58 / 73
第四章 討伐依頼
第56話 言えなかったありがとうを、今
しおりを挟む
「お父さんが動かなくなった後、魔物は私に向かって来たんです。でも、それからの事はあまり覚えていないんです……、ごめんなさい……。見えなかったから」
「大丈夫だよ。覚えている所だけでも教えてくれたら嬉しいよ」
「はい。黒い魔物が凄い速さでこちらに来たので驚いて多分転んでしまったんだと思います。そしたら顔と腕に衝撃がありました。その後は顔と腕が段々熱くなって、よく前が見えなくなったんです。顔が濡れているし血が流れているのがわかりました。何とか目を開けようとしたらお腹の辺りが重たくなって、お父さんと同じように押さえつけられているのが分かりました」
再び呼吸を荒くして少し震えるエイミーちゃんの背中を擦ってあげる。
「殺されると思って大声で叫んだんです。そうしたら、ガサガサッてまた森の方から音が聞こえ、ドタッと私の近くに着地するような音がしました。多分もう1匹いたんだと思います。でも、多分そのもう1匹の方が『ガァー!』と叫ぶと、お腹に乗っていた重みが無くなりました。そして、またガサガサッて音がして静かになったので、魔物は森の方へ帰っていったんだと思います。その後のことは私も気を失ってしまって、気が付いたら隣のおじさんの家だったので、わかりません」
「エイミーちゃん、ありがとう。本当にありがとう。魔物が2匹いたかもしれないんだね。それは大きくて黒いライオンみたいな四足歩行のやつなんだね。そして、森から出てきて森に帰っていったと。凄く重要な情報だよ。ありがとう!」
「い、いえ、そんな……。結局見えてないし、覚えていないので……」
「いや、姿形の情報があるだけでもありがたいんだ。やっぱり未知の魔物かもしれないし、普通の巡回部隊では危ないかもしれないから、オレが行ってくるよ」
もちろん皆に協力を仰ぐつもりだ。
「でも、危ないです!」
「こういう時の為にオレたちは神様に力を貰ったんだ。放っておくと他の村人にも被害が出るかもしれないからね。とりあえず帰りにギルドに寄って今の情報を伝えて、明日にはブロックホーン村に向かうよ」
「はい、ありがとうございます……。でも本当に気を付けてくださいね……。ヴィトさんに何かあったら私、私……」
「大丈夫。気を付けて行ってくるよ」
早いうちに情報共有をと考え、サラさんと旦那さんにお礼をしてすぐにギルドに向かって報告をした。
なんと今日、セラーナがギルドに呼ばれていたのもブロックホーン村の事らしく、“ブルータクティクス”に調査と討伐を正式に依頼したらしい。
どっちみち行くつもりだったしちょうどよかった。
受付の人に情報をギルドマスターにも伝えておくようお願いし、オレも帰宅することにした。
帰り道でふと考える。
あの時グウェンさんがしてくれたことに改めて感謝しなければと思った。
思えば照れくさくて、あの時の事をきちんとお礼したことがないかもしれない。
帰ったらグウェンさんにちゃんとお礼を言おう。
◆
皆がいるであろうリビングに入る。
プラントさんとタックが目に入る。
ススリーは自室かな?
