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第13 突然の来客

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「さて、今日は何から始めようかしら」 

 日の出と一緒に目を覚まし、リュシェラは手早く身支度と朝食の準備をした。そして、手作りのパンにジャムを乗せて、今日の予定を考える。

「今日でちょうど1ヶ月ね」
 
 思い掛けずスタートした、自給自足の毎日だった。でもリュシェラは、概ねこの生活には満足していた。
 嫁いだ時には磨かれて美しかった肌も、手も、髪も、すっかり変わってしまっている。それでも重たい宝石や動きにくいドレスに縛られているよりは、ずいぶん自分らしいはずなのだ。

 リュシェラは食べ終えた食器をいったん流しへ下ろして、そのままトルティーヤと甘辛く煮詰めた豆のペーストを焼き始める。そして出来上がった生地に、野菜と一緒に包み込めば、ラップサンドの出来上がりだ。

 あとは、手早く片付ける。バスケットにラップサンドを詰め込んで、リュシェラは今日も外へ出た。

 1ヶ月の区切りといっても、これまでと何も変わらない。リュシェラはいつも通り、せっせと畑を耕していく。そして、日がすっかり昇った頃には、東屋の下でバスケットを広げて早めの昼食を食べるのだ。

「いただきます」

 今日もいつも通りに一働きをして、誰へ言うともなしにそう言った。

 領地に居た頃に、領民に倣った作法だった。無理やり連行された王宮では、高貴な者には相応しくないと咎められたが、リュシェラはこの挨拶が気に入っている。食べ物への感謝は、どんな時にも必要だ。

 リュシェラは手を合わせて挨拶をして、手に取ったラップサンドへ齧り付いた。

 あっという間に1つを食べ終えて、2つ目に手を伸ばそうとした時だった。

 ─── ガサッ。

 突然聞こえた物音に、リュシェラはえっ? と視線を向けた。

(な、なに?? トカゲ!!??)

 とっさに叫ばずに済んだのは、そのトカゲが二足歩行で、なおかつ糊のきいた洋服を纏う姿に、知性が感じられたからだろう。それでも突然の侵入者だ。リュシェラは目を見開いたまま固まった。

 それに、驚いたのはあっちも同じようだった。縦長の瞳孔の目が、こんなに大きく開くのか、と驚くぐらいに開かれている。

 互いに何も言わないまま、しばらく2人は見つめ合った。

「あの……食べますか?」

 先に口を開いたのはリュシェラの方で、ずいぶん間抜けな声掛けだった。でも、着ている服から判断するに、きっとイヴァシグスに仕えている者だろう。何ももてなさないよりは、マシかもしれない。

 リュシェラはバスケットを、立ち尽くしたままの(おそらく)男の方へ差し出した。

「あっ、いや、結構だ。ちょっと、待っていろ!」

 トカゲの魔人にも男女の差があるのかは分からない。でも、声を聞く限りは、やっぱり男のようだった。

 ハッと我に返ったその男が、なぜかリュシェラに待っているように言いながら、踵を返して走り出す。いつまで、とも。どこで、とも。詳細を告げずに走り去る背に、リュシェラは呆気にとられてしまった。

「……まぁ、ちょうど休憩なので、しばらくは構わないですけどね……」

 その間に戻ってくる様子がなければ、あとは好きにさせてもらおう。そう思いながら、差し出したバスケットに入っていた2本目のラップサンドに手をつけた。

 次に慌ただしい足音が、複数聞こえてきたのは、それから10分も経たない内の事だった。

「お前はいったい何をしている?」

 そして続けて聞こえてきたヒステリックな声に、リュシェラは、はて?と小首をかしげて見せた。
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