああ、これは~先日、離婚して帰ってきたときに姉がいってたんです~」
なんだか婚儀を挙げたら、取り返しのつかないことになりそうな予感が・・・けど、挙げないことに現状を打破できそうにもない。
しかも、まだイマイチ閨で何が起こるのかがわからない。本当にマグロの解体ショーをするのか?
僕は眉間に皺を寄せて考え込む。
考え込んだところで、話はすでに決まっている。
結局、僕の取る道は一つしかなく、急な婚儀を挙げる羽目になった・・・
入ってきた光顕は普段の兵服とは違い、肩から金のモールが下がった群青色の式服を身に纏っていた。
白い手袋をしたその手には一通の封書を捧げ持つようにしている。
これはただ事ではない。
目茶苦茶嫌な予感がする。
部屋に控えている都筑は兎も角、あの晴でさえもいつもと違い、真剣な面持ちをしているのが証拠だ。
空気の異様さに何だか胃のあたりがキリキリと痛みだした。
気のせいか、目の前がくらくらし、星がチカチカしてきたぞ。
「当主、西蓮寺 直江様におかれましては、来栖家御令息淡雪様とのご成婚の儀の日程をお決めになられ、明後日に執り行われます」
光顕が恭しく爆弾宣言を投下した。
僕は息を呑んだ。
都筑も一瞬、息を止めた。
奪うように届けられた書状を取り、書かれた内容を読むと、僕はぶるぶると震えながらそれを握りしめた。
いま、口を開いたら怒りと羞恥と絶望で何を言いだすかわからないため、晴に目配せをする。
「あまりにも急なことで、心が落ちつかず、言葉もありません。何のご相談もなく、このような突然のなさりよう。大公様のお心が情けなく、とても耐えがたきことにございます」
「陛下からのご下賜されたお品が届けられた以上、引き伸ばせば、陛下からの御不興を買うのは必定。良きご判断かと・・・」
と、晴渾身の抗議を都筑はあっさりと受け流し、光顕に
「幾久しく、お受けいたします」
と頭を下げた。
光顕が「こちらこそ、幾久しくお願いいたします」と返答をする。
「よき日、良き時、万事つつがなく執り行われますようお計らいください」
こら、都筑、お前なにいってんの?
引き延ばせよ。
「それでは、御前を失礼いたします」
光顕が踵を返し、部屋を出ていった。
光顕の姿を見送り、ドアが閉まったのを確認するやいなや、僕は都合に食って掛かった。
「都筑!なに承諾しちゃってるんだよ、お前は‼」
僕は目を見開いて、都筑を睨みつけた。
「お前は、こ、この僕を、この僕をあの殺人鬼に・・・」
怒髪天を衝く怒りに頭に血が上り、言葉がうまいことでない。頭に血が上りすぎて、今にも脳の血管が2、3本ブチギレそうだった。
怒れる僕に都筑は眼鏡のフレームを押し上げながら諭すように
「淡雪様、先日も申し上げましたが、お忘れですか?」
ああ?!・・・そういえば、都筑が何かいってたような・・・
都筑がため息をついた。
「説明しましたよね。陛下からの推しもあり、膠着状態で非常に不利な現状を打開するためにも形式だけでも結婚式をあげて、油断させ、敵の穴をさぐると」
「あっ・・・そ、そういえば・・・」
僕は口ごもった
思い出した。
確かにそんな話したわ。
「思い出されたようで何よりです」
嫌味たらしく都筑が言った。
ちょっと忘れてただけじゃん。
「いやさ、あまりにも急だったから、ちょっとテンパっただけだよ」
「本当に~急でしたから~」
「だよな」
晴の援護射撃に相槌を打つ。
「日を調べ、吉日を選び、障りがない日が明後日だったんでしょうね」
実は、婚儀は三日三晩に渡り行われ、一日でも忌日があってはいけない。
昔から大切な事柄は暦にある六曜十二直二十八宿を基にした暦により決められた日に行う。それを無視して行なうと障りがあるとか上手くいかないといわれている。迷信深い老人達が多いせいか、いまもってお祝事に忌日があれば家が衰退するとか、当主が悲惨な事になるとかこじつけて万事が暦を中心に考えられていた。
皇族や貴族の正式な婚姻ともなるば、一日たりとも凶や瑕疵があってはならず、三日三晩連日で吉日でなければならないため、日の選定ともなると専門家を集め、吟味に吟味を重ねて日を決めるのだ。