セラーナはキッチンかもしれないな。
グウェンさんは……いた。
ソファの背もたれに足をかけ、上下逆さまの状態だ。
着衣は乱れて太もも辺りまで裾は上がり、お腹も出ている。
ソファの下にはお菓子のゴミや食べカスが散らかっている。
だらしなさの極みがそこにあった。
「あ、ヴィトぉー、おかえりー」
逆さまのままこちらに顔を向けて言ってくる。
改まって言うのもやっぱり照れ臭いし、このままでいいか。
感謝の気持ちで帰りに買った髪留めの箱を顔の横に置き、逆さまになったままのグウェンさんと真っ直ぐに目を合わせて伝える。
「グウェンさん、今更だけど、どうもありがとう。グウェンさんのおかげでオレは楽しく生活することが出来ているよ」
「えっ? えっ?」
それだけ伝えて自室へ着替えにいく。
「えっ? なにっ? なにがあったのだっ!? ちょっとヴィト!? もう一回言ってほしいのだー!」
後ろの方で何のことか分からずあたふたしながらも喜んでいる様子が窺えるけど、説明するのはちょっと恥ずかしいので放置することにした。
とりあえずエイミーちゃんの悲しみの跡を流してして、明日の準備をしよう。
「大丈夫だよ。覚えている所だけでも教えてくれたら嬉しいよ」
「はい。黒い魔物が凄い速さでこちらに来たので驚いて多分転んでしまったんだと思います。そしたら顔と腕に衝撃がありました。その後は顔と腕が段々熱くなって、よく前が見えなくなったんです。顔が濡れているし血が流れているのがわかりました。何とか目を開けようとしたらお腹の辺りが重たくなって、お父さんと同じように押さえつけられているのが分かりました」
再び呼吸を荒くして少し震えるエイミーちゃんの背中を擦ってあげる。
「殺されると思って大声で叫んだんです。そうしたら、ガサガサッてまた森の方から音が聞こえ、ドタッと私の近くに着地するような音がしました。多分もう1匹いたんだと思います。でも、多分そのもう1匹の方が『ガァー!』と叫ぶと、お腹に乗っていた重みが無くなりました。そして、またガサガサッて音がして静かになったので、魔物は森の方へ帰っていったんだと思います。その後のことは私も気を失ってしまって、気が付いたら隣のおじさんの家だったので、わかりません」
「エイミーちゃん、ありがとう。本当にありがとう。魔物が2匹いたかもしれないんだね。それは大きくて黒いライオンみたいな四足歩行のやつなんだね。そして、森から出てきて森に帰っていったと。凄く重要な情報だよ。ありがとう!」
「い、いえ、そんな……。結局見えてないし、覚えていないので……」
「いや、姿形の情報があるだけでもありがたいんだ。やっぱり未知の魔物かもしれないし、普通の巡回部隊では危ないかもしれないから、オレが行ってくるよ」
もちろん皆に協力を仰ぐつもりだ。
「でも、危ないです!」
「こういう時の為にオレたちは神様に力を貰ったんだ。放っておくと他の村人にも被害が出るかもしれないからね。とりあえず帰りにギルドに寄って今の情報を伝えて、明日にはブロックホーン村に向かうよ」
「はい、ありがとうございます……。でも本当に気を付けてくださいね……。ヴィトさんに何かあったら私、私……」
「大丈夫。気を付けて行ってくるよ」
早いうちに情報共有をと考え、サラさんと旦那さんにお礼をしてすぐにギルドに向かって報告をした。
なんと今日、セラーナがギルドに呼ばれていたのもブロックホーン村の事らしく、“ブルータクティクス”に調査と討伐を正式に依頼したらしい。
どっちみち行くつもりだったしちょうどよかった。
受付の人に情報をギルドマスターにも伝えておくようお願いし、オレも帰宅することにした。
帰り道でふと考える。
あの時グウェンさんがしてくれたことに改めて感謝しなければと思った。
思えば照れくさくて、あの時の事をきちんとお礼したことがないかもしれない。
帰ったらグウェンさんにちゃんとお礼を言おう。
◆
皆がいるであろうリビングに入る。
プラントさんとタックが目に入る。
ススリーは自室かな?
セラーナはキッチンかもしれないな。
グウェンさんは……いた。
ソファの背もたれに足をかけ、上下逆さまの状態だ。
着衣は乱れて太もも辺りまで裾は上がり、お腹も出ている。
ソファの下にはお菓子のゴミや食べカスが散らかっている。
だらしなさの極みがそこにあった。
「あ、ヴィトぉー、おかえりー」
逆さまのままこちらに顔を向けて言ってくる。
改まって言うのもやっぱり照れ臭いし、このままでいいか。
感謝の気持ちで帰りに買った髪留めの箱を顔の横に置き、逆さまになったままのグウェンさんと真っ直ぐに目を合わせて伝える。
「グウェンさん、今更だけど、どうもありがとう。グウェンさんのおかげでオレは楽しく生活することが出来ているよ」
「えっ? えっ?」
それだけ伝えて自室へ着替えにいく。
「えっ? なにっ? なにがあったのだっ!? ちょっとヴィト!? もう一回言ってほしいのだー!」
後ろの方で何のことか分からずあたふたしながらも喜んでいる様子が窺えるけど、説明するのはちょっと恥ずかしいので放置することにした。
とりあえずエイミーちゃんの悲しみの跡を流してして、明日の準備をしよう。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる