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第25話 婚姻の日と同じ晴れた空
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ようやく、粗方の戦後処理を終えて、久々に自室でゆっくりと睡眠を取った朝。休息を得て、だいぶ軽くなった身体で、イヴァシグスは扉を開けた。
これまでイヴァシグスと一緒に人間が治めるいくつかの国へ赴いていた第1側近の者達も、ようやくゆっくりと休めたのだろう。すでに会議用のテーブルの前に控えていた面々も、久しぶりにスッキリとした表情だ。
「これまで、ご苦労だった。それぞれ思う所もあるだろうが、お前達の働きもあって、早々に人間側と国交や貿易について協定を結べた成果は大きい」
椅子に腰掛け、そこまで言ったイヴァシグスが、言葉を切って6名の臣下を見回していく。王であるイヴァシグスの労いに、軽く頭を下げた臣下達の表情を確認して、イヴァシグスは内心で息を吐き出した。
互いへの無知が、不要な争いを生むのだと、人間側との交流を望んだのはイヴァシグス自身だった。だが、その考えに初めから賛成する者は2人だけだった。
不可侵条約を結んだ方が良い。
強欲な種族相手なのだ。隙を見せれば付け込んでくるだろう。
第1側近のみならず、多くの者達がそのように考えている事は知っていた。
イヴァシグスにしても、いくら直接の対戦国ではないとしても、人間を心から信じるつもりはなかった。警戒も怠らなければ、何かあれば報復もする。だが、種族の違いを理由に、可能性の全てを絶つ事が、良いとは思わなかったのだ。
ハッキリと反対だと主張する残りの臣下に、イヴァシグスは王でありながらも、言葉を尽くすようにした。力に任せた統治は、どこかで歪みを生む。魔族の歴史の中でも、そういった時代が無かった訳ではない。イヴァシグスが第2側近制を採用して、ある程度の裁量を臣下へ持たせているのも、この考えからだった。ただそのせいで、内部で足並みを揃える為に、だいぶ時間は掛かってしまったのだが。それでもどうにか納得し、各々が自分の使命として、各国との交渉にあたった成果から、それが功を奏したのは明らかだった。
協定を元にした今後の方針を確認しあい、それぞれの内容をまた割り振っていく。その後はいつも通り、各自がいったん案件を持ち帰って、それぞれの手元で草案を纏め、回議された後に、イヴァシグスへ報告、承認となるため、ここでは粗方の期限のみを定めて、スムーズに会議は終了した。
まだまだやる事は多いとはいえ、ようやく取り戻せた日常に、イヴァシグスは席を立ちながら背を伸ばす。フッと大きな窓越しに見上げた空の青さに、1年程前に嫁いできた人間の妃との婚姻の日を思い出した。
─── 多忙さのあまり、あれ以来顔を合わせてはいなかったが、そろそろここの生活にも慣れた頃か。
嫁いできたばかりの頃は、怯えている様子だった幼い妃だが、特にトラブル等の報告は上がってくる事は無かった。きっとそれなりに、上手くやれているのだろう。そんな日々の中で、恐らくイヴァシグスの話も耳にしたはずだった。
─── 非道な王ではないと、伝わっておれば、あれほど怯える事もないだろう。
まさか、こんな形の婚姻とはいえ、初夜の花嫁に『殺さないで』と叫ばれるとは思わなかったのだ。あの時の衝撃を、いまでもイヴァシグスは忘れられなかった。
「……おい」
「はい」
「……あれは、どうしている?」
「あれとは?」
「あぁ~、あの、第7妃の……」
夫の立場なのだから、平然としていれば良いと思いながらも、何となく気恥ずかしさのようなモノが先に立つ。そんなイヴァシグスに対して、声を掛けられた臣下の1人は、あぁ、と頷いた。
***********************************
今回は今日、月曜、水曜に続けて更新します🙇♀️💦
更新がゆっくりで本当にすみません。
そんな中でお付き合い頂けて嬉しいです😭
まだ落ち着く目処が立たないのですが、更新は頑張りますのでよろしくお願いします🙇♀️💦
これまでイヴァシグスと一緒に人間が治めるいくつかの国へ赴いていた第1側近の者達も、ようやくゆっくりと休めたのだろう。すでに会議用のテーブルの前に控えていた面々も、久しぶりにスッキリとした表情だ。
「これまで、ご苦労だった。それぞれ思う所もあるだろうが、お前達の働きもあって、早々に人間側と国交や貿易について協定を結べた成果は大きい」
椅子に腰掛け、そこまで言ったイヴァシグスが、言葉を切って6名の臣下を見回していく。王であるイヴァシグスの労いに、軽く頭を下げた臣下達の表情を確認して、イヴァシグスは内心で息を吐き出した。
互いへの無知が、不要な争いを生むのだと、人間側との交流を望んだのはイヴァシグス自身だった。だが、その考えに初めから賛成する者は2人だけだった。
不可侵条約を結んだ方が良い。
強欲な種族相手なのだ。隙を見せれば付け込んでくるだろう。
第1側近のみならず、多くの者達がそのように考えている事は知っていた。
イヴァシグスにしても、いくら直接の対戦国ではないとしても、人間を心から信じるつもりはなかった。警戒も怠らなければ、何かあれば報復もする。だが、種族の違いを理由に、可能性の全てを絶つ事が、良いとは思わなかったのだ。
ハッキリと反対だと主張する残りの臣下に、イヴァシグスは王でありながらも、言葉を尽くすようにした。力に任せた統治は、どこかで歪みを生む。魔族の歴史の中でも、そういった時代が無かった訳ではない。イヴァシグスが第2側近制を採用して、ある程度の裁量を臣下へ持たせているのも、この考えからだった。ただそのせいで、内部で足並みを揃える為に、だいぶ時間は掛かってしまったのだが。それでもどうにか納得し、各々が自分の使命として、各国との交渉にあたった成果から、それが功を奏したのは明らかだった。
協定を元にした今後の方針を確認しあい、それぞれの内容をまた割り振っていく。その後はいつも通り、各自がいったん案件を持ち帰って、それぞれの手元で草案を纏め、回議された後に、イヴァシグスへ報告、承認となるため、ここでは粗方の期限のみを定めて、スムーズに会議は終了した。
まだまだやる事は多いとはいえ、ようやく取り戻せた日常に、イヴァシグスは席を立ちながら背を伸ばす。フッと大きな窓越しに見上げた空の青さに、1年程前に嫁いできた人間の妃との婚姻の日を思い出した。
─── 多忙さのあまり、あれ以来顔を合わせてはいなかったが、そろそろここの生活にも慣れた頃か。
嫁いできたばかりの頃は、怯えている様子だった幼い妃だが、特にトラブル等の報告は上がってくる事は無かった。きっとそれなりに、上手くやれているのだろう。そんな日々の中で、恐らくイヴァシグスの話も耳にしたはずだった。
─── 非道な王ではないと、伝わっておれば、あれほど怯える事もないだろう。
まさか、こんな形の婚姻とはいえ、初夜の花嫁に『殺さないで』と叫ばれるとは思わなかったのだ。あの時の衝撃を、いまでもイヴァシグスは忘れられなかった。
「……おい」
「はい」
「……あれは、どうしている?」
「あれとは?」
「あぁ~、あの、第7妃の……」
夫の立場なのだから、平然としていれば良いと思いながらも、何となく気恥ずかしさのようなモノが先に立つ。そんなイヴァシグスに対して、声を掛けられた臣下の1人は、あぁ、と頷いた。
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