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ある意味地雷

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「アンドル公爵令嬢クリスティーナ!今日この場でもって、私、トマソン侯爵家子息キールは、君との婚約を破棄し、愛するマリーを婚約者とする!」

 トマソン侯爵令息キールが上げた突然の大声に、王立学園卒業者成人記念パーティで賑やかだった空間がシーンとなる。

 王立高等学園卒業者成人記念パーティとは、その名の通り、学園の卒業と成人を同時に祝う記念パーティだ。
 エンゲレス王国の貴族の子供は、国内15ある王立初等学園の貴族教育クラスで学んだ後、高等貴族教育機関である3つの王立学園に通うことを義務付けられている。15歳で入学し、留年しなければ、成人となる19歳で卒業するので、卒業と成人の祝いを国がしてくれるのである。

 ちなみに、国内15ある王立初等学園の方は、全王国民対象で、年齢制限も特にない。平民にとっては最終基本教育機関であるが、卒業時に発行配布される初等教育修了と書かれた「未成年用の身分証明書」を受け取るだけでお祝い行事などはない。その後の就職や進学に必要な証明書を手にした卒業生達は、次なるステージに向かって、迅速に移動するだけだ。

 王立初等学園には体育館程度の施設しかないので、場所を借りて開催する、華やかなパーティに数時間参加するためだけに、全財産叩いて服を用意など、平民には有難迷惑でしかなく、貴族の生徒に幾度か提案されたらしい卒業イベントは毎回即座に却下されているらしい。

 記念となる華やかなイベントに参加したい、卒業前に将来に役立つ誰かとお近づきになる機会が欲しい、といった貴族しか参加者がいない、王立学園卒業者成人記念パーティは、大きなイベントホール、「王国館」で開催されている。

「王国館」は、100年前に王城でパーティをしたいという貴族の嘆願で、建築されたそうだ。王城の警備問題、施設維持の問題があるので、王城の城壁の中央大門から少し離れたあたりの城壁にくっつく形で造られている。

「王城にある(くっついている)ホール」という位置で、貴族の虚栄心を満足させ、王城内には入れないように造ることで、城壁の隣にあるだけの「王城内施設ではない、管轄外の建物」として、建設費は募金で補い、維持運営も別の組織に投げたのだ。国は許可をだし、建設時に王城へのルートを勝手につくられたりしないように監視をしただけ。主な収入は王立学園入学時に徴収される記念費と多少の使用規則はあるが貴族達が自由に開催するイベントで使用する際の貸しホール料金で、ホクホクの黒字経営らしい。金も出さず口は出し、税金が徴収できるので国もホクホクな結果となった。

 王立学園卒業者成人記念パーティに関しては、一応主催者は王であり、費用の1/5程度負担してくれているらしい。主催者の割にショボイが王族の名前を貸してもらうことに意義があるので、参加貴族達からの文句は出ないのだとか。全額でないところが高ポイントだと、酒で酔っ払った平民が、「うちの国賢い!」「貴族の贅沢に1/5でも税金を使わせてやってることに感謝しろ!」と言い合い、盛り上がるのは、我が国の居酒屋名物かもしれない。ホールの臨時バイトは高額で平民に人気らしいので、それもまた平民目線での高ポイント材料に含まれるのだろう。


 閑話休題。

 そんな、栄えあるイベントに着飾って参加していた人間の多くが、突然の大声に、状況を把握できず、ただただポカンとしている。

 集団フリーズ事件発生である。

 ホールの最奥にある主催者席付近で大声を上げたトマソン侯爵令息キールはと言えば、愛するマリーとやらの腰を抱いて、ふんぞり返っている。マリーの身体は完全にキールの左半身と一体化している。べっとり張り付いているのだ。キールがふんぞり返っているのは、もしかしたら、転けないようバランスを取るためかもしれない。

