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第一章
6. 魔法のコツはクリームパン
しおりを挟むオレの女性客への対応を見て怒るグウェンさんを宥め、仕事が終わった後に魔法のお披露目をしてようやく帰宅した。
しばらくするとドアをノックする音が聞こえてきた。
「はーい。どちらさま?」
ドアを開けるとタックとススリーが立っていた。
「よぉヴィト。おつかれ」
「こんばんは。ちょっといいかしら?」
「あら、どうしたの2人とも。とりあえず入ってよ」
2人とも子どもの頃からよく家に遊びに来ていたから勝手知ったる他人の家だ。
いつも座る自分の椅子に座っていく。
一応お客さんではあるし、お湯もちょうど沸いていたので、最近お気に入りのコロンバインティーの準備をしながら尋ねる。
「どうしたの2人してこんな夜に。もしかしてお告げの事?」
「そうだ。ヴィトもお告げを受けたか?」
「うん。受けたよ」
「そうか……。その……やっぱり天使からのお告げだったか?」
「いや、オレは神様からだったよ」
2人には最初から隠すつもりはないので正直に言った。
「なにっ!? やっぱり創造神アガッシュ様か!?」
「うんそうだったよ。2人も?」
何となくそんな気はしていたけど、やっぱり2人とも神様からお告げを受けたようだ。
お茶を出して自分も席に着く。
「あら、ありがと。実はそうなの。家族も周りのみんなも天使様からのお告げだったんだけど、私だけ神様からお告げを受けていたからおかしいなと思っていたのよ。そしたらタックもそうだったって。だからもしかしたらヴィトもそうかなって思ってきたのよ」
言い終わるとススリーはカップを右手に持ち、左手を添えてふーっと息を吹きかけ、そっとお茶を飲んだ。
『あっおいしっ』と呟くのが聞こえた。
気に入って頂けて何よりだ。
タックは男らしくズズズッと音を立てながら飲み、話を続ける。
「神様は共に戦う仲間がいるって言ってただろ? 俺はヴィトやススリーだったらいいなと思っていたんだよ!」
「ははは。オレもそう思っていたんだ。実際そうみたいだし良かったよ」
「だよなー! 良かった! それでヴィトはどんなお告げだった? 俺はアガッシュ様から“武器マスタリー”というスキルと鍛冶術を授かったんだ。どんな武器でも使いこなせるし、作れるらしいんだ!」
「私は“大魔導士”というスキルと付与術を授かったわ。どんな魔法でも使いこなせて、物にも魔法をかけられるらしいわ」
「うわーすごそうだね2人とも! オレはね!」
親友たちがすごいスキルを授かって嬉しくなり、自分も授かったスキルを説明しようとするも、なんと説明したらいいのかわからない。
「……あれ? オレは……何だろう? 魔法を使えることと、斥候みたいなことが出来るというのは聞いたんだけど、2人みたいに詳しく聞いてないな……。なんで?」
2人もそうだし、グウェンさんも具体的に何のスキルを与えられたのか聞いている。
オレはそんなに具体的に聞いてない。
この差はなに?
