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73迎えに……

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ジュリがデビアスに捕まる一日前――。

「今から戻るって……本気ですか?」

こんな急だと護衛も付けれないっすよ。
ネイサンは馬の背をブラッシングしながら怪訝な表情でショウをじろりと見た。
時刻は夕方四時。ショウとネイサンは馬宿で愛馬の手入れをしていた。
この日ですべての町の視察を終えた王宮の一行は明日の午後ようやく王宮へと戻る。
それがだ……。

「本気だぞ?身重の妻が待っているんだ、早く帰りたいのはわかるだろう?……今から出れば明日の昼頃には着くだろうから荷物を準備次第この街から出る」

「……ねえ?ショウ様わかってる?あなた、勇者なんですよ?何かがあってからじゃ遅いんですからね!」

ふん、と鼻息を荒くしながら馬のブラッシングをするネイサンはもう部下と言うよりは親友のような存在だ。

この世界に来たばかりの自分を受け入れ、ざっくばらんに付き合ってくれる彼はショウにとってなくてはならない存在なのだ。
ショウは自分もブラシをとるとネイサンの愛馬に近寄った。
黒い体毛は艶があり光沢のあるタテガミはネイサンの普段からの手入れによるものだ。
ネイサンの隣に並び背中から尻に向かって丁寧にブラッシングしながら話しかける。

「そうだ。だからな、ネイサン一緒に来てくれないか?」

「はぁー……!やっぱり、言うと思いましたよ。あぁ……今日は御馳走だったのに!」

こうなることはわかっていたのだ。ネイサンもショウの事を上司である以前に親友だと思っているのだ。
ネイサンは残念そうにため息をついたがよく見ると口角が少しだけ上がっている。
「帰ったら、何か御馳走してくださいよ!」
「もちろん、何がいいか考えておいてくれよ」
ブラッシングを終え、最後に手のひらでで馬の毛並みを整えると二人はジュリの元に戻る準備を始めた。



ーー



「やはり戻られるのですね……。今さら反対はしませんが十分気を付けてください」

視察最後に泊まっている宿の門でレミウスは心底呆れたように額に手を当てた。

「ネイサンは腕利きの弓の名手ですがやはり心配です。私たちも明日ここを出たらすぐに向かいますから……お願いです、必ずマルシャン村で待っててくださいね。絶対ですよ!」

隣にいるマーリンも眉間に皺を寄せながら「約束を守ってください」と何度も念を押す。
ジュリの事にかかわるといつも無理を通すショウの事をわかっているマーリンは、あえて最後の視察地はマルシャン村に近い場所を選んでいたのだ。

――マーリンさんは本当によく俺の事をわかってくれてるな。

まるで家族のように理解してくれている事が嬉しくてショウはにっこりと微笑んだ。

「もちろん、約束は守る。いつも迷惑ばかりかけてすまない……。じゃあ、行ってくる」
人目に付かぬよう黒いマントを被り肩にリュックを掛ける。
ネイサンとショウは顔を見合わせると同時に頷き、そのまま夜の森の中を馬で駆けて行った。


――


「思ったより時間かかりましたね……」

「あぁ、そうだな。やはり暑くなってくると馬がもたないからな」

夜の間、走り続けていた馬は時間がたつにつれ、力をなくしていった。
途中何度か小休憩はとっていたが夜の蒸し暑さや、走りにくい森の中を選んだことで馬の持久力が持たなかったのだ。
馬は無理に走らせると最悪の場合呼吸に障害が出て死に至ることもある。
ショウははやる気持ちをぐっと抑えつつ森の中で一晩休むことに決めた。

そうして、予想より二時間遅れた翌日の午後三時半。
二人はBINGOの店前にいた。

「ショウ様。俺、馬繋いできますから先行っててください。ほら、早くジュリさんに会いたいんでしょ?」

ネイサンはウインクするとショウの馬の手綱を手繰り寄せた。
「早く馬から降りてください」と無理やりショウを馬から下ろすと振り返る事もせずそのまま馬を繋ぐ場所まで歩いて行った。

それを見送るとショウは早足でBINGOの裏口に回っていた。
この時間お店はランチの営業が終わりディナーの準備中なのだ。
それなら裏口の戸を叩く方が早い。

ふうと息を吐き裏口のドアを"コンコン"とノックする。
久しぶりに会う愛しい婚約者がどんな顔ででてくるのかと思うと無意識にに口角が上がってしまう。

バタバタバタという足音とともにガチャリとドアが開く。

「え!勇者様……!?今日お戻りですか……!?」

驚いた表情でドアを開けたのはライアンだった。
ライアンは首に巻いてある手ぬぐいで自分の手を拭うと厨房の中へ招き入れた。

「急に来てすまない。本当は明日になる予定だったんだが、俺とネイサンだけ視察終わりにすぐこっちに来たんだ。……ところでジュリは?」

「あー……ジュリは俺の弟が今日仕入れから帰ってくるから結婚の報告に行ってて。その後、病院の健診に行くって」

二人が話していると、突然裏口のドアが勝手に開いた。

「おーい、兄貴いるかー?」

大きな声で厨房に入ってきたのはクリスだった。
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