 ちなみに、キールとマリーは、互いの目の色のペア衣装を着ている。マリーの瞳の色の淡いブルーの花柄と、キールの色の淡いピンクの花柄で、双方の襟や袖、スカートには幼児がお披露目で着る服の様な、ヒラヒラなフリルが大量についている。淡い色合いなこともあり、正直2人ともに似合ってはいない。布地が高級服地に見えず、この国で人気なテーブルクロスの柄に似ているので、違和感を感じるのかもしれない。

 そんな2人の前には、婚約者から突然の婚約破棄という、恥レベルマックスな公開処刑を受けてしまった不幸な貴族令嬢クリスティーナの姿が……見えない。

 令嬢の代わりに、2人の前には4名の近衛騎士が、立っていた。

「え?あれ?」
「何?どうしたの?」

 この事態に動揺するキールとマリー。彼らの前に立ち塞がる騎士も、遠巻きにするパーティ参加者も、誰も言葉を発しない。

 応えは、近衛騎士の背後、主催者席の方向からあった。

「キール・トマソンとやら。その婚約破棄の話は、私が聞かせてもらおうか」

 声が聞こえた、そのすぐ後に、その声の主の姿が見えた。

 今回の王立高等学園卒業者成人記念パーティには、主催である王の名代として王弟殿下が参加している。まだパーティの開催宣言や主催者、主賓の挨拶の前だったので、5段程高くなったステージの周囲にはカーテンがかけられていたが、今この時、そのカーテンが中央から左右に開き、ステージ上の椅子に座る、いわゆる「お偉方」の姿が、ホールの中から見えるようになったのだ。

 王弟の側の席に座る、3つの王立高等学園のトップである理事と、各校のトップである校長達は一同苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

 そんな中、何故か笑顔悪魔の微笑みの王弟が、婚約破棄騒ぎを起こした2人に話しかける。

「確認するが、先程の宣言は、アンドル公爵家のクリスティーナ嬢とトマソン侯爵家のキール殿の婚約破棄するというもので、破棄の理由は、貴殿達の浮気ということであっているかな?ん?違うのか?婚約者のいる侯爵家令息が、愛する人を婚約者にしたいと言う理由で、婚約破棄なら、要は浮気して、浮気相手と婚約、結婚したいと言うことだろう?そこのマリーとやらは、付き合い出した頃のことは知らぬが、少なくとも今現在は、公爵令嬢という婚約者がいるとわかっていて、この破棄の場で誇らしげに人の婚約者にへばりついているのだから、知らぬ存ぜぬは通じないぞ」

「ち、違います!破棄の後に、愛するマリーと婚約したいのは確かですが、原因は、公爵令嬢という立場を利用して、クリスティーナが、マリーを虐めていたからです!」
「そうです!私は、クリスティーナに虐められていたのです!」

「ふーん、そうか。その虐めとやら、具体的にどんな被害を指すのだ?」

 2人の訴えに、王弟が質問を返す。

「それは酷いいじめを受けたと、マリーから聞いています!まず、学園の敷地に入るのを妨害したり、入れた日には校内で教師にバッタリ会った瞬間に警備員を呼ばれて学園の外に放り出されたり!何事もなく教室で席について、机に入れていた荷物を取り出して整理をしていると、クラスメイトが騒ぎ出して、また警備員に連行されたり。今度やったら牢屋に入れると恫喝されたりもしたそうです!クリスティーナは、公爵令嬢という強い立場を使い、マリーが学園で勉強する権利すら奪う、とんでもなく酷い悪女です!」

「ほぉ。それは大変だったな。話を続けて」

「それに加え、マリーは、虐めにより制服や教科書、個人的な持ち物まで奪われ、困っていました!学園内で訴えても、権力で揉み消されるので、今日この場で、残酷なクリスティーナとなど結婚してやらぬと宣言することにしたのです!婚約破棄された、傷物の令嬢ですから、その原因はクリスティーナにあると、私の横で震えるか弱いマリーの姿を見れば、多くの貴族の皆様にわかっていただけると思い、正義の鉄槌を下すことにしました!」

「そうです、私、学園にまともに通えなくされて、凄く困って!持ち物も何もかもなくて、勉強もできませんし!いつもいつも怖い思いばかりして、大変で、悲しかったです!今日も、逆恨みしたクリスティーナに睨まれると思うと、恐ろしくて震えが止まりませんでした!」

