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第一章 変わり始める日常
第6話 彼の犠牲から怖さを学ぶ
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炎の勢いと熱に一歩後ずさる。
何とかしなければ!
慌てて火を消そうと考えるが、パニックになりどうしたらいいか分からない。
ここここんな時こそおおお落ち着かなければならない。
その時、自身の右側、テーブルの上にあるパンを視界の端に捉えた。
これだっ!
――そう考えた瞬間、感覚が研ぎ澄まされてゆく。
炎の揺らめきも自身の行動もスローモーションになるが思考の速度は変わらない。
これがゾーンに入るというやつかもしれない。
周囲の環境が全て手に取るようにわかる。
自身の行動の遅さにもどかしさを感じながらも右手にパンを掴む。
流れるような動きで竈から1.7mの距離に位置を取る。
左膝を立て、右膝をつき、やや前傾しつつも背筋を伸ばし、左腕は指先までまっすぐ横に伸ばす。
瞬時に焚口の中、燃え盛る炎の中心部までの距離と弾道を計算する。
はっきりと視えた!
右腕を優しく振り、そっと彼をシャイニングロードに導いてゆく。
オレの元を離れ、自由を得た彼は美しい放物線を描いて宙を舞い、ゆっくりと回転しながら果て無き道を歩んでゆく。
揺らめく炎を背景に、幾度か彼から仲間が離れてゆくのが見える。
まるで彗星から欠片が零れ落ち、夜空に何条もの光跡を残していくかのように。
しかし、彼は止まらない。
道半ばにして別れてしまった友の分まで、ただひたすら前へと進んでゆく。
オレたちの分まで頼む……そんな言葉を背に受けながら孤独な道を歩んでゆく。
やがて彼の旅路は終わりの刻を迎え、終着駅である焚口の中に吸い込まれてゆく。
無限に感じられるような時の流れの中、ついに目的地にたどり着いた彼は静かにその身体を横たえる。
炎は長い旅路を終えた冒険者を称え、優しく抱擁する。
力尽きた彼は満足したように炎に身を委ね、身体の強張りを解いてゆく。
疲れ切った身体はもう動かない。
そして、自身の最後を悟った彼は、黒く小さくなりゆく身体を僅かにこちらに傾け、こう言った気がした。
“ありがとう”と――
炎に飲み込まれていったパンをぼんやりと見つめていた。
竈からパチパチッと音がして、ハッと我に返る。
「………。違うっ!!」
何してるんだオレは。
あまりにも慌ててしまい、変なポーズでパンを竈に投げ込んでしまった。
でも何だか壮大なストーリーを見ていた気分だ。
当然パンを投げ込んだところで火が消えるわけもなく、ただ、朝食のパンが燃えただけだった。
彼はもうこの世界にいないのだ。
「とりあえず水!!」
近くの甕を持ち上げ、中の水を一気に掛ける。
ジューッという音と共に煙が充満し、嫌なにおいが漂ってくるが、何とか火は消えたようだ。
「あぁ……掃除が大変だ……」
灰の混じった水が床に広がるが、家が燃えてなくなるよりはマシだった。
「魔法が使えることはわかったけど、練習するときは注意しないとダメだな……」
掃除をしながら反省する。
神様にもらった力を使い、いきなりお迎えに来てもらうところだった。
はい、頑張ります! といった翌朝に「間違って死んじゃいました (テヘッ)」なんて言ったらさすがに神様も許してはくれまい。
気を付けなければ。
まず安易に火を扱ってはいけないな。
火の魔法は屋外で燃えやすいものが近くにないかをしっかり確認してから行うことにしよう。
今みたいな時のために、水を操る魔法も練習してみるのがいいかもしれないな。
水ならせいぜい濡れるだけで済むので家の中でも出来るかもしれない。
他にも色々試してみよう!
考えながら掃除をしているうちに、あらかた掃除が終わった。
残念ながら今日の朝ご飯はなくなってしまったし、少し早いけど準備をして仕事に向かうことにした。
何とかしなければ!
慌てて火を消そうと考えるが、パニックになりどうしたらいいか分からない。
ここここんな時こそおおお落ち着かなければならない。
その時、自身の右側、テーブルの上にあるパンを視界の端に捉えた。
これだっ!
――そう考えた瞬間、感覚が研ぎ澄まされてゆく。
炎の揺らめきも自身の行動もスローモーションになるが思考の速度は変わらない。
これがゾーンに入るというやつかもしれない。
周囲の環境が全て手に取るようにわかる。
自身の行動の遅さにもどかしさを感じながらも右手にパンを掴む。
流れるような動きで竈から1.7mの距離に位置を取る。
左膝を立て、右膝をつき、やや前傾しつつも背筋を伸ばし、左腕は指先までまっすぐ横に伸ばす。
瞬時に焚口の中、燃え盛る炎の中心部までの距離と弾道を計算する。
はっきりと視えた!
右腕を優しく振り、そっと彼をシャイニングロードに導いてゆく。
オレの元を離れ、自由を得た彼は美しい放物線を描いて宙を舞い、ゆっくりと回転しながら果て無き道を歩んでゆく。
揺らめく炎を背景に、幾度か彼から仲間が離れてゆくのが見える。
まるで彗星から欠片が零れ落ち、夜空に何条もの光跡を残していくかのように。
しかし、彼は止まらない。
道半ばにして別れてしまった友の分まで、ただひたすら前へと進んでゆく。
オレたちの分まで頼む……そんな言葉を背に受けながら孤独な道を歩んでゆく。
やがて彼の旅路は終わりの刻を迎え、終着駅である焚口の中に吸い込まれてゆく。
無限に感じられるような時の流れの中、ついに目的地にたどり着いた彼は静かにその身体を横たえる。
炎は長い旅路を終えた冒険者を称え、優しく抱擁する。
力尽きた彼は満足したように炎に身を委ね、身体の強張りを解いてゆく。
疲れ切った身体はもう動かない。
そして、自身の最後を悟った彼は、黒く小さくなりゆく身体を僅かにこちらに傾け、こう言った気がした。
“ありがとう”と――
炎に飲み込まれていったパンをぼんやりと見つめていた。
竈からパチパチッと音がして、ハッと我に返る。
「………。違うっ!!」
何してるんだオレは。
あまりにも慌ててしまい、変なポーズでパンを竈に投げ込んでしまった。
でも何だか壮大なストーリーを見ていた気分だ。
当然パンを投げ込んだところで火が消えるわけもなく、ただ、朝食のパンが燃えただけだった。
彼はもうこの世界にいないのだ。
「とりあえず水!!」
近くの甕を持ち上げ、中の水を一気に掛ける。
ジューッという音と共に煙が充満し、嫌なにおいが漂ってくるが、何とか火は消えたようだ。
「あぁ……掃除が大変だ……」
灰の混じった水が床に広がるが、家が燃えてなくなるよりはマシだった。
「魔法が使えることはわかったけど、練習するときは注意しないとダメだな……」
掃除をしながら反省する。
神様にもらった力を使い、いきなりお迎えに来てもらうところだった。
はい、頑張ります! といった翌朝に「間違って死んじゃいました (テヘッ)」なんて言ったらさすがに神様も許してはくれまい。
気を付けなければ。
まず安易に火を扱ってはいけないな。
火の魔法は屋外で燃えやすいものが近くにないかをしっかり確認してから行うことにしよう。
今みたいな時のために、水を操る魔法も練習してみるのがいいかもしれないな。
水ならせいぜい濡れるだけで済むので家の中でも出来るかもしれない。
他にも色々試してみよう!
考えながら掃除をしているうちに、あらかた掃除が終わった。
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