日が決まれば、それが例え明日であろうとも行うのが習わしになっている。
嫁ぐ都合も考えず、ホント、迷惑な習わしだよな。
「確かに~途切れ途切れの婚儀って~テンション下がりますよね~相手のイヤなとこが見えたり~なんでこんな人と結婚したんだろうとか~まぁ、所詮、結婚なんて勢いとカン違いからなりたってるんですもんね~婚儀、カン違いで起こす奇跡。それを生む悪夢の三日三晩です~」
晴がなんか哲学的なこと言ってる。
びっくりし過ぎて呼吸が止まったじゃないか。
都筑なんて眼鏡がズリ落ちてるし。
「どうしたんですか~ふたり共~」
「い、いや・・・晴にしては含蓄のある言葉だなと」
都筑の台詞に僕はこくこくと頷いた。
「ああ、これは~先日、離婚して帰ってきたときに姉がいってたんです~」
なんだか婚儀を挙げたら、取り返しのつかないことになりそうな予感が・・・けど、挙げないことに現状を打破できそうにもない。
しかも、まだイマイチ閨で何が起こるのかがわからない。本当にマグロの解体ショーをするのか?
僕は眉間に皺を寄せて考え込む。
考え込んだところで、話はすでに決まっている。
結局、僕の取る道は一つしかなく、急な婚儀を挙げる羽目になった・・・
11
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
安易に異世界を選んだ結果、食われました。
野鳥
BL
気がつけば白い空間。目の前には金髪碧眼の美形が座っており、役所のような空間が広がっていた。
どうやら俺は死んだようだ。
天国に行きますか?地獄に行きますか?それとも異世界転生しますか?
俺は異世界に転生してみることにした。
そこは男女比が9対1の世界であった。
幼なじみ2人の美形男子に迫られる毎日。
流されるままに溺愛される主人公。
安易に異世界を選んだ俺は性的に即行食われました…。
※不定期投稿です。気が向いたら投稿する形なので、話のストックはないです。
山もオチもないエロを書きたいだけのお話です。ただただ溺愛されるだけの主人公をお楽しみください。
※すみませんまだ人物紹介上げる気無かったのに間違って投稿してました(笑)
たいした情報無かったですが下げましたー( 人˘ω˘ )ごめんなさい
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
教室ごと転移したのに陽キャ様がやる気ないのですが。
かーにゅ
BL
公開日増やしてからちょっと減らしました(・∀・)ノ
ネタがなくて不定期更新中です……
陽キャと陰キャ。そのくくりはうちの学校では少し違う。
陰キャと呼ばれるのはいわゆるオタク。陽キャはそれ以外。
うちのオタクたちは一つに特化していながら他の世界にも精通する何気に万能なオタクであった。
もちろん、異世界転生、異世界転移なんてものは常識。そこにBL、百合要素の入ったものも常識の範疇。
グロものは…まあ人によるけど読めなくもない。アニメ系もたまにクソアニメと言うことはあっても全般的に見る。唯一視聴者の少ないアニメが女児アニメだ。あれはハマるとやばい。戻れなくなる。現在、このクラスで戻れなくなったものは2人。1人は女子で妹がいるためにあやしまれないがもう1人のほうは…察してくれ。
そんな中僕の特化する分野はBL!!だが、ショタ攻め専門だ!!なぜかって?そんなの僕が小さいからに決まっているじゃないか…おかげで誘ってもネコ役しかさせてくれないし…本番したことない。犯罪臭がするって…僕…15歳の健全な男子高校生なのですが。
毎週月曜・水曜・金曜・更新です。これだけパソコンで打ってるのでいつもと表現違うかもです。ショタなことには変わりありません。しばらくしたらスマホから打つようになると思います。文才なし。主人公(ショタ)は受けです。ショタ攻め好き?私は受けのが好きなので受け固定で。時々主人公が女に向かいますがご心配なさらず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる