上 下
9 / 85

9最高級のオメガ

しおりを挟む
「何言ってんの?……そんな性欲持て余してんの?勇者なら選り取り見取りでしょ、貴族の娘とか…。……とりあえず、僕はお断りします」

ジュリは、はぁ、とため息をつくと落とした金平糖の袋を手に取った。
正直に言うとジュリはこの仕事が辛いのだ。甘く濃厚な香りと恵まれた容姿のおかげで不動の人気ナンバー1を保っているがその香りのせいでしつこく求められるセックスはジュリにとって苦痛でしかない。
娼館のオーナーはそれを知っているから、ジュリの客は1日1人と決めているのだ。

ーーオメガと寝たくて専属指名してくる人間なんてどんな酷いことをしてくるかわかんない。

ジュリは窓際にもたれると、もう帰ってほしいと二人に声を掛けようとした。と、その時だった。

「貴族の娘も、貴族御用達の娼婦も駄目だったんだ……」

レミウスがポツリと小声で呟く。隣にいるマーリンも口を一文字に結び俯いたままだ。

「……どういうこと?」

「勇者様は、その……好きになった人としかそういうことをしたくないらしい」

「……好きになれる人が見つかるまでほっとけばいいんじゃないの?」

どうせパーティーとか出会いの場はあるんでしょ?とのんきに話を続けるジュリに対して、レミウスは困った表情で頭を抱えている。

「いや、まぁそれはそうなんだが……。時間がない上に、勇者様はその、勃起不全、なんだ……」

「え、なんて……?」

だんだん小さくなっていった声に聞き間違いかと思いジュリは聞き返す。
耳に手を当て話の続きを促すとレミウスはしぶしぶという様に話し出した。

「勇者様のアレは勃たないんだ……。勇者様と結婚してもよいという貴族の娘や、娼婦を何人か送り込んだがどれも全敗。ピクリともしなかった上に、貴族の娘に対しては『自分を大切にした方がいい』と説教までしたらしい」

「それって、単純に女より男が好きなんじゃないの?」

「……そう思って、貴族のオメガの息子と会わしたこともある。ヒートが近いせいで薬を飲んでいても僅かにフェロモンが香っていたのに勇者様は何の反応もしなかった」

レミウスはがっくりと肩を落とすと、隣にいたマーリンにそっと目配せをした。
それに気づいたマーリンは緊張した面持ちで頷くとジュリに向かって背筋を伸ばした。

「そこでジュリさんの力をお借りしたいんです。どうかジュリさんの持つオメガの力を使って……」

「オメガのフェロモンで誘惑しろってことならお断り。僕はこの店で十分」

ジュリはマーリンを睨みつけると冷たく言い放った。この二人ともう話すことはないと、ジュリが部屋を出よう歩き出すと、それに気付いたレミウスは慌てて引き留めた。

「もちろん!ただとは言わない。……君にはまだ小さい双子の弟がいる上に借金があるんだろう」

ドアノブを握った所でジュリの動きがぴたりと止まる。そのまま顔だけレミウスの方を向けると一瞬目を丸くした後ぎろりと睨みつけた。

「何が言いたいの……?」

「……君が”最高級のオメガ”だと呼ばれている事を聞いた。期限は半年!君のフェロモンで勇者様の勃起不全が治り、無事相応しい方との世継ぎが出来たら、借金を全てこちらが肩代わりし、弟たちの生活費と学費を援助する。もちろん君の生活費も含めてだ」

「……その話、絶対守ってくれるんだろうね」

ジュリは少し間をおいた後、ドアノブから手を離した。







 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

アルファだけの世界に転生した僕、オメガは王子様の性欲処理のペットにされて

天災
BL
 アルファだけの世界に転生したオメガの僕。  王子様の性欲処理のペットに?

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。 そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。 それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。 しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。 ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。 前半は受け君がだいぶ不憫です。 他との絡みが少しだけあります。 あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。 ただの素人の小説です。 ご容赦ください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...