「なるほど、よくわかった。ところで、マリーとやらは、どこの学園に通っていたのだ?そして、どこで2人は出会った?どんな経緯で親しくなったのだ?」

「私達の出身校は、第三王立高等学園です。2年前に、学園前にある噴水広場で出会いました!その時のマリーは、学園の乱暴な生徒に突き飛ばされ転び、荷物を奪われたと泣いておりまして!可哀想なので、家にあるバッグを今度持ってきてプレゼントする約束をして別れました。まあ、家族に邪魔をされ、持ち出せませんでしたけれど。以来、そこでよく会うようになったのですが、頻繁に誰かに虐められていて可哀想でした。マリーにクリスティーナの話をしたことで、犯人の黒幕がわかりましたが、犯行がバレて焦ったのか、それ以降は、学園内でより苛烈な、先程申し上げたような虐めをうけるようになりっ!私の婚約者のせいで、酷い目にあうマリーが可哀想で!私が守ってあげようと決意したのです!」
「そうです、そんな感じで、私、悲しかったのです!私的には、優しくて格好良いお金持ちなキール様が、クリスティーナがいるせいで、私にプレゼントを購入できないとか、お母さんやお姉さんや妹の持ち物を私にあげようとするとクリスティーナのせいで怒るとか聞いて、なんて酷い女なんだって!そんなケチな女がキール様のお嫁さんになるなんて、許せないと思って、怖いけれど、クリスティーナの罪をキール様に教えてあげたんです!」

「なるほど、大体わかった。第三王立高等学園校長には、後で話を聞く。」

 王弟は、自身の斜め後ろの席に座る第三王立高等学園校長に視線を向け、頷いてみせると、「計画外だが、運良くクリスティーナの悪行を王族に言いつけることができた!」と、喜び出している、キールとマリーに声をかけた。

「まず。マリーとやら。君は、平民で間違いないね?」
「えー、はい。そうですけどっ、あの、もしかして、王族の方も、私を平民だと差別するんですか?」
「そうではない。それで、キールもマリーが平民であると、当初から知っていたで間違いないな?」
「ハイっ!知っています!私は平民差別などしないので!愛するマリーを守ります!」
「私怖ぁい!キール様、守ってぇ!」

 何故かそこで抱き合って、王弟を睨みつける2人。

 王弟を差別主義者と断定したかのような2人の無礼極まる言動に、礼儀のれの字どころか気配すら感じられない振る舞いに、少し前まで驚きでフリーズしていた会場の人間オーディエンスが、寒い方の意味でフリーズした。

「トマソン侯爵令息キール。貴殿は、王立高等学園がどのような学園か知っているか?」
「はい、勿論、貴族が通うことが義務付けられている、高等貴族教育機関です!」
「なら、貴族ではない平民のマリーは?」
「義務はないのに、学ぶ意欲のある素晴らしい、平民です!マリーから、この話を聞いて、感動しました!」
「貴族が通うことが義務付けられている、貴族のための高等貴族教育機関は、入学の条件が貴族であることだ。現当主の兄弟の子供でさえ入学は許可されない。マリーは、学園の生徒だと名乗り、キールはそれを信じた。それで間違いないな?」

「え?え?どういう意味ですか?え?」
「……。でも、あの、だって!」

 話の内容が理解できないらしい、キールと、嘘がバレたことをどう誤魔化そうか考えている様子のマリーに、王弟は更に畳み掛ける。

「生徒でもない部外者が、学園に侵入しようとすれば、当然阻止される。そして、その部外者が、無断で学園内に入り込んでいれば、捕まえて放り出されて当たり前だ。教室に入り込んで他人の持ち物を物色していれば、不法侵入者で危険な人間だ。クラスメイトでもない不審人物がいると、その教室に居合わせた生徒に騒がれ、警備員に連行され、今度やったら牢屋に入れると忠告をするのも、ごく当たり前の対処だな。最寄りの王都治安維持治局に通報の上、捕縛、牢屋行きも、未成年の女性相手でなければ、猶予もなく、執行されていたはずだ。普通は初めて学園内に入り込んだ段階で、牢屋の中だ。わかるか?それが、公爵令嬢の命令など関係なく、この国の法律で決められた犯罪者への対処だ。虐めにより制服や教科書、個人的な持ち物まで奪われたという話も、そもそも学園の生徒でもない人間が所持できるものではない元々存在しない持ち物をどうやって奪う?トマソン侯爵令息キール、これらのことついて意見はあるか?」

