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人形に戻った女の子。
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神様がある日人形を作りました。
それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。
命を与えられたその人形は人間の女の子にそっくりで、パッと見ては誰もその子が人形だとは気づきませんでした。
だけど、しばらく経つとやっぱりみんな気が付きます。
「とても上手に出来ているはずなのになぜだろう?」
神様は不思議でしかたありません。
だって女の子は他の皆と同じように朝に成れば起き出します。
外を歩いたり、走ったり。
ご飯だって食べて、夜に成れば眠ります。
他の皆と同じです。
だけど皆こう言います。
「やっぱり動くお人形なんだね」って。
考えても分からない神様はしばらくその女の子を眺めていました。
その日も女の子は野原をテクテクと歩いていました。
陽は暖かく、風は心地よいそんなウキウキするような日でした。
道を行く人達は、みんなそんな陽気にニコニコ顔です。
子ども達は楽しそうに走り回り、家の庭で洗濯を干す女の人が楽しそうに鼻歌を歌っています。
その中で女の子だけが違いました。
笑顔もなく動かないお顔に。
楽しそうに走り出すことのない足。
歌も歌わず、ゼンマイ仕掛けの人形のようにただただ歩いていくのです。
神様はその様子にようやく気が付きました。
そしてその夜、女の子を呼んで1つの袋を差し出しました。
「心の中にこの袋を入れてあげよう」
それが何なのか分からない女の子は、差し出された袋を黙って眺めます。
「嬉しいこと、悲しいこと。色々な事がこれさえあればお前の中にも溜まるだろう。そうすればお前もその気持ちを持てるようになる。ただ覚えておきなさい。その袋に入る量は決まっている。だから入れっぱなしにしてはいけないよ」
そうやって袋を受け取った女の子は、よく分からないままその夜は眠ってしまいました。
次の日、いつものように散歩に出た女の子は、道をテクテクと歩いていました。
その途中、お婆さんが道端の岩に腰掛けています。
大きな荷物を横に置いて、休憩をしているようでした。
疲れた様子のお婆さんに、女の子は代わりにその荷物を持って上げる事にしました。
とても喜んだお婆さんはニコニコと笑顔で「ありがとね」と言いながら、運んでくれたお礼にとリンゴを1つくれました。
その時、驚いた事に女の子の胸の辺りがポカポカとしてきたのです。
神様が言っていたように、お婆さんがリンゴと一緒にくれた暖かい気持ちが、女の子の胸の袋に入ったからでした。
女の子は初めて感じるその感触が嬉しくて、少しだけ微笑みながら道をまた歩き出しました。
それからまたしばらく歩くと、今度は迷子になった子どもが1人でお腹が空いたと泣いていました。
手にはさっき貰ったリンゴが1つだけあります。
それを上げてしまったらまた心の袋は空っぽになってしまうのでしょう。
少しだけ悩みながら、でも女の子はその子どもに持っていたリンゴを上げてお母さんを一緒に探してあげる事にしました。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
子どもが少しだけ笑ってそのリンゴを受け取りました。
そうすると驚いた事に、リンゴと一緒に無くなったはずの心の中に、また暖かい何かが入ってくるではありませんか。
不思議に思いながら、女の子は子どもを連れてまたテクテクと歩き出しました。
しばらく歩くと男の子を探す女の人を見つけました。
「あっ!お母さん!!」
男の子が駆け出します。
ようやく男の子を見つけたお母さんもホッとしたように男の子を抱き締めました。
「坊や無事で良かったわ」
「あのお姉ちゃんが連れてきてくれたの」
男の子が女の子を指差します。
お母さんは女の子の手を握り、何度も何度もお礼を言いました。
そうして女の子にお礼だと言って、キャンディーをいくつかくれました。
「バイバイお姉ちゃん!ありがとう!!」
男の子も嬉しそうに女の子に手を振りながら帰っていきます。
女の子は小さく男の子に手を振り返して、男の子を見送りました。
