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東宮妃候補への事情聴取
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南條公爵家令嬢、沙也加の不審死に関して箝口令が敷かれた。
東宮御所での殺人事件なのどあってはならない事で、御所中が不安と苛立ちに包まれていた。
東宮御所に務める使用人は皆足止めを言い渡され、三人の東宮妃候補も部屋から出ることは許されなかった。
直ぐにも沙也加の事件があったとき、何をしていたか、何処にいたのかを一人ひとり事情聴取されたことはいうまでもなく、中でも沙也加と対立していた鞠子への追求は厳しいものになった。
細目の狐顔した侍衛長補佐官が一人ひとり聴取を行った。
「だから、私は部屋にいました。なぜ、私が自ら沙也加様を訪ねなければなりませんの?」
「何かと言い争っていましたよね」
「ええ、あの方が私に張り合ってこられたからですわ。そんな理由で私を怪しいだなんて・・・第一、かわいい年下と高慢ちきな年上、どちらを選ぶかなんて、すぐに解りそうなもの。私が可愛いからって、陰謀ですわ」
と感情的になった鞠子はヒステリックに泣き出し、側にあった物を手当たり次第に侍衛長補佐官に投げつけた。
ほうほうの体で鞠子の部屋を出た侍女長補佐官が向かったのは中務宮緋沙子の部屋だった。
緋沙子への聴取は鞠子とは反対に穏やかなものだったが、それはそれで骨が折れた。
なにせ、何を聞いてもにこにこと微笑むばかりで一言も話さない。
ヒステリックに泣き叫ぶ鞠子には辟易したが、微笑むだけの緋沙子には少しばかり背筋がひんやりとした。
”・・・こっちのほうが怖い・・・“
侍衛長補佐官の額に嫌な汗が流れた。
居心地の悪い時間だけが流れる中、見かねた侍女が、鞠子の代わりに答えた。
「緋沙子様は、お部屋でお寛ぎ中でございました」
「部屋から一歩も出なかったと。ずっとご一緒に?」
「ええ・・・あっ、途中、ほんの一時、お側を離れましたが」
「どのくらいの時間ですか?」
「10分足らず位でしょうか」
「お部屋に戻って来たとき、緋沙子様のご様子は」
「お部屋を辞するときと何らお変わりはございませんでした」
侍衛長補佐官がちらりと緋沙子を見た。
侍女がウソをついている様子はなかった。
一方、悠理はというと・・・
説明ができず頭を悩ませていた。
まさか知らない侍女の跡をつけ、東宮廃嫡計画を聞いたと言えるはずもなく、かといって、ハルミヤと居たなどといえるはずもない。
”うわぁ~、容疑者確定?“
困っていた悠理だったが、なぜか何処にいたのかとは聞かれずに終わった。
「お二人の仲は険悪だった。相手を傷つける事も厭わないほどでしたか」
「そこまでではなかったと」
「そうですか。参考になりました」
侍衛長補佐官が退出する様相をみせた。
「えっ、これで終わりですか」
「何か?」
「どこに居たのかとかは・・・」
「ああ、それは大丈夫です。報告を受けていますから。では、失礼します」
取調に来ていた侍衛が部屋を出て行った。
細雪が安堵の吐息を吐いた。
「どなたかが悠理様を見かけたのかもしれないですね。補佐官様に報告がされていて良かったですわ」
「そうだね」
きっとハルミヤが侍衛長補佐官に証言してくれたのだろうと悠理にはわかった。
「悠理様のおかえりが遅く、お部屋にもどこにもいらっしゃらなかったのでどうなることかと思っていましたもの」
「悪かったよ、心配かけて」
「本当ですよ。けど、緋沙子様も迷惑ですよね」
「どういうこと?」
「沙也加様とお会いになるお約束をされていたそうですよ」
「星見の宴の後に?」
「ええ。あちらの侍女の方にお聞きしましたもの」
「細雪、どうして知ってるんだよ」
「どうしてですって!」
細雪の目がスーっと細くなった。
あれ?地雷踏んだ?悠理が愛想笑い浮かべた。
「星見の宴が終わってもお戻りになられないどなたかのせいですわ。もしや、悠理様の身になにかあったのか、女装がバレたのやも、私の老後生活は大丈夫かと肝を冷やしましたのよ」
”一番に老後生活心配したよね、細雪は“
悠理ちょっとジト目になる。
「で、居ても立っても居られず、侍女の方々に悠理様を見てないか聞いて回った時に聞いたのです」
「沙也加嬢と緋沙子嬢は仲が良かった?」
「鞠子様ともですよ。緋沙子様はどちらともお付き合いされていたみたいですね」
「鞠子嬢とも・・・まぁ、どっちかについて当たられるのも嫌だからね」
「全くです」
悠理がなんだかもやもやとして腑に落ちないなぁと思っていたところに
「ゆ、悠理様!なんですの、この汚れは!」
細雪がドレスを前に目を吊り上げていた。
「あっ」
ドレスの裾には葉っぱと土汚れが付いおり、それがハルミヤのことを思い出させた。
”・・・キ、キスしちゃったよ・・・し、しかも叫び声がなかったら、あのまま押し倒されて・・・“