「え、生徒じゃない?でも、マリーはっ!え?マリー、生徒だよね?自分のクラスから追い出されたり、色々盗まれたりして辛いと泣いていただろう?」
「……。入りたいな、と思ったんだから、生徒だもん!私の持ち物になれば良いなと思うものを触って何が悪いの?きっと私のモノだった筈の制服とかがないのは、意地悪でしょ?嫌なことは、全部、全部、クリスティーナっていう、悪女のせいに違いないって、キール様も認めていたじゃない!」
「え?、でも、生徒じゃないなら……」
「生徒になりたいなら生徒で良いでしょ!もう!」

 王弟を無視して、揉める2人であるが、話す内容を聞いてしまうことになる会場にいる人間哀れなオーディエンスは、皆、得体の知れない怖いものを見たような顔になってしまう。

「王立高等学園が貴族専用だという幼児以外の王国の人間が皆知っている事実を知らぬキールには呆れるが。マリーとやらは、学園の外で初めてキールに会った日から今日まで、一貫して、自分が学園の生徒であると誤解させるような言動を繰り返していたということは、詐欺師であると断言して良いだろう。身分詐称詐欺で立件しよう。校長。侵入以前の段階で、不審者として対処すべきだったな。何度も侵入を許したこともあり得ない。まあ、その話はあとだ。とにかくすぐに、マリーの学園への不法侵入や盗難未遂について知りうる限りのことを書類にまとめ、被害届を出しておくように。キールが、トマソン侯爵家内で身内の財産を盗み、マリーに与えようとした罪に関しては、侯爵家内で改めて処罰を決めてもらうことにする」

 承知しました。と答えた後の、第三王立高等学園校長の頭が力なく垂れ下がる。

 キールとマリーは、反論したそうに、口をもごもごとさせているが、何を言えば良いのかわからぬのだろう。恐れ多くも王弟に向かって、危険人物としか言いようのない、物騒な表情を見せているが、発言はない。

「そして、恐ろしく頻繁になされていたアンドル公爵家のクリスティーナ嬢への暴言の数々、こじつけでしかない、八つ当たりのような冤罪も酷い。本日も許されてもいないのに、2人して何度も呼び捨てにした上、悪女などと悪様に罵っていたな。これには、不敬罪を適用する。貴族の中で最上位の公爵令嬢への不敬だ。王族に次ぐ重い刑になると覚悟するように」

「クリスティーナ、嬢については、教科書とかは冤罪かもしれませんが、マリーを捕まえたり、私の家での行動を邪魔させたりは、事実で、悪女なのも間違いないと思います!あの女に不敬など、ありません!」
「そうです!クリスティーナは、悪女で犯罪者なので、捕まえてください!私は被害者なので、無実です!」

 クリスティーナの名を聞き、再び元気に喚き出す2人に、周囲の目は冷たい。

「トマソン侯爵令息キール。貴殿は、王立高等学園が1つではなく、3つあることは知っているか?」
「勿論、存じています!」

 知っていることを答える時には、迷いがない分、元気になるキールは、無駄に声を張り上げて答える。

「では、第一王立高等学園、第二王立高等学園、第三王立高等学園に、生徒がどう振り分けられているかは?」
「はい!家からの距離で決まるのだと思います!私の家は、第三王立高等学園が一番近いので!クラスメイトも、家から王都は遠いけれど、第三は一番近いし、寮費も格安、学期毎に送り迎えする家族は王都の中心の宿屋を利用しなくて済むので助かると言っていました!」

