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しおりを挟むぼくへ
「早く配達に行って来てくれよ」
声がして、顔を上げると郵便配達の制服を着た男の子がしかめ面で僕を見ていた。彼の背後のガラスには僕の姿が映っている。初めて見る、僕の姿が映っている。目の前の彼と同じ制服を着て、小さな肩に大きなガマ口の鞄を提げている。中には手紙がいっぱい。
……僕は、ゆうびんやさんだったのか。
「もう、そんなにやる気がないならこれだけ頼むよ。後は僕がやるから」
目の前の彼は呆れた様子で、僕の肩から鞄をひったくった。少し乱暴な仕草にひるんで声が出ない。
「なんだよ、まだ文句があるのかよ」
「……いえ、何も……」
「そう。じゃ、これ頼んだよ」
はい、と一通の手紙を押し付けられた。
宛名が滲んでいて読めない。それに差出人の名前も書かれていない。
どうしたら良いのか、と聞こうとしたら彼はもういなかった。仕方なく郵便局の外に出ると、昼間のにぎやかな街並みが目の前に広がる。
だいだい色のワンピースを着て白いエプロンをしたおばさんが買い物かごを下げて僕の目の前を通った。
「あの、すみません。僕は配達員ですが……宛先が読めなくて配達ができないんです。……どうしたら良いのでしょうか……?」
「それなら、においをかげばいいのよ。あなたは犬でしょ?」
おばさんは何を言っているの?と不思議なものでも見るような顔をした。
…………犬?
そばに止めてある配達用の赤い車。そのフロントガラス覗き込むと僕の顔が写る。見ると帽子を押し上げるように耳が出ていた。動かすと微かにぱたぱたと音がする。ずいぶん大きな耳だ。
…………おかしいな。
ふわりと、何かが僕の足を撫でた。ふともものうしろがむずむずする……。さっきよりズボンが窮屈だ。柔らかい感触。ふさふさの尻尾がぽろんとこぼれ出た。
……僕は犬だったのか。
すんすん
手紙に鼻を近づけると木のいいにおいがした。
「では森に行ってみるといいわ」
おばさんに挨拶をして僕は森に向かって歩き出した。
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