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その出来事から半年、すっかりお腹が大きくなったジュリは厨房で働いていた。。
初めはホールで、という話も出たがジュリが妊娠中だという事、ライアンがぜひ厨房に欲しいと懇願したことでキッチン担当になったのだ。
初めのうちは、じゃがいもを剥いたり皿洗いをしていたのが二か月後にはサラダやスープ 五か月たった頃にはランチタイムの定食をメインで担当するまでになった。
「ライアンさん、仕込み出来なくてすいません。今日検診で……」
「おぉ!いいよいいよ、気にすんな!確か今日性別わかるんだっけ?」
「はい、そうなんです!」
ランチタイムが終わり、ジュリはエプロン姿から私服に着替えるとポシェットを首から掛け幸せそうににっこりと微笑んだ。
今日は月に一回の定期健診なのだ。
「えっと・・・・・・忘れ物はないよね」
市場から一番近い産婦人科は歩いて十五分程度。ジュリは『BINGO』の裏口を出るとポシェットの中身を一通り確認し歩き出す。
診察に行く日は決まってショウがジュリに送ったブラウスを着ていくのが習慣になっていた。
――今月も、無事に育っていますように……!
一番最初の診察の時、心拍が取れず何週も診察を先延ばしにされた事があってから診察はジュリにとって嬉しい反面、緊張する瞬間なのだ。
そんな時、まだ微かに残るショウの香りはジュリの心の精神安定剤になっていた。
「ふぅ・・・・・・でもさすがにもう暑いし長袖は今月でお終いかな。なによりお腹がきつくなってきたし」
そう言いながら膨らんだお腹をゆっくりとさするとまるで返事をするかのようにジュリのお腹がポコポコと動く。
「お、元気だなー。もうすぐ病院だから待っててね」
暑い日差しの中、ジュリは雲一つない空を見上げると病院まで急ぎ足で向かった。
_____
「順調ですよ。何の問題もありません」
ピンク色の屋根が目印の産婦人科で、眼鏡をかけた初老の医者が穏やかな口調でそう告げた。
「本当ですか!良かったー……。それで、あの……性別って」
「あぁ、聞きたい?」
医者のその言葉にジュリは前のめりになると何度も力強く首を縦に振る。
「男の子ですよ。ほらここ、ちゃんと付いてる」
「本当・・・・・・!?男の子ですか!?」
医者は椅子ごとジュリの方を向くと、エコー写真を見せながら。しかし次の瞬間、喜ぶジュリの顔を見ると困ったように唸りながら腕を組んだ。
「君、オメガの中でも特性が強くでるタイプでしょう?」
「は、はい……そうですけど」
「うーん……。今は妊娠中だからヒートはこない。だが、出産したら間違いなく数か月以内にヒートがくる。しかも君は抑制剤を飲んでいてもフェロモンが抑えきれないタイプだ。弟さんにはちゃんと妊娠の事伝えたのかい?」
「それはまだ・・・・・・。で、でも一番強い抑制剤を使えば……!」
「合法のものでそんなものはない。どんなにヒートが軽いタイプのオメガであってもヒートを抑制剤だけで乗り切るのはとても大変なんだ。それに男のオメガから産まれる男児はアルファの確立が高いと言われている。この先、ヒートになった時に息子に襲われる可能性もある。……正直言って一人で育てるのは不可能に近い」
『不可能』その言葉に目を見開きごくりと唾をのむ。
――何より大切なショウとの赤ちゃん。絶対この子だけは手放したくない……!
ジュリは医者の方を見ると膝に置いた拳を力強く握った。
「先生、この子を失いたくありません。どうすればいいでしょうか」
「通常、ヒートになった時は番やパートナーがいるから問題はない。だがいない場合は、すぐにでも相手を見つけるか、もしくは・・・・・・里子に出すのも手段の一つだ」
初めはホールで、という話も出たがジュリが妊娠中だという事、ライアンがぜひ厨房に欲しいと懇願したことでキッチン担当になったのだ。
初めのうちは、じゃがいもを剥いたり皿洗いをしていたのが二か月後にはサラダやスープ 五か月たった頃にはランチタイムの定食をメインで担当するまでになった。
「ライアンさん、仕込み出来なくてすいません。今日検診で……」
「おぉ!いいよいいよ、気にすんな!確か今日性別わかるんだっけ?」
「はい、そうなんです!」
ランチタイムが終わり、ジュリはエプロン姿から私服に着替えるとポシェットを首から掛け幸せそうににっこりと微笑んだ。
今日は月に一回の定期健診なのだ。
「えっと・・・・・・忘れ物はないよね」
市場から一番近い産婦人科は歩いて十五分程度。ジュリは『BINGO』の裏口を出るとポシェットの中身を一通り確認し歩き出す。
診察に行く日は決まってショウがジュリに送ったブラウスを着ていくのが習慣になっていた。
――今月も、無事に育っていますように……!
一番最初の診察の時、心拍が取れず何週も診察を先延ばしにされた事があってから診察はジュリにとって嬉しい反面、緊張する瞬間なのだ。
そんな時、まだ微かに残るショウの香りはジュリの心の精神安定剤になっていた。
「ふぅ・・・・・・でもさすがにもう暑いし長袖は今月でお終いかな。なによりお腹がきつくなってきたし」
そう言いながら膨らんだお腹をゆっくりとさするとまるで返事をするかのようにジュリのお腹がポコポコと動く。
「お、元気だなー。もうすぐ病院だから待っててね」
暑い日差しの中、ジュリは雲一つない空を見上げると病院まで急ぎ足で向かった。
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「順調ですよ。何の問題もありません」
ピンク色の屋根が目印の産婦人科で、眼鏡をかけた初老の医者が穏やかな口調でそう告げた。
「本当ですか!良かったー……。それで、あの……性別って」
「あぁ、聞きたい?」
医者のその言葉にジュリは前のめりになると何度も力強く首を縦に振る。
「男の子ですよ。ほらここ、ちゃんと付いてる」
「本当・・・・・・!?男の子ですか!?」
医者は椅子ごとジュリの方を向くと、エコー写真を見せながら。しかし次の瞬間、喜ぶジュリの顔を見ると困ったように唸りながら腕を組んだ。
「君、オメガの中でも特性が強くでるタイプでしょう?」
「は、はい……そうですけど」
「うーん……。今は妊娠中だからヒートはこない。だが、出産したら間違いなく数か月以内にヒートがくる。しかも君は抑制剤を飲んでいてもフェロモンが抑えきれないタイプだ。弟さんにはちゃんと妊娠の事伝えたのかい?」
「それはまだ・・・・・・。で、でも一番強い抑制剤を使えば……!」
「合法のものでそんなものはない。どんなにヒートが軽いタイプのオメガであってもヒートを抑制剤だけで乗り切るのはとても大変なんだ。それに男のオメガから産まれる男児はアルファの確立が高いと言われている。この先、ヒートになった時に息子に襲われる可能性もある。……正直言って一人で育てるのは不可能に近い」
『不可能』その言葉に目を見開きごくりと唾をのむ。
――何より大切なショウとの赤ちゃん。絶対この子だけは手放したくない……!
ジュリは医者の方を見ると膝に置いた拳を力強く握った。
「先生、この子を失いたくありません。どうすればいいでしょうか」
「通常、ヒートになった時は番やパートナーがいるから問題はない。だがいない場合は、すぐにでも相手を見つけるか、もしくは・・・・・・里子に出すのも手段の一つだ」
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