「違うぞ。成績で決まるのだ」
「え、成績?」

「第一王立高等学園は16名で固定、第二王立高等学園は20名で固定、第三王立高等学園は第一と第二に入れなかった者達で人数は決まっていない。30~40名となることが多いそうだが。貴族の数は多いが、同じ時期に学園に入る世代の人数となると、そう多くはない。全てにおいて優秀な人間は第一王立高等学園に、その次に平均的に優秀だったり、1つ2つ苦手なことはあっても、突出した優秀さを発揮できるものがあり、総合的に優秀だと判断された者が、第二王立高等学園に、その2校に入らない残りの全ての者が第三王立高等学園に入学することになっている。在学中に成績が上がれば、第三から第二への転校もあり得るし、逆もあるが、毎年各学年入れ替わりは1人ぐらいだな。第一王立高等学園には成績を落とす者がいないので、人数が減らず、下から人間が上がってくることはない。何らかの事情で通学が叶わなくても、早めに卒業しても、籍はおいているので、空席が出ないからな」

「はぁ、そうですか」

「第一のメンバーは入学から卒業まで固定で変わらぬ。まあ、それを踏まえて。アンドル公爵家のクリスティーナ嬢は、第一王立高等学園に在籍していた。この意味がわかるか?」

「え?第三では?」
「一番多いとはいえ、30~40名で、クラスはたった2つ。同学年にクリスティーナ嬢はいたか?」
「いませんでしたけど。あ!バカなので、留年してたとか!?きっとそうです!」
「懲りずに不敬だな。その理由だと、入学時には同じクラスか、もう一つのクラスにいたことになるが。いたか?」
「え、い、いたかな?」
「いるはずがないだろう。君の年齢でダントツ1位の成績で、第一王立高等学園に入学した2週間後には、卒業試験を満点で合格して、以後学園には通わず国務を手伝っている、歴史的才女だぞ?」
「そ、そんなバカな!」
「バカは、君だろう。仮に第一王立高等学園に普通に通っていたとして、距離がある第三学園や君のことに、彼女が日々関係して干渉や嫌がらせなど、馬鹿馬鹿しくも面倒で、意味もないことをする筈がないだろう」
「でも、嫌がらせは事実で!先月も今日のマリーのドレスの発注の妨害が!嫉妬したあの女がっ!」
「実は、それについての情報はある」
「あるんですね!やっぱり!」

「トマソン侯爵家子息キールが、アンドル公爵家御用達の店に、アンドル公爵家に請求を回せと言いながら、ドレスを発注しようとしたので、お断りしたと。トマソン侯爵との付き合いはあるので、王都治安維持治局に通報することはやめたが、アンドル公爵家とトマソン侯爵家には即座に連絡を入れたと聞いている」
「あ、それで怒られたのか!なんだよ、もう!!あの、あの行動には正当な理由がありました!マリーが虐め被害の慰謝料の代わりをもらいたいと、被害者として当たり前の主張をしたので!あの家と取引のある店に請求に行っただけです!」

「勝手な理由で、無料で製品を奪おうなんて、強盗か、オレオレ身内詐欺だな。この罪もカウントするように!」
「え?どうして?」
「強盗なんてしてないのに!」

 また一つ、2人の罪が増えたが、罪の自覚はない様子の2人。

 ちなみに、第一王立高等学園は、今日のこの会場のように、王城に隣接した王都大教会の敷地の一部に学園があり、第二王立高等学園は、王都中央の役場の裏にある。第三王立高等学園は、王都の端にある、地方の教会を管轄する中央教会の敷地の横にある。第三王立高等学園に通う生徒の多くが、王都の外に領地を持つ、田舎貴族なので、馬車留めが多く、身内が泊まれる宿泊施設がある教会の近くに学園を建てたのだ。警備の上でも、教会と連携でき、寮住まいの生徒の食事の提供なども、農作物を作っている教会に依頼できるので、無駄がないらしい。

