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第20話 俺の方がスゴいんだ!

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「リュシェラ様、ごめんなさい。俺達、もう喧嘩してないから。なぁ、アラルト!」

「うんうん、ちゃんと仲直りしたよ!」

「だからプティングパイを下さい!」

「ちゃんと、2人で仲良く食べるから!」

 交代でリュシェラを説得しながらも、2人はリュシェラから一定の距離を取っている。始めにここに来た時に『呪いがうつっちゃうから、私に触っちゃダメよ』と告げた、リュシェラの言葉を守っているのだろう。

─── 素直で、可愛い。

 知り合ってからずっと、2人はこうやってリュシェラに懐いてくれているのだ。人間だと線を引く様子もなく。呪いを恐れる事もなく。全身で好意を向けているのが伝わってくる。そんな2人の存在は、この場所で生きている事さえ望まれずに、独り過ごすだけだったリュシェラの安らぎになっていた。

───でも、ちょっとは反省して貰わなきゃ。

 リュシェラはツンと前を向いて、もう知りません、そんな態度のアピールをする。だが、リュシェラの周りで「ねぇ、ねぇ」と何度も繰り返しながら、2人がくるくる纏わり付くのだ。まるで、ひな鳥が口を開けて、エサを強請る姿のようで。リュシェラは思わず、プッと小さく吹き出した。

「本当にちゃんと仲良く出来るなら、おやつをあげるけど、大丈夫かしら?」

「大丈夫!」

「もう、喧嘩なんかしないから!!」

 互いに顔を見合わせて、揃って首を縦に振る姿に、リュシェラも「それなら、良いわ」と頷いた。

「なら、向こうの林で食べましょう」

 東屋のテーブルからバスケットを持って、リュシェラが指したのは、さっき話しに上がっていた林だった。
 庭園の柵を抜けて、なだらかな丘を越えた先にある林は、敷地の中にありながら、自然の環境に近かった。とは、言っても危険な動物などは当然居ないため、こんな風に散策がてらに木の実や野草等を探すのに、とても向いている場所なのだ。

「競争していい?」

 さっき自分の活躍も見て欲しいと言っていたアラルトが、むずむずした様子でリュシェラの方を振り返る。アラルトの気持ちも分からないではないが、今日の2人の様子では、どちらが勝ってもまた揉めるだろう。

「喧嘩になりそうだから、今日はダメよ」

 今日もリュシェラは朝日と共に動き出して、1日よく働いているのだ。おやつの時ぐらいは、少しゆっくりしたかった。その言葉にションボリとしたアラルトに、リュシェラはあらあらと眉尻を下げた。

「うーん、それならあそこにあるワイズベリーがもう熟れているか、アラルトの早い脚で見てきてくれると助かるわ」

 もし収穫できそうなら、いくつか摘んで、おやつに添えるのに良いはずだ。

 アラルトの前に屈み込んで「お願いできるかしら?」と、視線を合わせて尋ねてみる。リュシェラの思った通り、自慢の脚を頼られて嬉しそうに、アラルトが大きく頷いた。

「分かった! 待ってて、すぐに戻ってくるから!」

 言葉と共に走り出したアラルトの背中が、あっという間に遠ざかっていく。それがリザードの能力なのかは分からないが、本人が自慢していただけあって、かなり脚は早かった。

「すごいわね」

 思わず呟いたリュシェラの側で、ティガァがムッとしたようにリュシェラに手を伸ばした。

「でも、俺の方が力は強いんだぞ! だから、それは俺が持つよ」

 アラルトが感心された事が悔しいのか。それとも、リュシェラに頼りにされる姿に嫉妬をしたのか。今度はティガァがリュシェラの手からバスケットを、半ば強引に受け取った。

 おやつや飲み物が入って、リュシェラにはそこそこの重さでも、あれだけの肥料袋を簡単に持ってくるティガァなのだ。大した重さではないのだろう。バスケットの大きさの兼ね合いで両手に抱えるようにはしているが、危うい様子は全くない。

 リュシェラはバスケット越しにフフンと言わんばかりに見上げてくる、ティガァの前にも腰を下ろした。
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