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淡雪と都筑の大公家ビフォーアフター2
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「こんなところで何をしているんだ」
振り向くと眉を顰めた直江が立っていた。
この状況下だと悪名高い青髭鬼元帥といわれている西蓮寺直江が頼もしく見える。
この場は直江に何とかして貰えるんじゃないかと考えると、青髭だの変態サド元帥だのいわれていることすら、頼よりになると思えるから人間って不思議だよ。
元々、顔よし、体格よし、家格よしの高級物件だもん。
いまならなんの衒いもなく直江に嫁ぐことを了承すると思う。
これが俗に言う、「吊り橋効果」なのか。
「元帥閣下もいいところに。どうぞ、こちらへおいでください」
悪魔の微笑を浮かべる都筑に
「あれは何だ」
直江が佩いていた剣に手をかけながら問う。
返答次第では、都築は斬り捨てられそうだな。
「直江様、淡雪様の侍従です」
光顕の応えに僕は肯定の意味で頷いた。
目を見開くと直江は、信じられないと都筑を凝視した。
直江の目が、“あれは人間なのか”と問いかけているようだ。
信じられませんよね、ええ、わかります。
人外魔境のオーラ出してますけど、人間なんですよ。
その人外魔境の住人、都筑が底光りさせた眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げると、感情のない声で誘う。
「さあ、こちらにお座りください」
皆、逆らう事すらできない。
都筑に指図されるままに、机の前に座った。
スッと付箋の付いた書類を見るように促された。
直江と僕は無論、晴や光顕も覗き込んだ。
付箋の付いた書類に目を通しながら直江が問う。
「これが、なにか?」
「なんの不備もありませんが」
光顕も追従した。
「あの冷夏の年から収穫は回復しているし、鉱山からの採掘量も問題はないだろう」
その台詞に都築の表情が厳しくなり、顳かみに青筋が走ったのを僕は見逃さななかった。
ヤバい。
都築の望んだ答えと違うんだ。
何かわかんないけど、あの二人は地雷踏んだ事だけは確かだな。
怒れる大魔神の生贄になりたくはないので、書類に目を凝らし隅から隅まで見直した。
ええっと、
去年の収穫小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
売却価格367億リナール
一昨年は小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
売却価格367億リナール
3年前、小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
この3年間の総売却価格367億リナール
えっ、一緒?変じゃない?農作物の収穫は天候に左右されるから毎年一緒っておかしくないか?
それに金と金剛石だけでも記されている総売却価格軽く超えない?
他の年の書類にも目を通す。
6年前はまだしも、それ以外はまるっきり一緒だ。
とすると、これって横領されてるってことじゃ・・・
僕の眉間にも皺が寄った。
「淡雪様、気づかれましたか」
僕は直江に向き直り、
「直江様、家令はどこです?」
普通は領主の配偶者が家政を仕切るものだが、独身の領主の場合、家令がその代行をする。嫁いできた3人の嫁が次々にいなくなったいまは家令が仕切っているはずだ。
「家令はいない」
「はぁっ?いない?」
「ああ。高齢になったので7年前から隠居して貰ったが」
家令が7年前に隠居・・・
「では、この収支報告書は、誰が作成したのでしょう」
「管理を任せている者と出入りの商人達だが」
「そうですか、管理者と商人・・・都築」
都築がずいっと前に出ると直江に
「閣下、3日後に各管理者と出入りの商人にここに来るよう通達をお出しください」
都築の否と言わせない迫力に直江が頷いた。
「それと、淡雪様・・・」
都築が耳元で囁いた台詞に僕は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
いや、確かに、それは最善策ではあるよ。
けどさぁ、後が怖くないか、都築。
嵐を呼び込むようなもんじゃん。いや、嵐というより奪衣婆だな。タダより高いものはなしって言葉知ってるだろにね・・・
その日の夕刻、一羽の隼が大公家から飛び立った。