「そもそもの話だが、トマソン侯爵家のキールとアンドル公爵家のクリスティーナ嬢の婚約が結ばれたことはない。貴方の家の優秀なクリスティーナ嬢と婚約できるぐらい、うちのキールも勉学に励み努力してくれれば良いのにという、2家の親同士の立ち話をたまたま盗み聞きしたキールが婚約したと勘違いしただけだ。これは上位貴族には有名な話だ。婚約などしていないと何度もトマソン侯爵家の家族が言い聞かせていたにも関わらず。今日まで誤解が解けなかったことまでは、みな知らないだろうが」

 そもそも、アンドル公爵家のクリスティーナ嬢は、ほぼ学園に通わず卒業資格を得て、国務に励んでいるそうなので、キールなど眼中にない。

「まあ、良い。この2人を連れて行け。取り調べは王都治安維持治局が担当。しっかりやるように。トマソン侯爵、学園理事長と、各学園の校長は、明日王城に来るように!この場にいないトマソン侯爵への呼び出しは理事長からしておいてくれ」

 キールとマリーの背後には会場警備をしている民間人ではなく、王都治安維持治局の兵士6名が2人の退路を立つかのように取り囲んでいる。近づく兵士から逃れようと、キールとマリーの2人は大声で叫び、手足を振り回して大暴れしたが、あっという間に縄で拘束され、簀巻き状態でドナドナ、会場の外に連れ出されて行った。

「はぁ、少し遅れたが、王立高等学園卒業者成人記念パーティを始めよう。王立高等学園卒業者の諸君。卒業と、成人、おめでとう!今日から、君達は成人し、大人としてこの王国を支える存在となる。三つの学園は、先程の愚か者の話で出たように、ほぼ交流がない別々の学園ではあったが、自身の出身校での学びやそこで得た友、恩師のことを宝物とした上で、他の学園出身者との新たな出会い、交流、職場などで先輩となる人からの学びの機会なども、大事にしてほしいと思う。来週には発表予定だが、今日の参加者の中には、領地に王都のニュースがなかなか届かない者も多いと聞く。誤解のないように、最後に、正しい情報を告げておく。アンドル公爵家のクリスティーナ嬢の婚約者は、生まれた時から、この私ジーリアス・エンゲレスだ。王太子の子供達の王位継承権が私より上に来る年齢になるまで発表できなかったが、クリスティーナ嬢の婚約者は、この、私!ジーリアスだと、この場にいない他の人間にも知らせておいてくれ。以上!私からの挨拶は終わりだ!次は学園長の挨拶だ。各学園の校長の話は、パーティが終わる前にあるから、最後の学園授業だと思って、しっかり聞いてくれ。では、みなのもの。この祝いの場を楽しんでくれ!」

 そう言い残し。4名の近衛騎士を引き連れ、颯爽と会場を去る王弟殿下。

 その後ろ姿が、会場から消えた後、誰かが呟いた。

「王弟殿下、婚約者様の他人との婚約の話に、相当イラッときてらっしゃったんだな」

 シーンとしていた会場に響くその言葉に、誰もが深く頷いたのだった。

fin
続きの短編あり。

******
後書き

王弟からの「トマソン侯爵令息キール」の呼びかけが、頻繁に変わるのは、彼からの嫌がらせです。
最初の「キール・トマソンとやらは」は、お前なんて知らないけど的な。
家名をつける際は「貴族なのだからわかっているだろうな、貴族の一員のくせにわかってないなんてありえないよな?」という、嫌味。
名前は呼び捨てで十分だと思う相手に、敬称をつけて呼ぶ等、細かな嫌がらせ。
やっぱり怒ってますね、王弟殿下。(笑)

「王弟殿下、婚約者様の他人との婚約の話に、相当イラっときてらっしゃったんだな」
と、頷いた貴方はもしかして、パーティ参加者様(オーディエンス)でしょうか?

入り口で「アンドル公爵家のクリスティーナ嬢の婚約者はジーリアス・エンゲレス王弟殿下」と「知り合い100名に必ず伝えます」と伝言を残していけば、もしかしたら。王弟殿下の覚えめでたくなるかもしれません。あ、ご自分の家名を伝えるのをお忘れなくです。
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