キャンディーと一緒にまた暖かい気持ちを貰った女の子の胸は、さっきよりもずっとポカポカしています。
嬉しくなった女の子はキャンディーを1つだけ口に入れてみました。
それはいつもよりもずっと甘くて美味しく感じられる味でした。
女の子は嬉しくなって思わずニコニコと微笑みました。
そうすると傍を歩いていた人達もつられてニコニコと微笑みながら挨拶をくれました。
それにまた女の子がニコッと笑って挨拶をすれば、心の中の袋から暖かいものが出たり入ったりしているようでした。
それからどんどん女の子は変わっていきました。
ニコニコと笑って挨拶をして、楽しそうに歌を歌い、周りに親切な優しい女の子を「やっぱり人形だと」言う人は居なくなりました。
それからしばらく経った日の事でした。
いつものように道をテクテクと歩いていた女の子が、道端の石につまずいて転んでしまったのです。
擦りむいた膝からは血がにじんでいます。
しかもお気に入りのワンピースまで汚れてしまいました。
いつもポカポカと暖かかった女の子の胸が、その時はなぜだか急に冷たく感じました。
それはまるで、ポカポカと暖かく晴れていた空に、灰色の雲が向こうからやって来てしまったような感じでした。
女の子は胸の袋に冷たい何かが入ってしまったんだと分かりました。
でも女の子はその冷たい何かを袋から取り出す方法が分かりません。
女の子は困ってしまい、その場所でどうしようと悩み考え込んでしまいました。
そんな時向こうからやってきた小さな男の子が、女の子がつまずいた石に同じようにつまずいて転んでしまったのです。
「えーん、いたいよ~」
突然大きな声で泣き出したその男の子に、女の子はビックリです。
「痛かったわね、大丈夫よ。すぐに治るわよ」
でもそばにいた男の子のお母さんは、そんな男の子を抱き上げて優しくとんとんと背中を叩きながらそのまま歩いて行ってしまいました。
その姿を見送った女の子はそれをマネしてみる事にしました。
「えーん、いたいよ~」
女の子の目からポロポロと涙がこぼれていきます。
それに合わせて、女の子の胸の袋に溜まっていた冷たい何かもこぼれていったようでした。
それからは女の子は暖かい何かが胸の袋に入った時にはニコニコと笑い、歌を歌い、冷たい何かが入った時には泣いて過ごすようになりました。
それからまたしばらく経ち。
そんな女の子を人形だと思う人が、もう誰もいなくなった頃。
「やーい、泣き虫!」
そんな女の子に意地悪な男の子が悪口を言ったのです。
曇り空のように冷たく感じていた胸の袋が、ますます冷たくなったようでした。
それはまるで氷の欠片を袋の中に投げ込まれたようでした。
曇り空のような冷たさを取り出すための涙を見て、男の子は氷のような何かを投げ入れてくるのです。
その氷のような冷たい何かをどうして良いのか分からなくなった女の子は、それっきり冷たい何かを心の中から取り出す事を止めてしまいました。
それからも毎日、女の子の胸の袋には暖かい何かが入ってきては出ていきます。
そして冷たい何かも同じように、入ってくるのです。
ただ、冷たい何かだけは暖かい何かのように胸の袋からは出ていきません。
そして少しずつ。少しずつ。
袋の中には冷たい何かが溜まっていき。
パンパンになった袋には、とうとう暖かい何かは入る事が出来なくなってしまいました。
あんなにニコニコと笑っていたのに。
もう誰かが女の子へ笑顔で挨拶をしても、女の子は笑顔を返す事ができません。
寂しそうな顔をして頷き返すだけなのでした。
そして、あんなに楽しそうな歌声も消えて、悲しそうな溜息ばかりを吐いています。
「どうしたの?言ってごらんよ」
中にはそんな女の子へ優しく話しを聞いてくれる人だっていました。
でも女の子は首を振るばかりです。
だって「泣き虫」だと笑われたくはないのです。
だからそれからもずっとガマンをし続けていたのです。
だけど、胸の袋はついにいっぱいいっぱいになってしまったのでした。
また入ってこようとした何か。
それが冷たい何かだったのか、暖かい何かだったのか、もう女の子にはわかりません。
ついにビリッと破けてしまったその袋には、もう何も入れておくことは出来なくなってしまったのです。
女の子は冷たい何かを感じる事はなくなりました。
でも、それと同時に暖かい何かも感じる事は無くなったのです。
