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80戦い④
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「なに、これ……?」
見上げると山の中腹から煙が上がっている。
パラパラと降ってくる灰がいかにおおきい爆発だったかわかる。
ー-ショウと別れた場所に近い……。
ジュリの顔はだんだんと真っ青になる。
胸がドキドキと苦しくなり不安と焦燥感でいっぱいになったジュリは無意識に馬の手綱を握りしめていた。
「今から山に行く……!」
「だめだ! 危なすぎる!」
「お願い! ……今行かないと一生後悔する」
「それでも!……お前の体や安全が一番大切だろ」
クリスはジュリが握っていた手綱を無理やり奪うと、両腕でジュリの体を抱きしめた。
クリスの腕の中でカタカタと震えていたジュリはしばらく抱きしめられていたが、すぐに「もういい」と言いクリスの腕を払いのけた。
「なら一人で行くから」
冷たく言うと馬から下りようとする。
クリスが言っていることが正しい、そう頭はわかっていてもどうしても体は言うことを聞かないのだ。
押さえようとするクリスの手を何度も突っぱね無理矢理下りようとした。その時ー-
「あー!もうわかった!」と大きな声とともにクリスが”降参だ”というように両手をあげた。
「しょうがないから連れてってやる!でも、約束しろ。少しでも身の危険を感じたらすぐ引き返すからな」
「……! クリスありがとう!」
ジュリは満面の笑みでクリスの手を握る。
やれやれ……とあきれ顔のクリスにジュリは何度も「ありがとう」と頭を下げる。
クリスは大きなため息を一つ吐くと「じゃあ行くぞ」と馬を走らせた。
マルシャン村の人たちが山のほうを見ながらと野次馬のように集まってきていた。
二人はそれをくぐりぬけながら山の中腹まで来ていた。
途中、木々が倒されていたり岩が道を塞いでいたりしていたため、中腹まで着くのに思ったより時間が掛かってしまった。
「これ以上は馬では進めないな……走らせすぎたかな」
一日中走らせていた馬はもう体力が限界だったのだろう。
突然進まなくなった馬を無理に使うのはかわいそうだと二人は馬を休ませ降りることにした。
「僕歩けるから、ここからは徒歩で行こうよ」
「……ジュリ、わかってるな。念のため俺の後ろにいろよ?」
クリスは心配そうにジュリの顔を覗き込む。
その目は不安と恐怖を感じているような瞳だった。
クリスにはここまでたくさん心配や迷惑をかけてしまった。
その上、自分のせいで危険な思いもさせてしまっている。
ー-ここから先は僕一人のほうがいいんじゃないかな……。これ以上クリスに迷惑かけれないよ。
ジュリは一度目を閉じ深呼吸するとクリスの瞳をみつめた。
「クリス!僕……」
「俺は一緒にいるからな」
ジュリが何を言おうとしていたのかわかっていたのだろう。
クリスはニッと笑うと呆気にとられたままのジュリの手を取って歩き出した。
どれだけ歩いただろう。
倒れた木々に転ばないようにゆっくりと歩く。
そうして時間をかけて歩いていると前のほうからザッ……ザッ……、と引きずるような音が聞こえてきた。
ジュリとクリスはその音に驚き目を凝らすも目の前は灰が舞いよく見えない。
「だ、誰かいるの……!?」
もしかしたらデビアスかもしれない、でも……ショウかもしれない。
ジュリは緊張で震える手をぐっと胸の前で押さえると声をあげた。
「……」
「誰なの!?」
返事をしない”それ”は徐々に近づいてくる。
灰色の煙に黒いシルエットがうつり、ジュリは思わずごくりと息をのんだ。
しかし、その緊張も杞憂だった。
引きずるような足音、ヒューヒューと苦しそうな呼吸をしながら現れたのはネイサンだった。
見上げると山の中腹から煙が上がっている。
パラパラと降ってくる灰がいかにおおきい爆発だったかわかる。
ー-ショウと別れた場所に近い……。
ジュリの顔はだんだんと真っ青になる。
胸がドキドキと苦しくなり不安と焦燥感でいっぱいになったジュリは無意識に馬の手綱を握りしめていた。
「今から山に行く……!」
「だめだ! 危なすぎる!」
「お願い! ……今行かないと一生後悔する」
「それでも!……お前の体や安全が一番大切だろ」
クリスはジュリが握っていた手綱を無理やり奪うと、両腕でジュリの体を抱きしめた。
クリスの腕の中でカタカタと震えていたジュリはしばらく抱きしめられていたが、すぐに「もういい」と言いクリスの腕を払いのけた。
「なら一人で行くから」
冷たく言うと馬から下りようとする。
クリスが言っていることが正しい、そう頭はわかっていてもどうしても体は言うことを聞かないのだ。
押さえようとするクリスの手を何度も突っぱね無理矢理下りようとした。その時ー-
「あー!もうわかった!」と大きな声とともにクリスが”降参だ”というように両手をあげた。
「しょうがないから連れてってやる!でも、約束しろ。少しでも身の危険を感じたらすぐ引き返すからな」
「……! クリスありがとう!」
ジュリは満面の笑みでクリスの手を握る。
やれやれ……とあきれ顔のクリスにジュリは何度も「ありがとう」と頭を下げる。
クリスは大きなため息を一つ吐くと「じゃあ行くぞ」と馬を走らせた。
マルシャン村の人たちが山のほうを見ながらと野次馬のように集まってきていた。
二人はそれをくぐりぬけながら山の中腹まで来ていた。
途中、木々が倒されていたり岩が道を塞いでいたりしていたため、中腹まで着くのに思ったより時間が掛かってしまった。
「これ以上は馬では進めないな……走らせすぎたかな」
一日中走らせていた馬はもう体力が限界だったのだろう。
突然進まなくなった馬を無理に使うのはかわいそうだと二人は馬を休ませ降りることにした。
「僕歩けるから、ここからは徒歩で行こうよ」
「……ジュリ、わかってるな。念のため俺の後ろにいろよ?」
クリスは心配そうにジュリの顔を覗き込む。
その目は不安と恐怖を感じているような瞳だった。
クリスにはここまでたくさん心配や迷惑をかけてしまった。
その上、自分のせいで危険な思いもさせてしまっている。
ー-ここから先は僕一人のほうがいいんじゃないかな……。これ以上クリスに迷惑かけれないよ。
ジュリは一度目を閉じ深呼吸するとクリスの瞳をみつめた。
「クリス!僕……」
「俺は一緒にいるからな」
ジュリが何を言おうとしていたのかわかっていたのだろう。
クリスはニッと笑うと呆気にとられたままのジュリの手を取って歩き出した。
どれだけ歩いただろう。
倒れた木々に転ばないようにゆっくりと歩く。
そうして時間をかけて歩いていると前のほうからザッ……ザッ……、と引きずるような音が聞こえてきた。
ジュリとクリスはその音に驚き目を凝らすも目の前は灰が舞いよく見えない。
「だ、誰かいるの……!?」
もしかしたらデビアスかもしれない、でも……ショウかもしれない。
ジュリは緊張で震える手をぐっと胸の前で押さえると声をあげた。
「……」
「誰なの!?」
返事をしない”それ”は徐々に近づいてくる。
灰色の煙に黒いシルエットがうつり、ジュリは思わずごくりと息をのんだ。
しかし、その緊張も杞憂だった。
引きずるような足音、ヒューヒューと苦しそうな呼吸をしながら現れたのはネイサンだった。
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