お前を愛することはない!?それより異世界なのに魔物も冒険者もいないだなんて酷くない?

白雪なこ

文字の大きさ
上 下
30 / 53

30 大事な大事なアーリエアンナのこと

しおりを挟む
 あのリードル鬼畜様のお仕事で1~2日ではないお休みをいただくなんてという、お母様からの的確すぎる指摘に、ちょっと感動してしまうアーリエアンナ。

 そう、そうなんですよ、あのリードル上司様ってば、休暇申請出しても、怖い顔して却下する鬼畜なのですよ。

 この王国の貴族令嬢は、基本的に、格上に嫁ぎたがらない。侯爵家以下は、女性の戦いの場である、家業に集中するのが当たり前。その為に勉強をしたり、市場調査をしたり、商品開発をしたり、商売の中で自分が力を一番発揮できる仕事を探すのだ。

 ボーボルド侯爵家本家にとって、アーリエアンナは現在唯一の姫で、直系の血筋には、4代ぶりの女児であった。先先代や現在の侯爵夫人のように完全なる他家から嫁入りしてくるケースはあるが、親族の多くは数代関係を持たなかった身内一族内で婚姻している。

 そのため、現王弟で、現公爵家当主であるリードルとの婚約は、お断りしたかったのが正直なところ。

 両思いならまだしも、アーリエアンナは、年齢差5歳の幼馴染として幼少期からリードルと交流があったにも関わらず、全くリードルに懐かず、苦手としていた。リードル側から政略結婚ゴリ押しの申し入れがあった時には、連日の親族会議で大変だったのだ。

 女の子なので、家を継ぐわけではないし、今は現侯爵夫人が、次には長男の嫁である次期侯爵夫人が、家業の責任者になることは決まっている。だけど、その時代の直系女子は、特別なのだ。当代である現侯爵夫人の娘であり、一族女性総出で手をかけて育てるスパルタ教育エース候補であり、キラキラと眩しく光る、未来の希望のような存在なのだ。

 逆に、娘比率の多い一族では、アーリエアンナの母のように、血筋的に政略が組みやすい本家の娘をなるべく外に出し、一族内で嫁入り先が不足しないようにしている調整しているケースもある。

 そんな訳で、アーリエアンナの嫁入り先は、一族のまた従兄弟とかそのあたりを希望!が一族の総意であった。当時はまだ王城に住んでいた王子リードルからの、正確にはリードルの熱意執着に負けた王家からの、命令とも取れる政略結婚ゴリ押しの申し入れを断る方法を、連日の親族会議でなんとか絞り出したかったが、返事の催促がきた1週間が経っても、何も出てこなかったそうだ。

 うちのアーリエアンナを、王族にされるなんて!
 王家じゃないだけマシだけど、それでも嫌だ、止められず無念だと!

 アーリエアンナが成長し、ある程度の年齢になるまでは、一族内で「どうにかして破談にすべき」という意見が消えなかったとか。今のボーボルド家一族にはもうない、懸念だ。

 賢く、自由なアーリエアンナを見ていると、不思議と嫁入り先がどうのという心配は無用な気がしてくるから。

 奪われてしまうと思った我が一族の姫は、公爵家に嫁入りしようが、公爵夫人になろうが、ボーボルド家出身の女性になってしまうのでなく、公爵家で活躍しながらも、ボーボルド家のアーリエアンナであり続けるだろうとの確信が持てたから。

 強くて、なんでも出来るアーリエアンナは、本当に嫁入りを阻止したいと思えば、自力で破談に持っていける子であるから、今の一族の心配は、「破談するなら、なるべく穏便に」が叶うかどうかぐらいなのだ。

 そんなこんなで、アーリエアンナが、嫁入り前に公爵家で公爵夫人になるべく教育を受けろと言われ、たったの1ヶ月でそれを済ませて、帰ってきた時も、家業が仕事の女性でも、成人前の本来は教育期間な今は、仕事をする義務はないはず!アーリエアンナは教育を早く終えすぎて暇なのだから、未来の夫の仕事を手伝え!と、就職を強要してきた時も、ボーボルド家の人間は最早焦らず、面白いことになったと笑えるようになっていた。

 一名だけ。生粋のボーボルドではない、母だけは、未だに愛娘の嫁入りのことを心配しているようなので、アーリエアンナとしては、無駄にヤキモキさせないため、母にはなるべく事後報告をすることにしている。

 王城や公爵家で、事務仕事でもしていると思っている娘が、まさか、王都の外で。囮の潜入捜査官をするなんて聞かされれば、心配してしまうだろうとの娘心だ。

 決して、うるさく言われるのがウザイとかではない。そう、決して。チガウホントニ。

 今からする母への報告。何から話せば、怒られ………いや、心配させずに済むか。やっぱりアレでしょうか?アレですよね?

「えー、お母様には、まず一番に大事なご報告があります。実は私、リードル様から婚約破棄されました!」

 このことは、晴れ晴れとした笑顔で報告できちゃいますよ!自信ありです!どうですか、お母様、良い報告ですよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

道端に落ちてた竜を拾ったら、ウチの家政夫になりました!

椿蛍
ファンタジー
森で染物の仕事をしているアリーチェ十六歳。 なぜか誤解されて魔女呼ばわり。 家はメモリアルの宝庫、思い出を捨てられない私。 (つまり、家は荒れ放題) そんな私が拾ったのは竜!? 拾った竜は伝説の竜人族で、彼の名前はラウリ。 蟻の卵ほどの謙虚さしかないラウリは私の城(森の家)をゴミ小屋扱い。 せめてゴミ屋敷って言ってくれたらいいのに。 ラウリは私に借金を作り(作らせた)、家政夫となったけど――彼には秘密があった。 ※まったり系 ※コメディファンタジー ※3日目から1日1回更新12時 ※他サイトでも連載してます。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...