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第12 花は見るより食べる物
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着替えた後に、リュシェラは再び厨房へ戻った。そこで豆を袋に小分けして、布巾を数枚と大きなトレーをいくつか準備する。後は簡単な昼食をバスケットに詰めて、室内庭園へと足を向けた。
初めてこの邸へ連れて来られた時は、あまり見る時間は無かったが、色とりどりの花や青々とした木々が枝を広げたその場所は、しっかり手入れがされた素晴らしい庭だった。
しかも、中央にある大きな樹木の根元には座り心地が良さそうな、大きなソファーが置かれており、庭園の片隅には、小川までサラサラと流れている。
「水やりに使えそうね、助かったわ」
状況が状況なら、素晴らしい景観を眺めながら、お茶を楽しんでみただろう。でも、悠長にそんな事を言っているだけの時間もない。
持ってきたトレイに水に浸した布巾を置いて、豆をその上にばら撒いて、豆に水を含ませていく。そして、そのまま布を被せて、日陰に設置した。
「芽が出れば、植えましょう」
豆は畑のお肉とも言われている。上手くいけば、タンパク質の問題はどうにかなりそうだ。いや、どうにかなってくれなきゃ、困ってしまう。
「お肉や魚はさすがにムリだもの」
畑を耕した事はあっても、狩や漁の経験はない。まぁ、あった所で塀に囲まれた私有地なのだ。狩が出来るような動物がいるとも思えなかった。
そうなれば、お肉はいま貯蔵庫にある分だけとなる。
(燻製にでもして、大切に食べていこう)
そんな事を思いながら、リュシェラは立ち上がって周りを見回した。
「さて、次は花壇の選定ね」
リュシェラが欲しいのはエディブルフラワーの類いなのだ。それ以外の観賞用は、土の栄養が取られてしまう前に、さっさと引っこ抜くと決めていた。
端から順番良く見ていけば、多くはないが、少しは食用にも転用できる花があった。特に。
「観葉キャベリアがあったのは良かったわ!」
食用のキャベリアは、緑一色で、何枚もの葉が重なるように丸まっていく、一般的な葉野菜だ。観葉キャベリアは、その葉の一部が白や紫に染まって、大輪の花のように見える特徴を持っている。
食用とはちがって、葉が極端に固くて、生で食べたり、簡単に炒める事は出来ないけれど、しっかり煮込めばちゃんと美味しい料理になる。思わぬ収穫に、リュシェラはニコニコと笑ってしまった。
「後は、他に食べられそうな果樹とかあれば、良いんだけど……」
庭園のガラス窓から外を見れば、少し離れた場所にこぢんまりとした林が見えていた。まだ十分に明るいが、今からあそこへ行って、散策するには遅いだろう。
(林に行くのは明日にしよう……)
そう決めたリュシェラは、園庭の残った細々とした作業を終えて、本格的に日が暮れる前に邸へ戻った。その後はパッと湯浴みをして、また作った夕食を、朝と同じように厨房の作業台で1人食べた。
そんな中。
動きがフッと止まれば、途端に耳が痛くなりそうなぐらいの静けさが、厨房の中にも広がった。
「本当に、1 人なんだ……」
慌ただしく過ごす昼間と違って、夜のこの静けさは、まだ慣れていない。
(いつになれば、慣れるかしら?)
きっと、最後まで。
何があっても。
ずっと、1人きりなんだろう。
(でも、これで良かったのよね)
魔石が埋め込まれた、胸の辺りに手を添える。
寂しくない、と言えば嘘になるけど。お陰で誰も傷付けずに済んでいる。リュシェラが願った通り、穏やかな日々である事は間違いない。
キュッと一瞬だけ強く目を瞑り、リュシェラは「はぁ~」と息を吐き出した。
(まぁ、そのためにも目下の目標は、継続した食料の確保よね!)
もとより1人は慣れているのだから、しんみりとしている時間の方がもったいないのだ。
「さて、取りあえず明日の為に、仕込みをしてから休みましょう!」
気持ちを切り替えたリュシェラは、うーんと大きく伸びをした。
*************************************************
日々お付き合い頂き、ありがとうございます。
次投稿から事態が動きます。
お付き合い頂けたら幸いです。
また、明日はざまぁ展開の超短編を1つ投稿予定です。
併せて、お付き合い頂けたら嬉しいです!
