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1:クビになって異世界
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「ダイア! 剣が壊れた! 早く直せ!」
冒険者パーティー『ライオネルハーツ』のリーダーであるホーデスが怒声と共に、半ばから折れた剣を俺に投げつけてきた。回転する柄を掴み、即座に状態を確認。
うげ……芯鉄まできれいにポッキリだ。
どんな受け方をしたらここまで見事に折られるってんだ。試し切りでもさせたのか?
「ダイアァ! ボケっとしてんじゃねえ! 早くしろッ!」
おっと、ホーデスは予備の剣でなんとか応戦しているが、慣れない武器は扱いにくそうで防戦一方だ。……いや、そういえば慣れた武器をへし折られたんだよな。苦戦は武器とは無関係そうだな。
このモンスターが、普通に強いんだ。
見た目は、闇夜に地中から這い出てくる典型的なアンデットモンスター。スケルトンに相違ないと思ったんだが、もしかしたら特異固体なのかもしれない。
「ちょっと待ってろ! 【アップデート】し直す! それまで重騎士のリドと共闘して持ちこたえてくれ!」
「ああ!? くっそ、相変わらず使えねぇ錬金術師だッ!」
はいはい。悪態ついてないで、死なないように立ち回ってくれ。
この折れた剣のデータから、もっと芯鉄は強度を上げた方がいいな。重くはなるが、その分、威力も増すだろう。炎のエンチャント……いや聖属性エンチャントの方が無難か。
考えを組み立てたそばから、地面に錬成陣を書きなぐる。ごちゃごちゃと汚い錬成陣をアドリブで帰結させ、スキル発動—―!
このへし折れた剣を、あの特異個体っぽいスケルトンに対抗しうる武器にする!
「錬金スキル【修復《リペア》】! それから【アップデート】!」
稲妻にも似た錬成発光の後に、みるみる出来上がっていく推定特異個体スケルトン専用武器。
これが冒険者として現場に出向く錬金術師が生み出した錬金システム【オーダーメイド】!
受け取れホーデス! お前の新しい武器だ――!
「—―なに? クビ?」
冒険者ギルドの一室。
今日も無事にクエストを終えて、帰路につくところだったのを、ホーデスに呼び止められた。憤慨した様子で、ここまで連れてこられると、他のメンバーも既にそこに待ち構えていたのだった。
そして聞かされた言葉を、俺はオウムのように聞き返した。
「そうだクビだ! いつもいつもパーティーを危険な目に合わせやがって! 今日だってあわやスケルトンなんかに……! 最初から強い武器を用意しろって、何度言わせる気だ! お前の鈍くささには、もう限界なんだよ!」
ホーデスの言い分は、まあわかる。最初からどんなモンスターにも対応できる武器を持っていれば、もちろんそれが正解だ。何も間違っちゃいない。
……それが例え机上の空論だとしても、正論には変わらない。
しかしそれができれば、錬金術師が冒険者になんてならなくていいのだ。錬金術師は安全地帯でのんびりと店舗でも構えて、冒険者が装備のメンテナンスしに来るのを待っているだけでいい。
でもそんな都合のいい武器なんて存在しないのだから、現場で即座に【アップデート】していくしかない。だから冒険者としての錬金術師が必要なんだ。
それくらい、お前でもわかるだろ、ホーデス。
「ちょっと落ち着いてくれ。今回のスケルトンは特異固体だった可能性が高い。クエストのランクも、想定された難易度とは異なっていた。苦戦は仕方がなかった。五体満足で生きて、目標だって達成できた。これ以上何を望むっていうんだ」
「だからクビだと言っているだろ! 俺が望むのは貴様のパーティー脱退だ!」
どうしたってんだ。思った以上にあらぶってるな……。
ホーデスが短気で視野が狭くなりがちなのはいつものことだが、それでも今回は度が過ぎる。
クビだなんて、奴の口から出たことなんてこれまでなかった。
ホーデスのわがままに付き合いきれなくて、自分から辞めていくメンバーは少なからずいたが……。仲間たちは俺も含めて、そんな彼らをなんとか留めようと説得するのが決まりだった。