赤くなったり、青くなったりする悠理を見た細雪は、
変な病気にでもなったのかと悠理を無理やりベッドに押し込み、医師を手配したり、薬湯を用意したりと大騒ぎしたのだった・・・
東宮御所での殺人事件なのどあってはならない事で、御所中が不安と苛立ちに包まれていた。
東宮御所に務める使用人は皆足止めを言い渡され、三人の東宮妃候補も部屋から出ることは許されなかった。
直ぐにも沙也加の事件があったとき、何をしていたか、何処にいたのかを一人ひとり事情聴取されたことはいうまでもなく、中でも沙也加と対立していた鞠子への追求は厳しいものになった。
細目の狐顔した侍衛長補佐官が一人ひとり聴取を行った。
「だから、私は部屋にいました。なぜ、私が自ら沙也加様を訪ねなければなりませんの?」
「何かと言い争っていましたよね」
「ええ、あの方が私に張り合ってこられたからですわ。そんな理由で私を怪しいだなんて・・・第一、かわいい年下と高慢ちきな年上、どちらを選ぶかなんて、すぐに解りそうなもの。私が可愛いからって、陰謀ですわ」
と感情的になった鞠子はヒステリックに泣き出し、側にあった物を手当たり次第に侍衛長補佐官に投げつけた。
ほうほうの体で鞠子の部屋を出た侍女長補佐官が向かったのは中務宮緋沙子の部屋だった。
緋沙子への聴取は鞠子とは反対に穏やかなものだったが、それはそれで骨が折れた。
なにせ、何を聞いてもにこにこと微笑むばかりで一言も話さない。
ヒステリックに泣き叫ぶ鞠子には辟易したが、微笑むだけの緋沙子には少しばかり背筋がひんやりとした。
”・・・こっちのほうが怖い・・・“
侍衛長補佐官の額に嫌な汗が流れた。
居心地の悪い時間だけが流れる中、見かねた侍女が、鞠子の代わりに答えた。
「緋沙子様は、お部屋でお寛ぎ中でございました」
「部屋から一歩も出なかったと。ずっとご一緒に?」
「ええ・・・あっ、途中、ほんの一時、お側を離れましたが」
「どのくらいの時間ですか?」
「10分足らず位でしょうか」
「お部屋に戻って来たとき、緋沙子様のご様子は」
「お部屋を辞するときと何らお変わりはございませんでした」
侍衛長補佐官がちらりと緋沙子を見た。
侍女がウソをついている様子はなかった。
一方、悠理はというと・・・
説明ができず頭を悩ませていた。
まさか知らない侍女の跡をつけ、東宮廃嫡計画を聞いたと言えるはずもなく、かといって、ハルミヤと居たなどといえるはずもない。
”うわぁ~、容疑者確定?“
困っていた悠理だったが、なぜか何処にいたのかとは聞かれずに終わった。
「お二人の仲は険悪だった。相手を傷つける事も厭わないほどでしたか」
「そこまでではなかったと」
「そうですか。参考になりました」
侍衛長補佐官が退出する様相をみせた。
「えっ、これで終わりですか」
「何か?」
「どこに居たのかとかは・・・」
「ああ、それは大丈夫です。報告を受けていますから。では、失礼します」
取調に来ていた侍衛が部屋を出て行った。
細雪が安堵の吐息を吐いた。
「どなたかが悠理様を見かけたのかもしれないですね。補佐官様に報告がされていて良かったですわ」
「そうだね」
きっとハルミヤが侍衛長補佐官に証言してくれたのだろうと悠理にはわかった。
「悠理様のおかえりが遅く、お部屋にもどこにもいらっしゃらなかったのでどうなることかと思っていましたもの」
「悪かったよ、心配かけて」
「本当ですよ。けど、緋沙子様も迷惑ですよね」
「どういうこと?」
「沙也加様とお会いになるお約束をされていたそうですよ」
「星見の宴の後に?」
「ええ。あちらの侍女の方にお聞きしましたもの」
「細雪、どうして知ってるんだよ」
「どうしてですって!」
細雪の目がスーっと細くなった。
あれ?地雷踏んだ?悠理が愛想笑い浮かべた。
「星見の宴が終わってもお戻りになられないどなたかのせいですわ。もしや、悠理様の身になにかあったのか、女装がバレたのやも、私の老後生活は大丈夫かと肝を冷やしましたのよ」
”一番に老後生活心配したよね、細雪は“
悠理ちょっとジト目になる。
「で、居ても立っても居られず、侍女の方々に悠理様を見てないか聞いて回った時に聞いたのです」
「沙也加嬢と緋沙子嬢は仲が良かった?」
「鞠子様ともですよ。緋沙子様はどちらともお付き合いされていたみたいですね」
「鞠子嬢とも・・・まぁ、どっちかについて当たられるのも嫌だからね」
「全くです」
悠理がなんだかもやもやとして腑に落ちないなぁと思っていたところに
「ゆ、悠理様!なんですの、この汚れは!」
細雪がドレスを前に目を吊り上げていた。
「あっ」
ドレスの裾には葉っぱと土汚れが付いおり、それがハルミヤのことを思い出させた。
”・・・キ、キスしちゃったよ・・・し、しかも叫び声がなかったら、あのまま押し倒されて・・・“
赤くなったり、青くなったりする悠理を見た細雪は、
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