初めてこの邸へ連れて来られた時は、あまり見る時間は無かったが、色とりどりの花や青々とした木々が枝を広げたその場所は、しっかり手入れがされた素晴らしい庭だった。
しかも、中央にある大きな樹木の根元には座り心地が良さそうな、大きなソファーが置かれており、庭園の片隅には、小川までサラサラと流れている。
「水やりに使えそうね、助かったわ」
状況が状況なら、素晴らしい景観を眺めながら、お茶を楽しんでみただろう。でも、悠長にそんな事を言っているだけの時間もない。
持ってきたトレイに水に浸した布巾を置いて、豆をその上にばら撒いて、豆に水を含ませていく。そして、そのまま布を被せて、日陰に設置した。
「芽が出れば、植えましょう」
豆は畑のお肉とも言われている。上手くいけば、タンパク質の問題はどうにかなりそうだ。いや、どうにかなってくれなきゃ、困ってしまう。
「お肉や魚はさすがにムリだもの」
畑を耕した事はあっても、狩や漁の経験はない。まぁ、あった所で塀に囲まれた私有地なのだ。狩が出来るような動物がいるとも思えなかった。
そうなれば、お肉はいま貯蔵庫にある分だけとなる。
(燻製にでもして、大切に食べていこう)
そんな事を思いながら、リュシェラは立ち上がって周りを見回した。
「さて、次は花壇の選定ね」
リュシェラが欲しいのはエディブルフラワーの類いなのだ。それ以外の観賞用は、土の栄養が取られてしまう前に、さっさと引っこ抜くと決めていた。
端から順番良く見ていけば、多くはないが、少しは食用にも転用できる花があった。特に。
「観葉キャベリアがあったのは良かったわ!」
食用のキャベリアは、緑一色で、何枚もの葉が重なるように丸まっていく、一般的な葉野菜だ。観葉キャベリアは、その葉の一部が白や紫に染まって、大輪の花のように見える特徴を持っている。
食用とはちがって、葉が極端に固くて、生で食べたり、簡単に炒める事は出来ないけれど、しっかり煮込めばちゃんと美味しい料理になる。思わぬ収穫に、リュシェラはニコニコと笑ってしまった。
「後は、他に食べられそうな果樹とかあれば、良いんだけど……」
庭園のガラス窓から外を見れば、少し離れた場所にこぢんまりとした林が見えていた。まだ十分に明るいが、今からあそこへ行って、散策するには遅いだろう。
(林に行くのは明日にしよう……)
そう決めたリュシェラは、園庭の残った細々とした作業を終えて、本格的に日が暮れる前に邸へ戻った。その後はパッと湯浴みをして、また作った夕食を、朝と同じように厨房の作業台で1人食べた。
そんな中。
動きがフッと止まれば、途端に耳が痛くなりそうなぐらいの静けさが、厨房の中にも広がった。
「本当に、1 人なんだ……」
慌ただしく過ごす昼間と違って、夜のこの静けさは、まだ慣れていない。
(いつになれば、慣れるかしら?)
きっと、最後まで。
何があっても。
ずっと、1人きりなんだろう。
(でも、これで良かったのよね)
魔石が埋め込まれた、胸の辺りに手を添える。
寂しくない、と言えば嘘になるけど。お陰で誰も傷付けずに済んでいる。リュシェラが願った通り、穏やかな日々である事は間違いない。
キュッと一瞬だけ強く目を瞑り、リュシェラは「はぁ~」と息を吐き出した。
(まぁ、そのためにも目下の目標は、継続した食料の確保よね!)
もとより1人は慣れているのだから、しんみりとしている時間の方がもったいないのだ。
「さて、取りあえず明日の為に、仕込みをしてから休みましょう!」
気持ちを切り替えたリュシェラは、うーんと大きく伸びをした。
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日々お付き合い頂き、ありがとうございます。
次投稿から事態が動きます。
お付き合い頂けたら幸いです。
また、明日はざまぁ展開の超短編を1つ投稿予定です。
併せて、お付き合い頂けたら嬉しいです!
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