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しおりを挟む「……どうしたの……これ」
「愚問だな」
「なにが、『ぐもん』だよ!かっこつけるなよ!あれほど駄目だって言ったじゃないか!」
弟は昨夜手に入れたばかりの通行証を片手に、もう片方の手で俺の胸を何度も叩いた。トタンで覆っただけのおんぼろなねぐらはそれだけの振動でもガタガタと派手な音を立てる。
弟は俺の胸を一生懸命叩くけれど本当は頬を一発、派手に殴りたいに違いない。なんせ俺は弟との約束を守ったためしがないから。弟だけじゃない。生まれてこのかた、人との約束なんてものを守った覚えが無い。そんな兄貴を弟はいまだに諦めることなく怒り続ける。だが、十分にしかりつけるには足りない。小さな弟では精一杯背伸びをして、さらに両手を目一杯伸ばしても届くのは精々胸の高さだった。背伸びした不安定な状態ではその力もたがか知れている。
「やめろよ、もうしないから」
「嘘だ!嘘だ、嘘だ!兄ちゃんはいつもそうだ!」
なおも叩く。我慢するのも面倒くさくなって振り上げられた手首を掴んだ。そして通行証も取り上げる。
「要らないなら返せよ。売ってくる」
「あっ……」
「要るのか、要らないのかはっきりしろ」
「……それで何人通れるの?」
「二人」
「じゃぁ、要らない……」
「……アイツに通行証なんて要らないだろ」
「……」
「そもそも、この国にいるかも分からない」
「……いるもん」
じろりと睨みつける。弟は一瞬ひるんだけれど、負けじと言い返してきた。
「……この前のお披露目のパレードに、出てたもん」
「二ヶ月も前のはなしだろ」
弟は何も言い返せず、口を噤んだ。悔しいのか唇を噛んで泣くのを堪えている。こいつに「もう忘れろよ」と何度言ったか分からない。また言うのも面倒だ。むしろ自分に言い聞かせているみたいで嫌だ。
――そんな言葉、言わなくったって俺はもう忘れたんだ。
これ以上話を続けたくなくてねぐらを飛び出した。
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