そして今、笑わなくなった女の子は、また人形のように過ごしているのでした。
それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。
命を与えられたその人形は人間の女の子にそっくりで、パッと見ては誰もその子が人形だとは気づきませんでした。
だけど、しばらく経つとやっぱりみんな気が付きます。
「とても上手に出来ているはずなのになぜだろう?」
神様は不思議でしかたありません。
だって女の子は他の皆と同じように朝に成れば起き出します。
外を歩いたり、走ったり。
ご飯だって食べて、夜に成れば眠ります。
他の皆と同じです。
だけど皆こう言います。
「やっぱり動くお人形なんだね」って。
考えても分からない神様はしばらくその女の子を眺めていました。
その日も女の子は野原をテクテクと歩いていました。
陽は暖かく、風は心地よいそんなウキウキするような日でした。
道を行く人達は、みんなそんな陽気にニコニコ顔です。
子ども達は楽しそうに走り回り、家の庭で洗濯を干す女の人が楽しそうに鼻歌を歌っています。
その中で女の子だけが違いました。
笑顔もなく動かないお顔に。
楽しそうに走り出すことのない足。
歌も歌わず、ゼンマイ仕掛けの人形のようにただただ歩いていくのです。
神様はその様子にようやく気が付きました。
そしてその夜、女の子を呼んで1つの袋を差し出しました。
「心の中にこの袋を入れてあげよう」
それが何なのか分からない女の子は、差し出された袋を黙って眺めます。
「嬉しいこと、悲しいこと。色々な事がこれさえあればお前の中にも溜まるだろう。そうすればお前もその気持ちを持てるようになる。ただ覚えておきなさい。その袋に入る量は決まっている。だから入れっぱなしにしてはいけないよ」
そうやって袋を受け取った女の子は、よく分からないままその夜は眠ってしまいました。
次の日、いつものように散歩に出た女の子は、道をテクテクと歩いていました。
その途中、お婆さんが道端の岩に腰掛けています。
大きな荷物を横に置いて、休憩をしているようでした。
疲れた様子のお婆さんに、女の子は代わりにその荷物を持って上げる事にしました。
とても喜んだお婆さんはニコニコと笑顔で「ありがとね」と言いながら、運んでくれたお礼にとリンゴを1つくれました。
その時、驚いた事に女の子の胸の辺りがポカポカとしてきたのです。
神様が言っていたように、お婆さんがリンゴと一緒にくれた暖かい気持ちが、女の子の胸の袋に入ったからでした。
女の子は初めて感じるその感触が嬉しくて、少しだけ微笑みながら道をまた歩き出しました。
それからまたしばらく歩くと、今度は迷子になった子どもが1人でお腹が空いたと泣いていました。
手にはさっき貰ったリンゴが1つだけあります。
それを上げてしまったらまた心の袋は空っぽになってしまうのでしょう。
少しだけ悩みながら、でも女の子はその子どもに持っていたリンゴを上げてお母さんを一緒に探してあげる事にしました。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
子どもが少しだけ笑ってそのリンゴを受け取りました。
そうすると驚いた事に、リンゴと一緒に無くなったはずの心の中に、また暖かい何かが入ってくるではありませんか。
不思議に思いながら、女の子は子どもを連れてまたテクテクと歩き出しました。
しばらく歩くと男の子を探す女の人を見つけました。
「あっ!お母さん!!」
男の子が駆け出します。
ようやく男の子を見つけたお母さんもホッとしたように男の子を抱き締めました。
「坊や無事で良かったわ」
「あのお姉ちゃんが連れてきてくれたの」
男の子が女の子を指差します。
お母さんは女の子の手を握り、何度も何度もお礼を言いました。
そうして女の子にお礼だと言って、キャンディーをいくつかくれました。
「バイバイお姉ちゃん!ありがとう!!」
男の子も嬉しそうに女の子に手を振りながら帰っていきます。
女の子は小さく男の子に手を振り返して、男の子を見送りました。
キャンディーと一緒にまた暖かい気持ちを貰った女の子の胸は、さっきよりもずっとポカポカしています。
嬉しくなった女の子はキャンディーを1つだけ口に入れてみました。
