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遠く、遠くへ
しおりを挟む「「ah~ahahah~」」
「あ!華、今半音ずれた」
「えっ!!嘘ごめん」
「もう!華はアルト引っ張ってくんだからしっかりしてよ~」
「美紀、華に頼りっぱなしね」
「だって叶奏、華コンビに任せとけば安泰だもん」
「もうっ美紀がカナハナっていうとなんか双子タレントみたいじゃない」
「ハモリで言えばカナハナに叶う双子なんか居ないよね」
これ……高校最後のコンクールで歌った合唱曲、あぁやっぱり華のアルトは伸びがあって音量もしっかりしていてハモリが気持ちいい
中学の時に華は引っ越しをしてきて私が通ってたピアノ教室に学びに来た。同じ年でピアノ好きで華の演奏も好きだったのですぐに仲良くなった、一緒の音楽高校に進学して同じピアノ科で合唱部に入った。
私は、ソプラノで華はアルトだった、楽器をやっている人間あるあるだと思うけど、楽器の演奏は出来るが歌えるかと言うかと別物だと言うのがよくあるのだが私も華も歌うのも好きで高校の部活では合唱部に入部したのだった。
華のピアノはピッチが繊細で和音の取り方なんて鳥肌が立つほど美しく奏でる、歌でもハモリのピッチはきっちり合わせてきて混声だと華の声がしっかりとのびやかにはめてくれるのだ。
華は「叶奏が絶対音感だから助かる~」なんて言うが華の難しい和音へのハモリは私得でしかないと思う。
「ねぇ叶奏~ここla~lalala~la~lalaの後のハモリなんだけどちょっとピアノ入れてもらって良い?」
「あぁ~ここ難しいよね、そのオブリガート自体難しいもん、アルトの楽譜貸して」
「私、歌は何回も練習しないと覚えられないんだよね~ピアノなら譜面通り弾けばいいんだけど自分の声でそれを出すのはねぇ~」
「あはは、私もだよぉ調律サボったピアノみたいに自分から出る音がずれて気持ち悪い事あるもん」
「叶奏は歌ってる最中にそれが判るのが凄いよねぇ、録音とかなら私もわかるけど歌ってる最中は譜面通りに歌ってるつもりなんだよね」
アルトのパートを私がピアノで弾き、華が合わせて歌ってくれる。
「遠くへ「遠くへ」」
「ゴメン!!今のはピアノがあったから判った、叶奏に引っ張られたぁ~」
「あはははっアルトパートだけで通してみる?」
「ん~そうだね、いっぺんアルトでしっかり覚えないとソプラノに引っ張られちゃうわ」
「OKOK!ほら、美紀も一緒に練習しなさいよ!」
「え~華でさえまだちゃんと歌えないの私が歌えるわけないじゃん叶奏のいじわる~」
「歌えないから練習するんでしょうが」
「そうそう!美紀のアルト譜面貸してよ、私のは叶奏に貸してるんだから」
「ちぇ~私食物科だから音楽の知識無いんだからほどほどにしてよ~」
「「合唱部でしょうが!!」」
「もぉ~そんなところまでハモんなくていいってばぁ~」
練習室に笑い声が響いている。
合唱部には普通科、音楽科、食物科の各科の生徒たちが入り混じっている。その中でも音楽科の私と華、食物科の美紀は仲良くて、練習後お腹空くと食物科の美紀が実習で作ったパンやらを差し入れしてくれる。美紀の食物科では地元の企業とコラボして高校オリジナルの商品を作っているのだ、その中で商品にならなかったいわゆるB品を部活後に消費していく。
ピアノも体力使うが歌うのは更に体力を使う。部活後におしゃべりしながら商品とならなかったB品で3人お茶をするのが部活の日はそれが日常となっていた。
「「「lalala~lala~lala~」」」
「「「「「「ahahah~ahah~ahah~」」」」」」
まずはソプラノとアルトで合わせる練習だ。
「アルト、第7音よく出るようになったわね」
顧問の先生が指揮を取りつつ先を促す、ソプラノが主旋律を歌い、それにアルトが寄り添い豊かな響きを奏でている。
『あぁ……気持ちいい華が居るからアルトの音量が小さいと言う事もない、見事に和音をハメてくれた』
「え?華進学しないの?」
通学のため1時間に3.4本しかない電車を待っている最中だった
「うん……通学に1時間30分もかかるって言っても公立で音楽系の高校入れたけどさ……授業料以外に楽器維持費やレッスン費、教材費に毎年150万もかかってるんだって……私は公立の音大狙えるほど実力も学力もないからさ……」
「華……」
「でも音楽系の仕事はしたいと思ってるんだ!!」
そう言って携帯を取り出して見せてきた
「ほら、これなんか高卒でも全然応募できるんだよ?」
華はもう就職することに目を向けて就活サイトをチェックしていた
「え?これ……上京するの?」
「うん、やっぱり音楽系の仕事で探すとこっちじゃ全然ないから、叶奏は進学先決めてるの?」
「ううん、まだ候補を探してる段階」
「そっかぁじゃあ叶奏が東京の音大入ればまだ一緒に遊べるね」
――そっか……運よく県内に音楽科のある公立高校があって、それでも通学に1時間以上かけるってこんな田舎じゃ珍しい話だ、休みの日の昼間なんか快速がないから2時間以上かかることもある、遠いよな……東京はもっと遠いいなぁ……なんんとなく大学も一緒に進学すると思っていた華が進学しないのも、東京に就職するつもりでいる華も、音大に進学するにしてもお金がかなりかかる……まだまだ先のように感じていたのに、華はもう先を考えている。急に遠い存在のように思えてしまった。
『高3になったばかりの頃だ……なにも考えず華と一緒に音大に進学すると思っていて勝手にショックを受けている……いや、置いて行かれた気分だったんだよな……』
――――
リビングで物音がする、時計を見ると7時前だ
「利優さん?」
「おはよう、叶奏。ごめん起こした?」
「ううん、私の方こそ、ちゃんと朝ご飯の用意も出来なくてごめんなさい」
「気にしないでいいって言ってるだろ?」
優しく抱きしめ頭を撫でてくれる。過去を夢に観るようになって心と体が不安定になってしまって生活が乱れてしまっているが、夫は責めることもなく受け入れて支えてくれている。
「今は休むべき時なんだよ、焦らなくていいから、何か話したいときはいつでも言ってな」
夫である利優も去年鬱と診断されて治療していた。だから判ってくれるのか、元が優しいからなのか、本当にいい旦那をつかまえたよね、高校の頃には想像もしていなかった、遠くへ流れてしまったけど……
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