「そうなのか? でも魔法が使えるんだな! それで十分じゃないか!」
「あら、私と同じね。使ってみた?」
「うん。朝試しにつかってみた。そしたら危うく上手に焼けましたになるところだったよ」
竈の方を指さし、今朝の失態を話す。
するとススリーが怪訝な顔をする。
「魔法をイメージ? 詠唱とかじゃなくて?」
「うん。詠唱? そんなのあるの?」
「あるの? って……神様から聞いてないの?」
「うん。どうやって使うとか聞いてない。でもイメージが大事って言ってたからやってみたら出来たよ」
「そんなこともあるのね……。詠唱っていうのはこんな感じよ」
そういってススリーは手を出し、ブツブツと何かを唱え、最後に “トーチ”と言った。
するとススリーの手のひらの上に、明るい光の玉がふわふわ浮かんでいた。
これだけ明るいのに熱や眩しさは感じられない不思議な光だ。
「これは照明代わりの魔法ね。魔法の効果とか詠唱とかは、なぜか昔から知っているかのように分かるのよ」
「何それずるい。魔法ってこんな感じかな? でやるもんじゃないの? ちょっと神様どういうことなの……」
「なんでしょうね。でも神様が仰ることだもの。きっと何か理由があるのよ」
「そうだな。とにかく、俺たち3人とも力を授かったんだ! この力を使ってみんなの為に頑張ろうぜ!」
確かに考えても仕方がないことだ。
オレにだけ説明を忘れていたなんてことはないだろうし、とにかく魔法自体は使えるようだから自分で確かめていけばいいか。
オレたちはその後、個々人での鍛錬に加え、時間が許す限り3人で集まって訓練をしていくことを約束した。
途中タックが『これでモテモテに……』と言ってススリーに諫められていたが、気持ちがわからないでもないオレは黙っておいた。
ススリーが御代わりをしたコロンバインティーを飲み終えたところで本日はお開きとし、明日から訓練することを約束して、それぞれ帰宅していった。
2人が帰ってから、さっきススリーが使った“トーチ”を試してみる。
やわらかい光の玉が浮かんで辺りを照らすイメージ……。
「トーチ」
呟くとススリーと同じような光の玉が出現した。
熱も眩しさ感じない。
「詠唱はわからんけど、なんかできたな。なんだろうなこれ?」
よくわからない魔法に疑問を感じながらも、オレも朝からバタバタとして疲れたので光の玉を消し、早めに眠ることにした。
難しいことは明日また考えることにしよう。
◆
目の前に広がるのは雲一つない青空と白い大地。
まるで雲の上にいるかのような光景だった。
「えっ? また?」
昨日と同じ場所にいた。
今度は始めから神様が立っていた。
「ヴィトくん。連日ですまんのぅ」
「神様、どうしたんですか?」
「いやな、ヴィトくんにだけスキルのこと教えてなかったなーって思ってな……。テヘッ」
肩をすくめて舌を出す。
『やっぱり忘れてたんかい!』と言いたかったが、やはり神様なので突っ込めない。
「なんだ、よかった。他のみんなは細かく説明を受けていたみたいなのに、自分だけなかったから何か違うのかと思ってました」
「いやいや、ただ単純に忘れていただけじゃ。すまんすまん。ふぉっふぉっふぉっ」
それはそれでどうかと思うが、再びグッと言葉を飲み込む。
口に出さなくても神様には伝わっているはずだ。
「それでオレのスキルはどういったものなんでしょうか?」
「うむ。ヴィトくんには剣術、体術、弓術、隠密術、錬金術などに加え、“模倣”と“魔法創造”というスキルがある」
「“コピー”とクリエイトマジック“?」
「うむ。“模倣”は見たり受けたりした魔法や術をそのまま使えるようになるんじゃ。“魔法創造”の方は自分がイメージした魔法を作り出せるものじゃな」
それでススリーの魔法を真似したり、詠唱が無くても魔法が使えていたのか。
「魔法を作り出せるって、何でも出来るんですか?」
「概ね可能じゃな。ただ、地面がパカッと割れるイメージをしたからといってそうなるものではない。あくまでも魔力を用いて事象を具現化するものじゃから、因果関係や作用がしっかりとしていなければ魔法はできん」
「じゃあ瞬間的に大気を凍らせて、相手が死ぬなんていう魔法は……」