それはいつもよりもずっと甘くて美味しく感じられる味でした。
女の子は嬉しくなって思わずニコニコと微笑みました。
そうすると傍を歩いていた人達もつられてニコニコと微笑みながら挨拶をくれました。
それにまた女の子がニコッと笑って挨拶をすれば、心の中の袋から暖かいものが出たり入ったりしているようでした。
それからどんどん女の子は変わっていきました。
ニコニコと笑って挨拶をして、楽しそうに歌を歌い、周りに親切な優しい女の子を「やっぱり人形だと」言う人は居なくなりました。
それからしばらく経った日の事でした。
いつものように道をテクテクと歩いていた女の子が、道端の石につまずいて転んでしまったのです。
擦りむいた膝からは血がにじんでいます。
しかもお気に入りのワンピースまで汚れてしまいました。
いつもポカポカと暖かかった女の子の胸が、その時はなぜだか急に冷たく感じました。
それはまるで、ポカポカと暖かく晴れていた空に、灰色の雲が向こうからやって来てしまったような感じでした。
女の子は胸の袋に冷たい何かが入ってしまったんだと分かりました。
でも女の子はその冷たい何かを袋から取り出す方法が分かりません。
女の子は困ってしまい、その場所でどうしようと悩み考え込んでしまいました。
そんな時向こうからやってきた小さな男の子が、女の子がつまずいた石に同じようにつまずいて転んでしまったのです。
「えーん、いたいよ~」
突然大きな声で泣き出したその男の子に、女の子はビックリです。
「痛かったわね、大丈夫よ。すぐに治るわよ」
でもそばにいた男の子のお母さんは、そんな男の子を抱き上げて優しくとんとんと背中を叩きながらそのまま歩いて行ってしまいました。
その姿を見送った女の子はそれをマネしてみる事にしました。
「えーん、いたいよ~」
女の子の目からポロポロと涙がこぼれていきます。
それに合わせて、女の子の胸の袋に溜まっていた冷たい何かもこぼれていったようでした。
それからは女の子は暖かい何かが胸の袋に入った時にはニコニコと笑い、歌を歌い、冷たい何かが入った時には泣いて過ごすようになりました。
それからまたしばらく経ち。
そんな女の子を人形だと思う人が、もう誰もいなくなった頃。
「やーい、泣き虫!」
そんな女の子に意地悪な男の子が悪口を言ったのです。
曇り空のように冷たく感じていた胸の袋が、ますます冷たくなったようでした。
それはまるで氷の欠片を袋の中に投げ込まれたようでした。
曇り空のような冷たさを取り出すための涙を見て、男の子は氷のような何かを投げ入れてくるのです。
その氷のような冷たい何かをどうして良いのか分からなくなった女の子は、それっきり冷たい何かを心の中から取り出す事を止めてしまいました。
それからも毎日、女の子の胸の袋には暖かい何かが入ってきては出ていきます。
そして冷たい何かも同じように、入ってくるのです。
ただ、冷たい何かだけは暖かい何かのように胸の袋からは出ていきません。
そして少しずつ。少しずつ。
袋の中には冷たい何かが溜まっていき。
パンパンになった袋には、とうとう暖かい何かは入る事が出来なくなってしまいました。
あんなにニコニコと笑っていたのに。
もう誰かが女の子へ笑顔で挨拶をしても、女の子は笑顔を返す事ができません。
寂しそうな顔をして頷き返すだけなのでした。
そして、あんなに楽しそうな歌声も消えて、悲しそうな溜息ばかりを吐いています。
「どうしたの?言ってごらんよ」
中にはそんな女の子へ優しく話しを聞いてくれる人だっていました。
でも女の子は首を振るばかりです。
だって「泣き虫」だと笑われたくはないのです。
だからそれからもずっとガマンをし続けていたのです。
だけど、胸の袋はついにいっぱいいっぱいになってしまったのでした。
また入ってこようとした何か。
それが冷たい何かだったのか、暖かい何かだったのか、もう女の子にはわかりません。
ついにビリッと破けてしまったその袋には、もう何も入れておくことは出来なくなってしまったのです。
女の子は冷たい何かを感じる事はなくなりました。
でも、それと同時に暖かい何かも感じる事は無くなったのです。
そして今、笑わなくなった女の子は、また人形のように過ごしているのでした。
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