でも結局、新しいメンバーを迎えても、最初期に組んだこの五人に戻ってしまう。
仕方がないから、俺たちでなんとか頑張ろうぜ。
なんて結論に至って、まあこれまでやってきたわけだが……。
そういえば、近頃のホーデスは、いつもイライラしてるようだった。短気なりにも酒を飲めばバカみたいに笑ってたちまち愉快になる、熱しやすく冷めやすい性格だったこいつが、最近は常にピリピリと、おっかない。
「一体どうしたんだよ、ホーデス。お前、最近ちょっとおかしいぞ?」
「誰がおかしいってんだダイアてめぇ! ぶち殺すぞ!」
おいおい、これじゃ話にならんな……。
他のメンバーに目配せして、どうにかしてくれと訴える。
……だがどうも、俺の視線に応えてくれる者はいなかった。代わりに、魔法使いのテロッサが腕を組んで、淡々と言葉を紡ぐ。
「ダイア。悪いけど、今回ばかりは、私たちもホーデスに賛成よ。もうあなたとは組めない」
「……なんだって、テロッサ?」
彼女はそれを言ったきり、そっぽを向いてしまった。
冗談を言っている風には見えない。だからこそ、冗談にしか聞こえなかった。重騎士のリドに目を向けて、しかし目をそらされる。戦士のゴーンは睨むように俺を見るが、ただ黙って、話しかけても返事はない。
「嘘だろ……?」
「嘘じゃねえんだよ! お前は、俺たちのパーティーじゃ足手まといだってんだ! もうわかるだろ!?」
いやわからん。
クエストで、俺にミスはなかった。今回も的確に変異種のスケルトンに有効打を与えられる武器を【アップデート】できた。これには誰も異論はないはずだ。
「……代わりの錬金術師でも見つかったのか?」
「それ、お前に言う必要あるか?」
「そうだな。まあ……、心配だし」
「お荷物に心配されたくねえよ! それにもう、俺たちは縁もゆかりもない赤の他人だぜ? さっさと消えろ!」
テーブルを蹴り上げて威嚇し、これ以上は問答する気もないようだ。
「わかった。……すぐに出て行くよ」
今はとにかく、一時的にでも距離を取った方がいいだろう。
あいつら、たぶん何か誤解してるな。それも、揃いも揃って俺を追放したくなるような、致命的な誤解だ。
しばらく様子を見て、ホーデスじゃもう話にならないだろうし、他のメンバーから徐々に誤解を解いていこう。
「はあ。異世界生活も、楽じゃないね」
あてもなく街を歩きながら、独りごちる。
俺はもともと、こっちの世界の住人じゃない。
前世は、20歳まで日本で暮らしていた、ごくごく平凡な一般人だった。
それがどういうわけか死んじまって……トラックにでも轢かれたんだったかな。
気づけばもうこっちに来て21年だ。前世よりも長生きしてる。
赤ん坊の頃から自意識と前世の記憶なんてあったものだから、人生のスタートダッシュは、まあまあ良くできたんじゃないかって思う。
「良くできたはず……なんだけどなあ?」
母親が錬金術師なもんで、幼い頃から教わった。
剣士の父親からもそこそこに剣術を習ったが、錬金術の方が俺の肌感に合っていたんだ。あと剣で生き物を斬る感触がなんかキモくて、嫌だった。
そして十五歳になり、独り立ちを決意。
町の錬金屋さんよりも、冒険者となって現場に出る方が稼ぎがいいものだから、父親に鍛えられた剣の自信もあり、迷わずギルドに登録した。
当時まだ駆け出しだったホーデスに誘われて、冒険者パーティー『ライオネルハーツ』に参加して、それで今までやってきたわけだが……。
「あれ……?」
……喉と、目頭が熱い。
あんな奴らでも、長年連れ添った相棒とも呼べる人たちだと思っていた。
それが唐突に、裏切られるような形でサヨナラなんて、納得できるわけがない。
何か裏があるはずだ。
ちょっと、調べてみるか。
冒険者パーティー『ライオネルハーツ』のリーダーであるホーデスが怒声と共に、半ばから折れた剣を俺に投げつけてきた。回転する柄を掴み、即座に状態を確認。
うげ……芯鉄まできれいにポッキリだ。
どんな受け方をしたらここまで見事に折られるってんだ。試し切りでもさせたのか?
