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事件より玉の輿の相手を探りましょう

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「さ、細雪、落ちていて!」

「侍女殿、落ちつかれて」

悠理とハルミヤは興奮状態の細雪をなだめようとした。

「はぁっ?これが落ちついていられますか、悠理様」

興奮のためか細雪の身体がプルプルと震えている。
いまにも憤死寸前といった体だ

「恐れ多くも東宮妃候補ですのに、しかも東宮様お膝元の御所で・・・見ず知らずの男の方と口、口を・・・これが他の方に知られたら、悠理様はお咎めを受け、お家は没落・・・私は優雅な老後生活を失い・・・不幸の三段論法だわっ!!」

細雪は絶叫し、いまにも倒れそうなほど顔色が白くなっていた。

「老後・・・」

この場面でのかけ離れた言葉にハルミヤは唖然とし、己が耳を疑った。

「見ず知らずじゃないからね。あ、あのさ、前に話したギルドでの知り合いだし」

「ギルドでの?・・・って、まさか、悠理様の秘密を?」

「そう」

悠理の肯定にハルミヤが頷く。
その言葉を聞くやいなや細雪は素早く扉に鍵を掛け、据わった目でハルミヤを睨めつけた。

「・・・悠理様、こうなったら最後の手段です。いくら侍衛の方とはいえ、悠理様と私の二人がかりで襲えば、頭を殴りつけることはは可能です。頭を強打すれば、記憶喪失位にはなりますわ。悠理様の秘密と私の優雅な老後生活計画を守るためです、尊い犠牲になっていただきましょう」

悠理は細雪の黒い台詞にドン引きする。

「細雪、目、目が据わってるから・・・」

「私、真剣と書いてマジと読むくらいには本気です。目指すは記憶喪失、次に記憶喪失、最低でも記憶喪失ですわ、悠理様。間違ってあの世に送ってはダメですよ。殺生はいけませんもの。無傷での記憶喪失を目指しましょう」

「無理、それ」

「人間、為せば成る!です」

「あはははっ」

ハルミヤがお腹を抱えて笑いだした。

「ユ、ユ―リ、君の侍女は最高だね」

「笑ってる場合じゃないから!」

「そうですわ、笑っている場合ではありませんわ!」

「すまない。君達を見ていたら気が抜けて・・ククッ。細雪だったね。大丈夫、秘密は守るから」

「まあ、本当ですの」

「誓うよ」

「良い方ですのね、ハルミヤ様は」

細雪は途端に愛想がよくなった。

”細雪~、さっきまで殴りつけて記憶喪失にしようとしてたよね“

細雪の変わり身の速さに悠理はたじろぐ。

「その代わりといってはなんだけど、君の大事な主人が、これ以上沙也加嬢の事件を探らないよう見張っておいて欲しい。これは君の老後のためにもなるよ」

細雪の並々ならぬ老後生活への執着を見切ったハルミヤは絶対に協力するであろう細雪のウィークポイントを的確についた。
結果、

「お任せください、ハルミヤ様。この細雪、スッポンと化し、悠理様に喰らいついて見張りますわ」

ハルミヤが悠理を見てニャリと嘲笑った。

”細雪の裏切り者~“


翌日から細雪はハルミヤの頼み通り、悠理の一挙手一投足にまで目を光らせ、少しでも怪しげな行動をしようものならすぐさま何をしているのかを確認するようになった。
面白くないのは悠理である。
何をするにも細雪が横にいて見ている。息を抜く暇もない。
何より気に触るのは細雪がハルミヤについたからだった。

「ハルミヤめ~細雪を手懐けたな。細雪も細雪だよ。ハルミヤの肩を持って」

「仕方ありませんわ、悠理様。ハルミヤ様は人を従わせる威厳と説得力がお有りだったんですもの」

「・・・細雪は優雅な老後生活計画が第一にあるよね」

「嫌ですわ、それはほんのチョットですよ」

悠理は半眼状態で細雪を見る。

「コホン、そのハルミヤ様ですが、本当にただの侍衛で冒険者を偶に息抜きにしている方ですの?」

「えっ?」

「人を従わせる威厳といい、洗練されたお姿といい、何やら普通の侍衛の方とは思えませんもの」

細雪の言葉に悠理は頬杖をついて考えを巡らせた。
確かにハルミヤはそこにいるだけで存在感があり、人を惹きつけ、従わせる威厳がある。
まるで持って生まれたかのようだ。
紅茶を飲み口を湿らせた。

「高位貴族なのかな」

「きっと、高位貴族の子弟で出世街道爆進中ですわね・・・」

細雪が悠理をジッと見た。

「なに?細雪」

「で、悠理様、ハルミヤ様とはどこまでのご関係ですの?」

悠理は飲んでいた紅茶を吹き出した。

「さ、細雪」

「私がお部屋に入っていったとき、いい雰囲気でしたし、初めてではないかと推察いたしますわ」

細雪はテ―ブルを拭きつつ言った。

「推察しなくてもいいし」

”鋭い、細雪“

「乳姉弟として、悠理様付き侍女としても把握しておかねばなりませんもの」

「把握しなくてもいいから」

「何をおっしゃいます。正式にご交際ともなれば、お輿入れもございましょうし、3大公爵家の御子息ともなれば悠理様、玉の輿ですよ、玉の輿!」

細雪は盛り上がっているが、悠理は引き気味だった。
悠理の額から汗が一筋流れた。

「玉の輿って・・・」

「それに悠理様だって、お嫌いではないですよね、ハルミヤ様を」

「ばっ、馬鹿なことを言わないでよ」

顔を朱くし、ドキドキしながら否定する悠理に

「お嫌いでしたら、相手を一発や二発、頬なり何なりを叩いている筈ですし、ガードすることも、転移して逃げることもできたはずですもの」

「・・・」
”イカされて、逃げたことあります“といえば、もっと追求されそうなので黙った。

「触られたら鳥肌が瞬時に立ったり、気持ち悪くって、石鹸どころか消毒液で拭きまくっても気持ち悪さが残ってどうしようもないってことあります?」

「・・・ないです」

「反対にドキドキしたり、恥ずかしかったりしたらそれはもう意識してますよ」

正直、意識はしているし、好意は持っているとは思うが、これが恋愛感情からなのかは解らない悠理だった。
自分から行動を起こすには勇気が出ない。
ハルミヤから告白されれば、きっと解るのだろうが。


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