茜色の空を駆る隼を見ながら、僕はひっそりとため息をついたのだった・・・
振り向くと眉を顰めた直江が立っていた。
この状況下だと悪名高い青髭鬼元帥といわれている西蓮寺直江が頼もしく見える。
この場は直江に何とかして貰えるんじゃないかと考えると、青髭だの変態サド元帥だのいわれていることすら、頼よりになると思えるから人間って不思議だよ。
元々、顔よし、体格よし、家格よしの高級物件だもん。
いまならなんの衒いもなく直江に嫁ぐことを了承すると思う。
これが俗に言う、「吊り橋効果」なのか。
「元帥閣下もいいところに。どうぞ、こちらへおいでください」
悪魔の微笑を浮かべる都筑に
「あれは何だ」
直江が佩いていた剣に手をかけながら問う。
返答次第では、都築は斬り捨てられそうだな。
「直江様、淡雪様の侍従です」
光顕の応えに僕は肯定の意味で頷いた。
目を見開くと直江は、信じられないと都筑を凝視した。
直江の目が、“あれは人間なのか”と問いかけているようだ。
信じられませんよね、ええ、わかります。
人外魔境のオーラ出してますけど、人間なんですよ。
その人外魔境の住人、都筑が底光りさせた眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げると、感情のない声で誘う。
「さあ、こちらにお座りください」
皆、逆らう事すらできない。
都筑に指図されるままに、机の前に座った。
スッと付箋の付いた書類を見るように促された。
直江と僕は無論、晴や光顕も覗き込んだ。
付箋の付いた書類に目を通しながら直江が問う。
「これが、なにか?」
「なんの不備もありませんが」
光顕も追従した。
「あの冷夏の年から収穫は回復しているし、鉱山からの採掘量も問題はないだろう」
その台詞に都築の表情が厳しくなり、顳かみに青筋が走ったのを僕は見逃さななかった。
ヤバい。
都築の望んだ答えと違うんだ。
何かわかんないけど、あの二人は地雷踏んだ事だけは確かだな。
怒れる大魔神の生贄になりたくはないので、書類に目を凝らし隅から隅まで見直した。
ええっと、
去年の収穫小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
売却価格367億リナール
一昨年は小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
売却価格367億リナール
3年前、小麦50t、米38t、茘枝2751t。
石炭7513t、鉄鉱石376t、金412t、瑠璃金剛石13t、金剛石17t。
この3年間の総売却価格367億リナール
えっ、一緒?変じゃない?農作物の収穫は天候に左右されるから毎年一緒っておかしくないか?
それに金と金剛石だけでも記されている総売却価格軽く超えない?
他の年の書類にも目を通す。
6年前はまだしも、それ以外はまるっきり一緒だ。
とすると、これって横領されてるってことじゃ・・・
僕の眉間にも皺が寄った。
「淡雪様、気づかれましたか」
僕は直江に向き直り、
「直江様、家令はどこです?」
普通は領主の配偶者が家政を仕切るものだが、独身の領主の場合、家令がその代行をする。嫁いできた3人の嫁が次々にいなくなったいまは家令が仕切っているはずだ。
「家令はいない」
「はぁっ?いない?」
「ああ。高齢になったので7年前から隠居して貰ったが」
家令が7年前に隠居・・・
「では、この収支報告書は、誰が作成したのでしょう」
「管理を任せている者と出入りの商人達だが」
「そうですか、管理者と商人・・・都築」
都築がずいっと前に出ると直江に
「閣下、3日後に各管理者と出入りの商人にここに来るよう通達をお出しください」
都築の否と言わせない迫力に直江が頷いた。
「それと、淡雪様・・・」
都築が耳元で囁いた台詞に僕は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
いや、確かに、それは最善策ではあるよ。
けどさぁ、後が怖くないか、都築。
嵐を呼び込むようなもんじゃん。いや、嵐というより奪衣婆だな。タダより高いものはなしって言葉知ってるだろにね・・・
その日の夕刻、一羽の隼が大公家から飛び立った。
茜色の空を駆る隼を見ながら、僕はひっそりとため息をついたのだった・・・
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