「ダイアァ! ボケっとしてんじゃねえ! 早くしろッ!」
おっと、ホーデスは予備の剣でなんとか応戦しているが、慣れない武器は扱いにくそうで防戦一方だ。……いや、そういえば慣れた武器をへし折られたんだよな。苦戦は武器とは無関係そうだな。
このモンスターが、普通に強いんだ。
見た目は、闇夜に地中から這い出てくる典型的なアンデットモンスター。スケルトンに相違ないと思ったんだが、もしかしたら特異固体なのかもしれない。
「ちょっと待ってろ! 【アップデート】し直す! それまで重騎士のリドと共闘して持ちこたえてくれ!」
「ああ!? くっそ、相変わらず使えねぇ錬金術師だッ!」
はいはい。悪態ついてないで、死なないように立ち回ってくれ。
この折れた剣のデータから、もっと芯鉄は強度を上げた方がいいな。重くはなるが、その分、威力も増すだろう。炎のエンチャント……いや聖属性エンチャントの方が無難か。
考えを組み立てたそばから、地面に錬成陣を書きなぐる。ごちゃごちゃと汚い錬成陣をアドリブで帰結させ、スキル発動—―!
このへし折れた剣を、あの特異個体っぽいスケルトンに対抗しうる武器にする!
「錬金スキル【修復《リペア》】! それから【アップデート】!」
稲妻にも似た錬成発光の後に、みるみる出来上がっていく推定特異個体スケルトン専用武器。
これが冒険者として現場に出向く錬金術師が生み出した錬金システム【オーダーメイド】!
受け取れホーデス! お前の新しい武器だ――!
「—―なに? クビ?」
冒険者ギルドの一室。
今日も無事にクエストを終えて、帰路につくところだったのを、ホーデスに呼び止められた。憤慨した様子で、ここまで連れてこられると、他のメンバーも既にそこに待ち構えていたのだった。
そして聞かされた言葉を、俺はオウムのように聞き返した。
「そうだクビだ! いつもいつもパーティーを危険な目に合わせやがって! 今日だってあわやスケルトンなんかに……! 最初から強い武器を用意しろって、何度言わせる気だ! お前の鈍くささには、もう限界なんだよ!」
ホーデスの言い分は、まあわかる。最初からどんなモンスターにも対応できる武器を持っていれば、もちろんそれが正解だ。何も間違っちゃいない。
……それが例え机上の空論だとしても、正論には変わらない。
しかしそれができれば、錬金術師が冒険者になんてならなくていいのだ。錬金術師は安全地帯でのんびりと店舗でも構えて、冒険者が装備のメンテナンスしに来るのを待っているだけでいい。
でもそんな都合のいい武器なんて存在しないのだから、現場で即座に【アップデート】していくしかない。だから冒険者としての錬金術師が必要なんだ。
それくらい、お前でもわかるだろ、ホーデス。
「ちょっと落ち着いてくれ。今回のスケルトンは特異固体だった可能性が高い。クエストのランクも、想定された難易度とは異なっていた。苦戦は仕方がなかった。五体満足で生きて、目標だって達成できた。これ以上何を望むっていうんだ」
「だからクビだと言っているだろ! 俺が望むのは貴様のパーティー脱退だ!」
どうしたってんだ。思った以上にあらぶってるな……。
ホーデスが短気で視野が狭くなりがちなのはいつものことだが、それでも今回は度が過ぎる。
クビだなんて、奴の口から出たことなんてこれまでなかった。
ホーデスのわがままに付き合いきれなくて、自分から辞めていくメンバーは少なからずいたが……。仲間たちは俺も含めて、そんな彼らをなんとか留めようと説得するのが決まりだった。
でも結局、新しいメンバーを迎えても、最初期に組んだこの五人に戻ってしまう。
