上 下
55 / 85

55パートナーに

しおりを挟む

「里子・・・・・・そんなの嫌です!」

ジュリは声を荒げながら立ち上がった。怒りで紅潮し今にもとびかかりそうな勢いだ。
医者はそんなジュリを座らせるとジュリの肩を宥めるように優しく叩いた。

「まぁまだ時間はある。一度家族と話し合ってみた方がいい」

「わかりました……」

項垂れながら診察室を出る。待合室のベンチで座っていると、ジュリの隣に若い夫婦が座った。

――あ、噛み痕。あの人オメガだ……。

ポニーテールに結ばれた女性の首筋にはくっきりと歯形が残っている。大きなお腹を幸せそうに撫でる彼女の隣にはアルファであろう男性がこれまた幸せそうな表情でその様子を眺めていた。

その光景に胸がきゅっと苦しくなる。
ちょうど受付から会計のためジュリの名前が呼ばれると、ジュリはその場から逃げ出すように慌てて会計を済ませ病院を出た。

――この子を守るために王宮から逃げたのに……!でも、ショウ以外をもう好きになんかなれないし、このままだと『BINGO』にも弟たちにも迷惑をかけちゃう。

帰り道、十五分で帰れる道を悩みながら歩いていた。ちょうど角を曲がれば『BINGO』というところで「ジュリ!」と叫ぶ声が後ろから聞こえた。後ろを振り向くと男が遠くの方からジュリに向かって走ってくるのが見える。

「クリス・・・・・・」

「ジュリ、よかった会えて。これ、お土産。買い付けに行ったときに可愛いぬいぐるみを見つけてさ。生まれてくる赤ん坊にと思ってBINGO寄ったんだけど検診って聞いてさ。」

クリスはジュリに『BINGO』を紹介してからもジュリと弟たちのことを気にかけていた。
弟たちが学校に行けるよう手続きをし、ジュリたちがマルシャン村で不自由なく生活できるようサポートしてくれたのもクリスだった。
そんな生活の中ジュリ達とクリスはあっという間に仲良くなるのはあっという間のことで今では互いに『ジュリ』『クリス』と呼び合っている。

「どうかしたのか?顔色がすごく悪いし汗もすごいぞ。検診でなにかあったのか?」

クリスはなかなかぬいぐるみを受け取らないジュリを不審に思い顔を覗き込んだ。

「あ、えっと・・・・・・。うん、ちょっと困ったことがあって。僕じゃ・・・・・・お腹の子、守れないかも、しれなくて……」

話し出した途端に、ジュリの目からぽろぽろと涙が零れる。
拭いても拭いても涙が溢れブラウスの袖が涙で滲む。

「おい、ちょっとどうしたよ……。とりあえず俺の店おいで。こんな泣き顔じゃBINGOに帰れないだろう」

クリスは泣いているジュリの頭に持っていたタオルを被せると、強引に腕を掴み店まで歩いた。



――――



「ちょっとは落ち着いた?」

クリスの営む店『クリクラ』の二階。クリスの住居となっているこの場所でジュリは茶色の革張りのソファに座りながらクリスが入れた温かいルイボスティーを飲んでいた。
クリスは自分の分のコーヒーを持つとジュリの向かいのソファに座った。

「クリス、ごめん。いきなり泣いちゃったりして・・・・・・」

「そんなの構わねえよ。それよりどうしたんだよ、何か赤ん坊にあったのか?」

「うん……。あのね、お腹の子『男の子』だったんだ」

「へぇ!良かったじゃないか!……え、もしかして男の子は産みたくないとかじゃないよな?」

「……っ!違う!そんなんじゃない。……男の子なら一緒に住めないかもしれないんだよ……!」

訝しげに尋ねるクリスに怒鳴った後、「はぁ……」と一つ息を吐いた。

「男オメガから産まれる男の子はアルファの確立が高いんだって。番とかパートナーがいるとヒートを起こしてもそう問題にならないんだけど。僕の場合、ひとり親になっちゃうか……」

「あー・・・・・・そういうこと」

クリスはジュリの話を聞いた後、腕を組みしばらく考え込んだ後「よし!」と言いながら両手を叩いた。「どうしたの?」と尋ねるジュリに、クリスはニッと笑いながら提案した。

「なら、俺をパートナーにするか?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

TS魔法少女リュネール・エトワール! ~星月の魔法少女は気の赴くままに行動する~

月夜るな
ファンタジー
この物語はフィクションであり、実在する事件・人物・団体・名称等は関係ありません。 ※8/12 18時更新にて、他サイトに追いつきます。以降は毎日一話投稿となります。 【あらすじ】 宝くじで1億円を当て、今やニート生活を謳歌している主人公――如月司27歳男性。 そんな彼の前に現れたのは喋る兎のぬいぐるみ!? 「魔法少女にならない?」 「はい?」 今から約15年前に突如として世界各地に出現し始めた”魔物”と呼ばれる外敵。 それらに対抗するべくと、魔物の出現と同時に現れた、不思議な力を使う魔法少女たち。 今もまだ魔法少女と魔物との戦いが続いている中、イレギュラーな魔法少女が爆誕?! ひょんな事から魔法少女となった如月司は、やばかった。 星を放ったり、落としたり、重力を変えたり等などやりたい放題!! これはもう戦略兵器?! 規格外な魔法で、気の赴くままに魔物たちを蹂躙する――イレギュラーTS魔法少女リュネール・エトワールの物語! ※なろう・カクヨム・ノベルアップ+にも投稿してます。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

処理中です...