「大気を凍らせることは可能じゃろうが、瞬間的に死ぬという効果まではつけられんのぅ。凍った上で凍死や窒息死を起こさせることは可能かもしれんが、相手次第でもある。魔法だからと言って全てこちらの思うように作用するわけじゃないんじゃ」
確かになんでもこちらの思い通りになるなら、“見た瞬間魔物は死ぬ”なんて魔法を作ればそれで終わっちゃうもんな。
「そういえば詠唱は必要ないんですか? ススリーはなんか唱えてましたけど」
「なくても使うことは可能じゃよ。元々詠唱とは唱えることによってイメージの方向性や内容を固めていくためのものなんじゃ。火の魔法を使うにしても、燃やすのか爆発させるのかでイメージは異なるじゃろ? じゃからまずは詠唱で方向性と内容を形作りながら魔力を練り上げていくんじゃ。そして準備が整ったら、最後に魔法の名称をトリガーとして明確になったイメージを発動させるんじゃよ」
「なるほど……。一口でパンと言っても色々なパンがあるためイメージが定まらない。しかし、クリームパンと言えばより具体的なイメージが出来る……。となると、魔法の名称はパンの種類ということ……。そして魔力はパン粉で詠唱はレシピ……。つまり、自分の中で具体的な工程と完成図が見えていれば、レシピが無くても直接クリームパンを作り出せるッ! そういうことですね!?」
今朝クリームパンを美味しそうにムシャムシャ食べていたグウェンさんが頭に過ぎる。
「う、うむ? 魔法をパンで例えたのはお主が初めてじゃが、そうなのか……? 合っているか分からんが、恐らくそういう事じゃ!」
「なるほど、よくわかりました! 美味しいパンを作れるよう頑張ります!」
「魔法じゃパンは作れんぞ……。ま、わかったなら良しとするか……」
よーし頑張るぞ!!
「あ、そういえばもう1つ聞きたいことがあるんですが」
「なんじゃ?」
「魔法というのは魔物を攻撃するものだけなんですか? 仲間やみんなを守るような魔法ってあるんですか?」
「うむ。もちろんある。補助魔法や結界魔法などがそうじゃな。仲間の身体能力を向上させたり、魔法を弾く結界を張ったりできる。こんな感じじゃ」
そういってオレに次々と補助魔法をかけてくれた。
「“身体能力強化”、”魔力強化”、”移動速度上昇”、” 感覚鋭敏化”、”物理防御力上昇”、”魔法防御力強化”、” 全耐性強化”」
様々な色の光が身体を包み込み、それが染み込んでいくと内側から力が漲るような感覚がしてくる。
「これは凄いですね……! 何でも出来そうな気がしてくる!」
「ふぉっふぉっふぉっ。過信は禁物じゃが、仲間の力も増幅してくれるから便利じゃぞ。それから結界はこのような感じじゃ」
今度は周りの空間に結界を張って見せてくれる。
「“魔法反射結界”、“浄化結界”、“封印結界”、“次元隔離結界”」
見たことのない模様か文字が描かれたガラス板のようなものが、正方形に組み合わさって空間を取り囲んでいたり、ドーム状に空間を覆っていたりしている。
「なんかすごそうなのばかりですね……」
「他にも色々あるが、必要になったらその効果や作用をイメージして“魔法創造”で作ってみるがよいぞ。今使った補助魔法や結界はヴィト君の“模倣”で使用可能となっているじゃろうし、それを基に“魔法創造”で改変することも出来るはずじゃ」
「なるほど! そう考えると”コピー”と”クリエイトマジック”ってすごいですね! ありがとうございます!」
「いや、お礼を言う必要はないんじゃよ。元々ヴィト君に適性があったものじゃからの。ただ、魔法を使う際にはくれぐれも気を付けておくれよ」
「はい。今朝の失敗で身に染みてわかりました。今は使い方も教えて頂きましたし大丈夫だと思います」
「それならよかった。おっとそろそろ時間のようじゃ。ではまたのぅ」
「はい。神様もお元気で」
再び神様の姿が薄れていき、俺の意識も遠のいていった。
「あっしまった! 魔法は使えるがあまり使いすぎると精神力が枯渇して倒れてしまうからキヲツケテ……」
消え始めた瞬間に、また何か言い忘れていたようで神様が慌てて早口で何か言っていたがよく聞き取れなかった。
まぁ大事な事ならまた夢(?)に出てくるでしょう……。
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