仕方がないから、俺たちでなんとか頑張ろうぜ。
なんて結論に至って、まあこれまでやってきたわけだが……。
そういえば、近頃のホーデスは、いつもイライラしてるようだった。短気なりにも酒を飲めばバカみたいに笑ってたちまち愉快になる、熱しやすく冷めやすい性格だったこいつが、最近は常にピリピリと、おっかない。
「一体どうしたんだよ、ホーデス。お前、最近ちょっとおかしいぞ?」
「誰がおかしいってんだダイアてめぇ! ぶち殺すぞ!」
おいおい、これじゃ話にならんな……。
他のメンバーに目配せして、どうにかしてくれと訴える。
……だがどうも、俺の視線に応えてくれる者はいなかった。代わりに、魔法使いのテロッサが腕を組んで、淡々と言葉を紡ぐ。
「ダイア。悪いけど、今回ばかりは、私たちもホーデスに賛成よ。もうあなたとは組めない」
「……なんだって、テロッサ?」
彼女はそれを言ったきり、そっぽを向いてしまった。
冗談を言っている風には見えない。だからこそ、冗談にしか聞こえなかった。重騎士のリドに目を向けて、しかし目をそらされる。戦士のゴーンは睨むように俺を見るが、ただ黙って、話しかけても返事はない。
「嘘だろ……?」
「嘘じゃねえんだよ! お前は、俺たちのパーティーじゃ足手まといだってんだ! もうわかるだろ!?」
いやわからん。
クエストで、俺にミスはなかった。今回も的確に変異種のスケルトンに有効打を与えられる武器を【アップデート】できた。これには誰も異論はないはずだ。
「……代わりの錬金術師でも見つかったのか?」
「それ、お前に言う必要あるか?」
「そうだな。まあ……、心配だし」
「お荷物に心配されたくねえよ! それにもう、俺たちは縁もゆかりもない赤の他人だぜ? さっさと消えろ!」
テーブルを蹴り上げて威嚇し、これ以上は問答する気もないようだ。
「わかった。……すぐに出て行くよ」
今はとにかく、一時的にでも距離を取った方がいいだろう。
あいつら、たぶん何か誤解してるな。それも、揃いも揃って俺を追放したくなるような、致命的な誤解だ。
しばらく様子を見て、ホーデスじゃもう話にならないだろうし、他のメンバーから徐々に誤解を解いていこう。
「はあ。異世界生活も、楽じゃないね」
あてもなく街を歩きながら、独りごちる。
俺はもともと、こっちの世界の住人じゃない。
前世は、20歳まで日本で暮らしていた、ごくごく平凡な一般人だった。
それがどういうわけか死んじまって……トラックにでも轢かれたんだったかな。
気づけばもうこっちに来て21年だ。前世よりも長生きしてる。
赤ん坊の頃から自意識と前世の記憶なんてあったものだから、人生のスタートダッシュは、まあまあ良くできたんじゃないかって思う。
「良くできたはず……なんだけどなあ?」
母親が錬金術師なもんで、幼い頃から教わった。
剣士の父親からもそこそこに剣術を習ったが、錬金術の方が俺の肌感に合っていたんだ。あと剣で生き物を斬る感触がなんかキモくて、嫌だった。
そして十五歳になり、独り立ちを決意。
町の錬金屋さんよりも、冒険者となって現場に出る方が稼ぎがいいものだから、父親に鍛えられた剣の自信もあり、迷わずギルドに登録した。
当時まだ駆け出しだったホーデスに誘われて、冒険者パーティー『ライオネルハーツ』に参加して、それで今までやってきたわけだが……。
「あれ……?」
……喉と、目頭が熱い。
あんな奴らでも、長年連れ添った相棒とも呼べる人たちだと思っていた。
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